「こんな仕事、受けるんじゃなかった」
この日俺は、自身の仕事を行うべくアイランド・イーストの港に来ていた。港湾地区である、ここは言ってみれば絃神島の玄関口。それ故、輸入を行う船や豪華客船などあちこちに見える。しかしそれらではなく、俺は海上に目を向けながら、後悔の念を口にして項垂れる。
「客人の絃神島の案内。少し報酬が良いと思ったが、どうやら客人はマイペースなようだな」
そうなのだ。俺の仕事上、そういうことを度々やっている。服装もいつものだらけきった紳士服もきちんと着こなしている。そして、それが結構暑い。一応南国使用の物なのでそういう対策はしてあるが、それでも暑い。しかし問題はそれじゃ無いのだ。一番の問題は未だに客人が乗っているであろう客船が姿を見せないことだ。予定では客人がここに着くのは十時となっていた。しかし左腕に付いている時計を見ると、そこには12時30分と刻まれている。これから現われる船の主は相当厄介な御仁のようだと悟る。すると、真後ろから魔力の流動を感じ取る。その魔力は自身の知っている人物の物だと感じ取ると、俺は嫌な顔をする。
「何の用事だ。南宮」
嫌味たっぷりの声で魔力の主、南宮那月に言葉を投げるすると、彼女は傲慢そうな言葉使いで応答してくる。
「久しぶりにお前が仕事を請け負ったと聞いてな。その様子を見にいた」
「そんな物はいらない。すぐに帰れ」
彼女の言葉に俺はすぐに否定する。こいつとは昔から馬が合わない。しかし、南宮は俺の言葉など聞かずに俺の真横まで来る。
「貴様に指図される謂われはない」
そういうと、彼女は俺と同じく海上に目を向ける。
「コウモリのお守りか。そのコウモリの素性は知っているのか?」
馬鹿にしたような言葉使いをしてくる。その言葉に俺は鼻で笑う。
「馬鹿に為るなよ。これでも調べてきたんだ」
「ほお!」
仏頂面のまま南宮は感嘆の声を上げる。それが益々俺の機嫌を落とさせるが、今は気にしないで、客人の素性を口にしていく。
「客人の名前は、ディミトリエ・ヴァトラー。第一真祖の所の吸血鬼で戦王領域の自治領の一つアルデアル公国を納める領主様。肝心の本人の性格はとにかく好戦的であり、長老を二人ほど食ったとか」
「そうだ。お前も気を付けないと奴に食われるぞ」
面白がるような視線を横目で向けながら、扇子で口元を隠す。
「確かに、俺も気をつけないとな。だが、」
再び、海上に目を向ける俺は、未だ姿を現さない客人の事を考えながら、言葉を続ける。
「ディミトリエ公に俺は食えないだろうな。俺の体は魔族からしてみればただの毒だからな」
視線を南宮に向け、おもむろに口角を上げる。
「お前だって、俺が食われると思っていないだろ? 俺の強さを知っているお前なら」
それを言うと、彼女は少し思考したような間を空ける。
「ふん。お前の強さならそうかもな。お前はあの姿にならなくても十分強い。ただ用心はしておけと言っただけだ」
「分かってる。調べた限りじゃ、客人は娯楽に飢えてる様子だったしな」
彼女の言ったことを肯定するように溜息を吐く。
「お前の弟は間違い無く巻き込まれる。そして転校生もな」
「そうだろうな。巻き込む事が主目的なんだろうが」
それを口にすると、何故か自然と溜息が零れた。
「まったく。俺の家族はなんでこうも厄介事と縁があるんだろうな」
「私が知るか」
引き捨てるようにそれを言うと、彼女は扇子を閉じる。それを見計らって俺は南宮に問いかける。
「お前、なんで古城らに教えた?」
結構真剣な声音でそれを口にする。すると南宮はとぼけるように笑みを浮かべた。
「さて、何のことかな?」
「しらばっくれるなよ。もうネタは挙がってんだ」
髪を掻き、呆れていることを伝えると、彼女は扇子を弄び始める。
「別にたいした意図はない。彼奴らは知りたがっていたからな。それを伝えたまでだ」
彼女は一度いきを吐くと言葉を続ける。
「それに教えたのは名前だけだ。それ以外は何も言っていない」
「そうじゃなきゃ困る。彼奴らを巻き込む気は無いんだ。ただでさえ厄介な運命背負っているんだ。これ以上の事は背負わせる訳には行かない」
「過保護だな。相変わらず」
「言ってろ。俺はこういう物だ」
そういうと、さすがに経ってるのが辛くなった俺はその場に屈んだ。
「ところで、居候はどうしてる?」
その言葉に俺は首を傾げるが、すぐに誰のことか分かった。
「あいつは今、家で調整中だよ」
「この前届けられたという物をか」
「ああ、そうだ。・・・・」
その言葉を発して、俺らの間にしばらくの静寂が訪れる。しかしその空気に耐えきれなかった俺は、思わずそれを口にしてしまう。
「あいつは。エイリはお前に会いたがっていたぞ。南宮」
「・・・・・・」
俺の言葉に彼女は微塵の反応もしなかった。その反応が辛くて、俺は言葉を続けた。
「今のは忘れてくれていい。ただ、あいつが会いたがっているっていうのは頭に入れておけよ」
「分かっている」
彼女は自身の真下に空間転移の魔方陣を構築させる。
「気が向いたらな」
その言葉を言い終えると彼女は転移した。俺はその様子を目にしないで、おまだ客人が現われないか、海上に目を向け続ける。