変異特異点 理想国家 ブリテン 作:メイトリックス大佐
清廉潔白、滅私奉公を貫いた王がいた。王の正しさに騎士たちはかしずき、民は貧窮に耐える希望を王に見た。
そんな王を愛した男がかつていた。王を人として見て少女として扱った男がいた。理想に裏切られながらもその生を全うした男がいた。
彼女は伏せがちな瞳で、何かを耐えるような声で
「シロウ―――貴方を、愛している。―――しかし、私は」
そう言いながら彼女は消えていった。
―――あぁ―――その時オレは何を思ったのだろうか―――
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ふと、目が覚めた。
今の己はサーヴァントの身、食事も睡眠も必要ない、ただの現世へ現れた影法師。現在は自分の意思で行動し世界を守ることに協力しているが、この旅が終焉を迎えた時自分はまた世界を守る歯車として動くことになるのだろう。
懐かしい夢を見た。懐かしい夢を見た。―――忘れてはいけなかったことであろう、摩耗して薄れていた夢を見た。あの時、オレは何を思ったのだろうか。
『特異点の発生を確認した。ブリーフィングを始めるからマスターとサーヴァントは集合してくれ』
やれやれ、考えることも出来ない職場だと、そう思ってしまう。
だが、確かに自分が今している仕事は抑止力の仕事ではない人を救うための「正義の味方」をやれている。このことは自分でもはっきりと自信を持って答えることが出来る。
今のオレを『彼女』が見たらどう思うのだろうか?
「よく、集まってくれた。今回特異点が発生した時代と場所は約5世紀、場所はブリテンだ。この時代だと騎士王、アーサー王が治めていた時代であり、それがうまくいってないなんらかのイレギュラーが起きているのではないかと予想されている。あぁ、約といったことには意味があってね。どうやらこの特異点は時代があいまいで時の流れがおかしなようなんだ。そのため約という表現をさせてもらったがレイシフトに関しては安全面が保障されていることは安心してほしい」
そう、ロマニ・アーキマンの後を継いだレオナルド・ダ・ヴィンチが告げる。それを聞き我がマスターが一緒にレイシフトするサーヴァントを選出しているが、
「一ついいかね、マスター?今回のレイシフトだが、私を編成にいれてもらうことはできないだろうか?……いや、何か理由があるというわけではない。何かね、マスターその目は?アルトリアを見る時の私の目が優しいだと?それが関係しているのかだと?ふん、君もそういった冗談を言うことができるようになったとは驚きだ」
自分の存在を推すとそのような答えが返ってきたので、今朝のことを思い出したため皮肉を言っておく。
ゴメン、ゴメン冗談だよ。エミヤが珍しく自分から言うならレイシフトの編成に入れるからと我がマスターの言葉に感謝を述べるとともに胸の中にある嫌な予感、いや己を何かが呼んでいるような感覚はレイシフト寸前まで消えなかったのだった。
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「ふぅ……レイシフトには成功したようだがマスターとははぐれたようだな」
レイシフトには成功したが、どうやらはぐれてしまったらしい。すぐにカルデアに連絡を取ると他にマスターが連れていったサーヴァントたちは無事に護衛につけていることが確認できた。合流を目指しつつ情報の収集を行うと伝えると了解という返事をもらった。
あぁ、ここが彼女が生きていた時代で故郷、治めていた時代なのか。生前の自分ではまさか自分が彼女の時代に赴くことがあるなんて思いもしなかっただろう。2000年代の自分では考えられないような神秘や魔力が世界に満ちていることがサーヴァントという神秘になった自分でも驚くほど分かる。これほどの神秘が残っている中で生まれたのならばあれだけの力を持っていたとしても不思議ではないだろう。
道に沿って移動していると、数キロ先に煙が見えた。まさか、戦闘かと眼をこらすとただ食事のための煙が起きていることが確認できた。煙の発生源には村があり、火の回りでは子供たちが遊んでいる。
話を聞くために立ち寄ると彼らはとても親切に現状を教えてくれた。曰く、自分たちは貧しいが国が平和になって子供たちが笑って暮らせるようになった、子どもが戦争で兵として行かなくなり孫の顔が見れるようになった、今度畑にうまい麦ができるのだと彼らは様々なことを教えてくれた。貧しいといいながらも疲れているだろうと見ず知らずの私にパンをあたえ彼らは笑顔で話すのだ。
確かに彼女は自分の治める時代において政治をし、多くの民を救おうと尽力していた。そのことを実感したのだ。いずれ身内で争い滅びてしまったが盟友たちと協力し彼女は国を治めた。生きた証は人々の笑顔という形でこの世に存在していた。
「ああ――安心した」
確かに彼女は生きていた。生まれた場所も時代も違った。話す言語も文化も違った。髪や肌の色見た目も違った。ありとあらゆるものが違う自分たちが、時代を超えてサーヴァントと未熟なマスターとしてあの過酷な聖杯戦争を戦ったのだ。
「安心したって何だい、兄ちゃん。そんなに休みたいくらい旅がきつかったのかい、ガハハハ」
とパンをくれた村人が笑う。
「いや、そうじゃない。平和な時代だと優れた王が統治しているのだなと実感したんだ」
「そうだろ、そうだろ。あの方は我らの理想の王だ。騎士様を引き連れ国を統治し守ってくださる」
個人を見ず、王として自分の理想で判断しその光で見えなくなっていることに思うことはあったが、それもまたこの時代である。仕方ないことがあるだろうし、彼女がそれを是としたのだ。時代が違う文字通りの旅人が言う資格はないだろう。オレが愛し、こんな自分を愛してくれた……『セイバー』と呼んでいた騎士王『アルトリア・ペンドラゴン』は一つの時代に生きていたのだ。
「素晴らしい統治だ。人々が笑い王を尊敬し生きているさぞすばらしいんだろうな、『アーサー王』は」
実感できたことに笑いながらそう言うと、不思議そうな顔で村人はこう言ったのだ
「アーサー王?それは誰だ?」
その王は確かにいた。いたはずなのだ。騎士を率い国を治めた騎士王は存在していた。
人々に希望を持たせ前へと進ませた王は存在していた。
壊れていた男を愛した女がいた。いたはずだった。何か足りなかったことにより、分かりあえない部分があったが確かに男を愛した女は存在していた