陽だまりシリーズ:小日向未来<放浪>   作:ヨザリイコイ

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今回はショッカーとは関わりがない話です。首領とはありますがね。


chapter50.白虎

 少し前の事だ。北海道の方で人喰い虎が出たって噂が流れた。山奥の村の峠道で、通行人が体を齧られたんだって。

 初めは誰も信じちゃいなかった。無論、この私もだ。日本に野生の虎なんかいるはずないし、動物園から逃げ出したにしても、野生化するまで見つからないなんて話は聞いたことがない。空を飛ぶ鳥ならまだしも、地面を走り、体も大きい虎ならすぐに目立つだろうし。

 どうせマスコミのガセネタだろうと思い、暫くは放置していた。ショッカーが関係してそうもないから。連中がこんな地味な手を使うとは思えないし。あいつら、こそこそ動く割には派手なことばかりするもの。

 それで暫く放置していたら、一週間後にまた被害が出た。それも3人。そのうち命からがら逃げ果せた1人が、ニュースで確かに虎に襲われたと証言していた。

 漸く警察も本腰を入れて虎退治に向かったのだけど、返り討ちに遭い、結局どうにもならなかった。で、今のところその道は通行止めになっている。

 そして私は親父さんと一緒にその道の近くにいる。

 

 

 

 

 

 

「来てみたはいいけど……」

 舗装されていない砂利道の山道を迂回して、件の峠へと向かう。

 滝さんは中間報告でアメリカに帰国してしまったし、本郷さんは本郷さんで学会に行かなければならなかった。それで私と親父さんで虎退治に向かったんだ。

「虎退治をするにしても……、猟銃くらい欲しかったな……」

 鉄パイプと木刀を担いでいる親父さんがボヤいている。猟銃なんてこの人にはいらない気がするけどね。

「大丈夫でしょ、親父さん。いつも戦闘員を素手で叩きのめしているじゃない。鉄棒と木刀さえあれば、十分だと思うよ」

「そう簡単にいかないと思うぞ。それよりも足元に気をつけろ。夜の山道なんて、危ないったらありゃしないからな」

「確かに。そっちの方が危ないね」

 滑り落ちでもして、足をくじいて動けなくなったところをガブリとやられたんじゃ、目も当てられないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あちこちを歩いていると洞窟が見つかった。ショッカーの基地が置いてあるような少し人の手が加えてあるようなもの。

「中に入ってみる?」

「普通ならやめた方がいいが、何の手がかりもない事だし……、一つ入ってみるか」

 2人して懐中電灯を使って辺りを照らして入ると……、血の跡があった。

「虎の巣に間違いないな」

「虎の子を取りに来たわけじゃないのに、巣穴に入り込んじゃったね」

「子虎ならいいんだが……」

「すまんが俺は子虎ではない。大人の虎だ……」

 洞窟の奥から声がした。親父さんと同年代くらいのおじさんの声。耳に残りやすい低めの声だ。

 声を聞いていた親父さんの表情が変わった。昔の知り合いでも見かけたような顔だ。それも長い間会っていなかった友達に出会ったような感じだ。

「おい、まさかお前……。藤堂か? 藤堂権兵衛か……?」

「よく覚えていてくれたな、立花……」

 ぬうっと奥から虎が出てきた。それも絵から出てきたような大きな白い虎だ。でも目つきは、人間のものだった。これはいったい……。

 私が見ていると虎が厳かに口を開いた。

「如何にも、この俺は藤堂権兵衛だ。この見た目では、わからないかもしれないが……」

 

 

 

 

 

 

「おい、藤兵衛。その娘はお前の子か?」

「ああ」

「結構結構。お前にも春が来たんだな……、おめでとう」

 どうもこの白虎は、親父さんの古い友達らしい。それにしても、なんで虎になったんだろう。改造人間というには、この人はいつか私をあと一歩のところまで追い詰めた大佐のように、動物に近い見た目をしている。

「藤兵衛の娘、知りたいか?」

「えっ?」

 白虎がこちらを見ていた。私の考えが分かるみたい。流石は霊獣。

「俺は、お前が考えているような霊獣などではない。ただの弱い人間の成れの果ての姿だ……。何故、獣に落魄れたのか……、口に出すのも恥ずかしい話だが、お前が望むのなら全て明かそう。お前も俺と同じ匂いがするから……」

「お願いします。教えてください」

 迷うことなく、そう答えた。だって、私もいつかはそうなるのかもしれないから。それならば、今のうちに心算しておいた方がいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれはかれこれ16年前の事だ。当時、俺は大学を卒業して、役人になった。ただ、そこで待っていたのは、20時間に及ぶ長時間労働と雀の涙くらいの給料だった。いや、それは構わない。俺も仕事そのものは気に入っていた」

「じゃあ何で?」

「俺の上にいる連中が気に食わなかったんだ。俺より秀でているわけでもないのに、俺を顎で使う。そのことに耐えられなかったんだ。それで俺は役人を辞めて、前々から誘いを受けていたこともあって、かつての恩師が転勤していた大学に行って研究者を目指したんだ。しかし……」

「しかし、どうしたんだ?」

「そこはそこで派閥争いがあってな……。詳しいことは思い出せないが、何かの学説に関しての論争が起きていた気がする……。それに俺も巻き込まれてな……。いい加減耐えられなくなってしまったんだ。不毛な論争ばかりする馬鹿どもの集まりに巻き込まれるのは、ごめんだって……。まぁ、それで恩師との関係も悪くなり、大学を出ることになったんだ……」

 どうもこの白虎は、プライドが高く、自分に正直すぎる人らしい。あまり世渡りが上手い方では無いようだ。

「お前さんの考えている通り、自尊心が高いと世渡りは上手くいかない。大学を追い出されてからは、気力を無くして、あちこちを放浪していた。いや、何。とくにあてはなかった。それである時、北海道の山奥の村に泊まったんだ。その晩のことだ。低い濁声が聞こえてきたんだ。権兵衛、こっちへ来いって宿の近くの野原からな」

「野原から……?」

 低い濁声というのも気になるけど、野原から呼ばれたって……。

「ああ。それでその野原まで近寄ると声がだんだん遠のいていく。必死に声の出所を追ううちに、四つ脚で走るようになり、口には牙が生え出し、終にはこのような白虎になってしまった。まるで『山月記』の李徴のようにな。あの男も確か己が高すぎる自尊心が、その身を虎に変えてしまった。俺とて背景は違えど似たようなもの……。もしかしたらそれが原因なのかもしれない……」

 自嘲する白虎を親父さんはなんとも言えない顔で見る。まさかそんな事情があったとは思わなかったって。そりゃ改造人間という非常識の塊みたいな存在を見てきた親父さんでも、そんなお話みたいなことが起きたなんて信じ難いだろうしね。

「最近は、この辺りに禽獣が居なくなって、それで人間を狙い始めたんだ。最早、獣としての本能が抑えきれなくなりつつあるようだ。いや、俺は本当は虎だったのかもしれない……」

「滅多なこと言うな。お前が人間だったことは、俺の頭にしっかり焼き付けてある。それよりも……、本能が抑えきれなくなるとか言ってたな。ということは、段々と本物の虎に……」

「そういうことだ……。いずれは誰かに狩られることになるだろう。しかし俺が人間だったことを知らない奴に殺されるのは、この上なく辛いことだ。そこでたっての頼みがある。この俺を今すぐ始末してもらえないか。お前たちに殺されるのならば、俺は迷わずあの世へ行けそうだ……」

「おいおい、早まるなよ。この先、人間に戻れないとも限らないだろう」

「そうですよ。死に急ぐことないですよ」

 でもその気持ちはわからないでもなかった。この先、人間に戻れないなら死んだほうがマシとは、私も思わなかったことがないわけじゃない。

「その言葉はありがたいが、そう悠長な事もしてられないのだ。だんだん、人として生きられる時間が短くなっているんだ。あと数ヶ月もすれば、ただの虎になってしまうだろう。恐ろしいのだよ……、ただの獣として扱われて死ぬのがなぁ……。それだけは俺としちゃ嫌なんだ。だから、今のうちに人間として死なせてはもらえないか……。頼む、この通りだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 結局、私達は願い通り白虎を退治して亡骸を土に埋めた。

「うーむ、来なけりゃ良かったかもしれんな」

 親父さんは目頭を押さえていた。無理もない。相手は昔の友達だったのだから。

「たしかに。でもあの人、親父さんに最期に会えたことは、素直に喜んでいたみたいだったし……。その事だけが不幸中の幸いと言えるのかも……」

「本当に幸いだったのだろうかな……」

 満月に照らされながら、無言で山道を降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、私が戯れで作り出した虎は死んだか……」

 手術などというもので人をどうこうするのも面白みにかける。だから昔から偶に人を獣に変える遊びをしている。

 するとまぁ、こういうドラマが出来上がる。これだから人間というのは面白い。

「首領」

「なんだ」

「大西洋にて人造人間の技師を取り逃がしたとの報告が入りました」

「他は始末しただろうな」

「はい、それは間違いなく」

「ならば構わん、捨て置け。それよりも魔人どもと龍はどうなっている」

「各自、破壊活動を各地で実行中です」

「よろしい。作戦を続行させろ」

 さあて、彼奴が私を倒しに来るのはいつの日か。なるべく早く来ることを願う。退屈で仕方がない。




如何でしたか。
虎が相手なら響かセレナか、はたまた翼さんの方が適役でしたかね。
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