変異特異点 理想国家 ブリテン 作:メイトリックス大佐
男は答えた。愛していたからと。
「その通りだ、衛宮士郎。さて、どうしてその結論に至ったのかな?」
満足したという顔でマーリンが見つめてくるが
「この特異点に来てから、アーサー王がいない歴史が生まれているという時点でそれが特異点の理由であることは理解した。しかし、今までの経験から言って特異点が生まれた時それには聖杯が用いられ何かしらの
「つまりそこから推測したと?だが他にも違う世界のアルトリアはいるはずだ。槍を用いた可能性や属性を反転した可能性、サーヴァントとして君も聖杯戦争に参加したならいくつか違う可能性があることも分かってるんじゃないかい?」
「その通りだ、花の魔術師。俺もカルデアに所属する身だ。彼女の可能性の多さにはその……だな、まぁ驚いたとだけは言わせてもらおう。だが、彼女たちと話していて思ったのだ。彼女たちには全てを投げ捨ててでも聖杯が取りたいのかとな。事実、剣を用いた属性も反転していないアルトリアと話したが俺の知るセイバーのような何が何でも聖杯が欲しいというような冬木のセイバーほどの熱意には見えなかった。それにな――――」
言葉を続けようと思ったがこれを他人に、ましてや彼女の知り合いに言うとなると恥というものも出てくるのだが
「それに何だい?他にも思うことや考えていることがあるのかい?」
こっちの回答を予測しているのだという態度がこのタヌキの口元が笑っているから予測できた。だがここまで言ったのならば最後まで言わなければいけないのだろう。
「彼女は穢れた聖杯を使わず現世の者のために聖杯を諦めて破壊し消えた。別れの際……あぁ笑うな、花の魔術師!その――――このような愚か者を愛していると言って消えた。しかし、俺では彼女の願いは否定できなかった。諦めてはいなかったんだ。現時点でこの世界は特異点と化している。それをアルトリアが許容できるかといったら否だろう。しかし、現実は彼女が原因だ。間違いであったと気付いていても諦めなかった『
「驚いた。今のアルトリアの状況までほとんど理解していたとは。そうかあの子を記憶や体が摩耗した身であってもここまで思ってくれるものがいたとはね――――いや、人は素晴らしい!せめていうなら、君がこの時代に生まれてくれていれば……と思うがこれは僕でもどうしようもない。では、最初にここに来たわけだが君にはもうアルトリアの居場所が分かるんじゃないのかい?」
驚いたという表情の後に、満面の笑みを浮かべる、マーリン。このような姿はカルデアで見たことのある表情ではない。やつにとってもアルトリアは思われる存在であったということは認識できたので多少は見直した部分も出てきたのではないだろうか。やつの回答に思う場所は一つある……だがしかしその場所は、○○士郎が死に、衛宮士郎になったといっても過言ではないあの災害の中心地に当たる場所といえるような場所だ。
「――――カムランの戦い。そこがあったであろう場所なんだろう?彼女は摩耗している、罪の意識にとらわれている、それならば安息できる場所にいるなんてありえない。彼女にとっての地獄の業火で常に炙られていたいと思えるほどの場所とはそことしか思えない。俺は止まれなかった。生まれ変わった原初の記憶において多くの人を見捨てて自分だけが助かったからだ。歩みを止めることは許されない。歩みを止めていいのは自分だけが地獄に残り、ほかの人たちが笑ってくれていればいいとさえ思っていた。今のアルトリアがいたい場所はカムランの戦いの地しか俺には思いつかん」
「―――あぁ、そうだ。そうだ、そうだ、そうだとも!――――素晴らしい!状況と彼女の心境だけでそこまで至ったか!これが愛か、これが人か!人は地獄に落ちて自分が無くなりかけてもここまで相手を想えるのか!
――――僕は本当に、美しいものを見ている。時代や責務が君たちを分かち交えずともつながる思いはあり、愚かな行為でも聖杯を求めたからこそ、辿り着いた愛があった。おめでとう、責務により分かたれた『
興奮した様子でマーリンが杖を用いて地面を叩くと花が咲き一つの道を作り出した
「行け、アルトリアの鞘よ、剣の鞘よ。その花は彼女の居場所まで続いている。君たちの時代ではカムランの戦いが起きた場所は不明確だろう。花たちが導いてくれる。さらばだ、衛宮士郎。その花たちが祝福の花となることを、君たちの本当の別れが幸多いことになることを願うよ」
かくして、男は女の下へ至る。時代や年月が彼らを隔てていても想いはそれをつないでいた。例え、男が養父との別れの記憶と呪いを継いだこと、女と出会ったことしか記憶に残せないほど掠れきってもつながりは残っていた。
「あぁ――――素晴らしいものを見た。あえて、独り言で言うけどね衛宮士郎くん。僕も説得は一応試みたんだ。だが彼女は頑固者でね、いや君と実に似ている。君はアルトリアのことに必死で気付かなかったのかもしれないが、この時代のブリテンの王は私の後見が無ければ成りえない。さすがに僕もあれほど変わり果てた残骸のような彼女の願いをその健闘を結果にしてやらないということは出来なかった。僕の本体が呼ばれたときはどうしようかと思ったが、カルデアが――――いや君がいることを知っていた。彼女を救えるのは君だけであり、君が来るのを待っていた。特異点が見つからないようにあの子が工夫していたのも苦労したが破らせてもらった。その結果、君はこの特異点に現れ、彼女の痕跡からここにまでたどり着いた。責任を感じる身としては君のような運命が現れてくれて間違いを正してくれることに感謝している。さぁ――――終わりの時は近い。君たちはどんな終わりで筆を終わらせてくれるのかな?」