今日の放課後僕とヨハネは初めて弓道部の部活に参加する。先週は部活見学のときに僕は藤崎と弓道の的中数対決をして、僕が負けた。しかしあれは仕方ない、仕方なかったんだ。なぜって、的を狙うときにチア姿のヨハネが視界に入っていたからさ。無駄に露出があって、彼女の白い肌があらわになっていた。あんな彼女が視界に入ってきて、集中しろなんて無謀だな。あーあ、チア姿のヨハネ、写真撮っときたかったな。そんなわけで、僕は勝負に負けて弓道部に入部することになった。まあ、今までの暑苦しい運動部や、天才か変態が多い文化部とは違って平和そうだから少し気が楽だな。それはヨハネも同じだろう。横で一緒に弓道場に向かっている彼女の表情は緊張で強張っているわけでもなく、いつも通りのようだ。こういうときにも平然としていられるなんて、うらやましいよ。
僕たちはしばらく歩いて、今は弓道場の前にいる。そこには藤崎が待っていた。
「ようこそ、弓道部へ。歓迎するよ。」
笑みを浮かべてこちら側を見ているのは、うちのクラスの委員長の藤崎元。僕は先週こいつに負けた。
「たまに君の笑みが黒く見えるよ。」
「私もよ。委員長、あなたは堕天使や魔王よりも黒いわよ。」
「ひどいな、二人とも。」
こいつは最初から何を考えているのか全然読めなかった。もしかしたらこれからも僕たちはこいつに遊ばれるのかもしれないな。常に警戒しなくては。
「さて、これからうちの部活を二人を案内していくよ。まず二人には自分の弓と矢を選んでもらうよ。」
「ククク、つまり自分専用の武器を選ぶのね。下界には堕天使ヨハネにふさわしい武器は存在するのかしら。」
「ふさわしいかどうかは置いといて、今は自分の筋力で引ける弓にした方がいいんだよな。」
「よく知ってるね、津々宮君。」
「まあ一様これからは弓道部員だから色々と知ら出てきたんだ。」
「意外と真面目なのね。」
「意外は余計だ。」
僕たちは藤崎に連れられて弓道場の横にある専用倉庫に向かった。倉庫の中には弓や矢、予備の的から練習用の巻き藁まで色々な物が置かれていた。僕たちは弓置き場へと向かった。
「二人とも、ここら辺の弓の中から自分用の弓を決めて。決めるときに一度試しで引いてみるのがいいかもしれないよ。」
「りょーかい。」
「わかったわ。」
さてどの弓がいいか。色だけで言えば黒がいいのだがな。ここら辺の弓は10キロか。一回引いてみるか。僕は目の前の弓を引いてみた。弓を左手で握り、弦を右手で引いた。うーん。少し軽いかな。もう少し重くしてみるか。14キロを引いてみるか。・・・ちょっと重いかな。10キロから14キロの間くらいか。次は13キロあたりを引いてみるか。うーんまだちょっと違和感があるな。他のも引いてみるか。
次々に弓を引いて自分合う弓を探している、修斗をヨハネは不思議そうに見つめていた。
昨日もデパートに行った時にも思ったけど、シェリアスって結構凝り性なのかしら。包丁を選ぶときにもすごく悩んでたし。意外な一面を見たってことなのかしら。さて、私も自分の弓を選ばなくちゃ。
そう思ったヨハネは弓置き場に目をやった。しかし彼女は、修斗と違い一瞬で自分の弓を決めた。
な、何この黒い弓?。カッコいい。とりあえず引いてみようかしら。・・・丁度いい。これにしましょう。シェリアスとは違ってすぐに決まったわね。フフ、この弓が私を選んだ、ということかしら。これからはあなたをヨハネの専用魔道具にしてあげるわ。そうね、名前を決めてあげなくちゃ。どうしようかしら?
各々が自分の弓を選び終えたところで、自分の弓を持って一度入り口に戻ってきた。
「二人とも、自分の弓は決まった?」
「ああ、僕はこの11キロにするよ。」
「フフ、私はこの黒の魔狩人、『ダークイエーガー』にするわ。」
「ダークイエーガー?何それ?」
「この弓の名前よ。」
「「・・・」」
そりゃあ黙るよな。弓に中二病な名前を付ける奴なんて、彼女くらいだろうな。しかも弓の握るところが黒いからダークっていうところはわかるのだが。なぜ魔狩人なんだ。理解できない。いや理解してはいけないのだろう。深く考えずにただかっこよければいい、それが中二病なのだから。過去に同じようなことをしているからこそわかってしまうのかもしれないな。
「ま、まあ。弓に名前をつけて愛着がわいて、弓を大事にしてくれるなら部としてはありがたいかな。」
「そうだな。あんな名前をつけたくらいだから大事にするだろう。」
「もちろんよ。天界魔界条例に誓うわ。」
「天界魔界条例って何?」
今日のヨハネはなんだかテンションが高いな。いつもより中二病発言が多い気がする。何かいいことでもあったのか。
「それよりシェリアス。あなたは弓に名前を付けないの?」
「ええっ?僕もつけるの?」
「それいいじゃん。津々宮君もつけなよ。」
「ええ?うーん、そうだな。じゃあこの弓の握る部分に紅葉が書かれてるし、弓が黒いから、『黒紅葉』でいいかな。」
「・・・津々宮君も結構中二病だったりする?」
「?!そんなわけないだろ!ヨハネにあわしたんだよ。」
「そうなんだ。」
危ない危ない。危うくバレるところだった。
「黒紅葉、いい名前じゃないシェリアス。」
「それはどうも。」
成り行きで僕も自分の弓に名前を付けてしまった。こんな名前をつけると変な誤解を生みそうだな。とりあえずフルネームは黒紅葉にして、普段は紅葉と呼ぶようにしよう。何だか日本刀みたいになったな。
「シェリアス、あなたは名前は和風派なのね。」
「そういう君は英語派なのか。」
「まあまあ、二人とも。名前も決まったなら次行くよ。」
弓を持ったまま僕らは弓道場へ向かった。
「次に二人には弓道での打ち方を覚えてもらうよ。」
「何か特別な決まりがあるの?」
「うん。まあ礼儀みたいなものがあるんだ。」
「たしか射法八節だっけ?」
「そう。今からその射法八節について説明していくよ。」
そういうと藤崎は弓を左手に、弦を右手に持って僕らの方を向いた。
「それじゃあ射法八節について説明します。長くなると思うから興味がない方はとばしてもらって構いません。」
そう言いながら藤崎は何もない空間を見つめる。
「何言ってるんだよ。というかどこ見てんだよ。」
「フフ、何もない空間だからこそ何かがあるかもしれないわね。私たちでは理解できない何かが。」
「君も何を言っているんだ。」
(本当に長くなるので、とばして読んでもらっても構いません。興味のある方は是非どうぞ。)
「それじゃあ改めて説明を始めるよ。
まず射法八節の一つ目、足踏み。足踏みは弓を射る場所、射位っていうんだけどその射位で行う動作のことです。最初に弓を左手に持って、矢を右手にもってそれぞれを腰に当てた状態、この執り弓の姿勢から始めて、執り弓の姿勢から右手方向にある的に向けて、左足を半歩左に、右足を半歩右に開く。この時、足は扇を描くような軌道を意識して開いて。開く場所は的から見て延長線上に開くようにすること。
2つ目は胴造りと言って、さっき開いた足の上に状態を安静させる動作のことを言って、今持ってる弓の下の方を左の膝に置いて、弓を真正面にする。右手は右腰のあたりに置いておく。背筋をしっかりと伸ばすことがコツ。
3つ目は弓構え。矢を引く前に行う動作のことを指すんだけどちょっと専門用語が多いよ。まず取懸けという動作で弦に矢とつけて、次に手の内という動作で弦に矢をつけた場所を持つ右手を整える。次に物見という動作で一度的を見る。ここまでが弓構えだよ。
4つ目は打起しという動作で、打起しでは弓を上にあげる動作のことを言います。ここは流派によって違いがあるんだけど。うちでは正面打起しと言う方をします。正面打起しは名前の通り、弓を真正面に、垂直に持ち上げます。この時顔は的の方を向いておくように。
5つ目が引分けと言って、さっきの打起しをした位置から弓を的方向に押して弦を的とは反対方向に引いて、両手を左右に開きながら起こす動作のこと。この時弓を的方向に押した動作を大三と言いいます。
6つ目を会と言います。会はさっきの引分けが完成され、矢が的を狙っている状態を言います。矢で的を狙っているときに大事なことがあって、一つを頬付けと言って矢を右頬に軽く添えること。もう一つは口割りといって、ちょうど唇の高さに矢を添えること。会では主にこの二つを意識して。あと、会はゲームとかで言うチャージではなくて、あくまでも精神を落ち着かせる動作だから、変に力を入れないこと。
7つ目を離れと言い、矢を放った時の動作のことを指します。この時右手は的とは反対方向にしっかりと伸ばすこと。離れの時は右手の力を抜くと自然と離れるから、あまり変なところに力を入れないこと。怪我するから。それと右手伸ばすまでの通る道みたいなのがあって、横向きに右手を伸ばしてから反対方向に伸ばすんじゃなくて、会から離れになるときに肘はそのまま、向きを変えずに伸ばしてね。
次が最後、残心。残身とも言います。残心は矢が放たれた後の姿勢のことを言って、離れの姿勢を数秒保つこと。この時に心身ともに落ち着かせること。
これが弓道の基本の射法八節だよ。どう、覚えた?」
そういって藤崎は僕たち二人の方を向いた。
「う、うーん。」
「ま、まあ多分ね。」
僕もヨハネも返事に力がない。藤崎が説明中の僕たちの心境はこんな感じだった。
シェリアス
「こいつ何時までベラベラ説明してるんだ。もう内容が頭に入ってこないのだが。あー、混乱してきた。もう藤崎が話している内容が理解できないのだが。もう呪文みたいじゃないか。貴様、元魔王相手に呪文とは、いい度胸じゃないか。しかし残念だったな。僕の脳にその呪文の内容が入ってこないのだ。そう僕が魔王がから内容が入ってこないんだ。じゃあ仕方ないな。あーあ早くこの話終わらないかな。」
ヨハネ
「何この話?全然頭に入ってこないんだけど。何をいってるのか全く理解できないわね。もしかしてこれは、異世界の言葉かしら?いや、日本語ね。だとしたら呪文かしら。きっとそうね。だから頭に入ってこないんだわ。フフッ、愚かね。ヨハネは闇の住人。闇の世界に住むものに呪文は効果がないのよ。フフフ、残念だったわね。呪文ならヨハネの脳内に内容が入ってこなくても当然だもの。仕方ないわ。はあ、早くこの話終わらないかしら。」
「二人とも、ちゃんと説明聞いてた?」
「え?あ、うん。」
「まあ、最初の方は。」
二人の答えを聞いて藤崎は大きなため息をついた。
「しょうがないな。じゃあもう一度最初から説明するよ。まず射法八節の一つ目、足踏みからもう一度。足踏みは・・・・」
「「まだやるの?!」」
それから1時間ほど時間が過ぎ、やっと藤崎による射法八節の説明は終わりを迎えた。おかげでみっちりと教え込まれたよ。僕らにとってはとても長い1時間だった。
「二人ともちゃんと覚えた?」
「これだけ長くやれば覚えるわよ。足踏み、胴造り、弓構え、打起し。」
「引分け、会、離れ、残心。まさかここまで時間がかかるとは思わなかったよ。途中から細かいところの説明を足していくし。」
「あはは、ゴメンゴメン。でも確かにちょっと時間のかけすぎたね。もう部活終了の時間だ。それじゃあ今日は片付けようか。」
「やっと、終わった。」
「自由への翼の呪いが解けたわね。」
「二人ともお疲れ。」
弓道部の部員はそれぞれ片付けに取り掛かった。あるものは的を外し、またある者は弓を片付けに行った。僕たち3人は弓を倉庫ではなく、弓道場の控えにある弓立てに弓を直しに行った。
「二人ともここに弓を直すようにしてね。他の人の弓も立ててあるから次に取るときは自分の弓を間違えないように注意するように。」
「わかった。」
「フフ、このヨハネが自分の魔道具を間違えるわけないじゃない。」
「振りにしか聞こえないのだが。」
「何よ!絶対に間違えないから!」
弓立てには名前シールは張ってあり、そこには僕とヨハネの名前も並んでいた。ヨハネが先に弓立てに弓を立てて、戻るのを見送ってから、自分の弓を立てた。
「これからよろしくな。黒紅葉。」
僕は誰もいない控室でその一言をつぶやくとそそくさと二人の元に戻った。この後、他の道具の片づけを終えて、軽く部活のミーティングを終え解散した。僕とヨハネは変える方向が途中まで同じなので、分かれ道まで一緒に帰ることにした。
「はあ、疲れるわね。これがこれから毎日続くのかしら。」
「確かに疲れたな。でも原因は藤崎の説明にあったと思うから説明がなかったらもう少し楽なんじゃないかな。」
「そうかもしれないわね。」
「そういえば、ヨハネ。その髪飾り付けてくれたんだ。」
「えっ?!い、いきなり何よ?」
「いや、付けてくれてたのが、ちょっと嬉しくて。」
「そ。そうなの?」
「ああ、よくわからないけど嬉しいよ。似合ってるし。」
そういってヨハネの方を見ると、彼女は少し頬を赤くして俯いていた。なぜ、頬が赤いのだろう。弓道の練習で腫れたのだろうか。それとも・・・褒められて照れてる?そう考えるとなぜか急に胸の奥の方が締め付けられるような感覚が生まれた。なんなんだこの感情は?いままで体験したことのない感覚だ。それもなぜ彼女に向けてなのだろう。謎だな。
そんなことを考えてるとヨハネが口を開けた。
「フ、フフ。さすがヨハネね。魔王をも魅了してしまうなんて。自分の美貌が恐ろしいわ。」
「照れ隠し?」
「違うわよ!」
そんなやり取りをしながら下校していると、気が付くと目的の分かれ道に着いた。
「それじゃあここで解散かな。」
「そうね。」
「それじゃあ。」
「ええ、また明日。」
ヨハネと別れた後、僕は家への帰路の間、さっきヨハネを見た時に起きた感情について考えていた。
なんだったんだあの気分は。不思議なものだな。まあこんな時は自分の部屋のベットに寝転がり考えるのが一番だ。さてそろそろ家に着くな。鍵はどこに入れたかな。ポケットの中を探りながら角を曲がると、自分の家の前に車が止まっていることに気が付いた。それもただも車ではない。トラックだ。それも引っ越し業者のトラック。不思議に思いながら家の前に行くと、一人の作業員が話しかけてきた。
「もしかして津々宮修斗君ですか?」
「え、ええそうですけど。」
不安に思いながらも返事をする。すると作業員の男性はポケットから一枚の手紙を取り出した。
「お母さんから手紙を預かっています。」
弓道って当たったら本当に嬉しいし、外れたら落ち込むし、今までで経験したスポーツの中で一番感情が表に出るスポーツかもしれません。あくまで個人の感想です。