「どんなものかと思ってたけど、割と簡単だ」
意外と滑ることができるものなんだ。スキーって。前にやったことがあるからかもしれないけど。
今、草津高原のスキー場に来ている。前のことがあるから少し不安だったけど、ここは純粋に楽しめる。怖くない場所だ。
記憶がないからこういうスポーツが楽しめるかは分からなかったが、特に問題なく遊べている。もともとやっていたのかも。
「中々、上手いじゃないか。身のこなしもそれなりにやり込んでいる人間のそれだ」
「ありがとう、一文字さん」
褒めてもらえた。
「あの光景を見ていると、尚更そう思える。見てみろよ」
一文字さんが親指で示した方向を見ると…、本当はいけないんだけど思わず笑ってしまった。ライダーガールズのスキーの様子がなんとも酷くて。
ライダーガールズの人たちはみんな初心者なのか、転んでばっかだ。まともに立つことすら能わないようで、側で教えている親父さんも苦笑いしている。駄目だこりゃ。
「あれじゃあ、いまにモグラ叩きができるようになっちまうぜ」
あまりの惨状に滝さんも苦笑いしている。
「本当だ」
あちこち穴だらけだもんね。
「それじゃあ、あちらは親父さんに任せて、俺たちはもう一滑りするとしようか。羽を伸ばすために態々連れてきてもらったことだし」
「そうしましょ」
「おーい、麻由さーん。スキー板落ちてなかったー」
五郎くんが丘の上から聞いてきた。スキー板だけを滑らせてしまったらしい。あれあれ。初心者だからそういうこともあるか。
「無かったよー。ちょっと探してみるねー」
とりあえず辺りを見回したが、それらしきものは無いな。もう少し探してみよう。
「うーん、無いなー」
10分ほど周りを探してみたが、何も見つからなかった。これは困った。
「おーい、麻由さーん。見つかったよー。探してくれてありがとうー」
あらら、骨折り損のくたびれもうけになってしまった。まあ、見つかったなら何よりだ。
上に登ってから話を聞くと、なかよくな現地の子が見つけてくれたらしい。タダシくんという子で、明日スキーを教えてくれるそうだ。
「良かったじゃない。スキーを教えてくれるって」
「本当だよ。いつまでもひっくり返ってばっかじゃ堪らないからね」
2人で笑いあった。
「えっ。もう会えないってどういうことだい?」
次の日の朝、そのタダシくんと一緒に滑ろうとホテルの前でみんなで待っていた。
約束の時間にタダシくんは来てくれたんだけど、突然、もう会えないと言い出したんだ。
勿論、はいそうですかとはいかなかった。理由を聞いてみたが、いまいち釈然としない。何か隠しているみたいだ。
「一文字さん達と一緒にいると、僕殺されちゃうの」
うん?今、とんでもない言葉が聞こえたんだけど。殺されるって、まさか。
一文字さんや滝さんも同じ考えみたいだ。こんなとこまで来て、勘弁してよ。休みにならないじゃない。まぁ、文句言ってもしょうがないか。
心配なのでタダシくんがいるという別荘を見に行ってみると、やはり戦闘員が忍び込んでいたらしく、タダシくんが今にも拐われそうになっていた。
滝さんに他の戦闘員を任せて、タダシくんを抱えている奴に後ろから飛び蹴りをする。そいつがバランスを崩して、思わず彼を放り投げたところを急いで受け止め、倒れている戦闘員に追い打ちで軽めにもうひと蹴り浴びせる。起き上がってこられては困るからね。
「戦闘員はあらかた片付けた!これである程度は、大丈夫なはずだ」
滝さんの方も戦闘員を追い払ったみたいだ。なんとかなったかな。
「ベアー」
そんなはずはないか。戦闘員だけで行動するなんて早々ないしな。絶対に怪人はいるんだ。大抵の場合は。問題はその怪人が新型か、そうじゃないかだ。それ次第で怪人戦のきつさが違ってくる。
さあ、今回の怪人は誰だ。
声のする方を見ると、テレビの画面のような目とタラコ唇がついた顔をした熊みたいな怪人がいた。なんてこった。折角の休みに新型を送り込んでくるとは。
「冗談じゃないよ…」
現れた熊男を相手にこちらが身構えていると、別行動していた一文字さんが現れて熊男と格闘を始めた。
ガタイのいい怪人だけあって、中々堅いようだ。一文字さんの攻撃を受けているのに、殆ど応えている気配がない。しばらくして組み打ちになり、斜面を2人はゴロゴロと転がっていく。
私はタダシくんを滝さんに預けて、2人を追って下まで飛び降りた。こうやって変身しておいた方が、まだどうにかしようがある。
熊男は一文字さんの左腕を手に生やした爪で突き刺していた。これはまずい。あの人の利き腕は、確か左だ。潰されたらかなり戦いにくくなるはずだ。
熊男がもう一度、突き刺そうとしたところを突き飛ばして、一文字さんから引き離す。すると今度はこちら目掛けて襲いかかってきた。
腕のコードを熊の両腕に引っ掛けて引き倒そうとしたが、向こうの方が力は上で引き倒されそうになった。小手先の手が通じないのは、当たり前か。なんとかして両腕を潰さないと厄介だ。
相手が掴みかかってきたところをうしろに下がって避ける。敢えて避けずに体当たりしようものならあの爪でザクリと傷つけられてしまう。どうしたものか。
頭を悩ませていると怪人が引き上げ始めた。「覚えてろ」となんともベタな捨て台詞を残して。とりあえずは助かったのか?
しかし弱ったな。私が熊と戦っている間に、一文字さんは変身して、私に近寄ってきた戦闘員を蹴散らしてくれていたけど、腕をずっと押さえてる。あれでは満足に戦えないだろう。
となると今回は、私が単独で戦うことになるかもしれない。大丈夫かな。
怪我をした一文字さんと一緒にホテルに戻った。先に戻っていた滝さんが、今回の事件の一部始終を教えてくれた。
なんでもあの子のお父さんである美川博士が、ショッカーに脅されてここら一帯の雪を瞬く間に水に変える威力を持つエネルギー爆弾を造らされているらしい。そしてそれを偶然、目撃したんだと。それで口封じのために殺されそうになっていたらしい。
なんで草津高原の雪を水にしようと思ったのかはわからないけど、早めに手を打たないと大変なことになる。その爆弾がもう仕掛けられているかもしれないから。
あの子が基地の場所は大体覚えていたそうで、それを頼りに殴り込みをかけることになった。メンバーは、私と応急処置を済ませた一文字さん、そして滝さん。この面々でショッカー基地を襲撃する。私だけで戦うわけじゃないみたいだから、一安心だ。
一文字さんは前もって変身している。さてと私も変身しないと……、おや、頭に何か浮き出てくる。歌の歌詞だ。何の歌かは分からない。聴いたことがない曲だ。おまけにところどころボヤけていて読めなくなっている。
「ーーー」
読めるところを辿って、声に出す。すると風もないのに、変身を始めた。ただいつもと違う見た目になっている。
腕の部分に手甲が追加されて、カラーリングも白と灰色を基調としたものに変わっている。おまけに両脚のスラスターも一回り大きく重くなっている。
そして極め付けは背中だ。
背中に大きな扇のようなものが引っ掛けられてある。何処かで見たような形だ…、思い出した。私もどきが持っていたあの扇だ。あれに似ている。少しだけ細くて、防寒対策らしきものがしてあるようだけれども似ている。
「これがあるってことは、飛び道具が使えるってことか。助かった、あの熊、ベアーコンガーには近寄りたくなかったから」
これで多少はやり易くなる。あの爪の餌食にはなりにくくなるからね。
タダシくんからの情報を頼りに彼の別荘の近くを探ってみる。すると雪の中から金属板のようなものが見つかった。ご丁寧に塗装までしてある。
雪を払うとナチ・ドイツの紋章そっくりの鷲が出てきた。どうやらここみたいだ。
「よく来たな、お前たち」
熊とは違う背筋の凍るような不気味な声がした。前、戦ったときに聞いたことのある声だ…。これは、あの博士の声だ。
「死神!姿を見せろ!」
「丘の上を見てみろ」
言われて振り返ると親父さん達が、ベアーコンガーにスノーモービルで引き摺り回されていた。今はゆっくり進んでいるけど、加速したらそのうちおろし金にかけられた大根のようになってしまう。
脚のスラスターを使って滑りながらモービルに近づく。そして扇を素早く引き抜き、光線を撃つ。エネルギーは溜めていないが、縄を焼き切るのには、十分だ。
縄が千切れたのを気付いたベアーコンガーは、スノーモービルを止めて姿を消した。
私が突進すると同時に現れた戦闘員を片付けたライダーと滝さんも駆け寄って来た。
「親父さん、大丈夫ですか!」
「しっかりして!」
見たところ、皆そこまで酷い怪我はしていないみたいだ。良かった良かった。
「美川博士!」
滝さんが口髭を蓄えた中年の男の人を助け起こしていた。美川というと、確かタダシくんの苗字がそうだから、この人が例の博士か。
「あ、あと5分で、天狗山に仕掛けられた爆弾が爆発する…。い、急いで…」
5分⁈ほとんど時間がない!
「滝、あとは頼む。俺は奴等を追う!」
「私も行きます!」
1分30秒後、天狗山に到着した。残り3分半しかない。爆弾は何処だ。
しかし探す間も無く、戦闘員が襲いかかってきた。全員、スノーモービルに乗っている。
加速しつつ、一番近くにいた戦闘員に扇をぶつけてモービルから叩き落とす。
返す刀で振り向きざまに突っ込んできた戦闘員3人に目掛けて、光線を発射し、モービルもろとも吹き飛ばす。
私に突っ込もうとしたもう1人の戦闘員は、義経のように飛びかかってきたライダーに叩き落とされた。
戦闘員は蹴散らした。急いで爆弾を探さないと。
搭載されているレーダーを使って、爆弾の場所を探る。
「あそこだ!」
一瞬、早く気づいたライダーが爆弾を見つけて、取り付けられていた木から取り外した。そしてすぐに蓋を開けて、信管を引き抜いた。
「もう一個は…、うわっ!」
もう一個の爆弾を探していると首に縄がかけられた。縄の先はスノーモービルが繋がっていて、ベアーコンガーがそこにいた。
ベアーコンガーは、スノーモービルを急発進させた。堪らずひっくり返って引きずられてしまう。
「ぐっ……、がっ……」
あちこち体をぶつけながらも、首にかけられた縄を外そうとするが、なかなか上手くいかない。
不意にモービルの向きが変わり、遠心力で身体が投げ出される。
間が悪いことに投げ出された先には、大きめの岩があり、それに勢いよく叩きつけられた。
「がふっ…」
背中にしまっておいた扇がクッションになってくれたが、それでも今のはかなり痛かった。身体のどこかが壊れてないか心配だ。
ただあいつのほうも、ただでは済まなかったらみたいだ。スノーモービルがひっくり返って使えなくなっている。おまけに右手を怪我したみたいだ。それに…。
「あ、爆弾…」
あいつがひっくり返った場所の近くに、爆弾が転がっていた。残りは1分10秒。
右側からフルスピードで回り込み、爆弾を拾う。この姿は、雪の上だとかなり早く動けるみたいだから、あいつの爪で引っ掻かれる前に抜け出すことができた。
それをライダーに投げ渡して、再びベアーコンガーに向き直る。そして新しく生成した扇を使って、その左腕を吹き飛ばした。両腕さえなくなれば、置物の熊のようなものだ。
ライダーの方を見ると配線に悪戦苦闘していた。今度のは、作りが複雑みたいだ。時間は35秒を切った。不味いぞ、時間がない…、そうだ!
両腕を潰された熊に突進して、目の部分を掴む。そして突進した勢いを使って、
「そぉーれ!」
空高くぶん投げる。
「ライダー!爆弾をあいつに!」
「わかった!」
残り時間がなくなったことから、空中で爆発させようとしていたらしいライダーにあいつ目掛けて投げつけるように指示する。
利き腕でないにもかかわらず、見事ベアーコンガーのところまで届けてくれた。
「伏せろ!」
ライダーの言葉に身体を雪に突っ込んだ。
そして上空で大爆発が起き、直後に牙らしきものが降ってきた。ベアーコンガーのものだ。
「断末魔を上げる間も無かったか…」
あれがここで爆発していたら、どうなっていたか…。ともかく良かった。
「あー、あったまるー」
お湯に浸かってのんびりしている。今日は色々あって疲れちゃったから、温泉の有難みが骨身にしみてくる。
「もう暫くここにいる予定らしいから、当分は大人しくしていてほしいなぁ」
また事件なんかやだよー。まぁ、基地はあの後、叩き潰したからここら辺で悪さをすることはないだろう。
「しかし、彼処に私のデータの一部があるなんて思わなかったよ。まぁ、名前が私もどきが言った通り、小日向未来というのが正しかったのは、少し複雑だけどねー」
いまいちピンと来ないんだよね。
「まぁ、当分は麻由でいいか。こっちだとその名前で通っているから」
こうして私はお湯に浸かって月を見ながら、またのんびりとするのだった。草津のお湯に疲れが溶けていく気がした。
如何でしたか。
ブリザード・ギアには、人工雪を噴射して自分を覆い隠すという機能も付いています。代わりに空は飛べなくなりましたがね。
また麻由が拾った小日向未来のデータは、名前と生年月日と血液型くらいしか載ってませんでした
次回、乞うご期待!