霧の中、私はあちこち歩き回った。私が倒れていたところの周りには道のようなものはなかった。仕方がないので、よく見えない中、まだそれほど荒れてなさそうなところを選んで下りることにした。とはいえそんなに楽ではなく、ぬかるみに足を取られたり、倒木に蹴躓いて擦りむいたりする羽目にもなったけれども。そんなこんなで泥だらけになって小一時間ほど歩いているうちに登山道のようなところに出た。舗装されているわけではないが、先程のような獣道よりはずっといい。私は登山道を下っていった。
登山道を辿って下りるとそこには畑が広がっていた。農村だろうか。取り敢えず人がいるのは確かだ。畑のあぜ道を歩いていく。すると前から人が歩いてきた。男の人だ。30歳前半くらいの。私はその人に話しかけることにした。
「すいません。今日は何日ですか。ここは何処ですか?」
すぐに男の人は答えてくれた。
「ここは花立村、今日は2017年9月20日だよ。お嬢さん、ここいら辺では見かけない顔だが…。他所から来たのかい?」
花立村………。聞いたことのない名前だ。 隠しても仕方ないので、そのまま説明することにした。
「はい。今そこの山から下りて来たんです」
そこまでいったとき男の人は少し驚いたような表情を見せた。
「そこの山から!あそこから来たということは、君何処かから飛ばされて来たのか!あの山にはよく別の場所から人が飛ばされてくるからなぁ」
男の人は一気にまくし立てた。呆気にとられていると男の人は私にこう言った。
「取り敢えず家に来てくれ。もう少し詳しい話を聞きたい。それに着替えたほうが良さそうだ」
今になって思い出したが、私は泥だらけだった。
私は男の人の家で怪我の手当てを受けて、お風呂に入れてもらった。今その人の亡くなった奥さんの服を借りている。
男の人は大畠隆二といい、花立村の村長さんらしい。隆二さんが言うにはあの山は白髪山といい、地元の人でも滅多に近寄らない山らしい。というのもあの山は四六時中霧が立ち込めていて、視界が悪く転落事故が多いからだそうだ。ところがそれは表向きの理由で、本当の理由は私のような並行世界から飛ばされて来た人間がよく現れることが多いため、あそこに近づくと並行世界に飛ばされてしまう恐れがあるとして村の住民は近寄らないようにしているとのことだ。この人の家系は私のような人を保護することが仕事であるらしく、すぐに私の正体に察しがついたらしい。
「取り敢えず、この村にいるときはここにいるといい。行くあてもないことだろうし。この村の人間はこういうことに慣れているから余所者扱いされることもない。並行世界から来て、定住する人もいることだしね」
「隆二さん。並行世界から来た人で帰ろうとした人はいますか?帰れるのなら帰りたいですし、教えてください」
私がそう言うと少し難しい顔をしながら答えてくれた。
「帰ろうとした人は多いが、帰り着いたかどうかは残念ながら分からない。ただこの村にはもう一つ並行世界と繋がっているところがある。そこを通って、別の世界に渡ることはできるよ。だが未来ちゃん。君はここに殆ど何も持たずに飛ばされたのだろう?今すぐに渡るのはやめた方がいい」
確かにそうだ。元の世界にすぐに帰れるとは限らない。色々と準備していかないと危険なはずだ。
「わかりました。暫くここで準備していくことにします。それまでお世話になります」
「構わないよ。ゆっくりしていくといい」
こうして私、小日向未来の花立村での生活が始まった。