堕天物語   作:EIMZ

9 / 25
堕天使と魔王と料理(ハンバーグ)

津島家を出た後、僕は家に戻った。すでに家には引っ越しの荷物が置かれていた。内装の数日前くらいから両親が装飾していたのか、既に完成していた。荷物は段ボールに入れられリビングになるであろう場所に置いてあった。新しく自分の家になる家を一通り見て回ろうと思い、まずキッチンに向かった。キッチンは津島家で少し見たキッチンに似ていた。そのほかにも色々と見て回ったがそれ程変わった場所はなかった。最後に入った部屋には、机とベッド、そして机の上に1通の手紙が置かれていた。その手紙は生まれて初めて僕に届いた父からの手紙だった。

 

『修斗、元気にしているか。新しい生活になって早々に父さんたちが海外に出張と決まって、お前に伝えていなかったこと、本当にすまないと思っている。これまで通り銀行の口座にお前の生活代を振り込んでおく。これからしばらく日本には帰ってこれない。少なくとも2年はかかるだろう。今までもこれからもお前に寂しい思いをさせてしまって本当に悪いと思っている。津島さんに迷惑はかけるなよ。元気でな。

津々宮海斗』

 

生まれて初めての父からの手紙を読み終えると、今は空港かロンドンであろう両親の姿が頭をよぎった。津島家で晩御飯を食べた時とは違う意味で視界が曇った。人生初の父からの手紙を涙で汚してしまった。

 

「2年か。そのころには僕は高校生か・・。」

 

僕が高校生になったころに両親が日本に帰ってくるのか。それまでまた今までのような一人の日々が続くのか。いや、今度は一人じゃない。大丈夫だ、寂しくない。そう思うと少し心が楽になった。僕はしばらく荷物の整理をしてからベッドに入った。

次の日、家で朝ご飯を食べてから学校に登校するとき玄関を出ると同じく学校に向かう途中だったヨハネと会った。

 

「おはよう、シェリアス。」

「おはよう、お隣さん。」

 

今まで学校とその帰り道くらいでしか会っていなかった彼女に会うと変な感覚だな。

 

「ねえ、昨日言ってた晩御飯はあなたが作るって言ってたけど、何作るの?」

「うーん、そうだな。ハンバーグでいいかな。」

「へえ、このヨハネをうならせることができるかしら?」

「フッ、魔王の名に懸けて君を満足させるよ。」

 

家の鍵を閉めてから僕たちは一緒に学校に向かった。今までの帰り道に通っていた場所を通って学校に行くと、途中で藤崎にあった。

 

「おはよう二人とも。」

「おはよう、委員長。」

「おはよう、藤崎君。」

「二人が一緒に登校なんて珍しいね。昨日何かあったの?」

「実は・・・・」

 

昨日、いきなりの引っ越しのことを藤崎に説明した。

 

「へーそんなことがあったんだ。津々宮君、ラブコメの主人公みたいだね。ということは津島さんがメインヒロイン?また漫研とラノベ部の先輩たちのネタにされるよ。」

「・・・それは大変ね。」

「しばらくあの人たちを避けようか。」

「がんばってー。」

 

あの人たちは僕たちが部活動見学に行ったときに、自分たちの争いに僕たちを巻き込み、僕たちを題材にした作品を作ることになった。まあ、こんな結果にしたのはそこでへらへら笑ってる腹黒委員長のせいなんだけどね!

 

「くそったれが・・・。」

「ん?何か言った?」

「別に何も。」

 

そんなやり取りをしながら僕たち三人は学校に着いた。

学校ではいつものように完璧を演じ、部活も完璧に

を貫き、今日も学校は終了し放課後になった。今日も完璧を貫き通した僕、お疲れ様。今は部活の片づけの最中だ。この後は津島家でハンバーグを作らなくては。材料あったかな。買いに行こうかな。

 

「ヨハネ、帰りに材料を買いに行っていいかな?」

「いいわよ。学校から直接買いに行くの?」

「ああ、その方が手間が少なくていいかなと思って。荷物持ちがいるし。」

「まさか、このヨハネを使い魔にする気?」

「ああ。」

「まあいいわ。手伝ってあげる。」

 

ヨハネの了解も得たので着替えたら早速スーパーに向かった。スーパーは学校から僕たちが住むマンションの間にある。結構大きめのデパートなので大体の食材はここで揃う。

 

「シェリアス、今日は何を買って帰るの?」

「うーん、卵はあったかな。ひき肉と玉ねぎと、ナツメグとローリエは家にあったから、あとサラダ用の野菜とか色々。」

「ナツメグ?ローリエ?」

「香辛料だよ。」

「あなた、ほんとに変なところで凝り性なのね。」

「えっ、そう?」

「自覚ないの?」

 

・・・そんなに凝ってるかな、僕。あまり考えたことなかったな。家で料理をしていても段々といろんなことを試していくからな。でも僕以外誰も家にいないから、止めてくれる人がいなかったからな。家で一人で暴走してしまったことが、僕が凝り性になってしまったことの原因なのかもしれない。

 

「ひき肉持ってきたわよ。」

「ありがと。あとはこれかな。」

 

僕はそう言いながら一つのフルーツを手に取った。

 

「何それ、レモン?」

「そう。」

「何に使うの?」

「それは後のお楽しみってことで。」

 

僕たちはかごの中を確認した後、レジに向かった。レジ番のおばさんがレジに来た僕たちを見て笑いながら言った。

 

「あらまあ、もしかして兄妹?一緒に買い物なんて仲がいいわね。」

「あはは。」

 

この前はカップルに見られて、今回は兄妹か。そしてまたしても後ろでヨハネは黙っている。こいつ、コミュ力ないのか、照れてるのかよくわからないな。材料を袋に入れているときもヨハネは黙ったままだった。メンドクサイな。スーパーを出て、しばらく歩いてから彼女に問いかけた。

 

「あの、ヨハネさん。大丈夫ですか?ずっと黙ったままだったけど。」

「・・・・シェリアス。あなた、私たちが兄妹みたいって言われても何も思わないの?」

「えっ?うーん、特に何も思わないかな。」

「・・・・そう、なの。」

 

なぜ少し悲しそうな顔をするんだ。僕は何か気に障ることを言っただろうか。

 

「・・・でも、小さいころから一人でいることが多かったから、周りの誰かと家族と間違われると、ちょっと嬉しい・・・かな。」

「ほんとに?」

「・・・うん。」

「フフッ、意外と可愛いところがあるのね。」

「うるさい。」

 

雑談をしていると、僕たちはマンションに着いた。僕は一度残りの食材をとるために家に戻った。まだ入れっぱなしになっていた引っ越しの時にダンボールに入れっぱなしにしていた香辛料を取り出した。後は冷蔵庫の中からニンジンと卵を取り出した。今までに取り出した食材を袋の中に入れた。その袋を持って僕は隣の家に向かった。

 

ピンポーン。

 

「はーい。」

 

中から見慣れた堕天使が出てきた。

 

「さあ、入って。」

 

そのまま津島家に入ると僕はキッチンに向かった。

 

「ねえシェリアス。何か手伝うことある?」

「いや、いいよ。僕一人でやるから。ヨハネはリビングでゆっくりしていてくれ。」

 

今まで一人で料理をしていたから誰かと一緒にするとなると失敗する恐れがあるからな。ヨハネには悪いが一人でやらせてもらうよ。ハンバーグくらいならよほどのことがない限りは失敗しないとは思うが、誰かに作るとなると、全力でやらせてもらうよ。そんな思いを胸に僕は包丁を手に取った。

 

「さあ、始めようか。」

 

約40分後、テーブルの上に僕の料理が並べられた。ハンバーク、ポテトサラダ、ライスが並んでいた。その向かいにはヨハネが座っていた。結構いい出来だと思う、今までで一番上出来だと思う。

 

「いただきます。」

 

切られたハンバーグの中から肉汁があふれだした。ヨハネは切り分けられたハンバーグを口に運んだ。

 

「?!美味しい・・・。」

「ほんと?」

「え?!フ、フン!ま、まあまあね。」

「そう。お気に召したようで、よかった。」

 

よかった、一安心だよ。しかし誰かに食べてもらって美味しいと言われるのはいいものだな。なんだかいい気分だ。まあ、魔王はなんでも出来るから当然なんだけどね。

 

「このヨハネの舌を魅了するなんてなかなかじゃない。」

「まあ、魔王ですから!」

「何なのよ、その自信?」

「でも美味しいだろ?」

「う、うん。」

「ならいいんだよ。それに君が美味しいと言ってくれたからさらに自信がついた。」

「何よそれ。」

「誰かに僕の料理を食べさせたのは今日が初めてだったから、最初はちょっと自信がなかったんだ。」

「そうなの?とても美味しいけど。」

 

まあ、前の学校ではほとんどボッチだったし。食べさせるにも家族もいなかったし。あれ、なんだか悲しくなってきたな。いや、今大事なのは今だ。

 

「そういえば、レモンはどこに使ったの?」

「ん?ああ、このポテトサラダに使ったんだよ。」

「このポテトサラダに?」

「ああ、普通のとちょっと違うんだけどわかるかな。」

「うーん。味が爽やか、とか?」

「お、正解。普通のポテトサラダだとマヨネーズの味がちょっと強いんだよ。だからレモンの酸味でマヨネーズの味を少し打ち消すんだ。マヨネーズの味が強いのちょっと苦手だったから、改良に改良を重ねてできたのが、このレモン入りポテトサラダなんだ。」

「へー、すごいわね。さすが魔王様。」

 

いつの間にか二人だけの時は、僕が魔王化してしまっている気がする。他の誰かにバレる心配がないから気が抜けて決まってるのかもしれない。それとも、堕天使という存在が魔王の封印を解こうとしているのだろうか。フハハ、貴様ごときでは僕の絶対的な封印は解けないな。食後、お皿を洗いにキッチンに来た時、長年使ってきた包丁が目に入った。今日もこいつのおかげでいい料理ができた気がする。こいつだけは念入りに洗わないとな。包丁を洗い終わって水気をとっているとヨハネが話しかけてきた。

 

「シェリアス。また、作ってくれる。」

 

ヨハネが小首を傾げて問いかけてきた。こういうちょっとした動きまで可愛いとは、罪な堕天使だ。

 

「もちろん。よろこんで作らせてもらうよ。」

 

君が喜ぶのなら、何度でも作ろう。魔王の名に懸けて、全力で作らせてもらうよ。

 

「さて、次は何を作ろうかな。」

 

 

 

 

 

 




料理って科学の実験みたいですよね。
あくまで個人の意見です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。