ですからこんな事が起きたって、おかしな話ではないです。
今回のお話を始める前に一つだけ話しておきたいことがある。
このお話より少し前に、私はある女怪人を倒した。名前は覚えていないが、確か蛇の怪人だった。とある銀行に納められていた金塊を盗み出して、基地に持ち帰ろうとしていたのを見つけて、奪い返したんだ。
それで金塊は、奪われた先の銀行に返した。それでめでたしめでたしと終わるかと思ったんだけど……、そうもいかなかった。その怪人には、相思相愛の恋人が居たんだ。その名も海蛇男。
なんでそんな事を知っているかだって? 簡単だよ。その海蛇男が、今にも、私を殺そうとしているからだ。
静岡県の水底村という漁村の近くを通るトラックが、無人で暴走するという事件が起こった。もちろん自動運転なんてものじゃない。運転手とも連絡が取れなくなっていたから、大騒ぎになった。
おまけに滝さんが、知り合いに頼まれて、ヘリでそのあたりに向かったまま、帰ってこなかったんだ。いや、正確に言うと帰って来たんだ。ヘリだけが無人で。
これはいよいよ怪しいという事になり、本郷さんと私で村へと調査しに行くことになった。それで私は空から村を見に行ったんだ。降りてみると村に人はいなかった。影も形もない。
不審に思って見て回ると、建物に妙な穴が空いている場所があった。何かを吹き付けて溶かしたような感じの穴だ。そして穴の周りには、白い泡がある。木の枝で触れると、枝がドロドロに溶けた。
「火事とかじゃないね。ここ、ショッカーに攻撃されたんだ。村の住民は、全滅したか、何処かに閉じ込められているののどちらかか……」
「どちらでもいいだろう。立花麻由」
後ろを向くと、海蛇を左肩からのぞかせている怪人がいた。
「ここをこんなにしたのは、あなた?」
「聞くまでもないだろう」
その声とともに、短機関銃を持った戦闘員が飛び出して来た。
「お前たちは、仮面ライダーの接近に備えていろ。この女は、俺が始末する」
変わった奴がいるもんだ。普通は戦闘員と徒党を組んで、襲いかかってくるのに。怪人の中でも、一対一の戦いにこだわる奴がいるのね。
「あら、なんで人払いするの?」
「お前を始末したいからだ」
「何でさ? 任務じゃないよね、貴方の様子からして……」
任務で私を殺そうものならば、頭数を揃えて襲いかかってくるはずだ。そうした方が確実だから。しかし此奴はそうしない。
「仇討ちだ」
「仇討ち? 誰の?」
身に覚えがないとは、全く思っていない。私が手にかけた改造人間の数は、ダブルライダーよりは少なくても、相当な数いるから。いつの日か、誰かしら復讐してくるだろうとは、思っていた。
「貴様が先週殺した
私を睨め付けた海蛇男は、肩の海蛇を投げ付けて飛びかかって来た。
「そうだったの……。ごめんなさい。でもね……」
彼が私を殺そうとする気持ちは、分かる。倫理的に褒められたものではないが、人間としては普通だ。私だってこうなるだろう。
メドゥサに手をかけた事を頭を下げて詫びつつ、体を屈めて蛇を避け、飛び上がり様に海蛇男のお腹に当身を食わせる。海蛇男は吹き飛び、背中から地面に叩きつけられた。
「殺される訳にはいかないの」
私の言葉を聞いた海蛇男は態勢を立て直して、こちらに煙を吹き付けてきた。此奴がここで暴れたことから判断して煙幕じゃないだろう。有毒物質だ。
空中に逃げて、家の屋根に飛び移り、煙突を引き抜き得物にする。
海蛇男も海蛇をロープがわりに使い、こちらによじ登ろうとしてきたので、煙突で何度も頭を突く。しかし諦めずに屋根の上まで登り切り、私に組みついてきた。
「うわッ!」
改造人間2人が暴れたら流石にそうなるのか、屋根が抜けて家の中に落ちてしまった。
床の上に叩きつけられ、腰が痛んだけど、そんなこと気にしちゃいられない。向こうは本気で私を殺そうとしている。だから悠長なことしてられない。
転がっていた煙突を海蛇男に投げつけるも、ちゃぶ台を盾にしてこれを受け流される。
すかさず、ちゃぶ台ごと蹴飛ばして、腐っていた雨戸へ叩きつけて、庭へ突き落とす。床に転がっていた出刃庖丁を拾い、私も庭へと躍り出た。
「海蛇は捌けるのかな……」
出刃庖丁を振りかざして、肩にかかっている海蛇の頭を切り落とそうとした。でも迂闊にそれを見たのがいけなかった。
海蛇の両目が光り、目が見えなくなったんだ。いや、正確には見えている。ただ周りのものがぐにゃぐにゃと歪んで、尚且つ虹色に光って見える。
「何これ……」
「プリズム・アイだ。もうお前はまともに歩く事もできんだろう。しばらく寝ていろ」
腕を噛まれて、私は気を失ってしまった。
目を覚ました所はどこかの砂浜だった。
砂浜には、折れた鉄骨で作ったと見える十字架があった。そしてその横に、木を立てただけの小さな土饅頭があった。
海蛇男は、両足のアーマーを叩き壊して、私の素足を露出させて、十字架に括り付けた。それで五寸釘を私の両手首に打ち付けて、ゴルゴダの丘のキリストのように十字架に固定した。太い釘を打ち込まれたら、いくら頑丈な身体でも、たまったものではない。思わず悲鳴を上げた。
「騒ぐな。美代子が起きる」
「なるほどね……、そのお墓は貴方の恋人のもので、私は差し詰め……」
「供物だ。そうでなければ、貴様などここに連れてくるものか」
「そうか、お供え物か……。これからどうするのさ。私を殺すのは、わかっているけど、どうやって……」
「すぐには殺さん。真綿で首を絞めることにする」
何処からともなく薬缶を取り出した海蛇男は、中に入っているものを私に飲ませた。塩辛くて苦い。これ、海水だ。
思わず吐き出そうとすると、そうはさせじと同じ量の海水を飲まされた。
「俺の気の済むまでこうする。尤も仮面ライダーに発見されるまでになるだろうが……」
その後、太陽が沈むのを2度見た。2日経ったんだろう。ずっと雨は降らなかった。かんかん照りの日だった。
その間、ずっと海水を飲まされていた。否応無く。喉が渇いて、だんだん意識が朦朧としてきた。おまけに目も殆ど見えなくなった。
「ごめん……なさい……、ごめん……なさい……、ごめ……」
譫言のように、謝罪の言葉を繰り返す。しかしそんな事で許してくれる筈もなく、海水が口に注ぎ込まれていった。そして時たま、恨み言とともに私の右足に鉈を叩きつけてきた。もう騒ぐ気力もなかった。
3日目の夜明け前に、本郷さんと滝さんが駆けつけて来た。水底村で足止めを食わされていたらしい。
海蛇男はプリズム・アイを使おうとしたが、その前に蛇の中の装置を破壊されて使えなくなった。その後、応戦するも呆気なく倒された。
今際の際に、こんな言葉が聞こえた。
「美代子……、今行くぞ……」
メドゥサ、いや美代子さんのお墓に這い寄って、海蛇男は爆散した。
あの後、私は暫く入院した。理由は脱水症になっていて、右足も使い物にならなくなってしまったから。
再生能力は使えたけど、進度が遅くなっている。2週間はかかりそうな具合だ。
「随分と恨まれたものだね……」
ボロ切れのようになった足を見て呟く。考えてみれば、爆散した美代子さんは、右足以外、木っ端微塵になったんだ。意趣返しのつもりだったのだろうか。
「気分はどうだい?」
本郷さんがフルーツバスケット片手にお見舞いに来てくれた。
「体の調子はボチボチといったところですね。心はそうもいきませんが。あの海蛇男、私が仕留めた怪人メドゥサをショッカーから脱退させようとしていたと聞きましてね。首領と交渉して、黄金奪取作戦がうまくいけば脱退させる約束を取り付けていたそうなんですよ。そこを私に見つけられてってね……。抵抗する気を無くすほど、聞かされました。お前が台無しにしたんだって。やはり人殺しをするとなると、こういうしっぺ返しが来ますね……。勉強になりました……」
「見ず知らずの人間に恨まれるのは、仕方のないことさ。何をしようがね、そういう目には必ず遭う。俺はもう慣れたよ……。相手にしている改造人間の内、再生怪人も含めると6人に1人は、海蛇男のような復讐目的で来るものだから」
「私達、あとどのくらいの人に恨まれたらいいんでしょうかね」
「わからない。ただ、なるべく少なくしたいな。とはいえショッカーの規模を考えるとそう簡単にはいかないだろう」
「早く終わらせたいですね……。私達が参っちゃう前に」
如何でしたか。
怪人海蛇男は、設定以外、大幅にアレンジを加えました。結果として、かなり陰惨なお話になってしまいました。
本郷さん達の到着が遅れた理由は、水底村の基地で戦車部隊に足止めを食わされていたからです。改造人間一人で、ショッカー製の戦車部隊を撃破するのは、簡単ではありませんから。