その日の絃神島の案内は物の三時間ほどで終わりを見せようとしていた。此方としてはもう少し時間があったらもう少し他の場所にも案内しようと思っていたが、それは仕方が無い。全ては予定時間に来なかったアルデアル公が悪いのだから。
「今日はここまでですね。予定されてた残りは後日に案内するといたします」
後部座席のドアを開けながら、丁寧語でそれを伝える。するとアルデアル公は含み笑いを浮かべてくる。
「もう少し案内してくれても良いじゃないか? ボクはもう少し楽しみたいね!」
口角は上がっていても目は脅しているように、獰猛な目つきを向けてくる。
「すいません。しかし、此方にも予定という物がありまして。定刻通りに来ていただけましたら、もう少し楽しんでいただけたかも知れません」
そんな彼に俺は申し訳なさそうに頭を下げつつも皮肉を口にする。もとわと言えばお前が遅れたせいだろうが。とは言えない。今の彼は客人なのだ。機嫌を悪くして貰っちゃ困る。そんな俺はせめてもの抵抗としてその皮肉を口にしたのだ。すると彼は一瞬より一層笑みを浮べた。今度は目も笑っている。彼は笑いを含ませた声で話かけてくる。
「ふふっ。どうやら此方に非があったようだね。そのせいで君たちがボクを楽しませようと考えてくれた予定を狂わせてしまったのか。済まなかった。以後時間には気を付けるとしよう」
彼は笑いながらそれを口にすると、後部座席に座る。次に煌坂ちゃんが乗ろうとするタイミングで彼女は此方に鋭い目つきで睨んできた。
「どういうつもりなの? あんな挑発するような言い方をしてアルデアル公がお怒りに鳴ったらどうするつもりよ!」
彼女は俺にだけ聞える声で責め立てる。そんな彼女の意見に耳を貸すわけでもない俺は笑みを浮かべ、早く乗るように促す。彼女は自分の意見を無視されたことに怒りを見せたようだが、状況を判断して大人しくしたがってくれた。彼女は座席に座るのを見届けるとドアを閉め、俺は運転席に乗り込み、エンジンを掛けた。
「今日は楽しかったよ光牙。そのお礼に君にあるおとぎ話を教えよう」
「・・・・。それは光栄です
彼が乗ってきた客船に向け走り出して直ぐのことだ。アルデアル公は得意気にある話題を投げかけてきた。俺はそれを謙遜した素振りを見せつつ運転を続ける。
「この話は我らが真祖から聞いた話何だけどね。昔々、天部がまだ繁栄していたぐらい昔。それも真祖達が生れる前だ。この星は一度滅びけているというんだ」
それを耳にして、俺は目を少しだけ見開いて驚愕する。まさかあの人。この話を教えていたのか。
「それは、随分と壮大な話ですね。凄く興味深いです」
俺は動揺を見せないように言葉を返す。すると、アルデアル公は此方の意見を肯定するように意外そうな口ぶりをする。
「そうだよね。ボクも最初その話を聞いたとき耳を疑った。あの方は冗談は好きだけど、決して嘘をつくような方ではないからね。まあ、今はその話はいいか! 話を続けよう」
気分が乗ったのか、彼はその内容を話てくれるようだ。
「ボクも少ししか聞いていなかったんだけどね。この星が滅びかけたのはどうやら巨大な魔獣が空から現われたせいなんだそうだよ。その魔獣は全長が100メートルぐらいアル巨体だそうで、それが吐息をするだけで半径3キロの生物は死に絶えるらしい。そしてボクが何よりの驚いたは、当時の天部の技術が全く効かなかったそうなんだ。当時生きていた人達は絶望してたみたいだよ」
まるで体験談を話ているみたいに彼は活き活きと話している。しかし話している内容はとても活き活きと話す事ではない。これはきっと彼の性格のせいなのだろう。
「そんな時に、当時の天部の一人が突然巨大化し、光りの巨人となった。周りにいた誰もがその姿に目を奪われた。なんと巨人と化したその天部はあろう事か例の魔獣と互角の力を持っていた。その巨人の活躍によって、その魔獣は退治された。そして光りの巨人と化したその天部も姿を消したそうだ」
彼はそれを話終えると満悦した顔つきになった。
「ボクが聞いた話はここまでだけど。どうだい? 面白い話だっただろう」
「・・・・。そうですね。とても興味深い話でした。そのような貴重な話をお聞かせいただき、ありがとうございます」
俺はありがたいお話をしてくれた事に感謝を口にする。実際にしている訳ではない。もちろん演技だ。俺がその話を知らない訳が無いだろう。だが、ここは演技をしててもご機嫌を伺ってた方が今後の対応が明らかに楽になる。そう判断してのこの行動だ。
「そういえば、この島にもある都市伝説があるんだったね。たしか、光り輝く巨人が現われるとか」
彼の言葉に内心どきりとする。しかし俺はそれを知らない風に装う事に決めた。
「そうなのですか? すいません、自分そういう物に疎いあまり情報がなかなか耳に入ってこないんです」
まあ、嘘だけど。それも俺が一番耳に為ることだからな。何せ、あの姦しい妹が何故か俺にその話をして来たことがあった。何故なのかと聞いてみると、あの面倒くさがりの弟に話してもつまらないとのことだ。少しは役に立てよ。
「そうなのかい? それはよかった。今後君がそれによって恥をかかなくて済んだね!」
彼は小さい声で愉快そうに微笑む。俺にはその声が得物を求める狼の咆哮ように聞えて成らなかった。