変異特異点 理想国家 ブリテン 作:メイトリックス大佐
それを女は理解していた。愛した男が言うことが正しいのだと。
男の理想は自分と似ていると。しかし彼は自分とは異なる道を選んだ。
人は前へ進む。過去にあったことは変えてはならず進み続ける。
そんな彼の愛に彼女は共感しきれなかった。分かっていた理解っていた。
別れたあとに人を救うために人を守るために人を殺すという矛盾で女は摩耗した。本当の自分はただ民が笑ってくれれば良かったのに。
最後の希望を捨て、人として見てくれた存在さえ失った。
「……っと、これがこの特異点の真実だ。……そうか、アーサー王はおらず円卓の騎士はいなかったか。この特異点に入った時、何か見知ったような感覚があった。つまりだねこの特異点は……」
目指す場所は指し示された。この身はサーヴァント、マスターへこの特異点の真実を伝えておく。そして、マスターからの情報でピースがかみ合った。
「マスター、この特異点の最期の始末は私に一任してもらうことはできないだろうか?……当然の質問だな。まずこの特異点のアルトリアは君の知るアルトリアではない。今回の特異点を解決しても今回はダメだったでまた同じことを繰り返す。似た形で、さらに高度に隠蔽して手遅れなレベルで構築することも考えられるな」
全ての情報と考察を伝え、最後の指示を仰ぐ。もし私で今回ダメだったなら、後始末はマスターにしてもらわなければならない。今回の特異点を解除してもアルトリアが諦めず新しい特異点を作るとイタチごっこになってしまうが解決しなければならないのは事実なのでマスターに保険を頼む。無茶な頼みをしているのは分かっているのだが、
「あぁ、了解した。――――いや、まったく成長したな君は。数々の旅の積み重ねで君は変わった。もちろんいい意味の方でだが。今回の特異点の解決法が、使命感に縛られた王に対して拗らせた男を向かわせるという作戦を了承するとはな。――――何?信頼しているからだと?ふふっ、いや失礼。何、生前に活動していた際、信頼という言葉とは無縁でな。死後になって背を任せ、信頼してくれる主君に恵まれるとはなと思っただけだ。全力で解決することを誓おう」
そう言ってマスターとの連絡を切る。言葉に出して言ったが無知でただ善良な人間であったマスターが、大局を判断し優れた指示が出せるように、己のサーヴァントたちをうまく扱えるようになった成長を素直に喜べた。これなら大丈夫だろう。後顧の憂いは断った。保険も作り、道は続いている。この先に色あせた己が今でも忘れられない
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花はそこで途切れていた。どうやら、ここが終着点らしい。視界は澄んで、黄金を思い起こす草を風が揺らしている。一見すると何も見えない美しい場所に感じ、知っていたとしても普通は違和感を感じることはできない。だが、一種の結界じみた空間があることを認識した。しかし、
「――――あぁ」
この身は無限の剣を内包し、世界の変化には敏感である。そして何よりも、この感覚を私は知っている。オレは知っている。俺は知っていたのだ。なぜならそれは返還するまで俺の体に馴染んでいたもの。幼き己を救うために養父が用いたもの。
「――――――――」
普通ならこれは異物を弾くだろう。しかしこの身は彼女の鞘である。ならば――――己を受け入れないことはあり得ない
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「――――ああ」
ブリキの体に、心臓に熱いものが駆け巡る。エーテルで生成された身だがそれだけは感じた。
死体はない。だが、血にまみれた赤い丘の中心に彼女はいた。黒いぼろきれを身にまとい、凛としたあの雰囲気は見る影もない。一般の者が近付いたなら、顔をしかめすぐその場から離れるだろう。それほどの変わりよう。苦悩が、自分を憎んだ呪いが、怨嗟が、嘆きが全てが彼女を変えていた。
「――――――――――――また現れたのか
伏せた顔から発せられたその声に息を飲む。――――己はまだ気づいていなかった事実があったようだ。すでに自分は――――
「――――私は諦めない。諦めてはいけない。この身は特異点に生まれた王に全てが与えられたために、剣も槍も楯もない。たやすく首を討ち取れる身だ。殺せ、だが私は諦めない。抑止力、お前では私を諦めさせられない」
抑止力――――自分の本来の仕事。人々を救うために世界と契約し死後「抑止の守護者」として殺し続けた。ああ、特異点が発生するほどの異変、アラヤが許すはずがない。つまり……
「この身は最後に残った希望を切り捨てた愚か者だ。諦めることは許されない。」
その言葉に驚く。彼女を、セイバーを、アルトリアを縛りつけている希望――――それは俺に他ならず、抑止の守護者として意識はなかったが絶望を与えていたのは「
「――――――――セイバー」
掠れるような声で彼女の名を呼ぶ。
「――――私は諦めない……え?」
呪詛のように呟いていた言葉が途切れた。
「そんなことはありえない!図ったか抑止力、私の心を折るためにここまでするか!」
「――――いや、俺の意思だよセイバー」
俺の言葉にセイバーが伏せた顔を上げる。忘れられなかった翡翠の目は絶望で暗くなり、血に顔は塗れている。結っていた髪は広がり、身にまとっている黒い血に濡れたぼろ布も相まって悪鬼のようにさえ感じてしまう。俺の言葉で限界まで目を見開き、彼女は錯乱した
「そんな……どうして。こんな所まで……なぜ?なぜです?私は……私はあああああああああ!」
近づくために一歩踏み出す。その足取りは重く、さらに
「い、いや。見ないで!近づかないでください!私はもう貴方の知る私ではない!」
驚きで立てないのか体を引きずりながら後退する。
「来ないでください。忘れてください。殺してください。なぜ?なぜ貴方が?――――いや!近づかないで!」
最後には彼女は子供のように、下がりながら、慟哭しながら土や草を投げつけてきた。その一つ一つが重く、一歩が沼にはまった足のように重かった。だが、鞘である自分が剣を受け入れないでどうするのか。
「迎えに来た――――――――ただいまセイバー」
「どうして来てしまったのです?――――――――おかえりなさい、シロウ」
俺の抱擁に彼女は泣きながら答えた。別れをしてから時は経った。生前も守護者となってからも時は流れた。手に入れては失い、救っては失う。だが自分が、俺が一番求めて止まなかった存在とついに再会した――――
長く、永く、永久く、そんな旅は終着した。星が流れ、太陽が顔を出すこと無限のごとく。
求めて求めて求めて求めて足りなかった欠片がここに集まった。