キリト「皆がヤンデレすぎて怖い」   作:エーン

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本編は下です


GOODEND5 シリカ編 きっとやり直せる

実での意識が覚醒し、視界は茶色になっている。アミュスフィアの茶色のガラス部分だ。片手でアミュスフィアを外し、枕もとの机にそっと置いた。今日は土日の土曜日であり、土曜日が終わろうとしている。重い体をベッドから起こし、部屋を出る。料理当番は…俺だっけか。リビングに降りると、キッチンに佇むスグがいた。おかしい、今日の当番は俺だろう。

 

和人「どうしたんだ、スグ?」

 

俺の声に気づいたのか、少し体をビクッとし俺の方に向いた。

 

スグ「あ、お兄ちゃん。ちょっと考え事してたんだ。実はこのあとちょっと出かけないといけなくて…」

 

和人「出かける?今からか?」

 

時計の針は7時過ぎを刺していた。もう夜ご飯を食べる時間なのに、こんな時間に出かけることなんて滅多になかった。

 

スグ「ちょっと、友達に呼ばれてて…」

 

和人「…友達か」

 

スグ「うん、だから申し訳ないけど私の分の料理作っといてくれる?おいといたらレンジでチンするから」

 

和人「そっか…。わかった」

 

スグはその後、自室に戻って外に出るために少し着こんでいる。こんな時間に出るなんて、誰なんだろうか。高校の友達か、その類…か。しかししつこく聞くのは良くないだろう。下手に追及せずに料理を作って待って居よう。

キッチンの器具を出し、食材をまな板の上に出す。そっと置いたキャベツを包丁で4分の1にし、乱切りにして器に移す。あと4分の1も乱切りにする。豚肉を切り、ピーマンもキャベツ同様乱切りにする。

今日は回鍋肉にしようと思う。きっとスグも喜ぶだろう。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

私はある人に呼ばれてこの夜の街に出た。少し肌寒いが、多少着込んだので耐えられる温度である。街灯は地面を照らし、街灯の明かりには虫がたかっている。この角を曲がれば例の公園がある。

呼ばれた公園に私は足を踏み入れた。街灯は公園を照らしてはいるが、照らしきれてない場所もある。その場所はもちろん暗かった。そしてその場所に、一人の背の小さな人が佇んでいた。その髪型を見て確信した。私を呼んだ人がそこにいることを。

 

スグ「そこにいるの?」

 

暗くてわからなかったが、佇んでいるその人は背を見せていた。その人はゆっくりと私に向き直る。顔は笑ってはいたが、すぐ理解した。目は笑ってない。

 

???「どうも、リーファさん。いや、直葉さん…でしたね」

 

いつもとは少し低いトーンで囁いた。

 

スグ「…シリカちゃん」

 

シリカ「少し、お話でもしませんか?」

 

ニタァ…そんな言葉が似合う笑顔だった。

そしてずっと、両手を腰の後に回している。

 

スグ「お話って…こんな時間に?別に仮想世界の中でも…」

 

シリカ「それに関してはすみません。私が実際に会って話したかったので…」

 

スグ「そ、そう…」

 

ちょっと後退りを覚える威圧感だ。まるで話合いなんて求めてないようだった。一歩、一歩近づいてくる。悪魔のような、命の危機を即座に第六感で感じた。同時に足を後ろに退いた。

 

シリカ「そこまで警戒心を抱かなくてもいいんですよ?」

 

スグ「それで、話って何…」

 

シリカ「…そうですね。こっちが呼んだのですから、本題に入りましょう。とは言っても、とーっても簡単なことです」

 

口元を細く笑みを現し、月光で照らされた顔はもう何かをすでにした後。それがよくわかる。その証拠に、顔についていた。照らされてようやく色も確認できた。鮮明に、こびりついていた。頬に、飛び散っていた。

眼は黒く、正気はないと視認できた。もうくるっている。やることなすこと、すべてに対して興味のないような、そのような様子に見えた。

 

シリカ「キリトさんに近寄らないでください」

 

静かな声で、響いた。

簡単な言葉が連なって、すぐにその言葉は理解できるはずなのに、なぜかその言葉を深く、重く受け止めてしまう。しかし、それを鵜呑みにするわけにはいかない。

 

スグ「ど、どうして。私だって、お兄ちゃんのこと…」

 

シリカ「うるさいですよ。直葉さん」

 

スグ「な…」

 

言葉に詰まる。喋れば、もう何か、終わりそうな。

 

シリカ「拒否をするんですか?しないんですか?」

 

スグ「な、何…」

 

シリカ「何って…キリトさんに近寄らないのか、近寄るのか…です」

 

スグ「近寄るって…そもそも私は兄妹なの!近寄れないなんて無理」シュンッ。

 

無理、私がそう言った刹那だった。顔の横に包丁が位置していたのに気づいたのは数秒後だった。頬を伝うのは、涙…じゃない。

痛い。痛覚が顔に走った。頬に細長い傷があったのは痛覚でわかる。まさか、今の一瞬で頬に傷をつけたの…?

 

スグ「シリ…カ…」

 

シリカ「なら…ここで…」

 

スグ「嘘…でしょ…?」

 

包丁は少し錆びついている。刃に何かが付着したせいか、それできっと切れ味が落ちている。だからか、より痛みは酷くきつい。

 

スグ「警察…呼ぶよ…」

 

ポケットに入れてある携帯に手を伸ばそうとすると、シリカは突然高らかに笑い始めたのだ。

 

シリカ「アハハハハハハッ!!皆そんなこと言ってましたね…」

 

スグ「み、皆?」

 

皆、どういうこと?皆って…誰…?

 

シリカ「けれど、皆最後にはなんも抵抗できずに苦しんで…そして生気を失って…。皆最後までずっとキリトキリトキリト…イライラさせてくれますよね」

 

スグ「…そんな」

 

シリカ「直葉さんも助けを乞うんですか?なら…」

 

スグ「なら…って…そんな…まさか…嘘…でしょ?」

 

足を退け、砂利が音を立てる。彼女の持っている包丁は街灯の光を反射して、一部輝く。命の危機を感じた。死ぬかもしれない。殺されるかもしれない…。逃げないと、すぐに家に…本気で走れば…大丈夫…だよね?

一気に振り返り、公園を抜け出した。足音が響き、くらい中息を切らしながら。冷静さを失いながら。ただただ逃げる。死から逃げるように、その時携帯を右手に持ちながら。

 

シリカ「…ふふ」

 

タッタッタ。後ろから殺人鬼が近づいている。逃げないと、捕まらないように、殺されないように。あの角を曲がれば、いつも知っている家だ。いつも公園から近いと感じていたのに。なぜだろうか。遠くに感じていた。早く。速く。帰らないと…。

タッタッタ。家が見えてきた。あれだ。お兄ちゃんがいる!助けてくれる!

敷地内に入り、すぐさま玄関のドアノブを手を伸ばした。冷や汗をかいている。無我夢中で走ったせいで、肺が苦しい。ドアを開ければ、閉めれば、逃げれる…。だから…。

 

ガチャ…。

 

 

 

 

 

和人「帰ってきたか、スグ」

 

そろそろ帰ってくるという勝手な俺の勘が当たったのか、玄関の前に立ってて正解だった。見事にあたったが、スグの顔は一刻の猶予もないかのような、何かに追われているような恐怖の顔だった。

 

スグ「助けてお兄ちゃんッ!!!」

 

和人「どうしたんだスグ?」

 

焦って靴のまま家に上がり、俺に抱き着いてきたのだ。目からは涙がこぼれ落ちていた。それは怖かったからなのか、それともここに来たことによる安心の涙か。どちらにせよ、今は何か来ているようだ。

開いたままの玄関を見てみると、塀より外、誰かが立っていた。俺はスグを優しく抱き、少し後ろに行かせる。

 

和人「そこにいるのは…誰だ」

 

俺の声が届いて、向こうの人はゆっくりと歩いてくる。近くにいるスグが俺に囁いた。

 

スグ「お兄ちゃん、あれはシリカだよ…」

 

和人「えっ…」

 

確かに、身長は低い、かすかにツインテールの面影もある。そうか、そこにいたのはシリカだったのか。つまりスグはシリカに会いに行っていたのか。

 

シリカ「なに…私の前で抱き合ってるんですか…」

 

暗く小さい声だが、はっきりと届く。もちろん夜だから静かというのもあるにはある。一歩、一歩、俺らの家に入ってくる。こちらに近づくにつれて部屋の明かりにシリカも照らされる。顔は少し下に向いており、体は脱力した感じだろうか。体全体が照らされると、俺は彼女の手に持っている物に気づいたのだ。

 

和人「っ!シリカ!なぜそんなものを持っているんだ!」

 

シリカの手に握られていたのは、鉄で光が反射する、鋭利なもの。これにおびえてスグは来たんだな…。

 

シリカ「…これ、ですかぁ?これはですね、キリトさん。貴方を守れる唯一の物なのですよぉ?」

 

手に持っているものを両手で握り、彼女の顔近くに自身で持ってきてこっちに笑顔を向けたのだ。笑っている。いや、狂っているというのだろうか。方法を模索した結果があれなのだろう。恐らく、周りが見えていない。いや、見たくないのだろうか。自己中心になりすぎている。

守りたい、その一心で俺を想ってくれて、それが自ずと爆発し、あれが成れの果てだろう。

 

和人「シリカ…正気を保ってくれ…君にそんなものは似合わないよ…」

 

シリカ「似合わない?そんなのどうでもいいです。似合わない、なんて。守れるためなら、どんなアイドルにだってなりますよ。それが、人を殺めるものになっても、あなたの、キリトさんの為のアイドルになれるのなら…」

 

和人「そんなもの、俺は望んではいないぞ!」

 

シリカ「そんなわけありません、キリトさん。貴方は守られたいと、きっと、心の中で思っている。これまでの時を思い出してください。皆さん、貴方にすべてを向けている。それを貴方は、ずっと抱えてきた。時には辛すぎて、つぶれてしまいそうになることもありましたよね。でも、もう、私が、私だけが、貴方の…味方に、そう、貴方を守れる唯一の味方になれるんです。いずれは直葉さんも敵になると思います。そうは思いませんか?今日にいたるまでに、直葉さんもキリトさんに危害を加えてはいませんか?」

 

彼女の言葉が止まった。

 

和人「確かに、そうかもしれないな。俺はずっと、誰かに守られたかった。そう思っていたのかもしれない。これまでのみんなの行動、様子、確かに少し不自然なところもあったかもしれない。でも、彼女たちが、彼女たち自身であることに変わりはない。そうだろ、シリカ。君だって、そうだ。それを否定したら、彼女たちのことを拒んでいる。いや、彼女たちの大切な心を否定していることになる。少し濁った言い方になったかもしれないけど、俺は、それでも彼女たちを否定したくない」

 

…。ひと時の静寂が訪れる。

 

シリカ「…彼女たちの心…ですか。本当ですか、キリトさん。いや、和人…さん。迷惑だったり、つらかったり、そんなことを思ったんですよね。なぜそこまで彼女たちを信用することができるんですか」

 

和人「そりゃ信じないとな。だって、互いに助け合って支えあった仲だ。そう、俺にとっては、この仲間は一番の大切なものでもあるんだ」

 

シリカ「和人さんは…こんなに狂ってしまった私…私達をまだ仲間なんて呼べるんですか…?」

 

和人「あぁ、君たちであることに変わりないじゃないか。君たちは君たちだ。シリカ…桂子も、そうだ」

 

突如、俺の言葉を聞いたからなのか。体を震わした桂子。持っている包丁を両手で握り、その刃を見ている。目には光が灯しだしたようだった。

足を退け、自分の顔が写った刃を見ているようだ。

 

桂子「私が…こんなことをしなくても…」

 

眼に綺麗な雫がたまる。雫は頬を伝い、包丁の刃に落ちる。

 

桂子「ピ…ナ…」

 

桂子は、常に傍にいた友の名をぽつりとつぶやいた。静かな夜にも関わらず、その声はか細く、闇に消えそうな、そんな声。失ったものは戻らないと、そう思った。あの時の私は自分の意志とはいえ、絶対にやってはいけないこと。やってはもう戻らないことをしたのをいまさら気づいた。失った。失った…。心にぽっかり、穴が開いた気分だった。

 

和人「…なぁ、これまで失ったもの、もしかしたら取り戻せるかもしれない」

 

正直、彼女がまだ凶器を持っているのは怖いが、きっと今なら心の奥に言葉を届けることができるかもしれない。いや、今しかないと思った。今逃したら、きっと取り返しのつかないことになるかもしれない。否、もう取り返しのつかないことをしているのかもしれないけど、でも、まだきっとやり直せる。

 

和人「取り戻さないか、桂子」

 

桂子の前に、俺は立った。

直葉はまだ怖くて後ろにいるようだ。兄のことを心配でならないが、なぜか不思議と助けようにも、助けなくても大丈夫だと思ったのだ。きっと、やれると。

 

桂子「…和人さん、私…わたし…」

 

涙をこぼす。狂気の顔ではなく、一人の女の子の顔。震えたまま、力が入らなくなり凶器を地面にするりと落とした。いつもの、彼女だった。

俺はその震えるからだを、落ち着かせようと近づきそっと手を彼女の背中に回す。

 

和人「大丈夫だ、絶対にやり直せるからさ」

 

そっと、茶色の髪を撫でた。優しく、包み込むように。桂子は俺の胸に顔を埋めて、恥ずかしがっているのか、それとも、怖いからなのか。顔を見せようとしない。

 

桂子「…怖かったのは私だったかもしれない、ですね。和人さん…」

 

桂子も腕を回し、互いに抱き合う感じになってしまった。すると、俺にしか聞こえない声で囁いた。

 

桂子「もう少しだけ、このままでいたい…」

 

きっと、彼女にとってこのひと時が、一番の…。

 

和人「もちろんだ」

 

後にいた直葉も、安心したようで胸をなでおろした。

桂子はじぶんを見失い、なにが正しいのか判断できなかったから、何かに縋りたかったのだ。答えを得たようで、きっと安心しているのだろう。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

キリト「シリカ、スイッチッ!」

 

シリカ「はい!」

 

俺の声でシリカは後衛に向かい、剣を使って敵の攻撃を阻止した。この中くらいな大きさのヤドカリ。大きな爪がなんとも強力だ。

爪の装甲は固く、剣では刃がたたない。やわらかい貝の仲を攻めるために、貝をはがさなくては。

 

◇◇◇◇◇◇

 

キリト「…ここらへんにあるってアルゴが言っていたんだけどな…」

 

シリカ「きっともう少し先ですよ」

 

随分ご機嫌になっているシリカと共に歩き、あの花を目指す。やはりとても高レアなだけがあって手に入れるのは至難の業だ。このフィールドに芽吹くと言ってたが、地面に生えているのではなく台座の中にある特別な土に生えている。

このダンジョンの奥だったというが、敵の強さはとても高い。油断はできないな。

 

シリカ「…あっ!あそこ!ダンジョンなのに上から太陽の光が入ってますよ!」

 

キリト「ほんとだ。きっとダンジョンの天井が地上まで穴となっているんだろうな。ということはそこに…」

 

近づいてみると、台座にあった小さな芽は、急速に花へと進化した。

 

キリト「…さぁ、採るんだ」

 

シリカ「はい…!」

 

シリカは台座の前に歩み、そっと両手で花を包む。優しく右手で茎をつまんで、ゆっくり上げると茎の部分から切れた。下の部分はすっと消え、お花だけがのこった。

 

シリカ「プネウマの…花」

 

キリト「とれてよかった」

 

俺も近づき、お花をみる。白い花弁で、おしべとめしべが中央に生えており、すこし光っている。

 

シリカ「…これで、また…」

 

キリト「あぁ、やり直せる。きっと。ピナとも、そして、皆とも…な」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

彼女は一人で部屋にいると、ベッドに座り、羽を手に取った。

 

シリカ「…ごめんね、ピナ。私のこんなことで、ピナのことを…」

 

花をそっと手に取る。

 

シリカ「これからは、私自身を見失わないように、皆と仲良く、そしてピナとももっとたくさん冒険したい」

 

手と羽を近づける。

 

シリカ「だから、許して…ほしい…。この気持ちを大切にするためにも…ピナ…戻ってきてね…」

 

部屋のベッドの上で、眩く光る。

羽と花はそっと消え、光りはより大きくなってゆく。その光がぱちんと弾けると、そこに居たのは青い羽を震わせ、元気になった龍の姿だった。

 

シリカ「…ピナ!」

 

涙が伝ってゆく。きっと、やり直せる。この気持ちを大切にしていきたい。そう心の中で必死に思った。やさしくピナを抱いて…。

 




ご朗読ありがとうございました。
ここ最近、投稿ペースが落ちているのが本当に申し訳なく思います。
ニュースでも話題になってますが、自分もその影響を受けています。これからは皆さんきっと部屋にいる時間が多くなると思います。自分もできるだけ書きつつ、皆さんの暇なときにちょっと読めるくらいに投稿したいです。がんばって乗り越えましょう!自粛!

評価、感想、お願いします。これからはどんどん物語を進めつつ、たまにイベント的なでヒロインキャラのエンドを回収しつつ、て感じですね。よし!このssを頑張って終わらすぞ!えい、えい、えいー!(おー!じゃね?)
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