エージェントシルバー 作:ブランブラン
「はあ…………最悪だ」
夕日に背中を焼かれながら、僕は今日何度目になるか分からないため息をついた。周りによく聞こえるように大きく、あと深く。
「おいおい、そんな露骨に嫌がることないだろ。か弱いミツル坊ちゃんは幽霊屋敷がそんなに怖いのかい?」
僕のため息に即座に反応したのはシゲル。僕の親友で今回の肝試しを提案した張本人だ。
「もーそんなこと言ったら可哀そうでしょ。無理に誘ったのは私たちなんだから。ねーマナカ!」
「そうだよ!ミツル君怖いの苦手なのに。ホントはシゲル君も二人っきりが怖かったんじゃないの~?」
シゲルを諫めたのはマキ。シゲルの彼女だ。
そして彼女と仲良く盛り上がっている女の子はマナカちゃん。言いたいことは色々あるけど、要するに僕の大切な人だ。別に付き合ってる訳じゃないけど。
シゲルが僕らを誘ったのはそれが狙いなんだろう。
でも逆効果だ。僕は怖いのが大の苦手だからマナカちゃんとペアになっても恥をかいて嫌われるに決まってる。僕は高校初の夏休みに浮かれて親友の口車に乗ってしまったことを激しく後悔していた。だが今更どんなに後悔しても嫌なことは絶対に避けられない。こういうものは嫌がれば嫌がるほど、早くたどり着いてしまうものだ。
「へえ、これが幽霊屋敷か。ネットで見た通りだな」
ほら着いた。
「ひえー、もう雰囲気やばいじゃん!マナカ手つなごう?」
「はいはい」
「気をつけろ?いつの間にか別の手と……なんてな」
「ちょっとやめてよー!」
勝手にイチャつき始めた
高いな。三階建ての西洋風の屋敷だ。郊外の山奥にこんなのを建てたもの好きが誰かすごく気になるが、それを知るのは無理だろう。
屋敷はあちこちが朽ち果て、まさに幽霊屋敷だ。実際に今は誰も住んでいない。それだけなら僕も普通に入れるのだが、この屋敷には曰くがある。「屋敷の主が病で」とか「踏み込んだ者が行方不明」とかそんなありきたりな話ばかりが盛りだくさんだが、僕はそういうありきたりな話ですらダメなのだ。一時期一人でトイレに行けなくなったことがある。割と最近の話だ。
「おーい」
屋敷を見て蘇ったトラウマでナイーブになっていると、声が聞こえてきた。透き通るような声だ。小説風に言うなら、鈴を鳴らしたような声という表現が一番しっくりくる。いつもこの声で話されるとついつい聞き入ってしまうんだ。できれば音楽プレーヤーにでも録音して朝の電車でずっと聞いていたいくらい好きな声。それが聞こえたということは―――
「もしもーし。聞こえてる?」
目の前にマナカちゃんがいた。僕を見つめて不思議そうに首を傾げている。それにつられてポニーテールが揺れるのがまた可愛らしい。……ってそんなこと考えてる場合じゃない!
「うぇっ!?え、何?」
「そんなに驚かなくても。ここなんか気味悪いよねえ、ってそれだけ」
そう言う割には、全く怖そうにはしていない。もともと彼女は武闘派だ。小学生の頃から空手大会で優勝していた。今はそれ以外にもいろんな格闘技に興味を持っている。柔道に合気道、キックボクシングやカポエラーなんかも齧ってるらしい。なんなら幽霊だって一発K.O.すらできそうだ。精神から違うんだ。僕なんかより。
「ああ、うん。すごく怖そう。でもマナカちゃん平気そうだね」
「うーん、まあそこまで怖くはないかな。幽霊とか信じてないし」
「マナカちゃん強いからね。今日は守ってもらっちゃおうかな?」
「………………」
僕なりにボケたつもりなのだが、何のリアクションも帰ってこない。そりゃ引かれるか。男が守ってもらおうだなんて。
「おーいお二人さん!そろそろ入るぞ!」
「……わかった。今行く」
さっきの失敗の気まずさもあって、僕はシゲルとマキの方へ歩き出す。
すると不意に手を握られた。柔らかい。けど、強さを感じさせる手の感触だった。この場で手を握れるような人物は一人しかいない。僕は高鳴る鼓動を押さえながら振り返る。そこにいるのは予想通りというか予想外というか。やっぱりマナカちゃんだ。でも、何で手を?僕はそれ以上考えることはできなかったし、何も喋ることもできなかった。憧れの女の子に手を握られる。それだけで頭は真っ白だ。
「わかった。守ってあげる」
マナカちゃんは短くそう言うと僕の手を引いて足早に歩きだした。
俯いていてその表情を知ることはできない。手を引かれるだけで気絶しそうな僕は、後ろから見える頬が夕日のせいで赤いのか、他の理由があるのか、思いつきもしなかった。150センチにも満たない女の子に平均身長の男子が手を引かれている光景はかなり情けないものだとは思う。だけど、それでも僕は一生この瞬間を忘れることはないだろう。
とりあえず、向こうでニヤニヤと僕たちを待つ
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次のニュースです。
千葉県在住の高校生4人が行方不明になりました。
行方不明になったのは、
花木さんたちは8月12日に○○駅で下車したのを最後に行方が分からなくなっています。
警察は何らかの事件の可能性を視野に入れて駅周辺での捜索を――――