仮面ライダーフリード   作:うしとうなぎ

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 やっと投稿できました。
 眠気とローグライクに暇をつぶしていたらここまでひきのばしてしまいました。
 もしかしたら意図せずおかしな文になっているかもしれませんね。
 あと数字でシーンを区切ってるのはテレビで言う一話の区切りみたいなもので、数字がリセットされたら次の話に行ったもんだと思ってください。


 ということでフリード登場です。



第二話「怪人のいるマチ」part2

    4

 

 

 陸は再び康介とあった場所へと舞い戻ってきていた。道中にも気を払い何度か立ち止まって探したが、それでもあの目つきの悪い顔を見つけることができなかった。

「これはまずいかな」

 自分の記憶を(かえり)みても通った道以外は教えていないし、ずっと一本になるように道を絞って選んできたはずだ。突然街をうろつき出すようなことは考えられない。ここから一秒でも早く逃げようとするだろう。

 となると、最後の行き先がここになるのは必然的だった。

 この街からバスが出るのはまだまだ先だ。

 それがいないとあれば、辿り着く状況は最悪な可能性であることを考えなければならない。

 チームの人間が遊び半分で新参者にちょっかいを出すか、それとも誰かが変身したヴォルトに襲われるか。

 どっちであっても今から探すのは骨が折れる。なにせ追われていれば居場所は刻一刻と変わり続けるし、攫われていれば連れ込まれた場所を特定するのに時間がかかるからだ。

「やっぱり教えるべきじゃなかったか……」

 不意に口を突いたのは後悔だった。確かに求めたのは康介だったが、促したのは紛れもなく陸だ。連れ戻さなければいけない責任は充分にある。

(おれの連れを襲った奴は誰だ? 一番可能性が高いのは――)

 早速と言った具合で思考を張り巡らせ始めた時、アタッシュケースを持った男が陸に声を掛ける。

「おーい! こんなとこに居たのかよ。恨みがましくコンクリなんて睨んで、どうした?」

「……いいとこなのに邪魔すんなよ……ピーク」

 ピークと呼ばれた男はオーバーに怯えた格好を取って「ウヘェ」と、ヒキガエルのような声を出した。

「なんだなんだ、お前がそんなに怒るのは久しぶりだなぁ。誰だ!? 俺らのエースをここまでやる気にさせんのは!」

 所々茶々を入れながら話すピークは吟遊詩人のように人の目など気にせずに腕を振り上げる。

「オーバー過ぎるんだよピーク。確かにそいつのことは許さないけどな、お前がわざわざ来るのはどういった理由(わけ)だ?」

「うん?」

「とぼけんなよ。そんな頑丈そうなケース持ち歩いてンの今まで見たことないぞ」

 その言葉にピークはやっと「あぁ」と自分のやるべきことを思い出したようで、手に持っていたアタッシュケースに目の前に差し出した。

「こいつはお前への誕生日プレゼントだぜ」

「誕生日プレゼントは一週間前にあっただろうが……」

 飽きれる陸を余所にピークの独壇場は終わらない。もはや放っておいても永遠に喋り続けるんじゃないかと言う勢いでポンポンと言葉をだす。

「そうだったか? あの日は俺だけなにも上げなかったじゃないか、その代わりと思っていいぞ! あとスパークも二、三本おまけしてやる」

「いらないよそんな誕生日プレゼント。一本で充分だろうが」

「お前あれ弄くるの好きだろ? 数があった方がやれることは多いだろ」

「いやいやいらないいらない。どれだけ備蓄が余ってると思ってんだ、まだ三十本は残ってるぞ」

「そうかー?」

 アタッシュケースを軽々と振り回しながら人をからかう。

 この男に羞恥心はないのかと言うぐらい振り切った振る舞いには陸にも手を付けられない。悪ノリした時の恐ろしさは一級品だ。

「お前の中に真面目にやるって心構えはないのな。――ってそんな世間話してる場合じゃないんだよ」

 唐突に陸が話題を切り替えると、自然とにやけ顔になるピーク。

「おやおやぁ? 案外乗りツッコミ気味に気づいたな。このまま脱線したらどうなるかと思ったぜ」

 ピークはわざとらしく哄笑した。

 しかしここまでズラしたのはピーク本人なので、さして口出しすることなく陸は話をすすめる。

「この街に来たばっかの奴が誰かに襲われてる。名前は瀬良康介(せらこうすけ)だ」

「ははっ、そいつはかなりの厄日だな……誰の線が怪しいと思う」

「おそらく一般人だろうな。それも俺達の始末対象に当てはまる人間で、最近騒ぎを起こしてる奴」

 チームの人間はその殆どがヴォルトになれる。しかしだからと言って騒ぎを起こすのは彼らだけに限ったことではない。街の一般人だって所謂犯罪行為というものを起こす。

 それも頻繁に。

 理由は単純明快。鬱憤を晴らすための便利な道具が手に入るからだ。

「最近? ここ最近は全部解決したんじゃないのか? 俺はそう報告を受けてるんだが」

「そうか……」

 当てが外れて再び考え込む陸。

 手軽に犯罪を起こせる、とは言っても毎年毎月行事の如く騒ぎが起こるわけではない。集中する時としない時のばらつきがあったりする。

 今月は上旬に集中していたが、それらのすべては陸達の手によって解決されている。

 今起こってる問題は、まだない。

「じゃあやっぱチームの仕業じゃね? あいつらもたまには自由に暴れたいときだってあるだろ。あんな事してたら」

 とピークが暗に指すのはあのゲームのことだ。

 だがその可能性がない確信が陸にはある。

「さすがにそれはない。言ってあれを頻繁にやるのはコードとネオンだけのはずだ。それもあいつら南(フィールド)で競り合ってるぞ?」

「ん〜? だと、ちゃっちい犯罪でもやらかしたんじゃねーの? あとは巻き込まれたとか? 消去法で行くんならやっぱそこに辿り着くだろうな」

「…………」

 そこで話は停滞してしまった。

 もし最後の結論が真実なら、助けるのにそこまで躍起になる必要がなくなってしまう。

 と言うより、絡鳴市の人間はむしろそっちのほうがまだ身の安全が保証されるだけ安心できる。

 ここはそういう街だからだ。

 しかしそれでも、陸は捜索の手を緩めるわけではない。

 それは未だに康介を信じているからに他ならない。

「それでも探してみるよ。あいつはおれ達にとって必要だ。今を打開する一手を打てるような奴じゃないけど、あいつは()()()()()()()はずだ」

 毅然と、そう断言した陸を見てピークは諦めたようにため息をつき、お手上げと言うように手を上げた。

「そうかい。だったら頑張れよフリード。俺は先月の事件の方に行くからな。ま、そいつ助けたら俺にも紹介してくれよ」

「考えるまでもないさ。絶対にこっちに引き込む。……あと、あんまりその名前で呼ぶなよ? お前に晴らしたい鬱憤が山程溜まってるから――」

 そこまで軽口を交わしあったところで陸は気づいた。

 聴き逃してはいけない言葉を聞いてしまった。

 今、あいつはなんて言った――?

「あっはっは、冗談いうなよフリード。そんなお世辞言ってもなにも出ないぜ? はっはっは……いや! ホント許してください陸さん!」

 さっきまでのおちゃらけた雰囲気から一転、倒れ込むように五体投地を始めたピーク。一糸乱れぬ動作はまるでパフォーマンスのように完成され尽くしている。

 だが、お生憎(あいにく)陸の思考はピークの土下座をどう褒めるべきかを考えてはいない。

 そして陸はその土下座に全く興味を示していない。

 なので、

「なぁ、さっきなんて言った」

「え? 許してくれって」

「そこじゃない、もっと前だ」

「あー、えーと、冗談いうな?」

「違う、全然違う! お前は記憶力がないのかぁ!?」

「あ゛? こっちは何がなんだか全然わかんねぇんだよ! いっつもいっつも仕事サボりやがって! 報いを受けろ報いを! 後、借りた金返せ!」

「お前らの押し付けた仕事なんてまっぴらごめんに決まってんだろ! そんなやつに金なんて返せるか! おれはやりたいようにやる、文句あんならかかってこいよ!」

 と、このように会話の齟齬(そご)から始まる不毛な取っ組み合い、又は言い合い、その名を喧嘩。

 ただ、これが起こってしまったのは二人が極端に短気だからだ。

 そんなわけで観光客が集まる公衆の面前で争い始めた二人。特に陸については、急がなければいけない用件も忘れて突発的な怒りに身を任せている。

 今しがたも、綺麗にピークのボディに入った拳を振り上げて次の一発を用意している。

 負けじとピークも突撃するが、軽々と叩き落とされ胸ぐらを掴み上げられ、陸の膂力によって向こうへ投げ飛ばされた。

 その怪力っぷりに思わず周りもおぉ……、と感嘆の声を漏らし、飛んでいったピークに視線を集中させている。

 陸はその隙を突いて人混みに紛れた。逃げたわけではない。あのやり取り一連、一種の演技だ。ピークも暗黙に了承した上でやったことだ。

 そんなことをしたのにはピークとの会話で少し思い出した事があったからだ。

 最近の一般人による犯罪は起きていない。チームは小競り合いに夢中で人員を人攫いに回すことはない。

 そして――康介は犯罪を起こすような人柄をではない。

 ピークが最後に言った言葉を、陸は反芻(はんすう)する。

「先月はまだ解決してない。おれの言い方が悪かったかな。いや……アイツの事だ、譲れないことでもあったんだろ」

 そう呟き、今しがた振動したスマホをポケットから取り出す。液晶に写ったものを一瞥すると、陸は歩く足を早めた。

 

 

    5

 

 

 無数のコンテナが迷路のように積まれたコンビナートを利用し、康介はガタイのいい身体を必死に隠していた。

 もはや絡鳴市のどこにいるのかも分からないこの状況で、本能が絶えず発することはただ逃げること。あの怪人、ヴォルトから逃げることだった。

 どこまで逃げても的確に位置を割り出して襲ってくるという脅威的な索敵能力でここまで追い詰められてきたのだ。

「どうなってんだあのバケモン!! なんで分かるんだよ!?」

 康介が焦り気味に叫ぶ。

 どんなに工夫を凝らして身を隠しても、必ずものの数分でやってくる。それを幾度となく経験し、康介の脳内はパニック状態になっていた。

 

「見つけたぞ……。今度は逃さない」

「ッ!」

 加工されたような低い声を出し、コンテナの合間に降り立った真っ白な人型。

 

 のっぺらぼうのようにまっさらな顔に、口元から球体型に盛り上がる歪な形状の頭。側頭部から斜め上に伸びる二又(ふたまた)のアンテナが二本。顔を横切るように浮かぶリング。身体を覆うのはマス目で敷き詰められた修道服のような、膝下まである蛇腹装甲。左腕の甲側には丸い球体が三個嵌め込まれ、右肩には白く濁った結晶が埋め込まれている。呼称名、オブザーバ。

 よく耳をすませばモスキート音めいた澄んだ音が辺りに響いている。

「う、うわァァああああ!」

 何度も見たオブザーバの姿にもはや康介は恐怖以外の感情を抱くことができない。

 コンテナの迷路を抜けるために通って来た道を全速力で引き返す。

「待ァてェェぇええええ!」

 恨みがましく声を発するオブザーバは振り返らずにただ走る。今までそうやって逃げてきた。今回、この場もそうするだけだ。

 しかし、そう今回だけは。あちらも痺れを切らしていたようだ。

 オブザーバは左腕に嵌っている球体を取り外し、それを康介の逃げ道の方向へ放った。

 ゆったりとした速さで飛ぶ球体はそれほど速い速度ではないものの、氷の上を滑るように悠々と康介の頭上を通り過ぎていく。

 不思議なのは一直線に進まず、ゆらゆらと軌道がズレているはずなのに一向に高度が下がっていく気配が見られないことだ。

 原理はどうであれ、球体が爆弾でない限りは道を塞がれる危険はないと踏んだ康介が少し足の回転速度を上げた時だった。

 オブザーバは唐突に「やれ!!」と端的に叫んだ。

 すると、今までふわふわと浮かんでいた球体が途端に加速し、脇道に積み上がっていたコンテナの塔に突撃した。

 その時に起きた振動に足を取られ()けてしまう。

 逃げ道を塞がれた焦りよりも目の前にうず高く積み上がっていたコンテナが次々と落ちてきたことに康介は肝を冷やす。

 これでは逃げても逃げなくても殺されてしまう。

 相手はもはや人智の域を超えた怪物。どれだけ策を凝らそうがすべてを突破し追い詰めてくる。

 この小一時間で自分が知ろうとしている事実が圧倒的な絶望であることが理解できた。

 既に目の前にはオブザーバが迫ってきている。

「う……ああ……!」

 康介は声にならない怯え声を喉から絞り出した。

 絶望はもう目と鼻の先。

 オブザーバが再び腕に嵌った球体を真上へ投げた。

 ――もう逃げ場はない。

 そして、右腕を上げて球体を指差す。

 球体がピタリと止まった。

 ――もう時間もない。

「終わりだ……! 死ねぇェエえええええ!!」

 咆哮を上げ、ひと思いに、力任せに、今までの鬱憤を叩きつけるように振り下げた。

 球体はオブザーバの操作能力で急加速を得て急降下。豪速球のスピードで康介に迫る。

 

 ――もう、ダメだ!

 その絶望に折れかけた時、

 

 カキンッ! と甲高い音共に球体に火花が散り軌道が曲がる。

 落ちた先はへっぴり腰になった康介のすぐ側。まさに危機一髪の横槍が入ったのだった。

 それはある意味で康介が(ひそ)かに期待していた存在。

 到月陸からのものだった。

「余裕で間に合ったね。見てから迎撃余裕でしたっと……」

 飄々と言葉を並べる陸の手には大口径の拳銃。警察や軍のものではない、珍妙なデザインのものが握られていた。

 康介もオブザーバも唐突な闖入者(ちんにゅうしゃ)啞然(あぜん)とする。

 そんな様子にもう片方の手になぜか携えていたスマホを構えてシャッター切った。

 

 

    6

 

 

 先程撮った写真をSNSアプリで、「ヴォルトを見つけた。これから始末する」というコメントに添付して上げる。

 上げた場所は特定の個人。トーク画面に映るのは『ピーク』という文字だった。

 履歴には「南西のC-B地点にヴォルトがいる」のコメント。ピークと別れてから数秒後の送信だった。

 陸はこれを元にヴォルトを追ってきた。

 この未解決事件の犯人を。

 だがオブザーバの事よりも先に、陸にはやるべきことがあった。

 オブザーバへ手に持つ拳銃を向け二発程光弾を叩き込み、呆然とこちらを見上げる康介に近づき目線を合わせた。

「どうだ? これが真実だ」

 陸の口から出た言葉は心配でも軽口でもない。ただ突きつける事実。ヴォルトになるのは一般人も含まれる、だから『怪人だらけの街』なのだと。

「分かってたよ……! 間近で感じれば……っ。あんなの、人の手に負えるやつじゃない」

「じゃあ、それでどうする、お前は。このままどうしようもない中で死にたいか?」

 慰めるという気遣いすら感じられない冷たい言葉を投げかける。

 康介は一度苦渋の色を浮かべて俯く。が、すぐに顔を上げると陸の胸ぐらを縋るように掴んだ。

「なあ、助けてくれ……。助けてくれよ!! あんた怪人について知ってるんだろ!? あのどうにでもできないやつを、なんとかしてくれよ!!」

 掴みかかる康介に畳み掛けるように否定した。

「馬鹿か。どうにでもできないんだからどうするもないだろうが」

 自然と胸ぐらを掴む力が弱まり、康介はへたり込んだ。

 現にヴォルトに対抗する手段が人間にはない。それは役職を変えたとしても見解に変わりはない。

 そこにいるのは絶対的な強者だ。

 しかし、それは()()()()()()の話。

「でもな」

 その一言で康介の顔を上げさせる。

「怪人だったらどうにもできないわけじゃない。対抗するやつことだってできる。いろんな理由でな? だからお前に一つ提案をあげよう」

 人間でなくなればヴォルトに対抗できるというわけだ。

 拳銃の撃鉄部分に付いているスロットから注射器型のシリンダを取り出し目の前へ差し出す。

 つまり、

「怪人に立ち向かうための力。怪人になる力。おまえに……それを受け止める力はあるか?」

 ――対等になりたければ同じくあれと、陸は提案した。

 目の前に突き出された希望に目を向け、康介はそれに迷わず手を伸ばす。

 

 しかし、

「ダメだ」

 一言言って慌てて手を引っ込めた。

「俺には……そこまでの覚悟がない。すまん……」

 そうして罰が悪そうにそっぽを向いた。

 

 陸は康介が選択した答えに、シリンダを掴み直し空を仰いだ。

「そこまでは無理かー」

 暢気に言ってみるが、その場が変わるわけではない。だがつい口に出さずにいられなかった。

 自分の賭けが失敗したという事実に向き合う為に。

 しかしそんな感傷に浸る時間もなく、怯ませていたオブザーバが復活した。

 右肩の結晶が瞬時に二本の二又アンテナがついた球体になる。

 オブザーバがその片方を手に取ると、そちらのアンテナが槍の柄のように伸び、逆のアンテナは三又(みつまた)に拡張し、杖のように変化する。

「お前は誰だ!? そいつの仲間か!?」

 杖の三又の先を向け問いを投げかけるオブザーバ。

「仲間っていうか、今日の仲だな。でもそんなこと聞いてどうするよ。どうせお前は全員殺すだろ? ……俺もだよ、クソ野郎」

「っ! お前もオレを見下すのか!」

「当たり前だろ。今までお前が何人の関係ない人を手にかけた知ってるか!?」

 怒号に合わせて再び光弾を放つが、今度はしっかりと反応したオブザーバの杖による攻撃で防がれる。

「お前が人を観測して得たのはただの自己満足だ。ヴォルトになってまでそこまでしか進化できないのなら、お前はそれだけって事だよ」

「クソォォォオ! 好き勝手言いやがって、殺す!! 殺してやる!! その次はそいつだ!!」

「殺れるかな? お前に。――制圧してやる」

 

 陸はシリンダを再び拳銃にセットし直すと、ポケットに入っていたスマホを康介に投げ渡す。

「持ってろ。ぶっ壊すとまた怒られる。あとごめんな、巻き込んじまって」

「な、なんで……?」

「理由を問いただした時、お前の覚悟はひしひしと感じられたよ。私情の為に恥も外聞も考慮しないお前のやり方がな。でも矢面に立たせる気はなかった。これだけはおれの責任だ、謝る」

 陸は腕を顔の前へ上げ、手応えを試すように指を開閉させる。

 

 自分にしか理解できないパラメータを確認し、ヴォルトへの変身能力を起動させる。

 甲高い共鳴音と共に現れる橙色の結晶が五つ。身体を白黒のノイズが覆った。

 ゆっくりと左腕を掲げると同時に結晶が嵌まり、簡素な左腕のみ形が鮮明になる。それに続くように他の結晶も左脛、右大腿、右上腕、そして胸部の中心へ嵌まった。

 現れた姿は一番シンプルだった。バトルスーツに包まれたような全身。結晶を埋め込んだような鋭い形の目と、額から後頭部まで走る鋸刃(のこぎりば)の頭。そこには入れ墨のようなイラストがプリントされただけで、それ以上なんの特徴もないヴォルト。

 しかし、これは手に持つ大口径の拳銃――型の起動器の作用だ。

 扱いやすいように、適合しやすいように、多種多様のヴォルトの形をプレーンな状態まで変調した姿。

 そしてここからが起動器――トランスドライバの真骨頂が始まる。

 完成された真っ白な人型の配色がツヤ消しの黒に塗りつぶされる。それと同時にドライバが搭載する機能が動作を始めた。

 

『Type Unbreaker』

 

 全身に嵌められた結晶が一斉に電撃を放ち、陸を護るようにリングへと形を変えた。

 リングの内側では各結晶の部位に合わせたアーマーを構成され、ひとりでに結晶を覆い隠すよう自動装着される。

 アンバランスな姿は、装着されていたアーマーから追加の簡素なアーマーが展開し、所々穴のある防御機構でありながらもしっかりと身体を守る。

 さらに顔を保護するように鋸刃のみ露出した仮面、鋭い目を保護するつり目気味の複眼と、右耳へ後方にアンテナの伸びるヘッドホン型の耳当てが装着された。

 すべての過程が終わると、身体中の装甲が一度分割、合体し、その時バチィッ! と全身から派手な火花が散った。

「武装全解除……ふう、感覚はいつもと一緒だな」

 ドライバの拡張パーツと補助武器を収めた両腕装甲と仮面のようなヘルメット。重厚に着込んだ黒いヴォルトになった陸はオブザーバに向き直る。

 それを目にしたオブザーバは今までの高圧的な態度から一変。急に怯えた声を上げる。

「お前! 仮面ライダーとか言う奴か!?」

「そうだな。噂に聞いてたのにまさか自分がなるとはとんだ巡り合わせだよ」

 陸は実に暢気(のんき)な笑い声を出し、トランスドライバの銃口をオブザーバに向けた。

「来いよ。殺すんじゃなかったのか?」

「うっ、うおおおおお!」

 オブザーバが杖を前に突き出し突撃する。

 陸は冷静に銃爪(ひきがね)を二度三度引いて対応した。

 銃口から放たれる光弾は数分の狂いもなくオブザーバの懐へ入り込むが、オブザーバはそれを杖で容易く弾く。

 その防御の隙を突こうともう一度銃撃態勢を取り、銃爪に指をかけたところで杖の間合いに入られたようだ。目一杯長めに持たれた雑な振りの杖でドライバを弾かれてしまった。

「しまった」

 ドライバはくるくるとオブザーバの後方へと滑っていった。

「はははっ! 大口叩く割には戦いに不慣れじゃないか!! 簡単に殺せる!」

 オブザーバは強気に吠えると短く杖を持ち直し陸目掛けてそれを斜めに振り下ろした。

 杖と装甲が真正面からぶつかり火花を散らす。

 陸は「ぐっ……!」と呻き身体のバランスが崩れた。しかし辛うじて倒れかけた身体を踏ん張って止める。

「大したことないな、仮面ライダー!」

 すると杖の三又のアンテナの一本が湾曲して伸び、刃が生え、鎌のようになる。オブザーバが人を殺すために杖から進化させた姿だ。

(まさかコンセプトとは逆に進化してるのか。これはこれで意外だ!)

 内心驚きを示しながらも、鎌を引かれる前に腕で真上に弾き飛ばした。

 陸にとってかなり苦肉の策ではあったが、相手の跳ね上がった腕を瞬時に判断して後ろへと跳ね飛ぶ。しかしそれでも少しの距離しか(ひら)けていない。

 すぐにでもオブザーバの攻撃が開始される。

 接近を許した陸に再び鎌になった杖が振り下ろされる。

 今度も逃げられずに攻撃を受け入れた。刃に引っ掛けるように振られた一撃だ。完全に身体を寸断されてもおかしくはない攻撃だが、

「でも惜しいんだよなあ。ヴォルトは確かに進化してる。……だけど人を殺す奴の思考としてはまだまだ素人だな」

 陸は杖を持っていた腕を掴み、それを阻止していた。

 有無を言わさず空いた方の拳をボディと顔に数発叩き込む。と、途端にオブザーバがよろめく。そこを狙って杖を叩き落とした。

「なぜだ!? お前は遠距離型のヴォルトじゃないのか!?」

「人が銃を持ってるからって、あるべき可能性を捨てるのは間違いってことだ。覚えとけ!!」

 陸は弱るオブザーバのガラ空きの胴を鋭くアッパーでかち上げた。オブザーバが軽々と宙へ浮く。

「さて、フィニッシュは必殺技だ」

 空高く飛ばされるオブザーバを見上げ、陸は転がっていたドライバに駆け寄ると、拳銃に当たるスライドの部分。ドライバの銃身を包むカバーを引っ張り、そして離す。

『ストライク・ボルト!』

 音声を放つドライバを投げ捨て自らも高く跳躍。肩まで引き絞った左拳に火花が散り始める。

 すると丁度落ち始めてきたオブザーバとすれ違う。その瞬間、振りかぶっていた拳を顔面に打ち込んだ。

 インパクトの一瞬に拳から充填されていた高圧電流が一斉に放出。指向性を持った電撃の槍に形を変えオブザーバを貫いた。

 

 オブザーバの身体が地面に叩きつけられると、真っ白な身体に白黒のノイズが走り、見る見るうちに人間の姿に戻った。

 その顔はサンバイザーを着用した冴えない顔の青年だった。

 無事着地した陸も変身を解き、青年に近寄る。

「もう抵抗はしないよな? 散々苦労させやがって。ほら、お前の名前を言ってみろ」

深川(ふかがわ)(つよし)

 深川は観念したように答えた。

「深川、と……。そんで? あいつを襲った動機は?」

 陸が顎で指し示したのは未だ地面にヘタレ込んでいる大の男、康介だ。

 顔に似合わず驚いた格好から崩れない所を少しシュールに感じた陸はすかさず予備のスマホを翳しカメラアプリでシャッターを切った。

「ちょっ!? 何撮ってんだよ!?」

 ようやく立ち上がった康介が何か言いたげに陸へと歩み寄ったが、深川の顔を見ると、康介は「あっ!」と声を上げた。

「俺がこの街に来たときに商品落としてた売り子!」

 康介が指指すのを深川は睨みつけて返した。

「お前も他の奴らと同じだ。僕を見下してくる!」

「おっと? お前もしかして喧嘩を売ってくタイプなのか!?」

 茶化してくる陸を無視して康介は深川に掴みかかった。

「見下してくる? 俺はただあんたが物を落としたから拾おうとして……!」

「それが見下してるんだよ! バカにしたような目で見やがって!」

「なんだとてめぇ!!」

「待て待て待て!」

 ヒートアップした康介と深川を一旦離し、陸は話に割って入った。

「そんなちゃっちいことで喧嘩してんじゃないよ、子供じゃないんだから。深川、お前はあとでそれ相応のとこに任せる。あとお前はおれと来い。これでこの話は終わりだ」

「おい! 待てよ!! 俺はあんな被害妄想で追われてたのかよ!?」

「そんなもんだ。一般の怪人騒ぎの殆どは、人の内面的な問題が主だ。普通大事(おおごと)にするべきじゃないんだよ」

 鬱陶しそうにそう言った陸は深川に注射器型のシリンダを刺し、深川の所有していたシリンダも回収する。

 これがヴォルトに変身する一般人への処置だ。変身できないようにアンチ成分を打ち込み、再使用を阻止するためにその道具も押収する。事故再発を防止するためだ。さすがにチームの人間にこのルールは通用しないが。

 

 連絡も付けたところで陸が踵を返して帰ろうとするが、康介は尚も突っかかってくる。

「本当にいいのかよあんなんで!」

「良いんだよ、あんな感じで。いままでもそうだったんだから」

 適当に返した陸の足取りは少し重い。

 これから面倒なことが起こると思うと尚更だ。

 後ろをいちいち気にしている康介を尻目に投げ捨ててあったドライバを拾うと、スマホが鳴った。

 電話の着信のようで、数秒おきに鳴動する。

 画面を見ると、呼び出しているのはピークのようだった。

「おれだ。……ああ、後でな」

「さっきから何やってんだ? それに付いて来いって……」

「なんでもない、じゃあ行くぞー」

「あっ、おい」

 ポケットから取り出したチョコレートを口に放り込むと、陸はマイペースに歩き出した。




 次は三話ですね。がんばります。
 

 
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