陽だまりシリーズ:小日向未来<放浪>   作:インレ

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さて本郷さんによる麻由の体の調査結果が出ました。
麻由の体にあるものが埋まっています。




chapter36.苦悩

「おやっさん、麻由のことなんですけど……」

「何かわかったのか?」

 1日がかりで麻由の体の構造について調べてみた。調べたところ、細胞は俺や一文字のように手が加えられていた。あれは飛蝗型の改造人間のみに見られる強化細胞だった。俺や一文字だけでなく、以前一文字とともに倒した11体のショッカーライダーの細胞にも見受けられたものだったから間違いない。

「細胞については俺たちのものと同じ特徴が見受けられました。多分あの子も元々俺たちのようになるプランでもあったのではないかと」

「つまり、あの子は元々仮面ライダーとして改造されたってことか? だがあの子はお前らのような強化服を装着してないぞ」

「ええ、おやっさん。それについてのヒントが一つ見つかりました。これを見てください」

 おやっさんに麻由のレントゲン写真を出した。それで心臓に指を指した。

「……ん? 心臓がどうかしたのか」

「調べて見ましたが、どうも心臓に鉱石のようなものがあって、それがあの謎のプロテクターの元になっているみたいです」

「鉱石だって?」

「はい。試しに麻由に装着してもらった時にその鉱石が何かのエネルギーに変質したんです。そしてそれがあのプロテクターになったみたいで……」

「お前達が変身する時とは少しやり方が違う訳か」

「そうです」

 俺たちの場合は身体を少し変化させて、それからヘルメットと強化服が自動的に装着される。だが麻由の場合は、いきなりプロテクターが現れて装着されている。しかもその時にこれまた謎のエネルギーを感知した。

「ふむ……。それでその鉱石の正体は掴めたのか」

「それが……、おやっさん。全くわからないんです」

「見当もつかないのか」

「ええ、少なくともこの世界には存在しない可能性が高いです」

「つまり麻由は……」

「一文字が聞いたように、異次元からやってきたのではないかと思います。そうでもないと説明がつかないんですよ」

 こればかりは自分自身でもありえないとは思っていたが……。ただあの子らしき人物が失踪していたという情報がなかったことから、この線はかなり濃厚だ。

「しかし異次元から来たのか……。俄かには信じられんが、もしそうなら悔しいが俺たちにはどうしようもないな。麻由の親御さんや友達も心配しているだろうに」

「本当に歯痒いことですよ、おやっさん」

 おやっさんの云うように、麻由には家族や友達がいるはずだ。何とかしてあげたいが、俺たちには彼女を元の世界に帰す術があるわけではない。そのまま2人で考え込んでしまった。

 

 

 

 

 

 

「そういや」

 一応手掛かりになることなのでおやっさんに教えることにした。

「あの子は元々ピアノを弾いていたみたいです」

「ピアノ?」

「ええ、母のグランドピアノでショパンを弾いてましたよ」

「弘子さんのか。つまりあの子はピアニストか何かか?」

「いや、そこまで熟練しているわけではないようです。麻由が言うには、期末試験の課題曲だったとか……、多分どこかの音楽学校の生徒だったのではないかと思います」

「そうか」

「どうもピアノ関連の記憶は少し思い出しているみたいなんですよ。それも決まって親友が出てくる記憶ばかりで……、まだ名前は思い出せないようなんですが。ただその子に会って、あの腕に変化することを見せたらどう言われてしまうかと心配しているんです。外部からの干渉や自分の意思が働かないならば大丈夫だとは言っているのですが……」

「確かに不安になってしまうよな」

「それについては俺や一文字も苦労していますからね。人間のふりをしていることは、とても辛いですから」

 

 

 

 

「ピアノを弾いていると何だか落ち着くなぁ」

 本郷さんの家でグランドピアノを弾いている。手は私が覚えていないことを覚えているみたいだ。羨ましい。

「でもこの手が……」

 この手があの飛蝗のような腕になってしまう。ショッカーと戦うには便利だけど、それでも……。

「人間のふりをするのって、思った以上に辛いなぁ」

 仮面ライダーの2人もこんなこと思っているんだろうな。本郷さんは人間に戻るために研究しているみたいだけど、どうにもならないらしいし。

「でも……、こんな重荷を背負わされる人だけはもう増やしたくはないね」

 

 

 

 

 

 そのころ、未来の世界では……。

「ジェネラル。手筈は整っているか」

 小日向未来が謎の端末で誰かと通話していた。少なくともS.O.N.G.では使われていないものだ。

『はい。参謀や少佐らの製造準備も順調に進んでおります』

 通話相手もどうやらS.O.N.G.の関係者ではないようだ。そもそも参謀や少佐という肩書きがつくような軍人は、S.O.N.G.の職員にも協力者にもいない。

「よろしい。ターゲットの入れ替えも頃合いを見て進めろ。タイミングは、お前の判断で構わん。指令は以上だ」

 未来は通話を終えると端末を何処かにしまった。

「さてとお夕飯の買い物しないと」

 そして何食わぬ顔で商店街に行ってしまった。




如何でしたか。
強大な力を手に入れた結果、苦悩している麻由。
一方、いつもの日常を謳歌する未来。
次回乞うご期待!

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