そのためかなり短いし、あまり面白くはないです。
秋に入り、涼しくなってきた。ここに来て、もう一年近くになる。
一年近く経っても、私は本当は何という名前で、何処から来たのかということは全くわからないままだ。元々何処かの音楽学校でピアノを習っていたらしいということまでは思い出せたけど、それ以外は何の手がかりもない。あとは立花という苗字が、何故か引っかかることぐらいだ。
「でも…、ここでの生活も悪くはないよね」
じゃあ記憶が戻らないのは辛いのかと聞かれると、今のところそこまで辛くはないんだよね。みんな良くしてくれるし。
このまま何にも思い出せなくても、ここでのんびりとオートバイのエンジニアとして生きていくのも良いかもしれない。本郷さんや親父さんのようにレーサーを目指して頑張るのもいいかも。
「レーサーとしての才能があればだけど…」
夕方、滝さんが立花レーシングクラブに駆け込んできた。
このところ大人しかったショッカーがまた動き出したそうだ。
何でもヨーロッパ支部から新しい大幹部が日本にやって来るそうだ。
それを受けてミュンヘンを拠点に活動している本郷さんからも連絡があり、応援に駆けつけてくれるとのことだった。
「それにしてもどんなのが来るんでしょうね」
「西ドイツの情報機関や本郷の情報によるとコードネームは博士。文字通り、学者上がりの幹部だそうだ。此奴もお前と一文字が倒した大佐同様、戦犯として指名手配されている奴だ」
学者から幹部になる人もいるのね。
「それでそいつは何処に来るんだ」
「意外なことにね親父さん、どうやら九州の鹿児島に狙いをつけているそうだ」
みんな呆気にとられた。
鹿児島?何で?
「フェリーって、こんなにも揺れるんだね」
フェリーに揺られて、鹿児島へ向かう。波が高いのか、結構揺れている。酔いそう。
「乗った覚えはないのか」
隣で座っている滝さんは何ともないみたい。なんでも故郷のアメリカを飛び出してから帰国してFBIに入るまでに何度か乗ったことがあるから慣れてるみたい。親父さんも平気そうだ。気持ち悪くなりそうなのは私だけか。
「ちょっと風に当たってきます…」
「酔ったのか?海に落ちんように気をつけろよ」
「はーい」
デッキに出た。潮風が気持ちいい。晴れていて景色もよく見える。海面に陽光が煌めいていて、とても綺麗だ。ちょうど夕暮れ時で空の赤さと海面の色が組み合わさってなんとも幻想的だ。
「船旅ならではの光景だね」
景色を見ているうちに、少し船酔いも治ってきた。
「あの子もここにいたらなぁ。まだ誰だか思い出せないけどこの光景は見せてあげたいよ」
この光景を一緒に見たいと思えるくらい大切な人だったはずだから。
次回から新幹部が本格的に登場します。
乞うご期待!