「こんなときに、体調が悪くなるってついてないな。今頃、五郎君やライダーガールズの皆は、遊園地か…」
改造人間でも体の調子が悪くなるとは思わなかったよ。お陰でベッドで寝てなきゃいけない。ただの風邪だけど。
「今頃、皆楽しんでるんだろうなぁ」
そう呟くと、階段を駆け上がってくる音が聞こえた。何があったのかな。親父さんが部屋に駆け込んできた。
「麻由、えらい事になった。ライダーガールズや五郎達の目が見えなくなった!」
目が?皆、遊園地に行ってたはずだけど、そこで何かあったのかな。
親父さんと一緒に病院までかけつけると、そこはもう大変なことになっていた。目が見えなくなってしまった人達が、大勢担架で運ばれていたんだ。カーラジオで聴いたけど、空に出たオーロラを見た所為で東京中がこうなっているらしい。
「まるでトリフィド時代じゃないか。皆目が見えなくなっちまうなんて」
「トリフィド時代?」
「流星雨を見た人間達が失明して、食人植物に襲われるって話だ」
「そりゃ怖い」
ショッカーがやりそうな事だ。実際に、食人植物を作ったことはあるらしいし。
先に病院に来ていた一文字さん達が、担ぎ込まれた面々が失明は免れられそうである事を教えてくれた。知り合いのお医者さんが研究している方法で、何とかなりそうなのだとか。
「完全とまではいかないけれども、盲目になる可能性は低くなるとか」
「そいつは良かった。目が見えなくなっては、色々と不便だからな」
確かに。みんな目が見えない国にでも行かない限り、不便だろうね。
「俺は、これから滝と一緒にオーロラの調査に行ってくる。親父さんと麻由は、みんなの事を」
「わかった」
「気をつけてね」
暫くして一文字さんが滝さんに抱えられてきた。
「お、おい。どうした」
「親父さん、大変だ。ショッカーの改造人間に、隼人が目を潰された」
うわ、それは不味い。草津の一件よりも状況が悪いよ。目を潰されたら、さしもの一文字さんでもまともに戦うのは無理だ。今回は、本当に私が主力で戦わないといけないかもしれない。一文字さんの援護が受けられる可能性は、限りなく低いから。
滝さんは、CIAに増援を要請しに行った。向こうでも、ショッカーの対策チームというものがあるらしく、そこから1人派遣してもらおうという考えらしい。
「上手くいくといいがな…」
病院の外で親父さんがパイプをふかしながら、心配そうにしていた。
「一文字さんが動けない以上、頭数は欲しいものね」
「ああ。しかし今回の改造人間は、ちと厄介な奴らしいな。何でも右手から光を放って、それを見ると隼人みたく目が潰れちまうんだとか」
「おまけに、そこから身体が腐るんでしょ。本当にトリフィドのお話みたい」
「おいおい、俺は植物ではないぞ」
ギョッとして声の主を見ると、戦闘員と一緒に変な亀みたいなのが立っていた。こいつか。例の怪人は。オーロラとは、あまり関係なさそうな見た目だけど。
「俺様はカメストーン。お前達には、特別に俺手ずからオーロラを見せてやろう」
「親父さん、病院の中に!」
右手から光が発射される前に、親父さんを逃す。特殊眼鏡を掛けているとはいえ、光源から浴びせられてはひとたまりも無いだろうから。
私は襲いかかってきた戦闘員を盾にして、光を浴びないようにした。
盾にされた戦闘員は、目を押さえながら身体がドロドロと溶けていった。
「うわぁ」
何ともグロテスクな光景だ。戦闘員が溶けていくのはしょっちゅう見るけど、目から溶けるのは見たことない。
「どうだ、俺のオーロラの威力は。よし。今度こそ、貴様に当ててやろう」
「遠慮します!」
カメストーンが右手を翳そうとしたので、すかさず溶けた戦闘員のステッキを拾い投げつける。
「エエエー!」
甲高い声を上げて、カメストーンが右目を押さえた。右目に当たったみたいだ。右手で押さえて、蹲っている。考えていたものと違うが、これは助かった。
「右手を翳せないならこっちのものだ!」
カメストーンを助け起こそうとした戦闘員を殴り倒し、そいつから奪ったステッキをカメストーンの後頭部に振り下ろした。
堪らず倒れたところを、背中を踏みつけ浦島太郎のお話の子供のように頭を滅多打ちにした。
20回くらい叩くと、ステッキが折れてしまった。手元に残った部分を右手に突き刺して飛び退る。
暫く様子を見ているとフラフラと立ち上がった。あれだけ殴ったのに、よく生きてるものだ。
「うぐっ。この次は覚えてろよ…」
捨て台詞を残して消えてしまった。やっぱり棒で叩いたくらいじゃダメか。
翌日、滝さんがCIAと掛け合ってくれた結果、応援としてロバートという人が来てくれることになった。今、滝さんが羽田まで迎えに行っている。
「これで頭数は増えたな。ある程度は、戦いやすくなる筈だが…、こういう時にショッカーが何も手を打たないとは思えないんだよな…」
「そういえば、何度か偽物とすり替えられていることがあったものね」
「前のこともあるからな。麻由、ちょっと様子を見てきてくれないか」
「わかった。親父さんは、一文字さんのことをお願い」
お互いのマシンに発信機を取り付けてあるから、場所を探るのはそんなに難しい事じゃない。
サイクロンを走らせて、羽田まで向かおうとした。すると…、
「あれ?羽田空港じゃなくて、この間行けなかった遊園地の方に行ってるよ」
待ち合わせ場所を変えたのか。何とまあ、随分と洒落た場所に…。
「まぁ、いいや。取り敢えず行ってみよう」
バイクを加速させて、有事に備えて変身しておいた。
「ああ、始まってる!」
遊園地に入ると其処は修羅場の真っ最中だった。例によって例の如く、すり替えられてたらしい。この分だと本物のロバートさんは今頃、土に還っているんだろうな。
「昨日ぶりだね、カメストーン」
背後から組みついて、カメストーンをひっくり返す。近くで見ると分かるが、見た目が少し変わっている。
「またお前か!お前だけは簡単には死なさんぞ!」
あらあら、物凄く恨まれちゃってたよ。まぁ、あれだけ殴られたら、誰でも頭にくるのは当たり前か。
カメストーンは甲羅を外して投げつけてきた。それを上に飛んで避ける。
甲羅は地面に転がり爆発した。爆弾背負って動いていたのか。あの亀。
「待てぃ!」
直ぐに甲羅を再生させたカメストーンが、身体を甲羅に引っ込めて火を噴きながら、独楽のように回転してここまで浮き上がってきた。フリスビーのように体当たりを仕掛けようとしている。これは当たると痛い目に遭うだろう。
「まぁ、避けられない相手じゃない」
体をそらして避ける。しかし旋回してまた突っ込んできた。
「これだけで済むわけがないだろう」
甲羅から左手を出して、私のバイザーをひっ摑んだ。成る程、クローになっていたのか。しかし思ったよりも掴む力が強い。抜け出すのは、簡単ではなさそう。ただこういうときのための対策が、決してないわけじゃない。
「欲しけりゃあげるよ。そんなの」
耳の基部からバイザーを取り外して、逆噴射しながらそのまま離れる。体を一回転させて着陸し、相手の出方を伺っていると、こちらにまた回転しながら突進してきた。ワンパターンなやつ。
さっきと同じように、ひょいと躱した。そしてカメストーンに向き直ったのだが、これが行けなかった。こちらが向き直ったタイミングに合わせて、右手を出してきたのだ。おまけに光を放ってきた。
「ぐうっ!」
咄嗟に顔を背けたが間に合わず、左眼に光が直射した。
「どうだ!惚れ惚れするオーロラだろう」
不味い。左目の奥が焼き鏝を押されたように熱くて、痛い。どうやら効果は、単に失明するだけではないみたいだ。これで右目まで潰されたら、痛みで身動きも取れそうにない。
「それっ!この間のお返しだ」
また手足を引っ込めて、体当たりをしてきた。避けられず、吹き飛ばされた。亀だけあってかなり硬くて重い。おまけに火炎放射が、咄嗟に突き出した右腕に当たり、大火傷だ。
「ようし、止めだ」
お腹に鉤爪を突き刺され、池に投げ込まれた。カメストーンもそのまま飛び込んで襲いかかってきた。
「調子に…乗るな…」
右手を構えようとしたところを、底の砂をコードで叩きつけて巻き上げる。幸い池は広い。捉えられる前に抜け出すのも訳ない筈だ。
全速力で浮上し、藻に絡まりながら池を出る。
「流石に右腕と左目がこれじゃ辛いな…」
飲んだ水を吐きながらぼやく。
「麻由、大丈夫か!」
「滝さん…、戦闘員は片付きましたか」
「悪い、少し梃子摺っていた。しかしその目と腕は…」
「手酷くやられてしまいました…。あいつは池の中にいますよ。流石、亀だ…」
話した途端に飛び上がってきた。結構な高さを飛ぶな。こうなったら、久しぶりにあれをするか。
「おいで!」
サイクロンを横から突進させて、カメストーンを吹き飛ばす。そして搭載しているロケット弾を3発頭にお見舞いする。
「ええい、小癪な!」
サイクロン目掛けて甲羅を投げつけるも、中々当たらないようだ。自動操縦とはいえ、良い仕事してくれる。
でも甲羅がいつか当たらないとも限らないから、ここらで背中を叩くとしよう。あの甲羅は、背中から生成できるようだから。
サイクロン目掛けて甲羅を投げつけるも全く当たらないから、必死になっているカメストーン。まあ、そうだろうな。遊具の間をすり抜けて走ってるんだから、当てにくい筈。躍起になって、私のこと忘れてるよ。
また甲羅を生成しようとしたところに飛び蹴りを喰わせて、ひっくり返す。
「ぐあっ!」
これはかなり痛かったみたいだ。どうやら弱点か?それなら……、
「これでも喰らえ!」
うつ伏せに倒れたカメストーンの背中に、アーマーでニードロップを叩き込む。すると胴体にうまくアーマーが突き刺さってくれた。
「あ…がぁ…」
「それじゃあ、これで最後だぁ!」
両足を掴んでジャイアントスイングをし、近くにあったジェットコースターの鉄塔に背中から叩きつける。
虫の息になって倒れ伏したところを、飛び上がって蹴りを叩き込む。
「そうは…いくか…」
血を吐きながらカメストーンは右手を翳していた。でも光は私の目を潰せるほどには、出ていなかった。せいぜい目眩しにしかならないレベルのものだ。さっきの攻撃で、体内の機械が壊れたんだろう。好都合だ。
「残念だった…ね!」
私の脚はそのままカメストーンを踏み抜いた。
「ぐおぉぉぉお……!」
そのままカメストーンは大爆発を起こした。それと同時に、私の目の痛みも引いた。
「やれやれやっと終わった…、ん?」
後ろから何かが軋む音がしたので振り返るとジェットコースターが倒れそうになっていた。私が叩きつけたのとカメストーンの爆発のせいで、支柱が折れたんだ。
慌てて飛び上がり倒れそうになっているところを必死に持ち上げる。
「お、おい。どうなってるんだ!」
滝さんが物音を聞いて、駆けつけてくれた。
「た、滝さん!急いで、一文字さんと親父さんを呼んで!あとクレーン車持ってきてぇぇぇえ!」
この後、親父さんが知り合いの工務店の人を呼んでくれて、事なきを得た。そのあと、怪人を倒したことは褒めてもらえたが、周りに被害を出したことについて、大目玉を食らってしまった。トホホ…。
怪人はどうにか撃破しましたが、現行犯逮捕するときの両さんのように、周りに被害を出してしまいました。
ちなみに修理代は、少し前に本郷さんが太平洋に沈めたナチスの財宝を、麻由と一文字さんが引き揚げて、それを換金して支払っています(幸いなことに、本物でした)。両さんのように、借金塗れにはなっていません。