ある日、駄菓子屋でラムネを買って飲んでいると、仮面ライダーと一緒にカブトムシを取りに行こう、なんて書かれた横断幕の掛かったバスとすれ違った。
「どこの観光会社だろう。しかし本郷さんも変わったことするね。わざわざ変身して、カブトムシ採りに興ずるなんて……」
あの人、変わり者だけど好きこのんでライダーになるほど、酔狂なことはしないのに。
すると曹操の事を話せば曹操が来るとは言ったもので、レース帰りらしい本郷さんが通りかかってきた。
「あれ、麻由君じゃないか。息抜きかい?」
「うん。そういう本郷さんは、これから子供達とカブトムシ取りに行くところ?」
私の言葉に本郷さんは、怪訝な顔をした。
「いや、そんな予定はないけど……。僕は見ての通り、レースから帰る途中さ」
「え? でもさっき、ここを仮面ライダーと一緒にカブトムシを採ろうなんてバスが通りかかっていったよ」
「そんな話、聞いてないぞ。そもそも必要ないのに、仮面ライダーにならないのは、君も知っての通りじゃないか」
じゃあ、さっきのは……。あー、また奴らか。本郷さんも誰の仕業か、大凡の検討はついたみたい。もしかしたら、ただの悪徳業者かもしれないけど、仮面ライダーの名前は意外と大人は知らないことが多いから、可能性は低い。
「バスはどっちに?」
「西の方角。私も探しに行く」
「頼む。この先は、二股に分かれている。俺は右に行く」
「じゃあ、私は左で」
急いでバイクを西に向けて飛ばした。縁起でもない方角だ。
10分程して、バスが見つかった。ただどうも折り返しの便らしく、子供達を乗せて反対の方向に走っている。
「あれ? 何にもなかったのかな」
まぁ、それならいいんだけど。
無線機を使って、本郷さんにバスが引き返してきた事を教えた。
「誘拐ではないようだな。しかし……、どこの観光会社の企画なんだ?」
「さぁ……、私ちょっと子供から話を聞いてみます」
「俺はバスをつけるよ。何かわかったら連絡する」
「気をつけてね」
子供の一人を捕まえようとすると、目の前で変なことが起きた。
あの胡散臭いツアーに参加していなかった子の一人が、参加した子に感想を聞いていた。参加した子は、最初のうちは素っ気ない返事をしていたけど、そのうち戦闘員がよくやるような右腕をピンと伸ばすポーズをして、人を呼んで取り囲んでいた。
見るからに不穏な雰囲気なので飛び出すと、パタパタと散っていった。
「大丈夫だった?」
「大丈夫だけど、さっちゃんが仮面ライダーは敵だ。殺せって……」
「本当にそう言ってたの?」
「うん」
物騒なこと言うものだね。まぁ、これで主催者が誰かよーく分かった。今度は、子供に妙なこと吹き込んでるのか。ショッカー。
「取り敢えず、今日は家に帰って戸締りをしっかりしていなさい。もし、お父さんやお母さんが家にいないなら、立花レーシングクラブに行くんだよ。わかった?」
「うん」
子供を送った後、事の一部始終を本郷さんに報告する。本郷さんは本郷さんで、バスの尾行を続けているようで、私に空から探るよう頼んできた。万が一、バスを見逃した時に備えてということで。いかに正体が仮面ライダーと雖も人間の姿をしている以上、法定速度は守らなきゃいけないしね。
尤もバスが時速60キロ以上で走る道ではないと報告されているけど。
空から見ているとバスは、高尾山に向けて走っていた。
山に入ってから、急に細い道に入った。おそらく巻くつもりだろうけど、そんなことで誤魔化されるほど、私達の目は悪くない。
案の定、バスを捨てて逃げ出した運転手は、本郷さんに捕まり泥を吐かされていた。するとその時だった。
何処かからナイフが飛んできて、運転手の心臓に刺さったんだ。そして変な鳴き声が聞こえた。ショッカーの改造人間だ。ギギギギという声から蝉か何かと思ったら違った。カブトロングというらしい。多分、カブトムシの怪人だろう。カブトムシを取りに行くことを撒き餌にしていたから。
しかし声の発信源が今一つ掴めない。何処かに隠れているんだろうけど、どうもわからない。本郷さんもバスを探る為に乗り込もうとした。
すると本郷さんが乗り込んだ瞬間、扉が勝手に閉まり、バスがバック走行しだした。どうも罠だったらしい。
慌ててバスに取付き、暴走を食い止めようとするも、坂道ということから加速が付きやすく、なかなか上手くいかない。
「くうっ……」
脚のスラスターを吹かせて、力をさらに込める。平地に入ったからか、さっきよりは減速している。これならなんとか止まりそうという時に、本郷さんからの連絡が来た。
「麻由くん、試してみたが、この車はコントロール不能だ。おまけに戦車同然の硬度を持っている」
「道理で硬いし重いわけだ……。これ、一体どこに転がっていくんですか?」
聞いた途端に、背後からチンチンチンと甲高い音がした。振り返ると其処は踏切だった。そうか、列車にこの装甲車をぶつける気か!
「本郷さん、発煙筒有りますか?」
「ある。ちょっと待ってくれ、今、脱出する」
直後にドアを蹴倒したライダーがバスを飛び降りて、線路の近くで発煙筒を焚いてくれた。ついでに非常通報装置も押してくれたから、これで列車側も気づくはず。
「そうはいかん!」
急にバスが加速しだした。誰かが押しているんだ。多分、カブトロングだ。ライダーが急いで、私と一緒にバスを食い止めにかかったけど、中々止まらない。
「どうだ! このカブトロング、伊達に鉄人を名乗ってはおらん!」
成る程、確かに凄い力だ。加速が付いているのもあるけど、ぐいぐいと押しているもの。
「こうなったら仕方がない。列車の通過まで耐えきるんだ!」
もう列車はすぐそこまで来ていた。ガタゴトという音がはっきり聞こえるくらい。チラと見たけど、列車は4両。直ぐに通り過ぎる。
必死になって押しているけど、勢いが衰える気配がない。後ろを見ると、もう少しで踏切の停止線まで到達しようとしていた。おまけにもっと悪いことに気がついた。
「ここの踏切、遮断機がない!」
「押し切られたら最期だ! 頑張れ!」
スラスターをフルパワーにして更に力を入れる。ライダーもベルトの左側のコンバーターを弄って、パワー増強を図った。
「制限時間残り50秒! 耐えられるか……?!」
さしものカブトロングも此れには対抗出来なかったのか、バスの動きが止まった。その直ぐあとに、私達の真後ろを列車が通過した。危ないところだった。
しかしへたり込む間も無く、ショッカーの戦闘員が飛び出してきた。こっちは疲れ切っているってときに。しかし、私達の背後から襲いかかってきたのは、失敗だった。
「トオッ」
「テイッ」
バスから飛び退いて、道端に転げ込んだ。
カブトロングは、馬鹿みたいにバスを押し続けていたのだから堪らない。哀れ、踏切の向こう側から迫ってきた戦闘員は、戦車擬きのバスに轢かれてしまった。
「あーあ、可哀想に……」
荒い呼吸をしているとカブトロングは、別働隊らしい戦闘員と一緒にライダーと格闘を始めていた。
疲労困憊のライダー一人に任せるわけにはいかない。直ぐにライダーを襲おうとした戦闘員に足払いをして、転んだところに肘打ちを叩き込む。
戦闘員のナイフを奪い取り、襲いかかってきたもう一人の戦闘員の喉に突き刺す。
倒れかかった其奴を盾にして、3体の戦闘員のナイフ攻撃を躱し、得物がなくなったところで撲り倒す。
するとライダーと戦っていたカブトロングが、こちらに襲いかかってきた。何をされるかわからないので、戦闘員の死体を盾にすると左手のハサミでいとも簡単に切り裂かれてしまった。
左手を潰さないといけないようだと考えたが、それがいけなかった。
懐に飛び込み、左腕を掴んだ瞬間に身体に何か浴びせられたんだ。すると強烈な眠気に襲われた。麻酔薬か何かみたいだ。
「甘い。俺とて怪力のみが、武器ではない」
「し、しまった……」
そのまま、がっくり倒れてしまった。不味い。こういう目に遭う時は、良くないことが起きるんだ。
「今回の良くないことは、これか」
高尾山にある木に、鎖で繋がれて放置されていると、ショッカーの戦闘員と茶色の開襟シャツを着た子供達、そしてカブトロングがやって来た。皆、手にカブトムシらしいものを持っている。
「これよりショッカーシューレ第1期生卒業試験を行う」
卒業試験ってことは、学校を作ってたんだ。回りくどいけど、考えたものだ。
「試験課題は、この女にその甲虫手榴弾を命中させることである。見事命中させた暁には、ショッカーの正式な構成員となることができる……」
変なもの拵えたね。手榴弾くらいなら死にはしないけど、虫を投げつけられるのは、嫌だ。虫まみれになるなんて、想像しただけでゾッとする。私だって、これでも女の子だもの。
「投げ方始め!」
号令と共に、私目掛けて手榴弾が飛んできた。気持ち悪い。
「きゃあ!」
必死になって逃げ回るも何個かは私にぶつかって、身体に取り付き爆発した。軽い怪我で済んだけど、それよりも精神的なダメージの方が大きい。半泣きになって蹲ってしまった。
「次、投げ方始め!」
「ひ、ひぃ……、もうやめて!」
堪らず情け無い声で悲鳴をあげると、生徒達とは別の方角から手投げ弾が飛んできて、鎖の結び目に取り付き爆発した。
「誰だ!」
「俺だ!」
仮面ライダーが飛び出して助けに来てくれた。滝さんと親父さんもいる。助かった。援軍だ。
「大丈夫ではなさそうだな……」
「いえ、体は大丈夫です」
襲いかかってきた戦闘員に、私は肘打ちを叩き込んでサーベルを奪い取った。
直ぐさま、こちらに向かってきた戦闘員の胴をなぎ払い、私の背後から手榴弾を投げようとした数人の生徒の近くに引き倒す。
「止めろ! 貴方達もこうなりたいのか!」
洗脳されているとはいえ、やはり子供だ。私の脅しに怖がって、直ぐに攻撃するのをやめた。
こんなこと、本来ならば絶対にすべきじゃないが、この非常事態だ。子供を直接相手にするよりはいい。
そうこうしている内に、カブトロングが逃げ始めた。
「待て! お前だけは、絶対に許さない!」
殿の戦闘員の胸をサーベルで貫いて、私はカブトロングを追い掛けた。
ゴンドラに乗って逃げるカブトロングを追って、私もゴンドラに飛びついた。
「このッ。落ちろ!」
私の指を踏みつけてくるのを我慢して、体を揺らしてゴンドラをめちゃくちゃに揺らした。
これにはカブトロングも堪らず、柱にしがみつくばかり。それを見て、逆上がりの要領で足を振り上げ、スラスターを吹かせる。
耐えきれなくなったゴンドラは基部から折れ、私とカブトロング諸共、渓流の上に張られている金網の上に落下した。しかも金網を壊して、私とカブトロングは渓流に真っ逆さまに落ちていった。
「うわぁーッ!」
カブトロングは見た目の割に飛べないらしく、ゴンドラにしがみ付いたままだ。
それを見つつ、私は直ぐにスラスターを使って、落ちる方向を変えた。川の上に落ちかけたのを、近くの地面に落っこちるように調整したんだ。こいつの角をへし折らないと厄介だから。それに勢いで頭が潰れたら、鶏でもない限り、助かりはしない。より威力を付けるために、スラスターを吹かせる。
「や、やめろ! 貴様も助からんぞ!」
カブトロングは、私の意図に直ぐに気づいたらしく、慌てている。しかしまぁ、お気の毒に。冷静じゃなくなると、肝心なことを忘れちゃうのね。
「ご心配ありがとうございます。でもねぇ……」
大きな岩が直ぐそこまで見えたところで、私はスラスターを逆噴射して離脱した。
「私、空を飛べるんですよ」
私の言葉と共に、カブトロングは頭から岩にぶつかり、ぐしゃりと音を立てた後、爆散した。自分でやっておいてなんだけど、あんな痛い死に方はしたくない。
「やっと終わった……。でも、これで子供達からは怖がられるだろうし、親父さん達からのお説教は避けられないだろうね……。今回は、色んな意味で大損だよ……」
渓流に飛び込み、背泳ぎの要領でプカプカと浮かぶ。何だか、今日はこのまま流されていきたい。柄にもないことをして、疲れてしまったから。
この後、ショッカーシューレにいた子供達が、みんなその間の事を全く覚えていないと知って、麻由は安堵したそうです。
また、子供達に襲われかけた時に取った手段ですが、あの場合はどう考えても他に適当な手段がなかったことから、やむを得なかったということで、目を瞑ってもらえました。但し、他に適切な方法が取れる時には、絶対に使うなと厳命されたとのことです。
さて次回は、未来にとって大切な物が絡んできます。
乞うご期待!