場所は保健室。
第三アリーナの一件でISに大きなダメージを受け、命には別状はないものの操縦者にも打撲といったダメージが現れた鈴とセシリアを運び込み、治療をしてから小一時間が経った。
ベットの上には包帯に巻かれた二人が大人しくしており、周囲には先程のメンバーが居る。
「別にみんな来なくてもなんとか出来たのに」
「そうですわ。あのまま続けていれば勝っていましたわ」
少し体力が戻ったと思えば、先程からこの様である。
そしてその愚痴の全ては何故か織斑君に対してのみ発している。
「お前らなあ……。はぁ、でもまあ、怪我が大したことなくて安心したぜ」
「こんなの怪我のうちに入ら―――いたたたっ!」
「そもそもこうやって横になっていること自体無意味―――つううっ!」
「ほら二人とも動かない動かない」
時花とシィナは暴れそうな二人を再び寝かせる。
「…あんた今、あたしたちのことバカとか思ったでしょ!バカ!」
「一夏さんの方こそ大バカですわ!」
「言ってないだろ!」
二人は織斑君の思考でも読んだのか、揃って苦情をぶつける。二人は怪我人だというのにお元気なことで。
「好きな人に格好悪いところを見られたから、恥ずかしいんだよ」
「ん?」
飲み物を買って戻ってきたデュノア君がそんな光景を見て発言した。当の言われた織斑君はうまく聞き取られなかったようで疑問符を浮かべている。けれど他の人はしっかりと聞こえており、怪我人二名は顔を一瞬で真っ赤にしてデュノア君に掴みかからん勢いで怒りだした。
「なななな何を言ってるのか、全っ然っわからないわね! こここここれだから欧州人って困るのよねえっ!」
「べべっ、別にわたくしはっ! そ、そういう邪推をされるといささか気分を害しますわねっ!」
二人は顔をさらに赤くしながらまくし立てる。
当の本人は一切気付いてはいないが、恐らく二人が織斑君に好意などの何かしらの感情を抱いているのは近くにいる人なら勘付いていたのではないだろうか。
時花だってその手にはあまり興味はなくとも薄々感じ取っていた。シィナは気付く気付かない以前に時花以上に興味がないようで反応すらしない。
「はい、ウーロン茶と紅茶。とりあえず飲んで落ち着いて、ね?」
「ふ、ふんっ!」
「不本意ですがいただきましょうっ!」
渡された鈴とセシリアは、デュノア君の手から奪い取るように飲み物を受け取ると、蓋を開けてやけになったように飲む。
「ほら、一夏たちも」
「お、悪いな」
「ありがとう」
「ん」
デュノア君は私たちの分も買ってきてくれていたようで皆それぞれ缶ジュースを受け取る。
「そういえば…あの人、織斑君を敵視してるみたいだけど何かしたの?」
「そうよそうよ、何なのよあいつは!」
あの人というのは、黒いISを駆るラウラ・ボーデヴィッヒのことであり、彼女は事あるごとに織斑君もしくはその周りで何かしらの影響を与えている。全ては織斑君への挑発なのか…。
「…あんまり言いたくはないんだが…多分千冬姉絡みだ」
「織斑先生を"教官"って呼んでたからね」
織斑君が言うには、
織斑君の姉である織斑千冬は一時期、ドイツの方で軍隊教官として働いていたらしく、あのラウラはその時の教え子だったのだろうという。それだけでは敵意の理由がイマイチ分からないが、その軍隊教官になる前の出来事に織斑君が関わっているようでそのことで恨んでいるとは織斑君の推理である。
「何よそれ! 一夏に非はないんじゃないの!」
「そうですわ!」
「まあまあ落ち着いて。確かに彼女は織斑先生に崇拝めいた感情を抱いているのは分かったよ。そしてその相手に汚点があることが許せないってところもね。なら一夏はどうするの?」
「……今度の学年別トーナメントでけりをつけるしか―――」
ドドドドドドッ………!!
「な、なんだ? 何の音だ?」
地鳴りのように響くそれは確実にこちらに近づいている。そしてそれはやって来た。保健室のドアが文字通り吹き飛び、大勢の女子生徒たちが保健室の中に流れ込み、男子二人のところまで押し寄せる。
窓際に移動していた時花のところまでは来なかったが、あの勢いは怖い。無数の手が群がってて怖い。
「織斑君!」
「デュノア君!」
「なんだなんだ!?」
「ど、どうしたの、みんな……ちょ、ちょっと落ち着いて」
「こ、これ!」
女子たちが男子二人に見せたのは何かの書類のようだった。
状況の読めない織斑君は差し出される中の一枚を読み上げた。
「なになに……『今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、ふたり組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締め切りは』…」
「ああ、そこまででいいから! とにかくっ!」
「私と組もう、織斑君!」
「私と組んで、デュノア君!」
そしてまた二人に対して無数の手が伸びる。
この仕様変更って多分、さっきの騒動が絡んでるよね絶対。
ラウラが一人に対してこちらは大人数だったけど、構図的にはこちらは三つのペアのようなものだったし、決着を付ける必要があるのは男子ふたり…というより織斑君ぐらいだから、それを考慮したということなのだろうか。
それで参加がペア必須になったものだから皆は男子ふたりが他と組む前に組もうと押し寄せてきたと。
「悪い、俺はシャルルと組むから諦めてくれ!」
まあ案の定こうなることは予想できた。
彼女との因縁があるし、そのことをデュノア君は理解しているわけですし。
「まあ、そういうことなら…」
「他の女子と組まれるよりはいいし…」
「男同士ってのも絵になるし…こほんこほん」
女子たちはそれで納得したのか、一人また一人と保健室を出て行く……と思ったら数人は立ち止まり、奥に居る時花たちに謎の視線を送る。…嫌な予感がする。
「皇さん、一緒に組まない?」
「シィナさん、力を貸して!」
一部の企画で、学年別トーナメントで織斑君が景品となっていたことを思い出した。彼女たちは景品に興味がなさそう且つ専用機を持ってる戦力として時花たちに目を付けたようだ。時花が面倒がりながらもどう言ったものかと言葉に悩んでいると、シィナが手を握って来た。
「行こう」
「え、まっ」
シィナはいつの間にか後ろの窓を開けていて、次の瞬間、シィナは時花を抱えて窓から飛び降りた。ちょっとぉぉぉ!?
後ろから少し騒ぎが聞こえる中、謎の高い身体能力を活かして少々の高さももろともしなかったシィナは無事に着地し、二人は逃走した。
なんでこんなスパイ映画的な逃走をすることになったのだろうか…
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「シィナ、流石にあの逃げ方はどうなの…」
保健室から逃走して数分後。二人は自室へと戻っていた。
「でも逃げきれた」
「いやそういう事じゃなくてね…まぁいいや。それより次のトーナメントはペア必須になったらしいよ、どうする?」
ベットに腰掛けて時花は訊いた。まぁ案の定答えは予想出来てはいたけどね。
「ふたりでする…」
「まぁそうくるよね。それじゃあ…優勝は別にしなくてもいいけど二人で行けるところまで頑張ろうか」
「うん」
夕日の朱が差し込む部屋で、二人は誓い合った。
三千行かなかった…(´・ω・)