残念な深海棲艦がいるらしい   作:鷹山

1 / 1
未プレイなのに二次創作書くとこうなる。


残念な一話

 或る者曰く、‘そこ’は常世への入り口。

 或る者曰く、‘そこ’は憎悪と悔恨の集う鬼門。

 或る者曰く、‘そこ’は人の姿をした人ならざる者たちの棲家。

 

 正直者を気取る俗人たちは、本当にこの目で見たのだと唾を飛ばし声高に叫ぶ。が、どれを話題に挙げてみても眉唾で信じ難く、いわば都市伝説に酷似した戯言の域を出ない。ならば早々に話題を切り上げ、将来に活かせる勉学に励んだほうがよほど建設的だと言える。

 しかし、火のないところに煙りは立たぬもの。出どころ定かならずとも、耳を澄ませばほら、‘そこ’から聞こえてくるだろう。小さく息づくか細い声が。

 

「いつかきっと、またあの空の下で」と。……微かに幽かに。されど確かに。

 

 鈍色に光って凪ぐ海原の何処かに、血化粧を施されたかの如き緋色に染め上げられた海域がある。

 転覆したままの駆逐艦。船首のみ水面から顔を出す軽巡。無様に座礁した重巡。誰に知られる事なく水底に眠る潜水艦。隈無く焼け焦げた甲板を晒す空母。くの字に裂けた雷巡。……役目も帰還も果たせず朽ち果てたる軍艦たちの末期の姿。涙無しには語れまい。

 この世から名も存在すらも忘れられて尚、過去の栄華を取り戻さんと集う彼らを見て、誰が最初に言い出したのか‘そこ’はこう呼ばれた。

 

 ‘艦の墓場’と。

 

 その中心にて威風堂々と佇むは超弩級戦艦。

 既に艦としての機能は喪失し、死に体と化して久しい。にもかかわらず、未だ士気を失墜させることなく海原に鎮座し、散っていった周囲の戦友を悼む姿は見るものを圧倒させると同時に、心を打つ。

 

 百人単位の人々を並べても充分な余裕のある巨大な戦艦の甲板に、透けるような白い肌を惜しげもなく陽光に晒す女性が二人。

 お互い、懐かしさすら感じる潮風に長い長い白髪を靡かせ、憂鬱そうに水平線を眺める。黄昏深きその姿は人智より隔絶された妖艶さが滲み出ており、神話を題材にした絵画のようにも見えた。

 それもそのはず、この二人は……いや、二隻は深淵にも劣らぬ深海より突如現れたる人類の天敵。世が世なら、海の女神かと畏怖されてもなんらおかしなことのない美貌を持つ異端の人外。

 調べれば調べるほど謎が深まる彼女たちを、人々は深海棲艦と呼称し敵性生物と定め、そして恐れた。

 

「ネェ、飛行場姫」

 

 下腹部まで隠すセーラー服、さらに籠手と足甲で防備を固めた少女……空母棲鬼が造形美しい唇を開く。白い肌とは対照的に、いずれの装備も闇を象る漆黒。唯一愛らしい洒落っ気のあるサイドテールの先を指で弄りながら、隣りに並び立つ飛行場姫に話しかける。

 

「ン? 何?」

 

 関心の浅い簡単な受け答えと円らな瞳だけを返して、飛行場姫と呼ばれた少女は本題を待つ。

 円錐型の角を持つ飛行場姫は一見全裸にも見える。されど、それは誤り。実際は白肌にぴっちりとした白スーツを着用しているだけである。紛らわしいとも思われるが、形良く張りのある乳房や尻が激しい自己主張をしている為、全裸との差異はあまり無い。見た目に関する羞恥心は乏しいようだ。

 

 それにしても、いったい空母棲鬼は何を語るつもりなのだろうか。人類抹殺の秘策か、それとも外堀を埋める緻密な計画か、あるいは時間をかけて嬲りモノにする非情な遊興か。

 何にせよ、人類にとってロクな事にはならぬであろう。何故なら彼女たちは深海棲艦……、復讐と絶望に囚われた哀しき存在なのだから。

 

「甘イ物食ベタクナイ? 何カ無性に食ベタクナッタンダケド」

「食ベタイ、私アレ食ベタイ。アノサクサクスルヤツ、アレ食ベタイ」

「アレ何ダッケ? くっきーダッケ? 飛行場姫くっきー好キダヨネー。私モアノサクサク感好キ」

「くっきー? びすけっとジャナカッタ?」

「ンー……分カンナイ。ドッチダッケ? トニカク甘イ物食ベタイ」

 

 甘味。それは乙女の燃料。

 復讐と絶望に囚われた哀しき存在といえど乙女なので、甘味が好物且つ必須なのは道理と言える。抹殺とか復讐とかそんなんよりも、甘くてサクサクするヤツの方が彼女たちにとって万倍は重要なのである。

 しかし、あのサクサク感半端ない幸福をもたらす不思議なお菓子であるクッキーだかビスケットだかを食べたくても、現況ではそう簡単にはいかない。

 自前で調理できれば良いのだが、深海棲艦たちの手元には甘味を作る為の材料がなかなか手に入らない。ゆえに、甘味を手にするには通り掛かりの輸送艦から奪うことだけが唯一の手段となる。されど、奪うにしても大きな障害があった……艦娘である。

 

「襲ウニシテモ、艦娘ガスグ邪魔スルカラナー」

「自分タチバッカリアノサクサクスルヤツトカ食ベテ……何ナノアノ娘タチ……モウ、ズルイ! ケチ! 貧乳! 無駄にデカ乳!」

 

 艦娘。それは深海棲艦に対する最後の希望。平和の為に凛々しく戦場を駆け、何者にも屈服しない海の戦士である。

 それと薄い本でも活躍している。女性に縁の無い男性から圧倒的な支持を得ていると、海上だけでなく誌面上でも活躍せねばならないらしい……最後の希望とやらも、色々大変だ。

 

 件の艦娘たちはただ自衛・護衛に徹しているだけであり、彼女たちに非は無い。だからといって、甘味処へ赴きパフェだのケーキだのアイスだの聞いたことがあるだけで想像するしかない甘味を日常的に食す艦娘を、深海棲艦が許せるはずもなかった。

 甘味の為なら逆恨みも正当化して真っ直ぐに襲いかかる……それが深海棲艦の真骨頂である。そして大体失敗する。

 成功しても大半は北方棲姫という幼い深海棲艦のおやつになる。ちょっと悔しいけれど、食べてる姿が可愛いので皆も許しちゃう。北方棲姫は皆に愛されている。北方棲姫も皆の事が大好きである。

 

「何カ良イ案無イ? 被害ガ無クテ、甘イモノガ全員ニ行キ渡ッテ、艦娘ニ嫌ガラセ二ナル……ソンナ案無イ?」

 

 空母棲鬼の無理難題に、飛行場姫は眼を閉じ腕を組んでうんうん唸る。空母棲鬼も空を見上げて思い耽る。

 憎っくき艦娘に嫌がらせをしつつ、深海棲艦が被害被らずに利を得る名案……そうそう浮かぶものではない。それでも空母棲鬼と飛行場姫は考える。そう、すべては甘い物を食べるために。叶うならばチョコ系が良い。具体的に言うとカントゥリーマウム(ココア味)が良い。あれは本当に美味しかったなと、空母棲鬼と飛行場姫は涎を垂らしながら考える。

 

 そんな中、何処からか流れてくる能天気な声。

 はて何事かと二隻は視線をやると、そこには「ヲッヲッ」と独特な悲鳴をあげながら逃げる空母ヲ級と無邪気に追いかける北方棲姫。どうやら追いかけっこの最中のようだ。捕まるかどうかの絶妙な距離感を保ちながら甲板上を蛇行しながら駆け回る。その姿がなんだか可笑しくて空母棲鬼と飛行場姫はくつくつと笑う。

 

 しばらくすると、丈に合わない杖と黒マントを身につけた北方棲姫の姿があった。小さな小さな魔女はフンスッと鼻息ならして、空母ヲ級から剥いだ戦利品を翻して胸を張る。その足元には、女の子座りにて小さな白旗を揚げるヲ級。

 ふと、それを見た飛行場姫は「アッ!」と声を張る。それは青天の霹靂にも似た閃きが身体を貫いた瞬間である。津波のような衝動に委ねるままに円らな瞳をカッと見開き……。

 

「コレダッ!!」

 

 それだけ言い残して艦内へと疾走。如何なる用事なのか「港湾! 港湾ドコ!?」と叫び、続けざまに「痛ーイ!!」という悲鳴があがる。何かにぶつかったらしい。

 

「ヲ?」

「飛行場姫……ドウシタノ?」

 

 飛行場姫による突然の奇行に、ヲ級は未だ白旗を揚げながら首を傾げ、北方棲姫は心配そうに空母棲鬼のセーラー服の裾を引っ張り訊ねる。そんな北方棲姫に心配無用とばかりに、頭を撫でながら空母棲鬼は言った。

 

「モシカシタラ飛行場姫ノオカゲデ、サクサクスルヤツガ沢山食ベラレルカモシレナイゾ」

「サクサクスルヤツ? 本当にサクサクスルヤツ食ベレルノ? タクサン!? スゴイ! 飛行場姫スゴイ!」

「ヲー!」

 

 ヲ級と北方棲姫の歓喜の声に、艦橋に止まっていたウミネコは飛び去っていった。

 

 今日も深海棲艦は残念だ。

 

 

 

 




深海棲艦はサクサクする甘いヤツが好き。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。