人外は常識外れだからボクはまだ人間だと思う   作:黒樹

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今更だけど千冬はオリ主に甘いです。



女子校入学

 

 

 

会長『喜べ同志諸君』

会長『我らがアストルフォ様は–––女子だった』

ペロペロ『なにそれkwsk』

騎士団の諜報員『今日未明、ファーストチルドレンが存在する事が発覚した為に日本政府のみならず、世界各国が同時進行で期待を胸に各学校及び会社にて男性操縦者の捜索を行った。この時に謎のISからの襲撃を受けた等学園を守る為、検査用に持ち出されていたISラファールに搭乗したアストルフォたんが撃退に至る』

会長『御苦労、同志よ』

ペロペロ『……ISを使えるのは女性のみ』

会長『つまり、あのお方は–––女子だった』

ペロペロ『ちょっと待て、織斑一夏が最近ISを起動してファーストチルドレンとか脚光を浴びたばかりだぞ』

会長『……貴様は大事な事を忘れている』

ペロペロ『男か女か以外に重要な事があるのか?』

会長『青二才めが、だから貴様はその程度なのだ』

ペロペロ『なんだとっ!?』

会長『……夢を見ることは悪いことか?』

ペロペロ『っ!?』

会長『まぁ、私はどちらでもいけるがな』

騎士団の諜報員『閣下。織斑一夏がファーストなんてありえません。アストルフォたんがファーストです』

 

〜とある議事録より〜

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

クラスメイト達は羨ましそうに一夏の背中を叩いていた。急遽、志望校である藍越学園ではなく“女子校のIS学園”に進学が決まったことで様々な思惑の中、彼らは祝福した。女子の園に飛び込む事が決まった一夏は特攻隊長を任された挙句、そこに三年間在籍が決定した事を友人達は羨んだそうだ。しかし、当の本人は不安そうにありがとうと返す中で、ぐるぐると思考を働かせて思考回路に何度も文句を訴えかけていたが、まぁ政府からのお願いという名の脅しでは仕方がないのかもしれない。世の中の男子は女子校に憧れるそうだが一夏は断じてそういうタマではなかったのだ。

 

–––頑張れ一夏。

なんて、楽観視していたボクはバカみたいだ。

 

それから一週間も経たないうちにボクは操縦者だとバレてしまったわけだ。そもそも束さんの手伝いをしていた時にわかっていた事だし驚きはしないものの、隠してきたのでいつかはバレると思っていたが、理由が身内のファーストチルドレン露見ってあまりにも無茶苦茶だと思う。一夏は試験会場でやっちゃったらしいけど、ボクと織斑一夏の母校もあってテレビ中継されていたから、より一層騒がしくなってしまった。特番を組もうとしたテレビ局は捩じ伏せられ、政府に報道規制をされる始末。

 

 

 

–––というわけで、現在に至るわけだが女子校に晴れて入学となった一夏は目の前で顔を俯きがちに机にかじりついていた。

 

 

 

場所はIS学園。1ー1の教室。

簡素な入学式を終えて、彼女達の園に飛び出した狼二人。

今まさに檻の中、一夏は精神的に参っていた。

そういうボクは大して気にもしてないけど、視線が多いのは気になる。

気になるといえば、何故か壇上に山田真耶Pが立っている事だ。

 

「えーっと……織斑君? ごめんね、顔を上げてくれるかな? 自己紹介してくれないかな? 今、『あ』から始まって『お』順番的に織斑君の番なんだけど……ご、ごめんね」

 

目が合うと、謝り倒すP。涙目で教師としての風格こそ備わっていないがなんというか頑張っている感は伝わってくる。目配せでボクに頼ってくるあたり頼りないけど。

 

ガタリ、と椅子から腰を上げた一夏。

彼は深呼吸をひとつしてからきっと顔を上げる。

 

「織斑一夏」

 

一拍置いて、二拍の間。

勇気を振り絞って続けるかと思いきや、

 

「–––以上です!」

「何が以上か馬鹿者!」

 

スパンと、いや、ドゴンか。一夏の頭からなってはいけない音が鳴った。

隣を見ると千冬姉が立っていた。黒スーツというできる社員みたいな格好で。その手には煙を上げている出席簿らしきものが握られているがボクにはあれが凶器にしか見えない。

強制的に席に戻され、顔を上げた一夏は隣の人物を見て目を見開く。

まるで、幽霊にあったような驚き様だ。

 

「げっ、関羽」

「呂布」

「曹操」

「劉備」

「貴様ら人をバカにしているのか?」

 

一夏がいきなり妙な事を言いだすものだから、ついつられて思いついた名前を口にしてしまった。千冬姉は完全に逆鱗に触れたとばかりに腕を組み威圧してくる。

 

「……まぁいい。今日の私は機嫌が良いからな。許してやらんこともない」

 

フッと威圧が消えた。ようやく緊張状態の解けた一夏は脱力する。

 

「–––っていうか、千冬姉なんでこんなところにいるんだよ?」

「織斑先生だ馬鹿者」

 

二度目、一夏の頭が音を鳴らす。

動き出しの動作が見えないのは流石といったところか。

あれに当たったら死ぬ。

ボクは直感して目の前の光景を見守ることに決めた。

しかし、そう決めたは良いが今度は千冬姉から照準を合わせられてしまう。

 

「次は春香、おまえだ」

 

えっ、叩かれるのはボクってこと?違うよね?同じ轍は踏まない。二の舞になってたまるかと席から立つ間に頭をフル回転させた。頭は真っ白で何も考えられなかった。

 

「千冬姉、自己紹介だよね?」

「おまえもか馬鹿者!」

 

ビュンッと出席簿が空を切る。身構えていたボクは僅かに身体を逸らすことで回避に成功した。1秒でも遅ければ確実に出席簿が火を吹いていただろう。いや、火を吹いて当たらなかっただけだけど。

過去の英雄が持っていた武器の類を『宝具』と呼ぶが、まさしくあの出席簿は宝具クラスの武具だ。

 

「ボクの頭がこれ以上ポンコツになったらどうするのさ」

「安心しろ。死ぬまで養ってやる」

 

え、なにそれ怖い。

というか、殆ど一生遊んで暮らせる財産は築いている。

お世話になるつもりはないけど。

今の人生が愉快かと訊かれれば……あ、だいぶ愉快だ。

そもそもなんでアイドルやってたんだっけ。性別的に女性に間違えられることはあったけど、女子校に押し込まれるなんて、なんて数奇な運命だろう。

 

「ごめん、千冬姉」

「おまえはいい加減学習しろ!」

 

ブン! –––スカッ。

二度目の出席簿が火を吹いたが難なく回避。

 

「で、自己紹介だっけ」

「はぁ……そうだ」

「えっと……」

 

この場で一番視線を集めることができる場所は何処か。探知した結果、山田真耶Pの隣ということが判明した。ボクは早足にステップで躍り出て自己紹介に移る。しかし、さっきのやりとりのせいで何も考えていなくて同じく頭は真っ白だ。慣れているはずなのに慣れないのは女子校だからか、いやでもよく女性アイドルに混じってたな。

視線を集めたところでボクは深呼吸をひとつ。

目を閉じれば、視線が集中しているのを空気で感じた。

いざゆかん。

 

「遠からん者は音にも聞け! 近くば寄って目にも見よ! 我が名はシャルルマーニュが十二勇士アストルフォ!」

「は、春香さん……お願いですから、営業じゃないですから普通に自己紹介してください!」

 

つい山田真耶Pがいるからかアイドルとしての口上をやってしまった。

千冬監督。プロデューサーはそう主張してるけどどうしよう。え、オーケー? 大丈夫そうだ。出席簿が火を吹かないということは、ありなのだろうこれは。世間一般的にはボクは織斑春香ではなくアストルフォという名前で知られることの方が多い、というか浸透し過ぎて名前で呼んでくれない人が多数だ。

 

「それはアイドルにした私にも責任はありますけど……」

「いい教育をしているな、山田先生」

「いえ、悪気があったわけじゃ……あの、織斑先生?」

「ふふっ、まさか生で観れるとはな」

「どうしたんですか織斑先生!?」

 

反射的に謝る真耶Pだったが、目の前でいつもとは違う反応を見せる千冬姉に困惑していた。凛としたブリュンヒルデは何処にいるのか。

 

「ねぇねぇ、プロデューサー」

「あの、春香さん? ここではプロデューサーではなく先生ですよ」

「わかってるよ、プロデューサー。真耶P先生でいい?」

「わかっているのかわかってないのか微妙ですね」

「座っていい?」

「いや、あの……もしかしてこれで終わりですか?」

「んー、特にないし。基本的にプロフィールは出回ってるじゃん」

「あれはアイドルとしてのプロフィールで……」

「それに、話してみないとわからないことってあると思うんだ。テレビで見るのと違うーとかあるじゃん色々」

「まぁ、そうなんですけど……」

 

自論で捩じ伏せてボクは席に戻った。

 

「なぁ、春香だけズルくね?」

「一夏、名前だけの君に言われてもね」

「取り敢えず、一人でここに来ないでよかっただけでもよしとするか」

 

一夏は自分を納得させて、視線を耐えぬくことに集中した。

 

 

 

 

 

最初のホームルーム兼一限目が終了し女生徒達が野放しになる。廊下にはいつの間にか他クラスの生徒達で包囲網が完成され檻が作られた。一夏はすぐにボクに向き直って助けを求めてくる。こういうところ弟っぽいよね。可愛いなー、とか思いながら構ってあげることにした。

 

「どうしたの一夏?」

「春香ね–––春香は平気そうだな」

 

いま「姉」と言おうとしたな。

たまに素で間違える事は日常茶飯事なので、スルーする。

 

「うーん、別に慣れてるし。間違えて女性アイドルと同じ楽屋とか更衣室に突っ込まれた事に比べればね」

「マジか。道理で」

「それに比べたら女子校に入学させられるくらい平気でしょ」

「いや、それがどうしたら……いつものことか」

 

ボクの全体を見回した一夏が口を噤む。

 

「というか、この状況普通じゃないから。なんで順応してんの。順応性高くね?」

「諦めなよ一夏。ボクは結構楽しいよ。アイドルの活動休止のおかげで普通に学園生活送れるし。中学の時はイベントとかあまり参加できなかったからさ」

「まぁ、そう考えたらそうなんだろうけどさ」

 

他愛もない雑談をしていると、不意に視界の端でポニーテールが揺らめいた。ボクはこの娘を知っている。いや、相手もボクを知っている。変わっているけど変わってないなー、とどうでもいい感想を述べながら顔を向ける。

 

「やっほー、箒ちゃん」

「御無沙汰しております姉上」

「……」

「どうしましたか姉上?」

 

どうしたのはこっちのセリフだ。箒が礼儀正しく元祖清楚系大和撫子になってしまった。「姉上」の部分にはこの際触れないでおくとしても、昔とはやや違った印象を受ける。どうしたんだこの娘。

 

「……ごめん、人違いだったみたい」

「いや、箒……だよな」

「そうだぞ一夏。久し振りだな」

 

一夏に対してはフランクだ。なんだろうこの差。疎外感を覚える。

そんなボクの気持ちを知ってか知らずか箒は一礼する。

 

「姉上、一夏をお借りしてもよろしいでしょうか?」

「あ、うん、どうぞ……」

「行くぞ一夏」

 

そして、嵐は人混みを掻き分けて去って行った。

一人取り残されたボクは呆然と状況整理をする。箒が大和撫子なのはまだいい、そこから更に礼節極めた完璧美少女へと様変わりしていたのはどういうことか。この前会った時は暗く沈んだ表情をしていたのに……。あれか、原因はあれなのか?一夏の寝顔中学生ver.と制服ver.とか写真を諸々渡したのが原因なんだろうか。

賄賂のつもりはなかった。元気が出ればと思っただけなのに、予想以上の効果を発揮していてボクは憂鬱になる。

 

そんな時、ざわざわとした廊下が静まり返った。さっきとは違う人混みを掻き分ける、まるでモーゼが歩くかのように人の波は割れて一人の美少女を通した。教室の中を悠々自適に進む美少女。雪の姫を連想させるその美少女はどことなく見覚えが……というかここに来て知り合いに会うのは四人目となる。

ボクの方に真っ直ぐ向かってくる影に声を掛けた。

 

「あ、姫」

「ひさしぶりね、アストルフォ君」

 

同業者の姫が現れた。いったいどうしてと野暮ったい事は聞かない。見るからにわかる。まさかIS学園に通っているなんて話は初耳だったが知り合いがいて嬉しい気持ちでいっぱいだった。事務所に行くことも出来ず、急遽活動休止が決まってしまって挨拶なども控えさせられた為に直接会う事はなかったが、そりゃあこんなところにいたらあまり会うはずもない。

姫は机により掛かりながらまじまじとボクを見る。

 

「あなた実は女の子だったりしない?」

「なんでそうなるのさ」

「IS動かせるなんて常識では女性だけのはずよ。疑ってもしょうがないじゃないの」

「今日は不機嫌だねー」

「そりゃあもういきなり男が入学してくるんだもの。不機嫌にもなるわ」

「ごめんなさい」

「あなたはいいのよ。……私が気に食わないのはもう一人の男なんだから」

 

さっきの「ごめんなさい」は一夏の分も合わせていたのだが、相変わらず平常運転は雪というより氷のように冷たい。

 

「それにしても、制服も女の子なのね」

 

ピラッと。ボクの女子用制服のスカートを摘んで捲ってくる姫。ボクはジト目で姫を見つめ返した。

 

「なにしてんのさ」

「気になるじゃない。男物を履いているのか女物を履いているのか。あら、スパッツなのね」

「気をつけなきゃいけないからね」

「……穿いてないっていうのも期待したんだけど」

 

そんな変態にはなりたくない。全裸で家の中を彷徨くのはどうかと訊かれれば頭の中で何やら酷い記憶が蘇ってくる。それは変態なのかどうか微妙なところだ。型破りである。

話題を逸らすようにボクは話を切り返した。

 

「それより、どうしたの?」

「あら、理由がないと来ちゃいけない?」

「そういうわけじゃないよ」

「そうね、ざっくり言えば男性操縦者を観察に来た。まぁ、それはついでであなたへの挨拶だけど、少し長く話し過ぎたわね」

 

二限目の鐘が鳴る。それと同時に千冬ね–––織斑先生が入って来た。

 

「おまえら席につけ。別クラスのやつは教室に帰れ。……なんだ、もう上級生を口説いているのか春香」

「千冬姉、姫は事務所の先輩だよ」

 

説明すると、何故かホッとした顔をする。

ホッとする情報なんてあっただろうか。

 

「あなた……ブリュンヒルデの弟だったの?」

「うん。知らなかったっけ?」

「家族について話した事はなかったから。まぁ、いいわ。困ったことがあったら私を頼りなさい。それじゃあね」

 

モーゼは海を割ることなく。

割れたのは、遅れて教室に入って来た一夏の頭だった。

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