「そういえばISスーツはあるんですか? まさかそのままで…」
「その辺は大丈夫。中に着てるから。ほら」
そう言って零華は豪快に服を脱ぎ捨てると、宣言通りその下には時花たちと同じタイプのISスーツを着ていた。いや、そういう問題ではないような。まぁいいか。
三人は更衣室で着替えを済ませると、すぐにアリーナ内へと向かった。
するとそこには既に模擬戦を行っているグループが存在し、人が少ないこともあってか二機のISが縦横無尽に飛び回っている。
「どうしたの一夏! その程度でこのアタシに勝てると思ってるの?」
「くっ…」
白いISが空中から放たれる衝撃砲を地面を滑るように移動して回避して接近戦に持ち込むが、それは誘導する罠であり、刀のような近接ブレードを相手の青龍刀で止められている。織斑君と鈴である。
周囲を確認すると観客席のところにはいつもの女性陣に加えて、デュノア君改めシャルロットと憎しみは消えたラウラの姿があった。こちらの視線に気付いたようでシャルロットがこちらに手を振る。
「二人も練習に来たの?」
「まあそうなんだけど…何してるの?」
「それがね…」
シャルロットが言うには、織斑君はまだまだISの操縦が上手くないので訓練を手伝おうとしたところ、皆同じ考えだったらしく、そこで色々あって末に織斑君が失言を言ったらしく、結果的に訓練はいつの間にか模擬戦へと変わり、織斑君は全員と順番に模擬戦をするということになったらしい。謎の五番勝負である。そして今は二戦目らしい。ちなみに一戦目は訓練機を借りて来た箒。
「うわぁ…ある意味鬼畜」
「僕も後々冷静になってね。五連戦は厳しいから模擬戦は今度にしておこうかなって」
相変わらず相手想いのシャルロットさんであった。
その後ろでは…
「一夏! それくらい簡単に躱してみせろ!」
「そんな直線的な動きは駄目でしてよ!」
「ふん。私の嫁ともあろう者がいつまで手古摺っているつもりだ!」
「「誰が嫁だ!」」
こっちはこっちで火花散ってるな…。
それにしても私自身あれ以降ラウラと話したことないけど、噂通り周りと打ち解け始めているようだ。
「ところで…その後ろの人は誰? ISスーツを着てるみたいだけど見かけない人だよね」
「あー、この人は…ちょっと変わった人…?」
「なんでそこで疑問形なの…ってそんな人をこんなところに連れてきて大丈夫?」
「まあ…色々ありまして」
零華について説明に困っている時花に対して、当の本人は空中で行われている戦闘を観察するかのような目で見ていた。
「(…あれが、"
零華にとって、織斑一夏とそのIS『白式』とはただの存在ではない。脅威として認識している。だが今目の前で戦っている者からその片鱗すら感じられない。過去の姿を前に零華は何を言うわけでもなく観察を選択する。
ドォォン! ガシャァアアア!
一機のISが至近距離で衝撃を叩きこまれて地面へと墜落した。
目の前で繰り広げられていた模擬戦は鈴の勝利で幕を閉じた。
「いてて…」
「アタシの勝ちね。一夏」
勝者の鈴がゆっくり降りてくるとISは光の粒子となって消えて鈴は地面に着地した。
観客席で見ていた女性陣は二人の下へ駆け寄る。そして…織斑君はなんか色々言われている。
「さてと、あっちが終わったみたいだからウチらも始めましょうか」
「え、ちょっ」
零華は時花の手を引っ張りながらアリーナの真ん中へと向かって行く。
近づいて来る女性に真ん中に居た織斑君たちは誰だと疑問に思ったが連れている時花の姿を見て、さらに混乱した。
「…誰よ?」
「俺に言われてもなぁ」
「君達、悪いのだけど少し代わってくれる? ウチらも模擬戦をしたいから」
「え、まぁ…白式のエネルギーが回復するまでは少し休憩するのでどちらにしろ空きますが…貴方は誰ですか?」
「…ウチはただの通行人Aよ、織斑一夏くん」
「え?」
「「「ちょっと一夏、どういうこと!?」」」
零華が少々悪戯に答えると、周りの女性陣は織斑君に喰いかかった。そんな状態でもきちんと場所は開けてくれるようで、皆は観客席に戻りアリーナの真ん中には時花と零華の二人だけが残った。
「そんじゃあ、行くでぇ」
二人はISを自身の呼び出す。
全身に光の粒子を纏うと、次の瞬間ISを纏って地面から浮遊していた。
零華のISは蒼銀のIS。
背中や肩に盾を装備していて装甲自体もこちらよりも分厚い防御的なシルエット。確認できるもので武器は左手に装備したボウガンのような射撃武器と右手に持った薙刀のみ。
そんなことよりあの機体は見覚えがある。あれは以前にクロノスのデータで見たことがある。
あれは確か…
「『ソード・オルフェウス』…!」
「ありゃ、知ってたん? ああ、さっきのデータの中で見つけたんか。まあいっか。ほら、いつでも来ぃ」
零華はこちらの性能を見る目的だからなのか、構えることなく余裕を見せる。
それならと時花は仕掛けた。
《
「セシリアの戦い方、少し真似るよ…!」
まずはカスタムライフル《
その場で回転して、それと同時に左の弩弓で同時発射が可能な光の矢を複数放ち、発射したばかりのビームを迎撃、迎撃しなかったビームは盾で弾く。
「何だ今の!?」
「全てを捌ききった…!?」
今の零華の迎撃に、観客席で織斑君と箒が驚きの声を上げる。
「今、全部読んでたね」
「ああ。今の攻撃は照準は甘かったが、動かなければ返し辛い角度からの一斉攻撃だったはずだ。それを容易くとは…あの女、相当の手練れだ」
「それに…さっきから同じ位置からあまり動いていないのは、力の差を見せつける目的でもあるのかもね」
シャルロットとラウラがそれぞれの見解を述べる中、時花はそれほど驚いた様子も無く、只々暢気に次の行動を考えていた。
あちゃー。流石に防御するとしてもどれかは当たると思ったんだけど、どれも防がれちゃったか。
射撃がダメなのなら今度は接近戦に……いや、多分それも簡単にあしらわれるだろう。そもそも私自身あまり接近戦とかしないし。
時花はその後も考え続け、一つの結論を出した。
そしてその考えに応えるように視界の中にウインドウがいくつか表示され、その中に映されているメーターが勢いよく上昇を始める。
【出力解放『BURST』
エネルギー伝達選択:SHOOT
充填率 30%
集束率 18%】
「模擬戦で使うのはどうかと思うけど…これならどう!」
《天の裁き》の先端に戻って来た《天使ノ羽根》が取りつき、砲口を零華に向ける。
それに対して零華は何かを察したのか、動いた。
「…まさかとは思うけど、それも出来るんかー。それは流石にアカンわぁ」
零華は右手の薙刀を天に向けて掲げる。
すると、突然纏っていた装備や装甲が弾け飛んだかと思うと、光の粒子となって右手の薙刀へと集まり、その姿を大きな武器へと変えていく。そしてそれは剣と弓を足したようなシルエット、先端部分が二つに分かれた大剣となって異彩を放つ。
「何それ!?」
「これが『ソード・オルフェウス』の専用装備の《オルフェウス》や。強いんやけど、これをすると防御力が極端に下がるからなー」
そう言いながらも大剣を構える零華。
その間にチャージを終え、砲口から放たれる強力な光。
零華は迫りくる光を恐れない。
大剣から光が吹き出して刀身を覆う。そして…その状態の大剣を時花の放った光に叩き付ける!
――――! ……ドォォォォォン!!
「うそ……」
何処かからそんな声が聞こえた。
零華は斬ったのだ。加減していたとはいえそれでも装甲を焼き切らんばかりの強力な光の波を。真っ二つに斬られ、行き場の失った力が周辺に散らばり地面で爆散する。
「本当にそのシステムまで受け継いでるとはねぇ。驚きやねほんと。」
言葉の割にあんまり驚いてなかったし、さっきのそちらの行動の方が驚きですからほんと!
これで満足したのか零華は大剣を下ろし、それを見て時花も武器を下ろした。そんな時―――
「そこで何をしている。そこのIS操縦者、所属を名乗れ!」
突然アリーナに凛々しい声が響いた。
声のした場所を探し、観客席の出入り口付近を見るとそこには黒いスーツを纏った女性が居た。
「千冬姉!」
「織斑先生と呼べ。それで、そこのお前は誰だ」
織斑先生は真っ直ぐに零華を見る。
零華は何も言わず、ISを解除することで敵意がないことを示す。
「まぁ、ここでは言い辛いので場所を変えてはくれませんか、織斑千冬さん?」
「…ついて来い」
「そんじゃ、また後でね」
そう時花に言い残し、織斑先生に誘導されるまま零華は何処かへと消えて行った。
その場に残された時花はISを解除して皆の下へと戻る。
「一体何だったんだ?」
「さあ?」
「一夏、いい加減休んだだろう。次の模擬戦を始めるぞ」
「ラウラさん! 次は私の番でしてよ!」
場所が空いたことをいいことに織斑君の方の模擬戦が再開されるようだ。当の織斑君はすごく疲れた顔をしていたけど、ラウラとセシリアは気付いてはいないらしい。
彼の試練はまだまだ続く。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
零華が連れて来られたのは教員しか入れない部屋の一つ。
わざわざこんな部屋にしたのは、おそらく盗聴などを防ぐ意味があるのだろう。この部屋には零華と千冬の他に山田真耶や途中で出くわしたのであろう宝条綾香の姿もあった。
「もう一度問おう。お前は何者だ。言い辛いこととは何だ?」
「まぁ、いずれは誰かに言っとかないとこれからが動きにくいですから正直に言います。ウチは未来から来ました」
その言葉に千冬ではなくその後ろにいた真耶が驚いた。
「み、未来ですか!? 本当に!?」
「はい。といってもこれは自分の意思ではなく一種の現象による転移です」
「どういうことですか?」
「貴方達は皇時花の持つISについては知っていますか? あのISに組み込まれているコアは本来『クロノス』というISに使われていた物です」
「『クロノス』…聞いたことが無いですね。それで、それがどう関係しているのですか?」
コアがどのようにして時花の手に渡ったのかを一応は知っている綾香はクロノスが話の中の機体であろうと予想しつつ聞き返す。
「『クロノス』というのは未来の皇時花が使っていた機体なんです。そしてそれには特殊な単一仕様能力があったんです。その能力は時空間を跳び越えることができ、距離はおろか、時間の流れさえも跳ぶことが可能なものです」
「それは…タイムマシンのようなものですか?」
「はい」
そもそも未来でのIS開発はもちろん現代よりも進んでおり、当然開発世代も違う。
クロノスは第三世代の遥か先、奇跡を人の手で実現させることを謳った世代に作られたものなのである。
「話を戻しますが、操縦者を失った『クロノス』は自らの意思でその力を使い時間を跳び、その代償でコアだけの状態となってこの時代の皇時花の下に来たことになります。ですがその時の力は不安定であったようで、その影響が時空間そのものに影響を与えたようなのです。私たちはそれを"ノイズ"と呼んでいます」
"ノイズ"
それは自然現象のように突発的に空間に生じる小さな現象。それが起こった場合は本来とは違う不可思議なことが起こるとされる。零華が時間を跳んできたのもそれの影響であり、ノイズが生じる原因となったのは『クロノス』だという。
「…貴方がここまで言ったことは確証に欠けるところがある。だが今はそういうことにしておこう。その上で一つ訊く」
千冬が訊く。
「操縦者が失ったというのはどういうことだ。未来では何があった?」
その問いに零華は一息入れ直してから答える。
「未来ではISをも使った紛争が起きていました。それで『クロノス』の操縦者であった皇時花は命を落としました」
これで間章を終わらせるつもりだったので最後の最後に詰め込んだ(;'∀')
にしてもふわふわしていた内容を勢いで書いたものだから後に結構響く(笑)
次からは普通に三巻の内容に入ると思われます。
その前に私はまた余所に行きますが(。-`ω-)