月曜の朝。
「二人とも、おはよう」
「あ…デュノア君、織斑君、おはよう」
「…おはよう」
「おう、おはよう……ってどうしたんだ、かなり眠たそうだけど?」
教室に向かって廊下を歩いていた時花とシィナは、同じく自身の教室へと向かっていた男子二人に出会い、軽い挨拶を交わす。その中で織斑は今にも寝そうな顔の時花を不思議に思った。
「いやぁ…昨日の夜に参考書眺めてたら、変に頭が冴えて中々寝付けなくて…」
寝坊はしなかったので遅刻ということにはならなかったのだが、いつもよりも睡眠時間が短い為か、その足取りは妙に悪い。
「あー、あの電話帳みたいに分厚い奴か。俺も一週間で覚えろって言われたりしたなぁ…」
「やっぱりあの分厚さは異常だよね?」
「だよな」
そんなことを話している内に一行は織斑君たちの教室の前まで着いた。すると中からは廊下にまで聞こえる程に賑わっていた。
「なんだ?」
「さあ?」
謎の賑わいに対して頭に疑問符を浮かべながらも教室へと織斑君が入っていく。
「本当だってば! この噂、学園中で持ちきりなのよ? 月末の学年別トーナメントで優勝したら織斑君と交際でき――」
「俺がどうしたって?」
「「「「きゃああっ!?」」」」
織斑君が賑わいの中心と思われる女子の集団に声をかけると、その集団から悲鳴に近い声が上がる。よく見るとその中にはセシリアや鈴の姿も確認できた。そして集団は織斑君の登場を機に次第に自身の席やクラスに散らばっていく。
全部聞こえたわけではないけど、大体の予想が出来た。
恐らく学年別トーナメントの景品についてなんだろうな。当の織斑君はまさか自身が景品になっているということを未だに知らないようだ。いっそのこと言ってしまうと言う手もあるが、少々言い辛い空気があるのでやめておこう。
「…私たちも行こっか」
「?」
日に日に話題が大きくなっている気がするが、今は放っておこう。
折角寝坊は防げたのにこのまま突っ立っていると本当に遅刻しそうだから、イマイチピンと来ていないシィナを引っ張って自分たちのクラスへと向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その日の放課後。
時花とシィナは今日も今日とてISの特訓の為に、空いていると言う第三アリーナへと向かっていた。今日からはシィナのISの修復が終わったことで人が少なければ模擬戦をすることも可能だ。シィナのIS捌きは相変わらず荒いけど。
「じゃあシィナも特訓するの?」
「うん。相手出来る」
「なら、少し練習した後に軽く模擬戦しようか」
「うん」
二人は第三アリーナに付くと、すぐに更衣室へと入って手早く着替えを済ませてステージへと向かう。すると既に生徒が居るのか、なにやら声が聞こえた。それも争っているようだった。
「何だろう?」
聞こえてくる声は複数。それも知っている声だ。誰だろうと記憶を手繰り寄せているとステージの方から大きな衝撃音が響き、建物が微かに揺れる。
「今度は何!?」
「…行こう」
二人は急いでステージへと出るとそこにはISを展開して戦闘を行っている三人の姿があった。
一人は青い機体を纏うセシリア、一人は赤黒い色合いの機体を纏う鈴。そしてそれらを相手取る黒い機体。その機体に乗っているのは先日も織斑に敵意を剥き出しにしていたラウラ・ボーデヴィッヒだった。
「どういうこと!?」
「知らない。…けど二人はやられてる」
代表候補生であるセシリアと鈴の機体は既にボロボロで二人もかなり消耗している。それに対してラウラ・ボーデヴィッヒは平然な顔をしている。まるで一方的に行われたように。
セシリアと鈴はまだ戦意を失っておらず、連携とまではいかなくてもそれぞれラウラに対して攻撃を加える。だが、ラウラはそれを意図も容易くあしらい型に装備した大きなカノンで砲撃を返す。とはいえそこは代表候補生、直線的な攻撃なら躱せる。その時、回避行動をとろうとしたセシリアの動きが突然止まり、砲撃をもろに受けて吹き飛ばされる。それに気を取られた鈴もラウラに至近距離まで近づかれて強烈な一撃を叩きこまれる。
「何…これ…」
「あの黒…戦い馴れてる……時花、先に行ってる」
「え…?」
目の前で行われる惨状に時花は動けないでいると、シィナは駆けだして淡い光を纏う。そして次の瞬間、修復したばかりのIS『クレイジー・ビースト』を展開して加速する。
セシリアは全方位から狙撃をするためにビットを射出する。だが、ラウラが両の手を向けるとそれは空に散らばるよりも先に低い位置で停止する。
「ふん……。理論値最大の稼動のブルー・ティアーズならいざ知らず、この程度の仕上がりで第三世代型兵器とは笑わせる」
ラウラが再び肩の大型カノンをセシリアへと向ける。その時―――
ラウラは猛スピードで接近してくる第三者に気付き、後方に跳ぶ。するとかなりの速度を伴った突進を受けてセシリアから引き剥がされる。かなりの距離押されたラウラは手首からプラズマを発して展開したプラズマ手刀で乱入者の爪を受け止めていた。
「随分と穏やかじゃねえなオイ!」
気性の荒くなったシィナはビームクローで力勝負に持ち込む。それに対しラウラは特に焦った様子も無く相手を見据える。
「近接格闘に特化した第3世代型IS『クレイジー・ビースト』か…その名の通り獣のように動きが単純だな」
ラウラはその体勢のまま大型カノンをシィナに向け、銃口に光が宿る。
「悪いが獣は直感もいいんでね…!」
『クレイジー・ビースト』の背中のロケット型スラスターに搭載された荷電粒子砲の砲門が開き、カノンの砲撃に合わせて発射する。二つの砲撃が相殺し合い、二人は互いに反対に吹き飛ばされる。
それでも怯むことなくラウラはすぐにシィナに向けてワイヤーブレードを展開する。その刃は的確に狙いを澄ませておりあらゆる方向かシィナへと向かって行く。だが―――
ガイィン!
全ての刃が、防御に切り替えエネルギーシールドを展開した"天使ノ羽根"によって防がれる。
「遅れてごめんシィナ!」
「ナイスタイミング」
『虹彩色の時女神』を纏った時花がシィナの下に駆けつける。
「鈴とセシリアは?」
「そこらで休んでるさ」
周囲を確認すると、機体へのダメージが大きく動くことは出来そうにないが二人は無事なようだった。
まだラウラはやる気なようで、シィナはビームクローを、時花は可変式カスタムライフル『天の裁き』を構える。
「次から次へと…」
「鈴! セシリア!」
睨みあい、少しばかり静寂が訪れる中、男の声は響いた。
声がしたのはアリーナのピットからであり、そこには『白式』を展開した織斑一夏の姿があった。
「織斑君!?」
「織斑…一夏ッ!!」
織斑君はピットを飛び出し、右手に呼び出した雪片弐型でラウラに斬りかかる。織斑一夏の登場を察したラウラはワイヤーブレードを織斑君へと放つ。織斑君は瞬時加速でワイヤーの間を掻い潜って急接近する。
「ふん……。感情的で直線的、絵に描いたような愚図だな」
雪片弐型の刃が届く瞬間、織斑君の動きが止まった。まるで見えない何かに捕えられたように。
「な、なんだ!? くそっ、体がっ……!」
「やはり、敵ではないな。この私とシュヴァルツェア・レーゲンの前では、貴様も有象無象の一つでしかない。―――消えろ」
「一夏っ、離れて!」
大型カノンの砲口が織斑君へと向いた時、弾雨が降り注ぎ、ラウラは後退する。
そのおかげか自由が戻った織斑君が、守るように鈴とセシリアの前まで退く。織斑君とラウラの間にはISを纏い手には二丁のアサルトライフルを持ったデュノア君が入る。先程の弾雨はデュノア君がやったのだろう。
「また貴様か…面白い。世代差というものを見せつけてやろう」
皆が再び警戒する。だが、それは新たに乱入してきた影で消え失せた。
「そこまでにしておけよ、馬鹿者共が」
「ち、千冬姉!?」
現れたのは、いつもと同じスーツ姿を身に纏い、一組の担任であり織斑一夏の実姉でもある織斑千冬だった。
織斑先生が登場したことでこの場の全ての戦意が消えた。あのラウラですら。
「模擬戦をやるのは構わん。だが程度は弁えろ。この戦いの決着は学年別トーナメントででもつけてもらおうか」
「教官がそう仰るなら」
ラウラは素直に頷き、ISの装着を解く。すると黒いアーマーは光の粒子となって弾けて消えた。
そしてラウラは静かにアリーナから立ち去って行った。
「お前たちもそれで構わんな」
「あ、ああ…」
「教師には『はい』で答えろ。馬鹿者」
「は、はい!」
「僕もそれで構いません」
「私たちもそれで構いません。そもそも私たちは直接は関係ないので」
「ん」
全員の返事を聞いてから、織斑先生はアリーナに居る全ての生徒に聞こえるように言い放った。
「では、学年別トーナメントまで私闘の一切を禁止する。解散!」
パンッ!と強く手を叩く。
その音はその場に、空に響き渡った気がした。
本当ならもう少し詰め込もうとしたんだけど、疲れたから分けよ