ダブルライダー編の始まりです。
あの後、倒れた麻由を急いでレーシングクラブまで連れて帰った。麻由のあの左腕についてはみんな驚いていた。そりゃそうだ。
とりあえず麻由を部屋に寝かせて、親父さんや滝が交代で様子を見ている。見たところ気を失っているだけのようだが、どうも心配なんだよな。とにかくこういうことについて詳しいことは彼奴ー本郷猛に来てもらわないと…。
幸いなことに彼奴はスイスから大幹部を追いかけて、日本に向かっているそうだ。そろそろ到着するそうだが…。
「おやっさん、俺です。本郷です」
噂をすれば来た。有り難い!
「それで一文字、飛蝗のような腕になったって子は?」
「上の部屋で寝かせてある。帰国早々来てもらってすまないな」
「かまわんさ」
二階まで本郷を連れて行く。
「おやっさん。入りますよ」
「ああ」
部屋の中には親父さんが待っていた。それでベッドの上で麻由は…、寝ている。ただ腕は元に戻っているし、熱も下がっている。
「ただいまと言いたいところだけど、おやっさん。この子が例の…」
「ああ、本郷。この子がその麻由だ」
「確か左腕が飛蝗のようになったとか聞いたが、今は元に戻ったんですか…」
「お前が来る10分前くらいにな…。隼人は見覚えがあるらしいが、流石に詳しく調べるには、お前の力が必要だと思って」
「分かりました…。少し調べてみます」
「よろしく頼む」
「なぁ、本郷…」
「なんだ、一文字」
「その腕なんだが、どうも
そういって写真を本郷に渡した。それを見た本郷が眉を顰めた。
「…。確かに俺たちも強化服の下はこうなっているな。するとこの麻由という子は俺たちのように飛蝗の改造人間なのか?」
「だがよ、それらしい力は全く使ってこなかったんだぜ。俺が最初にこの子に会ったときも、妙なものを装着して光線を撃ちながら戦ってたし」
2人で腕を組んで考え込んだ。
「ああ、そういえば…、左腕のこととは特に関係がないんだが…」
あの狼男が気になることを言っていたことを本郷と親父さんに話した。
「異次元から来た少女?麻由がか?そんなことがあるのか?」
「でも親父さん。あの麻由が装着しているものはそうでも考えないと、説明がつきませんよ」
「それはそうだが…」
「おやっさん。あの子を引き取ったときに行方不明者として彼女らしき人が居ないか、確認しましたか?」
「ああ、それらしき人は見つからないし、おまけに記憶喪失だからな。手掛かりは分からずじまいだ」
「手掛かりはなしですか…」
3人で煮詰まっていると後ろで物音がした。麻由が目を覚ましたようだ。
目を開けると自分の部屋だった。あの左腕で狼男を一文字さんと倒してから記憶がない。
それにしても…、私の腕があんなになったなんて…。一文字さんが変身してもああなることはないのに。また何かの拍子にああなったら…、おちおち外まで歩けない。
「麻由、目が覚めたか」
「親父さん」
親父さんはいつもと同じように話しかけてくれた。こういうことには慣れているのだろうか。
部屋には親父さんの他に、一文字さんと初めて見る人がいる。一文字さんとは同い年くらいのブレザーを着た男の人だ。
「君が麻由君かな」
「あ、はい。そうですけど…」
「僕は本郷猛。一文字と同じ改造人間なんだ」
「じゃあ貴方も…」
「そうさ。仮面ライダーなのさ」
そういえば、ヨーロッパに行った仮面ライダーがいたって話を何度か聞いたけど、この人のことなんだ。
「麻由君。辛いことを聞いてしまうが、君の腕について聞いてもいいかな」
「は、はい」
正直言って、あんなことを話したくはないけど、話さなかったら話さなかったであとあと面倒なことになりかねない。覚えている限り、全部話した。
全て話し終えると本郷さんは頷いてこういった。
「生え変わった左腕は黒い棘と鉤爪がついていたんだね。検査をまだしてないからはっきりとは言えないが…、多分これは僕と一文字にも起こったケースだろう」
「えっ!」
そんな光景見たことないけど!本郷さんはともかく、一文字さんがそうなったところは。
「俺たちは体を少しだけ変化させてその上に強化服を着て戦ってるんだ。だから見えなくて当たり前さ。ただ何故君の身にそのようなことが起きたのかはわからないが…」
そうなんだ。私だけじゃないことに少し安心する。独りぼっちは困る。独りぼっち…?また何か引っかかる。まあ、それはいいか。
「ただ正確なことは言えないから、僕の家まで来てもらえないか。あそこなら研究用の器具があるから…」
この人は研究者なのか。確かに格好からしてそういうことしてそうではあるけど…。
「こう見えても僕は生化学専門の研究者だからね。自分の身体のこととかを分析していることはよくあるんだ」
「そうなんですか…。じゃあ宜しくお願いします」
とりあえず本郷さんの家まで行くことになった。まあ、一文字さんの洗脳を解いたこともあるらしいから、信用しても大丈夫だろう。
本郷さんの家は普通の一軒家だった。見たところ研究設備なんかなさそうだけど。
「研究設備は地下室にあるから」
地下室まであるんだ。
「とりあえずそこのピアノのある部屋で待っていてくれないか。少し準備をするから」
「はい」
立派なグランドピアノだ。あの人ピアノも弾けるのか。
「亡くなった母が音楽の先生だったからあるんだ。残念ながら僕が弾けるのはアコースティックギターだけだ」
「そうなんですか…。あの、ピアノ、少し触ってもいいですか」
「いいよ」
本郷さんが準備を終えるまでの間、グランドピアノのある部屋で待っていた。近くの本棚を見てみると楽譜が色々と置いてある。ベートーヴェン、モーツァルト、バッハ…、種類も豊富だ。
「あれ?これ…」
その中の一つに目が留まった。ショパン練習曲集っていう本だ。何だか見覚えがある。前に出て来た「生きるのを諦めないで」という言葉みたいに頭に浮かんでくる。
「確かこの本の…あった」
浮かんで来た記憶に従ってページを捲る。そして開いたページにある楽譜をグランドピアノで弾いた。
「これ…、期末試験のための課題曲…」
この曲は○○○○○の期末試験の為に練習していた曲だ。いつもいないあの子を待ちながら弾いていた曲だ。あるときどういう訳かその子は私の近くにいて私の演奏を聴いていてそれで…
「やっぱり上手だなぁ、××は」
褒めてくれたんだ。嬉しかったなぁ。
でもあの子のことが思い出せない。顔に靄のような物がかかっていてよく見えない。名前も出てこない。
「それに、こんな身体であの子に会いにいっても…」
受け入れてくれるのかな。
さて麻由の中に封印されていた記憶からピアノに関する情報が一部浮き出てきました。この調子で思い出せたらいいのか、それとも。
次回乞うご期待!