人外は常識外れだからボクはまだ人間だと思う   作:黒樹

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日常話です。


パーティー後、幼馴染

 

 

 

クラス代表は織斑一夏に決まった。しかし、一夏は納得いかないようでボクとオルコットさんにずいっと迫ってくる。負けたのは悔しいけど、納得いかないという表情になるのも理解できないわけではない。だけど、これは織斑千冬に告げられた決定事項である。神に逆らえばどうなるかわからない、ルールは織斑千冬という一教師なのだ。

 

「どうして代表が春香じゃなくて俺なんだよ!」

「ボクが辞退したからだよ」

「じゃあ、次点のオルコット–––」

「わたくしも辞退させていただきました」

「それなら俺も辞退す–––」

「却下だ」

 

「じゃあ俺が」「じゃあ私が」「どうぞどうぞ」みたいなノリで辞退しようとした一夏の辞退を受け付けない千冬姉が一夏の言葉を遮った。やはり、納得いかない一夏は神に抗う。

 

「俺、負けたじゃん。つーか、最下位じゃねぇか! なんで俺は認められないんだよ?」

「そのことだがな、織斑。春香は代表候補生すら捩じ伏せる奇策と力があるし何よりイレギュラー過ぎる。これでは後続を育てるのにも意味はない、のと、相手が可哀想だし……それにだ。春香は学園生活を楽しみたいと言っているんだ、わかるだろう?」

「いや、わからなくもないけど……殆ど甘やかしてるだけじゃね?」

「オルコットだが」

「わたくしが辞退したのは、彼に感化されてです。確かに、意地だけでは些か大人気ないですもの。それならば他の人にチャンスを与えるのも、貴族の務めかと思いまして」

「なんでそんな正当な理由ばかり……」

「諦めなよ。これも経験だと思って」

 

斯くして、織斑一夏に代表は決まったわけだ。

どう足掻いても、千冬姉には敵わないことを知りながら抵抗するのを諦めることをボクは勧める。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「というわけで、織斑君、クラス代表決定おめでとう〜!」

 

その日の夕食はクラスからのお祝いで食堂を貸し切り細やかながらパーティーが催された。何やらクラスにいない筈の生徒もちらほら見える気がするが、気にすることもないだろう。

一夏と二人で他のクラスメイト達に囲まれながら、様々な話をする。本当に様々な話で普段は何してるとか日常的にするような会話で特別なことは何もなかった。

料理は、女子生徒達の手作りらしい。

そんな中で、側に寄っていた本音に小さな質問をぶつけられる。

 

「フォンフォンの得意なことってなに〜?」

「んーとね、料理に洗濯に……全般的に家事かな」

「料理作れるんだ〜、へぇ〜」

 

何故だろう、とても期待されている気がする。

薄い瞳が此方を見ている。

 

「作ろうか? 材料さえあればだけど」

「いいの〜?」

「料理も意外に減ってきてるし、他の人に作ってもらっておいて、はいおしまいはあまり好きじゃないし」

「じゃあ、レッツゴー♪」

 

主役を表舞台に残して厨房に回る。どうやらボクと一夏の歓迎会も兼ねているらしいが、そこのところは置いておいてもいいだろう。きっとこれは懇親会みたいなもので、ボクはその為に一つ料理を作るだけなのだから。

材料は簡単なもので、スープを作れる分ぐらいには残っていた。じゃがいも、人参、玉葱、鶏肉、ごぼうに大根と此処にいる全員分は難くないだろう。女子達も簡単なもので、サンドウィッチとか、そういうものしか作っていない。

30分程で完成させて戻ると、女子で少食でもまだ少し足りなかったのか、あまり顔色の良くない人達がいる。

ボクを見つけるなり、大なり小なり顔色は変わったけど。何処か無理なダイエットでもしているようだ。

 

「みんなー、スープ作ったよ」

 

顔色が変わった。雑談していた筈の皆、一瞬で静寂を作ると軍隊並み、いやそれ以上の速さで整列する。千冬姉の鶴の一声とはまた別の威力を持ってたらしい。

 

「な、なにこれ……美味しい……」

「今まで食べたスープよりも美味しいよぉ〜」

「本当、三つ星レベルだよね!」

「やばい、死んでもいいかも。毒入ってても飲むね」

「もう、本当何処にお嫁さんに行っても良い味だよね」

 

結果は大好評だった。

件の催促した人物といえば、隣で幸せそうにスープを飲んでいる。「お姉ちゃんに自慢しよ」と聞こえたということはこれはまた生徒会の皆にも作らなければいけないのだろうか。

まぁ、それはそれで作った甲斐があったというものだ。

何より喜んでもらえたし、ボクは満足げにエプロンを折り畳む。

 

「……まだ、七面鳥残ってるな」

「ごきゅごきゅ」

「あれ全部貰ってもいいかな?」

「どうぞどうぞ」

 

本音の了承を貰ったことで、七面鳥の皿を持ってパーティー会場を後にする。とは言っても、寮舎のすぐ側にある木陰(夜だから影もなにもあったもんじゃない)で待っていた、ヒポグリフの元へ。

 

「ほら、ご飯だよ」

「クワァ!」

 

甲高い鷹のような鳴き声を発して、七面鳥にかぶりつく。

ボクはその間に、ヒポグリフが咥えていたブラシでブラッシングをしてあげる。

何気にこの子はなんでも食べる。こら、共食いとか言わない。

というのも、この子はこの子であまり好き嫌いがないだけで、ボクとしては大助かりだ。

けど、比較的肉をあげたほうが喜ぶのだ。

 

ブラッシングをすること数分、芝を踏み近づく音が訊こえた。

振り返るとオルコットさんが立っていた。

 

「オルコットさん」

「せ、セシリアとお呼びください」

「うん、じゃあ、セシリア」

「はい」

「どうしたの?」

 

キョトンと首を傾げられる。まるで、ボクの反応が間違いみたいな指摘をされたみたいだ。

 

「アストルフォさんこそ何をしていらっしゃるのですか?」

「ボクはお世話かな。これからお世話になるんだし」

「はぁ……でも、しかし、良くできているんですのね?」

「え?」

 

今度はボクが首を傾げる番だった。

セシリアはヒポグリフを見上げて、

 

「まるで生きているみたいですもの」

 

なんて言うのだ。

おぉ。まぁ、確かに現実的ではないだろう。

でも、現実に存在しているんだからしょうがない。

 

「生きてるよ。というか、機械じゃないから」

「……夢でも見ているのでしょうか」

「おーい。戻ってきてー、セシリア」

 

現実逃避し始めたセシリアに呼び掛けると「ハッ」としてすぐに正気を取り戻した。しかし、何度も自分の目を疑い続けるセシリアにとあるエピソードを話すことにした。

 

「実はこの子、ボクがドイツの山奥で拾ったんだ」

「篠ノ之束が造ったのではなくて?」

「うん。ドイツのとある山奥で迷子になっていると偶然見つけてね、その時はこの子、小さな女の子を連れていたんだ。怪我もしているみたいで瀕死の重傷を負っていた。だけど、この子はその小さな女の子を守る為にボクに飛びかかってきてね」

「大丈夫だったんですの!?」

「偶然、束さんが通りかかって、助けてくれて……この子の心臓には、今、ISのコアが埋められているんだ」

 

胡散臭い話だと思う。実際、束さんが通りかかってってのは嘘だというかなんというか、本人は愛の力だと言っているが探してくれていたのだろう。どうやって見つけたのかは知らないでおくとして。この子もまた気が動転していただけで治療をしてもらえると判れば直ぐに大人しくなったが。

 

「後に調べてわかったことは、この子がドイツの実験場で産まれたこと。あっ、言っておいてなんだけどこれオフレコね。こんなこと知ってるなんてバレたら消されるから」

「……へ、へぇ」

「うん、ごめんね。言わなければ良かったかな」

 

つい、危険な内容まで口走ってしまった。これでセシリアは共犯、もとい同じく何か良からぬものを背負ってしまったことになる。若干青褪めている顔なので大丈夫だよ、と元気付けておく。

 

「これはボクの失態だ。もし何かあった時は、ボクが守るよ」

「ふぇっ!? いえ、まぁ……お気になさらず。これも何かの縁です」

「じゃあ、続けるけど……この子は遺伝子操作で造られた実験体なんだ。目的は不明だけど、多分遊び半分で造られたようなものだって束さんは言ってた」

「一番重要なところが曖昧なんですのね」

「一番重要なのは、何処の国が造ったか、何の目的で造られたかなんだよね。それのおかげでボクはとても重要なことを知れたわけだけど」

「他にもあるんですの?」

「これはボクもまだ言えないかな。知らない方がいい」

 

まさか遺伝子操作実験で特別な少女を造っていた。なんてことを、その過程の遊び心で造られたのがこのヒポグリフだというのはあまり公に出来ない話である。

これで話は終わりだ。

 

「さてと、もうパーティーは終わったかな」

「その子何処で飼うことになっていますの?」

「一応、明日、敷地内に小屋を建てさせて貰う予定だけど、寮舎の近くになるかな」

「……まぁ、外に見えやすくしても問題ですからね」

「じゃ、戻ろうか」

 

ブラッシングを終わらせて立ち上がる。

話をしていたから時間の経過なんて忘れていた。

ヒポグリフ–––ヒポくんの毛並みはツヤツヤでかっこよく、同時に触っていて心地いい。

 

ヒポくんに別れを告げると名残惜しそうながらも送り出してくれて、セシリアとパーティー会場に戻ると案の定、パーティーは終盤へと近づいていた。男性操縦者のペア写真と一人での写真を撮られ、さらにクラス写真を撮り、御開きというところでボクが歌うことになった。何故か姫も乱入しデュエットしたところで今度こそ御開きとなる。

 

 

 

–––ボクと姫が部屋に戻る道中、事件は起こった。

 

 

 

「キャアァァ!」と女生徒の甲高い悲鳴が寮舎に木霊した。場所はおそらく、寮舎の外の街灯のある道だろう。反射的にボクは走り出すと姫に待機を命じてから外へ。なんか思った通り、ヒポグリフの元へ駆け寄ると腰を抜かしてへたり込んでいる女子生徒のシルエットが浮かび上がりボクは駆け寄る。

 

「大丈夫?」

 

一応、校内放送でヒポグリフが庭で放し飼いにしてある事は伝えてある筈だが、流石に夜闇で遭遇した故にびっくりしてしまったのだろう事は想像に難くない。

声を掛けられた女子生徒は、ツインテールだった。

 

「な、なんで、こんな生き物が放し飼いにしてあるのよ!」

「ごめんねー、ボクの……相棒なんだ」

 

こうなる事はわかっていた。目を逸らし気味に答える。

キッと睨みつけてくるけれど、涙目も相まって怖くない。

うん、ヒポグリフと夜闇でいきなり遭遇する方が怖い。

 

「IS展開すればエネルギー全損させられたし、なんなのよもう……!」

「重ねてごめん。多分、いきなり攻撃されると思って驚いちゃったと思うんだ」

「そりゃいきなりIS展開したあたしも悪いけど!」

「ごめんなさい」

「なんで代表候補生のあたしが瞬殺されるのよ!?」

 

スピード×重さが攻撃力だから流石のボクにも理屈はわからない。

何をして、そんなことになるのか。ヒポグリフだって頭は良いから勝つことくらいは出来るはず、とは思うけれど余程交戦の意思を見せなければこの子も暴れはしないのだ。ISのエネルギー全損も尤も。

しかし、なんだろう。こうして話している間に親しみが浮かぶ。ツインテールと強気な態度が何処か誰かに似ているのだ。

夜闇に目を凝らせば、面影のある顔だ。

 

「鈴ちゃん?」

「……春香?」

 

なるほど、知り合いだったらしい。示談しなくていいかな。身内なので。

と、頭の中で黙々と思考処理をしているとがっしりと抱き着かれる。

 

「怖かった〜」

「校内放送で注意はしておいたんだけどなぁ」

「知らないわよ。今来たんだから」

「本当にごめんね、鈴ちゃん」

 

ポンポンと背中を撫でる。カチャ、といきなり何か外れた音がした。

 

「あんたねぇ……それは一夏の専売特許でしょうが」

「……ごめんなさい」

「まぁ、いいわよ。あんただし、今度埋め合わせて貰うから」

「怒ってないの?」

「今、あたしは気分が良いの」

 

幼馴染に再会直後にブラジャーの金具を外されて?

なんだろう、鈴ちゃんがとても遠いところに行ってしまった気がする。

それは新しい波乱の幕開けで……。

早くヒポグリフの小屋を建てろとの神の啓示だった。

 




簡単に説明しよう。
つまり、ヒポグリフはラウラの親戚。

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