人外は常識外れだからボクはまだ人間だと思う   作:黒樹

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ルームメイト

 

 

 

一日目が終了した。机に倒れ伏す一夏を眺めながら凝り固まった肩を剥す。特に一夏はこの異様な状況とついていけない勉強に肉体精神共に疲労困憊のようだ。

 

「つ、疲れた……」

「いやー、なんか知らない単語多かったよね」

「多かったってレベルじゃないだろ。呪文かよ。なんであんな専門用語理解できるんだ? 俺からしたら呪いを延々と吐かれているよな気しかしないんだが」

 

まぁ、確かに。束さんが教えてくれた事以外に何故か色々単語が増えていた。というか、前知識と元の覚え方の違いのせいで合わせるのにだいぶ苦労している。

ツンツンと死体同然の一夏を突いていると壇上から真耶Pが降りてくる。

 

「織斑君、春香さん」

 

因みに、一夏が「織斑君」でボクは変わらず慣れ親しんだ方だ。

 

「お二人のお部屋が決まりましたよ」

「あれ、一週間は自宅通学じゃ……」

「まぁ、学園側としても、政府としても……そこは大人の事情というか、危険だからと却下されたんですよね」

「危険?」

 

まるで一夏はわかってなかった。首を傾げる一夏と苦笑いの真耶Pにボクは苦笑する。

 

「男性操縦者っていうのは貴重なんだよ」

「そこまでするか?」

「そうでなくても。千冬姉ってブリュンヒルデでしょ。ほら、二回目のモンドグロッソあったでしょ。あの時も千冬姉の優勝妨害が目的で攫われかけたじゃん」

「ああー、あれな。春香いないとやばかったよな。結局、武装集団を春香が単独で全滅させたおかげで未遂に終わったやつ」

「束さんもスタンばってたからね。やらなきゃ血の海になってた」

「あはは、冗談だろ?」

 

あはは、とボクも笑う。冗談じゃないのが束さんの怖いところだ。

 

「特に春香さんは世界的に有名ですから」

「怒らせると千冬姉並みに怖いんだよな」

 

それはどういう意味だろうか。

 

「まぁ、そういう危険性もあってご理解いただけるといいんですが」

「このアイドルに喧嘩売った相手が可哀想だわ」

 

一言多いまま一夏は朗らかに笑う。

話を戻そうか。

 

「それで、どこの部屋なの?」

 

IS学園は基本、全寮制だ。就寝も起床もIS学園。割り当てられた部屋を尋ねると真耶Pが何処からか鍵を二つ取り出す。それぞれ一つずつ手渡された。

 

「場所は大体の位置がそこで……行けばわかるので詳細な説明は省きますが、注意事項を幾つか–––」

 

注意事項として、IS学園の生徒に科せられる規則とは別にボクらには重要な沙汰が下される。大浴場の使用やトイレについてなど、女子校に急遽入学が決まったから仕方がないと思うがまだ対処しきれていない問題が多数ある為に男子生徒には負担を強いることになるとか。ところでトイレだけど、もう少し早くその話はしていても良かったと思う。

 

 

 

 

 

部屋の鍵を渡された一夏とボクは寮(という名の女子寮)へ。放課後の筈が話し声の一つも聞こえない。気配はあるけどこちらの様子を伺っているようで出てくる気配はない。

 

「あっ、ここだ」

「あれ? 一夏はここ?」

 

『117』号室。ボクの持っている鍵とは違う番号だった。

部屋の扉には間違いなく記されている。一夏の鍵を見せてもらうもやはりその数字だ。男性操縦者は二人しかいないというのに奇妙であることに首を傾げて、ボクはまぁいっかと納得した。いや、全然納得はしてないけど、納得しておいて問題提起することなくスルーする。

一夏と別れてボクは進む。

廊下を曲がる時に一夏の悲鳴と箒の恥じらいを含んだような悲鳴後に怒号が聞こえたが、後々話は聞くことにしておいて。

 

漸く、辿り着いたのは『072』号室。

確か『0』は教職員No.の部屋だった筈だ。

まぁ、何はともあれ入るしかない。

 

鍵を差し込んで、鍵を開けると開いていた。

部屋に踏み込むと何の花かわからないけど兎に角、花の匂いがした。

次いで花を見た。

部屋に咲く、スノードロップ。

でも、花言葉的には白百合のような佇まい。純潔。威厳。

彼女は–––姫宮白雪。

ボクの二重の意味の先輩だ。しかし、どういうわけか全裸にタオルを首から掛けている状態でこちらに気づくと普段は変わらない表情が僅かに歪む。口角を少しだけ釣り上げた。

 

「来たわね、アストルフォ君」

「いやいや、来たわねじゃなくて服着ようよ」

「そう言う貴女こそ、少しあっちを向いていてくれないかしら。いくら親しい仲だとはいえ、私だって恥ずかしいのよ」

「ご、ごめん」

 

くるりと身を翻して壁を見る。真っ白だ。

衣擦れの音が部屋に響く。

それから数分で「いいわよ」と赦しが出た。

振り返るとバスローブに身を包んだ姫がベッドに座っていた。

 

「……」

「ねぇ、何か言うことはないの?」

「ごめんなさい」

「女性の裸を見ておいて無反応とか傷つくんだけど」

 

自信あったのに。と、ぼやく姫。冷淡なまま膨れてみせるが可愛いのは流石アイドルといったところだろうか。普通の男の子なら勘違いとかしていただろう。

 

「まぁ、あなただしね。仕方ないわ。別の方法で償ってもらうから」

「赦したわけじゃないんだね」

「当たり前よ。私の生まれたままの姿を見たのはあなたが初めてなのよ」

 

いやしかし、そんな危険性を孕んでいながら男女を同じ部屋に押し込めた教師もどうかしているだろう。ボクと姫なら問題ないと踏んだんだろうけど。

 

「なんで男女同じ部屋にしたんだろうねー」

「元々は政府の要請で一人部屋の予定だったんだけど、部屋の数がどうしても厳しくて、私とあなたなら問題ないって真耶Pが判断して相部屋にしてくれたのよ」

「別に一夏とでも良かったのに」

「それはダメ。それに……私も一人部屋だったのよ。誰かと相部屋になってほしいって言うから、どうせならあなたとがいいって言ったんだけど」

 

邪魔したような、なんとも言えないような、というかなんでそんな細かい事情を知っているのか。色々と気になることは多いけど、そのことについて考えているうちに姫はずいっと迫って来た。

 

「それともあなたは私と同じ部屋は嫌だったの?」

「ううん。姫と同じ部屋で嬉しいよ」

「なら良かったわ」

 

どうやら機嫌が良くなったようだ。

 

「ねぇ、今日から夕飯は交代制にしない?」

「そうだね。そういえば姫って料理できるの?」

「一応はね、アストルフォ君程じゃないけど」

 

それから活動休止して事務所に行ってなかった期間の話をした。姫も同じく活動休止をしたようで、楓ちゃんが心配しているから連絡くらいしてやれと説教を受けてしまった。そして、同じベッドで寝落ちした。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

何処まで話して寝落ちしたのかは覚えていないが、今日は姫が校内を案内してくれると言うのでボクは好意に甘えて午後の予定をそういうことにしておいた。

わくわく楽しみにしている午前中の授業中、真耶P本当に教師になったんだ、と不思議な気持ちになる中、心配そうにこちらをチラチラと見てくる。

 

「あの、私の授業暇かな? ごめんね、織斑君」

「あ、いや、そうじゃなくて……」

「えっと、ここまででわからないところありますか?」

「……はい」

 

理論で語れとか言われたら難しいけど、実践しろと言われたら簡単だ。論より証拠って感じなのだろう。ボクは言葉で説明するのは少し難しい。

一夏は申し訳なさそうに目を逸らす。優しく手を差し伸べるのが、真耶P先生だ。

 

「何処がわからなかったのかな?」

「……全部です」

 

えっ。と、空気が固まった。

助け舟を出すために周囲を見回す真耶P先生。

 

「こ、ここまででわからない人いるかな?」

 

シーン……。

 

「えっと……そうだっ、春香さんは?」

「多分、大丈夫だよー」

 

味方は一人もいなくなった。

 

「一夏、春休みに配られた分厚い指南書は読んだか?」

「電話帳と間違えて捨てました」

 

スパーン。と、一夏の頭が破裂したような音が鳴った。

 

「はぁ……春香に見せてもらえ」

「あっ、ごめん、ボクも求人誌と間違えて捨てた」

「おまえもか!?」

「全部読んだけどさー、束さんに教わった情報と違うところがあったりして。重さ的にはちょうど良かったんだけど」

「まぁ、読んだだけマシだ。もういい。後で発行するから一週間以内に読んでおけ」

「あれ、ものすごい量だった気が……」

「必読と書いてあっただろう。わからないところは春香に教われ。いいな」

 

有無を言わさない鬼教師は威圧で一夏を黙らせた。泣きつかれるのはボクか。別にこれなら箒でも良さそうだから、全部押し付けてしまおうと思う。二人が接近するチャンスだし。決して面倒なわけではない。

 

 

 

午前終了。そして、放課後。

そういえば今日から一夏はクラス対抗戦、クラス代表決定戦の来週に向けて練習を箒とするらしいが、ボクは誘われながらも後で覗く程度に留めておくと断りを入れた。

これからデートだ。姫と校内巡りをする。

何にせよ、多分、二人がいるところには顔を出すことになるだろう。

そうとくれば話は早い。示し合わせた通り、ボクの教室に姫がやってきた。

 

「行くわよ、アストルフォ君」

「はいはーい」

 

ボクに話しかけようとしていた人達に謝罪をジェスチャーする。ばいばい、と適当に声を掛けて教室の外へ。

普通の学校と違うところといえば、IS関連の施設が多いわけで。家庭科室などの調理室等は普通の学校と変わらない。とても変わっていると思うのは、やはりラボのような実験室、調整室、研究室、いわゆるガレージのような施設だ。そして、普通の学校ではありえないアリーナと呼ばれるIS専用の運動場。複数あるその一つに顔を覗かせた。

 

「うーん、別のアリーナかな?」

「アリーナの使用、量産機の使用には申請が必要よ。尤も、私みたいに専用機持ちは汎用機は必要ないから、アリーナの申請だけで通るし他の人よりは融通も利くわ」

「へー、姫って専用機持ってるんだ」

「私の専用機は【スノーホワイト】。私らしいでしょ」

「そのまんまだよね」

「これでも気に入ってるのよ。他の専用機なんて考えられないくらいには」

「そっか。良かったね」

「それはそうと、少し運動してみない? もちろん、ISを使って」

 

怠惰を謳う彼女にしては珍しい選択だ。ISでバトルなんてあまり人を傷つけるのは好みではないのだけど、アリーナと汎用機の使用に関しては事前に姫が登録を行っていたらしい。なんという手際の良さ。元から狙いはこれじゃないのかと思えるほどに。というか、人の逃げ道を塞ぐのが上手すぎる。

そんなこんなもあって、ISによる実技訓練に興じたわけだが。

なんというか、悲惨だった。

専用機は量産機と比べて、狡いというほどの性能を誇る。それに加えて、世代的に型落ちしている量産機は特化型の専用機に比べてバランス良く配分がされていると言えるが、兎にも角にも姫の専用機の性能が異常だった。

スラスターを凍りつかせたり、脚部と地面を氷結させ行動不可能にしたり、大気を冷却して搭乗者の体温を奪ったり、鬼畜以外の表現方が見つからない。しかもあれだ、脚部が氷結したことにより銃撃を行おうとすれば弾薬は凍りつき暴発する始末、完封して苛めて何が楽しいのだろうか。そういえば、姫は少しSっ気があることを思い出した。姫の為に造られた専用機と言っても過言ではない

 

「はぁ…はぁ…。あなた存外しぶといわよね」

「褒められても嬉しくないなー。負けちゃったし」

 

いいところまで行ったんだけど、スラスター全損に関節部氷結は流石に勝負にならない。様子見で勝負をすればするほど、時間稼ぎをすればするほど、悪手になり追い込まれていく。まぁ、要は負けたのだ。

姫がシャワーを浴びるのを待って、今度は部室棟を周り、剣道場へ。そこから竹刀を打ち合う竹の響くような音が訊こえ、覗いてみれば一夏と箒が何やら稽古をしている姿が。

 

「腑抜けたな一夏、この数年貴様はいったい何をしていたのだ」

「何って……まぁ、バイトだったり、家事だったり」

「鍛え直してやる」

「いや、あの……ISは?」

「基礎ができていないというのにISとは余程自信があるようだな」

 

邪魔をするつもりはなかったのだが、それ以上に割り行ってはいけない雰囲気のようだ。ボクと姫は少し覗いた後、その場を逃げるように後にした。本当はもうちょっとほんわかとした空気をイメージしていたのに、現実が離れ過ぎていて辛い。箒ってまだ一夏のこと好きなんだよね? という自分の認識を疑うレベルで。

 

次にやってきたのは【生徒会室】と下げられた看板。

その扉をノックして、姫は中から了承の声を受け取ると入室する。

ボクは背中に隠れながら一礼して入室。

なんと、そこにはのほほんとしたクラスメイトの姿が。

確か、布仏本音という女子生徒(男子は二人しかいないから当たり前)。一度だけ、声を掛けられた覚えがある。

 

「あー、フォンフォンだ〜」

「やっほー、本音」

 

妙に親しみ易いのでこちらも親しみ感を出してみる。ボクもこういう人は嫌いではない。ただ、色々と不思議なだけで。

フォンフォンってまるで警察車両が出す音みたいだよね。まぁ、それでも嫌いというわけではないけど。

 

「あなたが男性操縦者の織斑春香さんね。–––通称、アストルフォ」

「いや、あくまで本名は春香だからね?」

「わかっているわ。よろしく。私は更識楯無よ」

 

一番奥の豪華な机を挟んで挨拶してくるその人の手には扇子が握られており、パッと翻すと「生徒会長」の文字がとても達筆に刻まれていた。

 

「あっ、さっきボクと姫の試合を観ていたのって更識さんだったんだ」

「楯無でいいわ。いいえ、それより刀奈、って呼んでほしいわね」

 

眉をひそめておどけて見せるあたり、何やら裏が深そうな人だ。直感が告げる。この人は強い、それも姫と同じくらい。

 

「驚いたわ。隠れて観ていたつもりだったのだけど」

「視線はずっと感じていたからね。刀奈っていうのが本当の名前?」

「まぁね。色々理由があって、楯無と名乗っているけど」

 

口元を隠して、本心を隠す。

そんな楯無改め–––刀奈に淡々と毒を吐く姫。

 

「貴女が本名を教えるなんて、いったいどういうつもりかしら」

「やーね、別に深い意味はないわよ。私もアストルフォのファンってだけ。名前を呼んでくれるチャンスがあるなら実名の方が嬉しいし、それに自分の名前以外に呼ばれる名前があるって親近感湧くじゃない」

 

水面下で女子の睨み合いが発生する。

何故だろう、ボクは少し下がって本音に助けを求めたくなった。

今にもISによる銃撃戦が始まりそうな。

そんな予感は、別の声に阻まれるのだが。

 

「そこまでにしていただけますか、会長、姫宮さん」

 

生徒会室の扉を開け、入室する別の人。

本音が「わぁ、お姉ちゃんだー」と呟くからには姉なのだろう。

二人の視線を下した後、ボクに向けられる視線。

彼女は礼儀正しく一礼し、自己紹介をする。

 

「布仏虚です。はじめまして。すみませんね、今からお茶の準備をするので……ところで、コーヒーと紅茶どちらがお好みですか?」

「え、あぁ、お構いなく」

「アストルフォ君。アフタヌーンティーの時間よ」

「あっ、そうなんだ。じゃあ、紅茶で」

 

どうやら案内はほぼ終了らしい。ボクはこのままティーパーティーに興じることにした。それはいいのだが、生徒会室でお茶会なんてしてもいいのだろうか?

 




Fate/Apocryphaの最終話。
観たら、涙目のアストルフォに萌えたな。
……男の娘だよね?(再確認)
性別を再度疑ったわ。
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