陽だまりシリーズ:小日向未来<放浪>   作:ヨザリイコイ

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さて今回は原作の『1984年』に登場したとあるキャラクターが出てきます。もっとも名前が出てこない人ではありますが。


chapter17.過去の生き証人

 カラスの鳴き声がする。

 むくりと起き上がり、寝ぼけ眼で辺りを見回す。

「もう朝かぁ」

 ベッドからのそのそと起き出して窓の外を見る。太陽に照らされた白いピラミッドが一段と輝いて見えた。眩しい。

 昨日、党内局入りを承諾した後、ハンナさんのアパートに送ってもらった。しばらくは元と同じ生活を送りつつ、プロレの内情を見てきてほしいからだとか。

 それはともかく。

「お腹空いた」

 そういえば昨日はヴィクトリー・ジンを飲んだだけで他には何も食べてない。

「ここに何かないかな」

 キッチンを漁ってもいいと言われているので、何か残ってないか探してみる。何もない。パンくずすらない。

「思想警察の人たち、全部持ってっちゃったんだ。何も仕掛けてないからいいけど」

 何か仕掛けられてないか神獣鏡を使って昨日調べてみたら何もなかったから安心できた。食べ物持ってかれたけど。

「まぁ、いいや。マイケルさんから身分証明書と当面の生活費は貰ってるし、何か買いに行こう」

 寝ているハンナさんを起こして、私達は買い出しに行った。危ないしね。不案内なところだから。

 

 

 

 

「参ったね。パン屋に麦すらないなんて!」

「何にもなかったね。何で開けてるのか不思議なくらい」

 パン屋に行ったが、何にもなかった。どうやら物資不足というのは本当らしい。

「八百屋にも腐った野菜しかないし…。ヴィクトリー・コーヒーもない。肉屋には脂すらない。どうしたもんかね」

「これじゃ今日は食事抜きかな」

 ハンナさんは少し考えてからこう言った。

「そういや、パブはまだ言ってなかったね。ビールが残ってるとは思えないけど。行くだけ行ってみようか」

 またお酒飲むことになるけど、この際そんなこと気にしていられない。

 結局、2人でパブに行くことになった。初めてだな、パブって。

 

 

 

 

 ハンナさんの馴染みのパブに2人で行った。

 行ってみるとどうやらビールはまだあるらしい。中には結構人がいた。

 2人で半リットルのビールを頼み、飲む。ビールってこんなもんなのかな。そう思ってると後ろで声がした。

「だから言ってるだろう!1パイントのジョッキはないのか!」

 後ろを見てみると白髪に白い髭を生やしたお爺さんがバーテンダーに怒鳴ってた。

「爺さん、その1パイントってのはなんだい?」

「おいおい、バーテンダーのくせにパイントも知らんのか。30年前にもこの酒場で同じことを言ったが、まるきり変わっとらん!」

 30年前にもって…。ずいぶん長生きしてる人だなぁ。

「あの爺さん、また騒いでるよ」

「有名なの?」

「あぁ。 いつもああやってパイントとかなんとか言ってんのさ。パブには1リットルか半リットルのジョッキしかないのに」

「オセアニアができる前から呑んでる人だからじゃない?それならそういうことを知っててもおかしくないよ」

「なるほどな」

 そんなことを話してると後ろで音がした。

 振り返るとさっきのお爺さんがジョッキを持ったまま転んでいた。中のビールが溢れてしまってた。

「あぁ、ちくしょう。年をとるとどうもいかん。足がふらついちまう」

「お、お爺さん大丈夫?私が一杯奢るよ」

 私は駆け寄ってそういった。ビールをバーから急いでもらってきて、お爺さんに手渡した。

「お嬢さん。あんたはいい女だ!」

 私が手渡したビールを一気に飲み干してお爺さんはこう言った。

「わしが若い頃にあんたぐらいの娘に一杯奢ってもらったことがあったな。あの頃は良かった。ビールは今よりずっと安かったし、それにうまかったしな。もっとも戦争が起きる前だが」

「へぇ、そうなんだ。それっていつ?この国が出来る前?」

「確か前だったな。出来てからビールが不味くなったから」

「今はどうなの?」

「あの時に比べると食い物は高いしあまりない。ここ最近はもうビールくらいしか腹に入れとらん。しかもうまいとはいえん。困ったもんさ」

「そうなんだ」

 どうもこのお爺さん、私が考えていたようにオセアニアが出来る前、多分イギリスがまだあった時から生きてる人みたいだ。

「まぁ、そのうち良くなるかもしれないよ」

「そうだといいがな。出来ればわしの生きてるうちに」

お爺さんはそういって、出て行ってしまった。

 

 

 

 

 

「あの爺さん、オセアニアが出来る前から生きてたのか。大したもんだね」

「まぁ、ああいう人が今の生活が厳しいと言ってるのは、そろそろやり方を変えないといけないってことじゃない」

「そうだね。まぁ旦那にはそう言っておくか」

パブからの帰り道、私達はそんなことを話していた。

「それにしても…」

「どうした?」

「ここは活気があっていいね」

「あぁ、ミクのいう通りだ。私の知る限り、この辺りはどこも賑やかさ」

それを聞いて、あのおはなしの一節がふと私の中に浮かんできた。

「未来はプロレのものだ、か…。本当にそうかもね」

「何か言ったかい?」

「いや、なんでもない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたか。
原作でウィンストンがパブで出会ったプロレの老人を登場させてみました。年齢的に無理があるかもしれませんが、原作の出来事から何事もなく長生きしたという想定で登場させました。
次回あたりから党内局員としての活動が始まります。
お楽しみに。
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