また新たな人物と出会います。
どうぞご覧下さい。
「お前は東を統べる鬼の生き残り、雪村家の一族だ。しかし雪村家は人間の手によって滅ぼされた。俺は西を統べる鬼の頭領だ。そしてここにいる天霧、不知火も鬼の一族…他にここ京にも八瀬の鬼がいる。それも女鬼だ。」
「鬼…!?わっ…私がですか…?」
「あぁ。綱道は人としてお前を育てた様だが間違いない。その小太刀に彫られている家紋と雪村の姓…何よりお前が持っている治癒力…全て一致する。」
「でも…私には全く自覚がないです…雪村家が滅ぼされたと言っていますがそんな記憶もないですし…。」
「幼少の記憶だ。何かきっかけがあれば思い出す日も来るであろう。お前は純血の、高貴な鬼の姫だ。これからは鬼の自覚を持ち、人と安易に関わるな。人間は愚かな生き物…争いを好み権力と金に物を言わせ、平気で人を傷つける。俺達西の鬼は先祖の代から薩長に恩がある。先祖の義理を果たす為今は仕方なく力を貸しているが本来鬼は人同士の争いには手を貸さない。幕府は東の鬼である雪村家に協力を要請したがお前の先祖は鬼の誇りを守りその要請を断った。その所為で雪村家は滅ぼされたのだ。幕府によってな。」
「そんな…幕府が…!?」
「お前の父綱道は幕府からの密命で京へ向かい、ある組織と一緒に研究をしていた。その組織とは幕府の管理下にある『新選組』だ。」
「…新選組…。」
「噂くらいは聞いた事あるだろう?江戸生まれなら尚更。人斬り集団…武士などと名乗っているが所詮は壬生浪の集まりだ。綱道はあいつらと一緒に鬼の所業に反する忌々しい研究を繰り返していた。ある『薬』の研究だ。」
「…薬…ですか?」
「『変若水』。人を化け物に変える物だ。この化け物を『羅刹』という。新選組は脱走しようとした奴や組織に歯向かった奴に薬を飲ませ実験台にしている。こいつらの特徴は人間離れした力と高い治癒力だ。鬼の紛い物…綱道は自身が鬼であるのに人間などに手を貸し、こんな恐ろしい化け物を生み出したんだ。」
「……!?」
千鶴はショックと恐怖で言葉を失う。風間はそのまま話を続けた。
「この羅刹の栄養源は『血』だ。夜な夜な血に狂い暴走したかつての『仲間』をあいつら新選組が粛清している。この変若水、羅刹は新選組にとっても幕府にとっても最高機密。知ってしまったら二度と自由はない。そんな最高機密の全てを知り尽くしている綱道がいなくなったんだ。今新選組はその行方を必死で探している。そして娘であるお前の存在がその新選組に分かったら…お前は人質としてあいつらに捕まり二度と出ては来れない。」
「そんな…私父様からそんな事一度も聞かされていない…関わっていたのがあの『新選組』だったなんて…。私どうしたら…。」
「綱道に娘がいるとの情報も遅かれ早かれ知られてしまうだろう。あまり目立つ動きはしない方がいい。町で綱道の行方を探している事が分かればそれが娘だと勘付かれる可能性がある。秘密裏に探せる様何とか方法を考える。焦るな千鶴。もう少し待っていてくれ。」
「いえ…ありがとうございます。色々聞いて驚きましたが風間さん達がいてくれて良かったです。もしまだそのまま江戸にいたら、父様の娘だという事が分かって新選組に連れ去られていたかもしれない…。感謝しています。私を傍に置いてくれて。これ以上関係のない人達を巻き込む訳にはいきません。私も雪村家の…鬼であるならば父様のしている事に責任があります。早く父様に会ってこんな薬を使う事を止めさせます。…戦います。私も。」
揺るぎない意志の強い瞳…覚悟を決めた千鶴の大きな目に吸い込まれそうになる。風間は思わず千鶴を引き寄せ優しく抱きしめた。
「かっ、風間さん!?」
「…お前は強い。それでこそ雪村家の頭領だ。俺が見込んだだけの事はある。お前は一人ではない。俺がいる。お前を必ず守る。」
****
翌日、風間達の元へある人物が訪ねて来ていた。
「きゃあー!貴方が千鶴ちゃん?私千って言うの!あっお千ちゃんでいいわよ!貴女すっごくものすっごく可愛いわ!ねぇ菊、私この子気に入っちゃった!今から一緒にお団子食べに行かない?すっごく美味しい所知っているの!ねぇいいでしょう?」
「ひっ姫様…千鶴様がお困りですのであまり無理強いは…。」
「えぇ何でよ菊!ねぇ千鶴ちゃんだって行きたいわよね!こんなむさ苦しい男鬼に囲まれてたら千鶴ちゃんが穢れちゃう!ほら行こう!ねぇー良いでしょう?」
「あっあの…えっとぉ…。」
「おい、誰の許可を得ているんだ?俺はいいなどと言っていない。勝手に決めるな八瀬の女鬼。」
「何風間。あんたの許可なんて始めから貰う気ないわよ。千鶴ちゃんはあんたの人形じゃないのよ。女の子なら美味しいお団子も食べたいし、小間物屋にも行きたいし、おしゃべりもしたいし…ねぇ千鶴ちゃん?」
「あっあの…でも私風間さん達にお世話になっているので勝手な事は…その…。」
「この女…さっきから一人で喚きやがって…千鶴、団子なら俺が買ってきてやる。むしろ俺と行けばいい。そんな女と行ってもつまらん。全く品のない奴だ。」
「何ですって!アンタに品格の云々言われたくないわよ!万年不愛想の不機嫌鬼が!」
「お前…女だからと調子に乗るなよ…お前如きの里など俺の手で一瞬で滅ぼせるのだからな!」
「あら?やれるものならやってみなさい?その代わりはぐれ鬼として一生追われる身になるわよ。」
「ああ言えばこう言いやがって…天霧!この女をつまみ出せ!二度と敷居を跨がせるな!」
「天霧殿…申し訳ございません…姫様のご無礼を…。」
「いえ、君菊殿、貴女が謝る事ではございません…。」
「つーか何でもいいけどよ…煩せぇよ…千鶴が困ってんじゃねぇか…。」
「不知火いたの?あぁ!千鶴ちゃんごめんね。私風間と喧嘩する為にここに来た訳ではないの。天霧から聞いたわ。お父様の事大変みたいね…あまり目立って行動すると新選組に分かってしまうし、だから、私いい方法思いついたのよ!秘密裏に行方を探る方法!」
千は自信満々に瞳を輝かせ、千鶴の両手を握りながら満面の笑みを浮かべた。
「ねぇ千鶴ちゃん、暫くうちで働かない?お客さんから情報を貰えばいいのよ!」
千の言葉にその場にいた一同は固まる。風間はみるみる不機嫌な表情を露にした。
「えっ…お千ちゃん、『うちで』って。お千ちゃんは何をしている人なの?」
「えっ?何をしているって…島原にある遊郭よ。千鶴ちゃんは芸子として潜入するのよ!ほら、島原なら内密に来ている客も多いし、基本酔っ払いだから次の日になれば忘れているし。千鶴ちゃんすっごく可愛いし、人気も出るわよ!一気に太夫になれるかも!菊もそう思うでしょ?」
「えぇそれは千鶴様の器量であれば…ってそういう事ではなく、東の姫様になんて事を!そんな事危険すぎます。」
「お前思考ぶっ飛んでんな…千鶴をあんな所に働かせて万が一の事があったらどうするんだよ!酔っ払いとか汚ぇ客につくなんて…想像しただけでも恐ろしい…。」
「…天霧聞こえなかったのか?このふざけた女をどうにかしろ!二度と面を見せるな!おいそこの女忍者!お前はこの女にどういう教育をしているんだ!将来の我が妻にそんな穢れた人間共がいる場所へ働かせるなど…」
「おい風間!どさくさに紛れて何言ってるんだよ!いつお前の将来の嫁さんに千鶴がなったんだ!」
「何を言っている?至極当然の事だ。本人も了承している。」
「ほっ本当かよ千鶴…お前こんなんでいいのかよ!」
「千鶴ちゃん目を覚まして!こんな男と結婚したら一生苦労するわよ!」
「不知火、千、お前達…余程俺に殺されたいんだな…」
「あっあのぉ…とにかく一度落ち着きませんか?」
周りがぎゃあぎゃあと騒ぎ立てており、千鶴は一層困惑した。頼りの天霧は先程から何やら難しい表情で考え事をしている。そして何かを決断したかの様に、天霧の口から信じられない言葉が出た。
「お待ち下さい。八瀬の姫殿、その提案私もいい考えかと思います。」
「さっすが天霧じゃない!やっぱり頭の良い人は物の考え方が違うわよね~」
「あっ天霧…?どうした?悪いモンでも食ったか?」
「…お前は正気か?どこか打ったのか?」
「いえ風間。どこも打ってはいません。しかし、このままボヤボヤしていても時が過ぎるだけ。少しでも綱道氏に繋がる情報が欲しい所です。公に探せないのなら秘密裏に探るしかない。島原なら絶好の機会ではないでしょうか。それにここならば八瀬の姫と君菊殿もいる。二人が千鶴殿を危険から守ってくれるでしょう。勿論我々も時間がある時は様子を見に行けばいいのです。このまま悪戯に時が過ぎ、新選組に千鶴殿の存在が分かってしまう方が危険なのでは。」
天霧の言う事は一理ある。しかし島原と言う場所が場所なだけに風間と不知火は難しい表情を崩さない。その時、何かを決意した様に千鶴が風間に向かい三つ指付いて頭を下げる。
「風間さん、私…お千ちゃんの提案、引き受けてみようかと思います。天霧さんの言う通りこのまま時が過ぎるのを待つだけではいけない様な気がして。私も、自分で行動を起こさないといけないと思うんです。お願いします!島原への潜入捜査、やらせて下さい!」
****
京の町はいつもと変わらず平和だった。本日の巡察は十番組が担当。茶屋で少女と出会ってから一月。偶然会える訳でもなく、手掛かりも掴めない。あの茶屋にまた来るのではないかと何度か足を運んでみたものの梨の礫。相変わらず綱道さんの行方も分からず、父親を探している女の影もなし。原田は深い溜息をついた。そんな中、後方で隊士達の話声が耳に届く。
「なぁ島原にすげぇ人気の芸子がいるんだってよ。見た事あるか?」
「いやぁそれが座敷に上がるなりすごい人気で…太夫をも上回るくらいの美人らしいぞ。一目見てみたいなぁ…。」
最近原田は島原に行っていなかった。あの茶屋姫が気になり、どんな女性を見ても何とも思わなくなってしまった。それは平助も同じらしくすっかり毒気をなくした二人は屯所で酒を飲む事がもっぱらで、島原の情報にも疎くなってしまっていた。
(そういえば新八がすげぇ別嬪がいるとか騒いでたな…この事か?)
全く興味が持てなかったが隊士達から出た一言に、原田は目を見開いた。
「どうすればその芸子には会えるんだ?」
「何でも逢状を出すらしい。それでも会えるかどうか分からないらしいぜ。」
「いやぁすげぇ人気だな…ちなみにその芸子って何ていう名前なんだ?」
「あぁ『輝月』っていう奴らしいぞ?名前の通り『かぐや姫』の様な美しさなんだって。」
「…おいお前ら、その話、もう少し詳しく聞かせろ!」
大きな足音を響かせながら無遠慮に広間の障子を開けた原田に、男達は怪訝そうな顔をする。
「何?左之さん息切らして。少し静かにしてくれない?」
沖田の言葉を無視し、原田は永倉に話しかける。
「新八!お前最近入った人気の芸子知ってるか?」
「あぁ勿論。何だよ左之。最近島原に興味なさそうにしてた癖によ。」
「んな事はどうでもいいんだよ!お前見た事あんのかよ!」
「あぁ一瞬だけな。けどよぉありゃかなりの上玉だな。可憐で清楚。島原にはいないタイプっていうか、名前の通りまさに『かぐや姫』だよあの美しさは。また慣れてねぇ所がいいらしくてよ~あぁ俺もあやかりてぇな!でも逢状出して4日は返事待ちの上に会えるかどうかは運次第なんて、富くじみてぇだよな。」
永倉の言葉に広間は水を打ったかの様に静まる。そして土方が永倉に問いかける。
「…なぁ新八、その芸子の名前は何て言うんだ?」
「だから今言ったじゃねぇか。『輝月』さんだよ。輝く月と書いてかぐや。綺麗な名前だよなぁ…。」
『かぐや』の名で思い出す一人の姫君。同じ人物という確証はない。しかし男達は既に、逸る気持ちを抑える事は出来なかった。
次回から新しい章になります。
島原の芸子として潜入した千鶴、果たしてどうなりますでしょうか…?
また次回も見て下さい!!