エージェントシルバー 作:ブランブラン
暗闇に満たされた通路を駆け抜ける一団がいた。
彼らは皆完全武装し乱れ一つない洗練された足並みで通路を突き進む。
その中に紅一点。男に引けを取らないほどの鋭さを見せる女性がいた。
彼女の名は
B.S.A.A.極東支部に所属するエージェントだ。彼女は、数少ない日本人のエージェントである。元は日本の警察官だったが、その射撃の腕を買われ、B.S.A.Aにスカウトされたのだ。
そんな陽鷺が所属するチームが今行っている任務。それはある危険人物の拘束である。
その人物の名はウィリアム・ストライカー。かつてラクーンシティの惨劇を引き起こしたアンブレラコーポレーションの残党で、今もなお当時からの研究を続けている。長らく消息不明だったが、ようやくその居場所を突き止めたのだ。ストライカーは、日本のとある山奥に潜んでいた。それも巷では幽霊屋敷として知られた場所である。彼はそこで、屋敷に入った者を捕らえ、自らの研究のモルモットにしていたのだ。
情報を得た後のB.S.A.A.の動きは速い。急遽隊員を日本に送った。そして現在である。
チームは今屋敷に潜入し地下にあった研究施設を進んでいる最中だ。しかしその内装は意外にも広い。しかも中には信じられない者たちがいた。ストライカーの犠牲者たちだ。彼らはその姿を異形のモノへと変貌させられてしまっていた。全身から棘を生やす者、獣のようになった者など様々だ。そして残念なことに、彼らに理性は残されていなかった。皆隊員たちを見つけると獲物を見つけた野獣のように迫ってくる。もう助ける術がない。だから、撃った。陽鷺も例外なく撃った。
「…………ごめんなさい」
彼らに謝罪を伝えながら。
そうやって犠牲者たちの亡骸を越えて、辿り着いた。この施設の最深部だ。
そこは重厚な扉に守られていた。隊員が各々装備を確認。
そして隊長のハンドサインが出される。
部隊はなだれ込むように最深部へと踏み込んだ。
奥の扉を越えた先には、広い空間が広がっていた。壁にはいくつもの武器が立てかけられ奥には人が入ったカプセルがあった。中で眠る犠牲者は度重なる実験のせいなのか色素が抜け落ちてしまっている。そんな哀れな被験者が眠るカプセルの下に目的の人物がいた。
「やあ、待っていたよ。おっと、英語は通じるかね?極東の猿どもはアメリカが世界の中心になっても英語を覚えようという気はないらしいからな」
ウィリアム・ストライカーその人はいくつもの銃口を向けられていても一切余裕を崩すことはない。むしろこちらを煽ってさえいる。
「心配しなくても話せるわ。私たち全員ね。もっとも、アンタみたいな下衆野郎とおしゃべりするために覚えたんじゃないけどね」
真っ先に陽鷺が応えた。彼女の沸点は低い方ではないが、ストライカーの所業を目の当たりにすれば誰でも沸点に達するだろう。現に他の隊員たちも同様にこみ上げる怒りを隠しきれていない。
「ほう、怒り心頭と言ったところか。だが良いニュースがあるぞ。私の実験がたった今完成したんだ。私の長年の研究、X-ウイルスを遂に安定させ身体能力を強化することに成功した個体がな。まさに最高傑作だよ。コレならきっと君たちの発散相手になるだろう。発散だけで済めば、だがな。目覚めろ!ウェポン
ストライカーの呼びかけに呼応しカプセルが開いていく、そして、彼は目覚めた。
*****
彼はずっと長い間、暗闇の中にいた。
どれだけの時間か彼には分からない。だが、とても長い時間そこにいた。
いつまで続くか分からない暗闇にふわふわと浮かんでいると、ふと声が聞こえた。
すると浮遊感が消え、意識がはっきりと輪郭を帯びてくる。そして長い間塞がれていた瞼を開くと自分がガラスの中にいると知った。そこから出るため、一歩踏み出す。硬く冷たい床に素足を降ろし、正面に目を向けると、人がいた。それも複数。一人一人殺気を立ち昇らせ、銃口をこちらに向けている。そして唐突に――
「……撃てッ!」
一斉攻撃が始まる。各々構えた銃口から弾丸が飛来する。
彼はそれをいち早く察知し、反射的に自身に眠る力を使った。それがどんなものか彼は知らない。だが、そうすれば大丈夫だという確信があった。意識を体内に向ける。そしてそこにあるモノを体外に引きずり出し、全身に満遍なく行きわたらせる。結果、銃弾は全てソレに弾かれた。パラパラと勢いを失った弾丸は床に転がり無機質な音を次々と響かせる。しばらくの間それが続き、一斉掃射が終わると辺りは沈黙に包まれた。自分に向かって銃撃をした人たちは愕然とその光景を見ていた。銃が効いてないという現実を受け入れられていない様子だ。
「ハハハッ!どうだ!これが私の最高傑作の力だ!さあ01!こいつらを全員皆殺しにしろ!」
沈黙を破り高らかに声を挙げたのは、彼の背後にいた人物だった。
白髪交じりの初老の男だ。その男が続けて彼に向かって声を荒げる。
「………………」
しかし彼は応えない。
「おい、どうした01?早くこいつらを始末するんだ!」
「……………………」
それでも彼は応えない。
「私の命令が聞けないのか!さっさと私の命令通りに――」
それ以上男の怒声が上がることはなかった。
あまりの
軽く小突いたくらいの強さだったはずが、男はすっ飛んでいって伸びてしまった。
「
よく考えれば簡単な話だ。
日本で研究するということは、捕らえた人たちは全員日本人。
つまり彼も日本人。
そして日本人はほとんど、英語を話せないのだ。
気絶した男を見て気が済んだのか、彼は向き直った。
「てか、なんか着るものくれない?いつまでもレディの前でフリチンでいる趣味はなくてね。ま、見られて恥ずかしいモノじゃないけど」
………………………………
沈黙はその後、しばらく続いた。