周囲が真っ暗な空間に目を開けるといた。
ここどこだろう、地獄ではなさそう。
ただ生きている人が来られそうな場所には見えない。死後の世界という奴なのかも。
嗚呼、本当の名前や昔の記憶すらもわからないまま死んじゃった。せめてそれくらいは知りたかったな。あの世で私のこと知ってる人がいるのかわからないし。
それにしてもこんなにあっさりと死んじゃうなんて…。
「…ないで」
何処から掠れた声が聴こえてきた。テープレコーダーで再生されているみたいだ。
「い…、あ…めないで」
「誰?」
声は少しずつ聴き取れるようになってきた。誰の声?知ってるような知らないような。
「い…、き…、を…、あき…らめないで」
「い…き、るの…を、あきらめ…ないで」
「生きるのを諦めないで?」
生きるのを諦めないで…。聞いたことが…ある。頭がそれを教えてくれている。それが誰の言葉なのか、それはわからない。でもこの言葉は人を勇気付ける力がある言葉であることを…、空っぽの頭が思い出してくれたみたいだ。
「もうひと頑張りしよう」
そう思った瞬間、どういう訳か意識が逆に遠のいていった。
「はぁ、はぁ。動きが素早く、その上硬い。これでは決定打を叩き込めん」
30分も格闘を続けている。早く麻由を助けたいが、狼男に阻まれて動けん。
一応、滝と親父さんには有事に備えて箱根近辺まで来てもらってはいるが、ここまでたどり着くのには時間がかかる。俺たちには再生能力があるとはいえ危険な状態だ。
「ぐっ」
狼男の体当たりを交わして、それを蹴り飛ばす。
こいつの動きは大体見切れるようになった。完全とはいかないが。攻撃を大分的確に当てられるようにはなったが、まだ致命傷になるようなものは与えられていない。
「本郷さえ居てくれたなら」
本郷が居てくれたなら、重い一撃を与えられたかも知れんがないものねだりをしたところでしょうがない。
人型になった狼男と再び激突した。
このとき麻由に異変が起きていることに俺は気がつかなかった。
倒れている立花麻由の姿に異変が起きだした。
まず上腕部から食い千切られた左腕から新しく腕が生えだした。本来なら再生に2〜3時間はかかる筈である。しかも生えてきた腕は奇妙なものだった。
腕の色は緑色だった。それも飛蝗のような緑色である。それだけではない。腕には鮫の歯のような黒い突起が付いており、手には鋭い鉤爪が付いている。
頭のヘッドギアを取り外してから、両腕をダラリとぶらさげて麻由は立ち上がった。ただその顔は…。大きな真っ赤な目と黒い牙を4つ生やした異形のものだった。
異形となった麻由は狼男に体当たりを喰わせて、さっきのお返しとばかりにその左脚を切りつけた。
「むぅ」
狼男の体当たりを避けつつ蹴りを入れる。
こいつの速さにはまだ追いつけないが、攻撃は大体見切れるようになってきた。
しかし致命傷を与えるまでにはいっていない。早いところ当てないと麻由が危ないのに、狼男に阻まれて中々近づけない。
一応、滝と親父さんには箱根近辺で待機してもらってはいるし、俺たちには再生能力があるが、それでもかなり危ない。
「何とかこいつを動けないようにしないと」
そう考えているといきなり狼男が吹っ飛んだ。
見ると狼男が左脚から血を流して倒れている。そしてその横には…、瀕死状態だったはずの麻由がいた。ただその姿は異様なものだった。俺たちよりも怪物に近い見た目の左腕、それに赤い大きな目、そして口からのぞく黒い牙…、本当にこいつは麻由なのか。
脚を傷つけられ動けない狼男を引っつかむなり、麻由は槍のようにぶん投げた。そして自分も一気に飛び上がった。
「ライダー、ト…ンデ」
「わかった!」
俺は狼男目掛けて右腕を引きながら飛び上がった。
狼男の真上にいる麻由は左腕を引きながら落下した。
そして…、
「ライダーダブルパンチ!」
狼男の左胸を2人の拳がぶち抜いた。
「み、ごとだ。強くなれ…。ラ、イダー、そして…、異次元の、少女」
黄金狼男はそう言って爆発した。
勝った!私達は勝ったんだ!
しかし…、一つ気になることがある。
あの狼男は異次元の少女と麻由のことを呼んでいた。
麻由は何処か別の世界から来たとでも言うのか?SF作品みたいに。まぁ、それならあの強化服の正体にも納得はいくが…。
「本郷と相談するか…、なぁ麻由」
声を掛けた瞬間、麻由はばたりと倒れてしまった。
「お、おい!大丈夫か⁈」
俺はすぐに駆け寄った。
さて未来の不完全な怪人態が今回初登場しました。
ちなみに左腕は元に戻っているので心配はないです。
次回からあの人が登場します。
乞うご期待!