「お母さんから手紙を預かっています。」
僕の家の前にいた引っ越し業者の男性は制服のポケットから一通の手紙を取り出した。その手紙は白い封筒で包まれていて。表には『修斗へ』と書いてあった。間違いなくこれは僕の母の字だ。僕の両親は出張が多いから、最近はあまりあっていなかった。最後にあったのはこの沼津に越してきた初日だったかな。しかし、出張が多かったからこそ両親からの手紙は多かった。だからこそ親の文字はすぐにわかるようになった。いいことなのか悪いことなのか。しかし今日はいつも両親が送ってくる手紙とは違って嫌な予感がする。僕はしぶしぶ手紙を受け取ると、封筒の中を確認した。中には母が書いたであろう手紙が入っていた。その手紙の内容は、
「修斗君へ、
新しい学校では元気にやっているかしら。きっと大丈夫よね。だって私の息子なんだから。ところで急にで悪いんだけど、実はママとパパはしばらく海外出張に行くことが決まったの。それで今新しく買った家を引っ越して、近くのマンションに引っ越してもらえるかしら。新しい環境でまだ不慣れなところがあるかもしれないのにゴメンね。でも安心して、新しい家の隣にはママの昔の友達が住んでるから、頼るといいわ。友達には話してあるから引っ越しがすんだらあいさつに行きなさい。それじゃあママとパパは海外からでもあなたの元気を祈っています。
津々宮千鶴 ママより」
という内容だった。他にも色々なものが入っていた。まったく出張は仕方ないけど引っ越しの話はせめて相談しようよ。手紙を読み終えると、引っ越し業者の男性が話しかけてきた。
「君のご両親から大体の話は聞いたけど色々と苦労してるんだね君。とりあえずトラックで新しいマンションまで送ろうか?」
「・・・ありがとうございます。」
引っ越し業者のトラックに乗って新しく住むマンションに向かうことにした。マンションの住所は母からの手紙に記されていた。見たところここからそんなに遠くはなさそうだ。僕はトラックに乗った。しばらくしてトラックが動き始めた。トラックは真っ先に僕がさっき曲がった角を曲がった。
約6分ほどしてからトラックは停止した。トラックから降りると、先に着いていたいた他のから荷物が運ばれている最中だった。僕は家の荷物を引っ越し業者に頼んで先に母の昔の友達にあいさつに行くことにした。
「えーと。家の右隣だって書いてあったな。」
あっているか確かめるために表札に目をやった。そこには手紙に書いてあった部屋番号と、見知った名前が書いてあった。
「・・・津島?」
そこに書いてあったのは、沼津に来てから一番最初の友達であり中二病仲間のヨハネの名字だった。そういえばこの前ヨハネが自分の母親から、僕の母と知り合いだったとか言っていたな。もしここがヨハネの家だったらいろいろ気まずいのだが。
「・・・まさかな。」
僕は心を決めて、インターホンを押した。
「はーい。」
あれ、おかしいな?よく聞く声がスピーカーから聞こえてきた。もしかしてこれはもしかするかもしれないぞ。
扉から出てきたのは、頭にお団子をつけた堕天使が出てきた。
「ええっ?!なんでシェリアスがここにいるのよ?!」
「やっぱりか。あーあ予想通りか。」
「どういうことよ。」
「はあ、とりあえず。今日から隣に越してきた津々宮です。」
「はあ?!越してきた?どういう意味よ。」
「詳しくは後で話す。とりあえずヨハネ、ご両親か誰かいる?」
「え?ママならいるけど・・・」
二人で玄関前で話していると、奥からヨハネに似た女性が出てきた。
「善子ー。誰かいるのー?」
奥から出てきた女性は僕を見ると少し驚いた表情をしてから問いかけてきた。
「あら?もしかしてあなた千鶴の息子?」
「え?はい。僕が津々宮千鶴の息子で津々宮修斗です。」
「やっぱりね。目の色が似てるからすぐにわかったわ。」
目の色だけで似てるのどうかなんてわかるのか。
「話は千鶴から聞いてるわ。とりあえず上がって。善子、修斗君を通してあげて。」
「う、うん。」
「おじゃましまーす。」
流れで津島家に上がってしまったものの、今すごく緊張している。今ヨハネと彼女の母親はキッチンに飲み物を取りに行っている。つまり現在、僕は他人の家に一人っきりになっている。今更だが、今までの人生で女友達の家に上がったことなんてなかったからな。そもそも友達も少なかったから家に招待されたこともな立ったからな。だからこそなのかただリビングに座っているだけでも足が震えてしまう。全身の感覚が研ぎ澄まされている気がする。
「津々宮君、おまたせ。」
「?!あ、はい。」
感覚が研ぎ澄まされていた分、急に話しかけられるて変な声が出てしまった。
「そんなに緊張しなくてもいいのよ。飲み物は麦茶でよかったかしら。」
「はい。ありがとございます。」
そう言って僕の分のグラスに麦茶を注いでくれて、僕の前までグラスを持ってきてくれた。なんて優しんだ。これが母親というものなのか。僕の母は出張が多かったから、あまり一緒に過ごした時間は少なかった。もしかしたら今、母親という存在を初めて意識したかもしれない。しみじみとそんなことを考えていると、いつの間にか隣に座っていたヨハネが話しかけてきた。
「それで、どうしてシェリアスがいきなり隣に引っ越してきたの?まさかこのヨハネに魅了されたからって、ストーキング?」
「違う!実は・・・」
僕はヨハネと下校の帰り道で別れた後のことを話した。家の前にトラックが止まっていたこと、引っ越し業者の人から母からの手紙の入った封筒を渡されたこと、トラックに乗ってこのマンションまで来たこと、すべて話した。
「ふーん。そんなことがあったのね、あの後。」
「いきなりすぎてて僕も驚いたよ。」
「ところで修斗君。千鶴たちはどこに行ったか聞いてる?」
「うーん。ヨーロッパだったようなアメリカだったような、すいませんよく覚えてません。」
「千鶴、伝えてなかったのね。」
「えっ?知ってるんですか?」
「ええ。この前、あなたのご両親が私のところに来た時に教えてくれたわ。」
「両親ということは父も一緒にいたんですか?」
「ええ。」
僕の父は母と同じく出張が多い。しかも母よりも家に帰ってくる回数は少ないからあまり会ったことがない。父について知っている情報と言えば、本名は津々宮海斗、僕と同じで美形。僕と同じで!しかも母から聞いた話だが、父は昔中二病だったらしい。つまり僕は二代目ということだ。そんな父が沼津に来ていたのか。知らなかった。
「それで母たちはどこに出張に行ったんですか。」
「確かロンドンと言っていたわよ。」
「へーシェリアスのご両親、ロンドンに行ったんだ。」
「また遠いな。これじゃあしばらくは帰ってこれないかな。」
両親は今まで何度も海外に行っているが今までは中国や台湾と割と近かった。しかし今回は家まで知り合いの家の近くに引っ越して遠くということはしばらくは帰ってこれないだろうな。しかし母さんはヨハネのお母さんには色々話していたようだな。この人どれくらい前から母と知り合いなのだろうか。もしかしたらこの人は僕の知らない両親のことをたくさん知っているかもしれない。これからは親しみを込めて、心の中でヨハママと呼ぶことにしよう。
僕とヨハネが普通に喋っているのを見て、ヨハママが問いかけてきた。
「そういえば、善子はもう修斗君とは知り合いだったのね。」
「う、うん。学校で同じクラスになったのよ。」
「そうなの。じゃあ変に気まずくなる必要はないわね。」
「すいません。変な気を使われてしまって。」
「いいのよ。千鶴の子供なら私の子も同然よ。そうだ、今日はもう遅いからうちで晩御飯を食べていきなさい。」
「え?いいんですか?」
「え?シェリアス、家で食べていくの?」
「もちろんよ。これも千鶴に頼まれたことの一つだから。」
「あの、母は何を頼んだんですか?」
「千鶴は『しばらくの私の代わりにあの子の母親の代わりをやってあげて。一緒にご飯食べたり、休日に出かけたり。学校の保護者の許可や印鑑が必要なものも全て任せる。』って言ってたわ。」
「ちょっと待って、それだと私とシェリアスがしばらくの間、兄妹になるみたいな言い方じゃない。」
「そううなるわね。あ、でも修斗君の方がお兄ちゃんになるんじゃないかしら。」
「ヨハネ誕生日いつ?」
「7月13日よ。あなたは?」
「6月25日。ホントだ、僕の方がお兄ちゃんになるのか。」
「なんでよ!私の方がここに長く住んでるんだから私の方が年上でしょ。」
「別にいいよー。その代わりこれから君のことをお姉ちゃんと呼ぶよ。それでもいいの?お姉ちゃん。」
「うっ・・。それは恥ずかしいからあなたが上でいいわよ・・。」
リビングであーだこーだ言い合っている二人を見ながらヨハママはキッチンに向かった。
それからしばらくしてテーブルには料理が並べられた。僕は人が作ってくれた料理を久しぶりに食べた。それどころか誰かと食卓を囲んで晩御飯を食べること自体久々だった。小さなころから憧れていた、家族で料理を食べるという夢が想像していた形とは少し違ったが今日叶った。食事とはこんなにも温かいものだったのか。そう思うとかすかにだが、視界が曇ってしまった。そしてこれから晩御飯は津島家で食べることになった。
食事を終え、僕が帰宅の準備をしているとコーヒーを飲んでリビングでくつろいでいたヨハママが話しかけてきた。
「そうだ。私、高校で教師をしているの。だから何日か帰りが遅くなる日があると思うから、その日は何か適当に作って冷蔵庫に入れておくから、善子と温めて食べてくれる?」
「それでしたら、僕が作りましょうか?」
「シェリアス、料理できるの。」
「まあ一人で家にいる時間が長かったから、家事は大体できる。」
「そうなの。ほんとに?」
「疑うな。本当だよ。」
「そういえば千鶴もそんなこと言ってわね。じゃあお言葉に甘えようかしら。善子もいいわよね。」
「フフ、堕天使の味覚は敏感よ。あなたに私を満足させれるかしら。」
「・・・善処しますよ。」
今まで自分の料理を誰かに食べさせたことなんてなかったから自分の料理がうまいのかよくわからない。母はおいしいと言っていたが、僕の母ならどんなに焦げていてもおいしいと言いそうだ。自分では結構うまい方だと思うのだが。その答えは明日この堕天使をうならせれるかどうか、か。何を作ろうかな。とりあえず一度家に戻って、料理器具を整理しないと。
「お邪魔しました。」
「それじゃあ、お休みシェリアス。」
「うん。お休みヨハネ。」
二人の今日本当の別れの挨拶が交わされ、扉は閉ざされた。二人は閉ざされた扉に向かって今までためていた思いを口に出した。
「妹か・・・。」
「お兄ちゃんか・・・。」
少年は全てを捨てて新しい自分を始めるために、何もかもがなくなった日常の中にできた新しい大事な存在を思い。少女は変わらないと思っていた日常にできた堕天使としての自分を理解し、受け入れてくれた少年を思い。今まで離れて人生を送っていた二人がほとんど奇跡のようなつながりによって、巡り合った。確実に近づいたお互いの関係。これからどう変化していくのか、それは誰にもわからない。
津々宮夫婦の名前を決めた方法は自分の思い出をいれた箱の中身から適当につけました。
津々宮千鶴 千羽折ろうとして3羽程で諦めた鶴。
津々宮海斗 沖縄で拾ったまま箱の中に5年間入っていた砂と貝。