仮面ライダーフリード   作:うしとうなぎ

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 3週間も永らくお待たせして申し訳ありませんでした。ですが一応懸念は幾らか解消したので次回からはこの遅れを取り戻せるように執筆頑張りたいと思います。



第三話「怪人のいるマチ」part3

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 絡鳴市、柳の木が所々植木された自然溢れる西フィールドを北に行ったところにある商業地域。(もっぱ)ら社会人の顧客を狙って経営された飲食店が立ち並び、競うようにその門構えを主張している。

 その中の一際背の低い3階建てのビル。ある階を除いて店の看板が下げられたビルの前に陸と康介はいた。

「まだなのか?」

「あともう少しだ、ちょっと待て……」

 絡鳴市の日常生活の快適化というものは著しく発達しているらしく、普段意識して目に入るものではないがちょっとした所に目を向ければその技術の進歩が覗ける。

 例えば、いまここにあるビルのセキリュティシステム。たった3階であったとしても強固なもので、マンションに備えてあるような、部屋番号を入力しないとエントランスすら辿り着けないというセキリュティが少し改変されてこのビルに実装されている。

 他にはそこらにぽつんと置かれた自販機やバスの乗車賃金の支払いなどは殆どおサイフケータイ対応済みだったりと、なにかと地味なところで目につく。

 その恩恵を一年半も受けている陸はビルのセキリュティにやきもきしているわけではなく、その隣にある自動販売機の液晶と睨み合っていた。

「おっおぉっ!?」

 そんなこんなで興奮気味に拳を固める陸。

 液晶には四つの数字が表示されていて、既に「3」の文字が三つ並び、あと一個の数字はデタラメに入れ替わっている。

 つまりはスロットのようなものだ。

 すべてがゾロ目で揃えば特典が貰えるという、当たれば気持ちちょっとだけ幸せぐらいのおまけ。

 だがそれに賭ける情熱が陸は違った。

「あたれ、あたれ、あたれ、あたれ……」

 止まない興奮の挙句自販機をグーで叩き続けながらお経のようにぶつぶつと呟き始める。

 あまりの熱中度合いに、付き合わされた身の康介は呆れながらも事の顛末を見守っていた。

 ピピピ……と連続して鳴る電子音のテンポが段々と下がっていく。液晶を見る陸の目がカッと見開かれた。

 

 止まった数字は「2」。

 言わずもがな外れだ。

 

 と、途端に陸の調子がいつもの少年地味た軽薄な雰囲気になる。

「ちぇー、なんでこういうのって当たらないもんかな。いつもギリギリな数字で止まるのは全機体共通なのか? ほんっと渋すぎ」

「普通そういうものじゃないのか? ただの娯楽だろ」

 そう切り捨てるような発言をした康介はビルの玄関を指差す。

「ってか早く行かないのかよ。ここに案内するために連れてきたんだろ? あんたそういうの得意じゃないのか?」

「そんなわけないだろ、ちょっと気がのっただけで普通はやらないんだよ。……あーあ、これで当たればもう一本買えたんだよなあ、液体チョコレート。この前やったパチンコを思い出すよ」

 渋々と自販機を見つめる陸の目に映るのは、側面のラベルを泥のような茶色で塗りたくったアルミ缶のサンプル。

 知る人ぞ知る本当の(つう)しかまともに飲むことができない悪魔の商品だ。ちなみに中身が固まらないようにあったかいの欄にある。

 当然康介はそんな事を知らない。軽く首を傾げて苦い顔をする。

「よく分かんねぇけどあんたって相当変なやつだ」

「伊達に何ヶ月もダラダラしてるわけじゃないからな。ま、今日は諦めといてやるか……」

 と、妥協の意を示した陸は最小限の目線移動でこちらを見ている人がいない事を確認し、自販機に鋭く蹴り込んだ。

 鈍い音と共に自販機の取り出し口にアルミ缶が現れる。

 それを取り出し、自販機の金属板で作られたフレームを友人にするようにバンバンと叩き、

「貰っとくぜ、今回はこれで許してやる」

 してやったりな笑みを浮かべる陸は、そのままエントランス前に備え付けられた公衆電話のような機械に近づく。

「なにやったんだよ今の」

「簡単さ。自販機のボトルやら缶やらを貯め込んだケースには厳重なロックが付いてるわけじゃないだろ。むしろ中身のレバーを操作しただけで全部排出させることもできる。そこをついて、そのレバーの動作を誤認させる衝撃を与えたのさ。まぁ、やったとしても無駄な努力に終わるし、まずやろうとも思わないでしょ」

 0〜9の数字がプリントされた銀色のボタンを片手で流れるように叩き、下の横長の同色のボタンを押した。

 それだけでガラス張りのスライドドアがひとりでに開いた。

「でもそれってやばいんじゃないか。バレなかったのかよ」

 床に薄っすらと自分の姿が映るぐらい磨かれたエントランスに足を踏み入れ、既にエレベーター前までたどり着いていた陸は悪戯気(いたずらげ)な笑顔で振り向く。

「知ってるか? バレなきゃ犯罪じゃないんだぜ」

 やけに軽快な音を立ててやってきたエレベーターが開いた。

 

 

    8

 

 

 陸が所属するチームの本拠地はビルの2階に設けられたテナントの一室を借りて作られている。

 西日も東日も受けない方角に窓があるため、朝も夕方も快適に過ごせる部屋は、一応と言っていい簡素な衝立でいろいろな部屋、または個室に区切られている。

 入り口は長机とパイプ椅子のみのカウンター。そこから繋がる少し広いエリアはチームのたまり場として殆どの主要メンバーがたむろする場所だ。敢えて名前をつけるなら応接間といったところか。

 乱雑に置かれたパイプ椅子はチーム内に几帳面、又は真面目な者がいないことが伺える。

 しかし今日だけはその適当な置き方が、キャンプファイヤーを囲むかのように、雑ながらも綺麗な円を描いていた。と言っても囲んでいるものは康介で、陸以外そこで円になるものはいない。

 

 その中の椅子一つに腰かけ、陸は懐から大口径拳銃であるトランスドライバを取り出す。

「お前らさ、こういう秘密兵器渡すんならもっと事前告知とかないのか。こいつマニュアルすら同封されてなかったぞ」

 恨みがましく愚痴を溢す陸に反応したのは衝立の向こう、カウンター席に座っていた女。いわゆる看板娘的存在の女だ。

「だってあなたが言ったことを全部やっても全く本気にならないでしょう? みんなの意見としてはぶっつけ本番に投下してやれと一致したんです」

「うっわ。うっわ! グルでいじめとかしょうもないことしてんなよ。い ち お う、実力差でなんとか退けたけどさ、チームメンバーぶつけられてたらワンチャン素で殴り倒してウィンしてたぞ」

「結局勝てるんだからいいじゃないですか。さすがエース、と言った感じで」

 にこやかに敬語で接する彼女はラッキィと呼ばれている。

 陸のフリードやピークもそうだが、彼らのコードネーム的な渾名は命名の経緯が全くわかっていない。フリードに関しては現リーダーがつけたが、その他は名義上(ぜん)リーダーのつけたものらしい。

 円の中心で立たされている康介はもちろんこの事を知らないので、心を無にして立ちっぱなしの苦しみに耐えている。

「そ、そういえばあのヴォルトって、なんなんです、かっ」

 やや苦痛に満ちた声。

 さして気にする素振りも見せず陸はふんぞりかえった。

「前に見せたシリンダがあっただろ、あの注射器みたいな。え〜っと……」

 オレンジ色のジャケットの裾に手を突っ込み、二つの半円がついたプランジャーに二本の指を引っ掛けて取り出す。

「これだ」

 注射器と陸が言ったとおり円筒型の本体に、持ち手となっている可動しないプランジャー。円筒の逆側はすぼまっているものの注入口になる針も穴もなく、真っ黒な端子が突き刺さっている。

「こいつの名前はスパーク。出自とか由来とかそういうのは聞かないほうがいい。ま、要するに殺人兵器だな」

「いぃっ!?」

「そんな身構えるものじゃないさ。人の脳に特殊な電気刺激を与えてヴォルトの為の能力を引き出すってだけだ。昔は電流使ってたから感電死とかあったけど」

「それ大丈夫じゃないと思うんだが……」

「そうだな。実を言うとおれはそんときのやつを使った世代だ」

 ぎょっと目を見開く康介。

 それにわざとらしく哄笑して見せると、陸はスパークの先端を首筋に当てる。

「でもその大きい電流で生き残ったやつはおれ以外にもちゃんといてな。それよりも前だっている、ピークとかここのリーダーとか。今は黒焦げ死体が見つかるなんてないんだけどな」

 スパークは元々即死させる程の電流を流し込んで楽に死なせるための人殺しの非道兵器。製造元秘匿も相俟ってスタンガンよりも危険なそれを誰も欲しがろうとはしなかった。

 しかしある日起こった事件以後、言伝で広まった噂により『トランス』という能力を得られることがスパークの運用を実用化させた、らしい。らしい、と言うのは誰が作っているか、誰が兵器を道具まで改良させたのかすらわからないからだ。

 現在出回っている9割方のスパークは様々なルートから仕入れた流通品だと言う話だ。そのルートも毎度毎度変わっており、人力以外でも特定ができない。

「おれ達ヴォルトはそうやって生まれた。経緯はどうであれ、どのチームでも主戦力だ。でもそれが街中にもばら撒かれてるとなっちゃ欲望(エゴ)を達成するには過ぎた力だよな。怪人って言わてるのはスパークを偶然手に入れた奴らってことだ」

 その例があの深川強という男だ。被害妄想で自分を見下していると判断した人間を一方的に甚振(いたぶ)る。彼は挙句の果てに殺害まで至っていたようだったが、その真意をおおよそ知ることはない。と言うより沈静化後は警察の管轄だ。こちらが手出ししても得るものはなにもない。あるとすれば誰からスパークを貰ったかという入手先に関する情報ぐらいか。

 ともかくこの街の実態は得体が知れない。

 未だ黒幕は掴めないし、そもそものスパークが起こす原理すら曖昧。ここ二十年もその謎が解かれないせいでわからないことが多すぎるのだ。

「そしてそれを制圧するのがおれ。暴れてんの制圧して、スパーク押収して、情報を引き出させる。同じくヴォルトであるおれの役割だ。今日からは仮面ライダーになったけどな」

 そう言って陸は得意げに胸を張る。

「でも戦うのはあくまでそのヴォルトって言うのだろ? スパークだって信用できるものじゃないんだから、いつか不具合が起きるとかないのか?」

 

「いや、実はないんだなそれが」

 

 と、唐突に陸のものではない男の声がたまり場に入った。それに目聡く反応したのはやはり陸。

「おっ、生きてたかピークぅ!」

「生きてたかじゃねぇよ。てめぇが犯人だろうが!」

「ハハハハ、それもそうだな(棒)」

 いつものノリで談笑するかと思いきや、すぐさま陸が切り返す。

「そんで、またなんかあったんだろ?」

「ご名答。ちょっと気になるやつを見つけてな。ちょっくら偵察してほしいんだよ」

「ふん?」

 その言葉に陸は少なからず疑問を抱いた。

 他人が聞けばただの依頼に聞こえるかもしれないが、ピークという男がこの街にいる人に関して興味を向けることはおかしな事なのだ。

 彼は言うまでもなくヴォルトであり、呼称名はライブラリ。調べるというよりは検索すると言った具合の探索能力は、チームの確かな歯車を担っている。その性質上、ほとんどの人は素性、趣味、性格を正確に調べ上げることができる。

 そんなピークが気を惹く存在は異質ということだ。

「なんだ? 情報タダで渡してやったんだから相当の対価だろ」

 もしもの時にかなりの危険を承知しなければならなかったが、

「うん、まあ……そうだな。やろう」

 断る理由もないので承諾した。

 

 

    9

 

 

 ピークに指定された位置。

 そこは住民の憩い場である公園だった。

 他と変わらず、雑草の生えた地面が露出する子供の遊び場以外は、コンクリートで覆われた灰色の公園。周りは住宅街に囲まれているが、近々マンションかアパートが建つようで、ビニールシートに周囲を囲まれた四角い建造物がそこかしこにある。

 子供連れの女性や男性が、休日の午後をのんびり過ごそうと休んでいる近くで陸(と康介)は予定の人物を探していた。

「さてさて目標は〜っと……」

 ベンチにふんぞり返って陸はきょろきょろと辺りを見回す。

 しかし公園にいるのは親子のオンパレードだ。時折リア充が混じってはいるが、目に付くような者は一向に見当たらなかった。

 と、油断していると不意に隣にいた康介が陸の方を向く。

「さっき出るとき、あのピークって人に言われたんだが、「気苦労させてやるな」ってどういう事なんだ?」

「それって本人に黙っとくべき事なんじゃないのか……? 言っとくけど、ピークの言うことはほとんど中身がなかったりする、覚えておいて損はない。でもまあ、それに関しては……働かせすぎておれに苦労させてんじゃないかってことだな」

「なんだそれ」

「深い意味はない。おまえが気にしてないんだったらいいさ。そういう事だからな」

 そう言って曖昧に話を切った。

 康介はなにかに納得したのか「ふーん」とだけ言って親子に目線を移す。

 今度は逆に陸が彼の横顔を見た。

 なんていうか真っ直ぐだな、と陸は思う。

 高校生だから話の中身をそれほど考えているわけではないのかもしれない。しかし重要な事の取捨選択というものが康介には出来ている。

 全部を全部抱え込む陸とは大違いだった。

 

 陸は初めからチームのエースと言われる存在ではなかった。

 今まで積み上げてきた苦悩があった。苦悶があった。苦労があった。その全てに折り合いをつけたとは言い難いし、無理矢理切り捨ててきたものもある。未だに拭いきれていないものだって幾つか散らばっている。

 それらが陸という男を、昔から変わることのない甘党でサボり常習犯の不真面目でくよくよ思い詰める人間を形作っていた。

 だから今も悩んでいる。あの深川強という男が起こした事の真意を。

 

「そういうのやっぱ羨ましいよ」

「ん?」

「なんでもない。さ、早くピークの言う興味深いやつを探そうか」

 そう思考をリフレッシュした瞬間だった。

 陸の視界になにかが蠢いた。

 それはヴォルトの変身能力を得た副作用として手に入れた視能でも捉えきるのでやっとだ。

 揺らめくような残像を残しながら動くそれは人と人との合間を縫いながら通り過ぎていった。

 ほんの一(まばた)きの出来事に、僅かでも戸惑ってしまった一瞬を突かれる。

「きゃ――――――!」

「しまった!」

 空気を張り割くような悲鳴と共に一体のヴォルトが小柄な少女を追いかけていた。

 咄嗟に名前を叫ぶ。

「康介!」

「どうすれば良い!?」

「あの子を保護次第離れろ! おれが抑える!」

「わかった!」

 康介の了承を待たずして、陸は屈み込んだ足に力を込める。

 前に蹴り出そうとする意思を力で抑えストッパーをかける。

 ギリギリと骨が軋み、動悸がひたすらに前へ前へと進みたがる。

 この間僅か一秒。

 康介が目の前を通り過ぎると同時に身体中のストッパーを外すと、副作用の筋力強化で倍増された脚力が陸を弾丸のように押し飛ばす。

 スタートダッシュの際に踏みしめられていた地面は陥没し、薄っすら生えていた雑草が根元から引きちぎれ茶色い土が丸見えになった。

 怪物の如き全身駆動でヴォルトへの距離、百メートルを約三秒で走破。その勢いのまま身体ごと身を投げ、ショルダータックルの要領でヴォルトを押し倒した。

 康介達の方へ転がった陸は不明瞭なノイズの塊になりながら立ち上がる。無論、周囲には五つの結晶が舞っている。

 

「変身」

 

 顔を隠すように左腕を上げると、時計回りに結晶が嵌め込まれた。

 鮮明になった姿はこの前の素体と似ている。

 しかし若干差異はあった。

 鋭い目が瞳孔のように丸くなり、目の周りに頭蓋骨の窪みのような黒い斑点模様がある。しかも結晶が嵌った部位以外に一歯一歯(ひとばひとば)が不揃いな鋭い骨が生えていたのである。

 この変化は彼がトランスドライバを介さないで変身した証。

 この姿こそが陸の変身する本来のヴォルトということだ。

 ――呼称名、スケルトン。

 まるでなにかのガワがついていたかのような外骨格。凶暴な見た目とは裏腹に、陸のバトルスタイルが反映されていることで、腕や足の鋭い骨は少し退化している。

 そう、ヴォルトには所謂学習機能というものが備わっている。もっと言えば生物が進化する(さま)とでも言ったところか。

 変身者の性格、戦い方、運動機能。それらを常時モニタリングすることで、戦えば戦うほど自分に合う姿に近づいていくというわけだ。

 陸の場合は全身の武器を活用する戦い方から拳で殴り飛ばす戦い方に。先日戦ったオブザーバならただの杖が鎌になったりと、多種多様に変化する。

 そして今のスケルトンは既に陸の使い方に馴染んだ、理想の姿だと言える。

 野性的な、腰をやや低めに落とした構えで敵を見据える。

「来い!」

「うう……ぅ」

 対して向かい合うのは前にも何度か見た姿。フェアリーと呼ばれるヴォルト。紳士のような出で立ちをした姿だったはずだが、変身者に合わせているのか、頭に被っていたシルクハットが消えている。

「ぁっ!」

 声にならない声を発しフェアリーが猛る。

 右前腕に取り付けられた結晶の上に小型のリボルバーカノンが召喚され、その砲口が陸へ向く。

 二度三度マズルフラッシュが起こると、ゴポッという音と共に陸の足元の地面が抉れた。

 だがそれよりも速く、陸は地面を蹴飛ばしている。

「うぉおらぁっ!」

 前方へ跳躍、すれ違いざまにこちらへ照準を向けるリボルバーカノンの砲身を蹴り潰す。ひしゃげた砲身が小さい爆炎を上げ、フェアリーがよろめいた。

 そして二撃目と左足を下げ、左へと振り向く際の速度を乗せた右のボディブローを相手の腹部へ放つ。

 その拳は腹部に潜り込みダメージを与えるばかりではなく、陸がさらに二、三歩踏み出しかち上げることで、腕一本で軽々とフェアリーを放り投げた。

 これはフェアリーの身体が元々軽くなるように設計されているのもあるが、その軽量性は飛行する際の障害にならない程度の調整しかされておらず、腕のみで浮かせるというのは、それほど陸の膂力が桁外れだと言うことだ。

 先程の一撃を見舞ってから未だふらつくフェアリーに、陸は右足を引き右腕を引き絞る構えで応えた。

「呆気ないな。んじゃ、必殺技でフィニッシュだ」

 と、決め台詞を言い相対する敵へ全速力で接近するも、今はあくまでヴォルト。仮面ライダーの力は使えない身であるから、叩き込むのはごく普通のパンチとなってしまう。

 しかし、もしも万全な状態で叩き込めたなら、無理な態勢ではなく、妨害もなく、しっかりとした力の伝達を行えたとするなら、それは一撃必殺と呼んで遜色ない威力へと昇華する。

 スケルトンは陸からの性質変化で攻撃特化仕様。防御の薄い相手ならワンツーコンボを決めただけでも瀕死に追い込める性能を持ち、悪質なことに骨格の呼び名を持ちながらも、変身者の筋力強化で威力の上乗せが出来てしまう特攻ヴォルトなのである。当れば致命傷必至の一撃を放てることからチーム間では短期決戦型と、誰もが諍いを避けたがる。

 そんな彼の必殺技。なまじ防御の薄い、飛行前提の性質のフェアリーが受ければ変身者の身に振りかかる衝撃は桁外れなものだろう。

 それを陸自身も無自覚に認知していたからだろう。その必殺技を止めざるを得なかったのは、今まで康介に保護されていた少女の叫び声のせいだった。

 

「ママ!」

 

 ――ピタッ。

 幼い児童特有の甲高い声が空気を伝わり、陸の耳に届いた時、既に振り抜けば拳が当たる距離まで近づいていた彼の動きが止まった。

「ママ……ってことは、あの子の母親!?」

 驚愕のあまり一度目を逸らしてしまったことが仇となる。

 一瞬の()、目の前に突き出されたのはもう片方の腕に召喚されたリボルバーカノンの砲口。手の先から握り拳二つ分飛び出た鉛色の砲身の根元には、発射機構や回転式弾倉、薬室が詰まった円筒が、埋め込まれた結晶の上に存在していた。

「しまっ……!」

 防御に徹する暇はなかった。

 ただ、強化された感覚が、今から自分を撃ち抜く弾丸の挙動を、見えない場所まで余すことなく捉えてしまう。

 ヴォルトの光を反射しない真っ白な甲殻とは違い、鈍色に陽光を反射する回転式弾倉が、小さな火花を上げながら一つ分回転し、薬室から収まりきれない爆発の風圧で弾丸が射出。砲身を伝わり、内部のライフリングで旋転され、砲口から飛び出た。

 リボルバーカノンの口径は小銃のように小さくはない。今でも目に見て分かるほどの大きな穴だ。人間の肉体を容易にちぎり飛ばすくらいなら造作も無いだろう。

 そんな威力を持った弾丸はもう、頭の目の前へ――。

 

 ズゴンッ!

 

 陸の身体は軽々と空中へと、甲殻の欠片を散らしながら真後ろへ吹き飛んだ。




 こう、いつかパッと次回「○○」って予告して期待を煽りたいです。
 書き溜めなきゃ行けないんでしょうけど。

 
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