陽だまりシリーズ:小日向未来<放浪>   作:ヨザリイコイ

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未来さんの政治家稼業が始まります。そんなに長くはないですが。


chapter18.テレスクリーンが消えた日

 2017年12月10日、私達はマイケルさんに呼び出された。マイケルさんの屋敷に行き、この前とは違う部屋(マイケルさんの執務室らしい)に通されるとそこには彼の他にも人が居た。黒いオーバーオールを着た人が3人居る。

「遠路はるばるご苦労様です」

「いやいやそんなでもないさ」

「そうですよ。歩いていける距離ですから」

 そういうやり取りをしつつ、私達は用意されていた椅子に座った。

「では本題を始める前に、皆さんに新しい改革派の同志を紹介したいと思います。ミク・コヒナタ同志とハンナ・オールウェイ同志です。ミク同志はかつて南米がオセアニアから独立する際に、このロンドンに移住してきた方です。ハンナ同志はプロレ出身ですが、才覚があり柔軟な発想ができる方です。私は党内局最高会議議長としてこの2人を党内局員に任命します」

「最高会議議長?」

 初めて聞いた言葉に疑問を感じていると

「おや私としたことが、説明していなかったですね。オセアニアはビッグ・ブラザー亡き後は、党内局員の合議によって統治されていたのです。その中でも国政の指針を決める最高会議の議長が党内局員のまとめ役で、最も強い権限を持っています。現在では、私が務めています」

「ビッグ・ブラザーはもういないんですか!」

「えぇ、そうですよ。37年前に亡くなりました」

 これは驚いた。ビッグ・ブラザーはこの世の人ではなくなっていたとは。

「では本題に戻りましょう。改革のためには、これまでのような党内局のみの意見ではなく、様々な階級の意見が必要です。そのために私はそれぞれの階級の出身者をここに招きましたが、これだけでは不十分です。故に言論の自由を完全に保障することが必要になります。無論、Freedom is slaveryというスローガンでいう自由ではなく、個人の内心の自由という意味でです。そのためにはまず」

 マイケルさんは一拍おいてこう言った。

「愛情省を廃止します」

 その言葉が出た瞬間、室内は水を打ったように静まり返った。

 

 

 

 

 

「愛情省を廃止するのですか」

 黒いオーバーオールを着た白髪混じりの人がマイケルさんに訊き返した。

「イングソックのみを信じていれば良い時代はもう終わりました。その時の遺物を残していては、改革は始まりません。我々に必要なのは、意見なのです」

「それは良かった。愛情省がある限り自由に言いたいことは言えませんからね。それにテレスクリーンでの国民の監視には莫大なコストもかかってたことですし」

 あー、テレスクリーンでの監視ってやっぱり大変なんだ。あれどうやって監視してたのかなんて知らなかったけど、余程お金のかかるやり方だったんだ。

「テレスクリーンや盗聴器具も撤去します。大分老朽化してますしね。それと思想警察の隊員は、市民警察に配備することにします。増員することで一般犯罪の歯止めがかけやすくなるはずですからね」

 白髪混じりの人はその答えに納得したようだ。安心した様子でいる。

「一体いつからやるんですか」

 私が聞くと、「今日からです」と返ってきた。

 随分と早いなぁ。私は呑気にそんなことを考えていた。

 マイケルさんが何でこんなに素早く動いているのか、知る由もなかった。

 

 

 

 

 その日、うちに帰る途中に大量のテレスクリーンがトラックに積まれて、近くの空き地で屑鉄に変えられているのを見た。

「本当にやるとはねぇ」

「まぁ、言った限りはやらないとね」

「とりあえず息苦しくなくなったのはいいことさ。後は腹がふくれることと外に自由に行けるようになったらいいんだけどね」

「これからできるようになるよ」

 私たちは笑い合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




1日目終了。とりあえず未来さんが監視されることはなくなりました。
しかし安泰とはいえません。
未来さんのいる派閥をみんなが支持しているわけではないのですから。
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