月曜になり、IS学園はいよいよ訪れた学年別トーナメントのムードに包まれる。
学校の一つの行事と言えど、慌ただしさや規模は前回行ったクラス対抗戦以上であり、全員参加ということもあって数日に渡って行われて、一種のお祭りのようにさえ思える。
生徒たちは各々、雑務や会場の準備、来賓の誘導などを行い、それらを終えてからはそれぞれ更衣室や会場の観客席で自身の出番を待っている。
「あんたたち、着替えてなくてこんなところに居て良いの?」
「今、更衣室に行っても混んでるからね。出来ることならアレは避けたい」
場所は第一アリーナの観客席。
人がまだ少ない観客席の端の方で未だに制服姿の時花とシィナは、怪我で参加を止められた鈴とセシリアと始まるまでの少しの時間を過ごしていた。
「とはいえ、出番がいつなのかも分からないのですから着替えておいた方がいいのではないかしら?」
「まあそうなんだけど…」
セシリアの言う通り、出番はいつ来るのかは分からない。
その理由は、対戦表は試合直前に発表されるからである。何故直前に言うのかは分からない。戦う前に相手に対して小細工することを防止するためだったりするのだろうか?まあ観客の目のあるからそんな人は居ないと思われるけど。
ちなみに、全生徒が行っていては時間がかかりすぎる為か、別会場と同時進行で行われるようで、一年は第一アリーナ、二年は第二アリーナで試合が行われる。三年生は第三アリーナ…というわけではなく来賓にとって一番重要だからなのか他の学年が終わった後に行うらしい。試合の模様は各モニターで同時中継されており、来賓客は別室でそれを観覧するという形をとっているのだ。
「それにしても、二人は大丈夫なの?」
「怪我の方はだいぶ回復したわ。けど…辞退したことがね…」
やはり国を背負う代表候補生ということもあって、この辞退は国における立場などがやや面倒なことになっているようだ。参加して実力を見せつけるばかりか、機体が半壊に近い状態にあるのだから
「貴方たち」
のんびり話してたら後ろから声をかけられた。
振り返るとそこには教師としてではなく一観客としてきたのであろう宝条綾香が居た。
「あら? 先生も観客席で見るのですか?」
「ええそうよ。それより皇さんたちはここに居て大丈夫なの?」
「はい?」
「貴方たち、初戦よ」
…今、何と?
宝条さんの言葉がイマイチ理解できず、たった今発表されたばかりの対戦表を確認すると、確かにAブロック第一回戦のところに時花たちの名前があった。マジか。
「ほら、着替えておいた方がよかったじゃない!」
「やばっ…シィナ行くよ!」
「うん」
ISスーツは制服の下に来ているのである程度素早くできるけど、保健室が空いているかは分からない。二人は急いでアリーナの更衣室へと駆け出した。残った三人はその後ろ姿を見届ける。
「…で、先生はあの二人の試合を見るために来たの?」
「まあそうね。色々と特殊だから一部では織斑一夏と同じ程に注目されているからね、あの子たちは」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「第一回戦は皇さんたちか」
ところ変わって、他とは違って人が極端に少ない更衣室。そのわけは校内で二人しか居ない男子に割り振られた場所だからである。
「やっぱり二人で組んだんだね。結構強敵かもね」
「そうかもな」
相槌を打ちながらも何処か心ここにあらずな一夏。
「一夏はボーデヴィッヒさんとの対戦だけが気になるみたいだね」
「まあ、な」
「誰とのペアなのかは分からない。けど、彼女は必ず勝ちあがってくる。彼女は、おそらく一年の中では現時点では最強だと思う」
「ああ、分かってる。」
ペアを組んでいるというだけでなく同室ということもあってかなり息の合ってきた二人。
二人はそう話しながらも試合が始まろうとしているモニターを見た。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
試合開始まで十秒前。
時花とシィナはISを身に纏い、正面の相手を見る。
相手は学園から貸し出された『打鉄』が二機。
「シィナ、相手には悪いけどとりあえず作戦Bで」
「了解。短期決戦と行くか!」
試合開始まで三秒前、二、一……、試合開始のアラーム音が鳴り響く。
相手の二人は開始と同時に近接用ブレードを引き抜き、動き出す。
だが、それよりも早く戦況は動いた。
「いっ…けぇ!」
時花がシィナの後ろに回って押し出し、それと同時にシィナが
「きゃあ!?」
「え、はやっ!?」
それだけでは終わらず、時花は押し出す時に
「え、戻って来た!?」
再び突進するシィナを今度は防御型ISである打鉄の両肩に展開された実体シールドで防ぐ相手。
そして駆け抜けたシィナはエネルギーシールドを展開した天使ノ羽根を
これが直前に決めていた作戦の一つ。シィナのISの特性を最大限に活かした速攻。エネルギー残量の都合上、これは短期決戦向けの作戦。まあシィナの『クレイジー・ビースト』は素でも相当早いんだけど。
動きになれ始めたのか、相手は何度も攻撃に対して盾で防御する。だがそれでも確実に相手のシールドエネルギーを削っている。そしてそれも終わりを告げる。
「流石にキツイな。だがこれで…終わりだ!」
エネルギー残量が厳しくなり、シィナは高速移動を続けながら攻撃手段をビームクローから背中の荷電粒子砲に切り替えて、放つ。
直撃を受けた二名は後方へと吹き飛ばされ、エネルギーが尽きたのか膝をついて機体からは煙が出ている。
そして試合終了のアラームが鳴り響き、時花とシィナは勝利した。
シィナが時花の下に戻ってくる。
「やっぱこの作戦、エネルギー的にキツくないか?」
「あ、やっぱり? でも終始この戦法は出来なくても少しぐらいならいいんじゃない?」
「まあ、アレを足場にする案ぐらいならな」
二人はそのまま談笑して、見ていた教師に急かされるようにアリーナのピットへと戻って行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「意外と一方的だったわね」
「シールドを足場にするなんて…」
観客席から見ていた鈴とセシリアが口々に試合の感想を言う。
その近くで宝条もまた試合について考えていた。
「ほとんどシィナさんの活躍だったとはいえ、これはダークホースと言われていてもおかしくはないのかしら?」
実は参加する代表候補生が減った今、時花とシィナのペアは一部の教師や生徒から一年の部のダークホースと呼ばれており、意外と注目を集めていた。そして今の試合での性能や変わった特殊兵器によってさらに来賓までも目を付けたであろう。
だけど、それでも良い線いくのでは?と思われているだけで優勝まで行くとは思っているものは少ない。ドイツの特殊部隊に所属しているラウラ・ボーデヴィッヒの存在があるからだ。実戦経験があるであろう彼女の戦闘力は計り知れない。
それに、注目度で考えれば織斑一夏とシャルル・デュノアのペアも未知数だ。
「さて、どうなるかしらね」
宝条はこの先に起こり得ることを考えて少し楽しげに笑い、その場を後にした。