陽だまりシリーズ:小日向未来<放浪>   作:ヨザリイコイ

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麻由は、鉄砲の使い方を少しなら知っています。
戦闘員から奪って使うことがよくありますから。


chapter52.流れ星の丘攻防戦

 最近、世界各地で流星群が観測されている。テレビもラジオも連日、流れ星の話題で持ちっきりだ。こんな事、早々ないから。

 ただどういうわけか、日本ではまだ観測されていない。近くの国では見えたのにだ。別に私に何の不利益もないけど、残念だった。流れ星を見たいから。

 すると5日後に、日本で流星群が見られることがわかった。もう大喜びした。それで親父さんにこの辺りで星が見られる場所はないか聞いてみると、何年か前に本郷さんと天体観測に行った丘があるからそこへ行くといいと教えてもらった。

 下見に行くと、中々良い場所で四方が森に囲まれている小高い丘だった。周りには人家も街灯もないから、邪魔な物が何もない。天体観測には、打ってつけだ。

「親父さん曰く、こんなに御誂え向きの場所は、もう東京にはそれほど残ってないらしいから……」

 親父さんが子供の頃は、他にもあったらしい。それはそうだろう。戦前ならまだそこまで開発が進んでなかっただろうし。

「ここが潰れたら、後がない気がするよ……。それに……」

 私もこの場所、何だか来たことがある気がするもの。とても懐かしい感じがするんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 下見から帰ろうとすると、夜空に光る物が見えた。尾を引いた赤い光。

 予報よりかなり早いけど、流れ星だ。

 帰るのをやめて見ていると、もう一つ来た。流星群だから何個も来るのは当たり前だけど、この星の様子がおかしかった。私の方に近づいてきたんだ。

 最初は気のせいだと思ったけど、どう見ても此方に近づいているし、私が動いたらそちらに向きを変えてくる。誘導されているみたいだ。

「あれ、本当に流れ星かな?」

 十中八九違うと思うけど、何なのか見当がつかない。

 でも私目掛けて飛んでいる事からして、碌でもない物だと思う。ならば街に逃げ込むのは得策じゃない。だからといって、ここを壊したくもない。ならどうすればいいのか。答えは簡単。

「そろそろこっちに近づいてくる……、来た!」

 変身して地面から少しだけ体を浮かせ、両手を大きく広げる。

 飛んできた物体を見ると、外見は普通の隕石だった。あくまで外見は、だ。

「中身は何かな……、ぐッ!」

 両腕で隕石を抱える様にして押し留め、スラスターを目一杯吹かせる。宇宙から落っこちてきたものだけに、勢いがかなりある。カブトロングのバスの比ではない。

 仕方がないので、スラスターを吹かす向きを変えて加速させ、少し離れた海の沖合に落とす事にした。

 隕石諸共ざぶんと飛び込む。幸い水深が深いところだったので、大きな水飛沫を上げただけで済んだ。

 ただ飛び込んだ時に、かなり水を飲んでしまった。口の中が苦くて仕方がないので、直ぐに水面に浮き上がり、口の中のものを吐き出した。

「ゲホッ、ゲホッ……、いきなり飛び込んだのは無茶だった……」

 これくらいで死ぬ訳ないけど、死ぬかと思った。まぁ、良い。彼処に隕石が一つ落ちる事は、避けられた。

「と、取り敢えず帰ろう……、親父さんや本郷さんを呼ばないと……」

 水に濡れて重い身体を引きずりながら帰ろうとすると、妙な音が聞こえた。魚が跳ねた様な音。

 振り返ると海から細長いものが飛び出してきた。よく見るとイカの触手に似ている。それが私目掛けて、何本も飛んできている。急いで逃げようにも、疲れていて素早く動けない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手足に触手が巻きついて来て、私を海底に引きずり込もうとした。

 どうしようもないので、無謀ながら岸に向かって助けを呼ぼうとしたけど、そうは問屋が卸してくれなかった。

「んごッ?! ムグぅ!」

 すぐにもう一本の触手が首に巻きついてきて、クラッシャーを壊し、私の口に無理矢理捩じ込んできた。

 喉の奥に入り込もうとしている。おまけに首を絞めつけてくる。このまま窒息死させるつもりらしい。これだけでも辛いのに、日が経って腐った魚のような酷い匂いがするものだから、涙が出てくる。

 しかしこのまま放って置くわけにはいかず、気持ち悪いのを我慢して触手に噛み付いた。

 すると触手が暴れ出し、私を滅茶苦茶に振り回した。必死に食らいついていると耐え切れなくなったのか、私を海面に放り投げた。

 バチャンと大きな音と共に仰向けに叩きつけられ、水面下に沈むと一瞬妙なものが見えた。白っぽい色の人型のなんだかよくわからないもの。

 嫌な予感がして再び潜ると、その変なのがよりはっきり見えた。

 イカと髑髏を組み合わせたような気色の悪い姿に、赤マントと鷲の掘られた黄金のバックルのベルト。間違いない、ショッカーの新型怪人だ。しかも大幹部ときた! 

 

 

 

 

 

 

 イカ怪人と水面下で睨み合う。しかしあまり長くはやってられない。私は水中戦用に特化されているわけじゃないから。

 触手に対抗しようにも素手では辛いな……、そうだ。あれを使おう。陸だと貫通力があり過ぎるから使わなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 痺れを切らしたイカが墨を吐いた。何かしら仕掛けてくると思い、後ろに退がる。また触手だったとしても今度は問題ないけど、大幹部級の怪人が、そんなにシンプルな構造だとは思えない。大佐の場合は、四つ足と二本足の形態に変形していたし。

 すると墨の中から光る物が近づいてきた。銛だ。4本の銛が私目掛けて、撃ち込まれてきた。

 右に躱すも一本が左手の甲と左の脇腹に刺さって、爆発した。左手は肘から下が全壊し、脇腹も大分、抉られてしまった。左胸に刺さらなかったのが救いだが、かけられる時間が減ってしまった。

「一発勝負だ……」

 イカ墨が消えかかる瞬間を狙い、右腕を前に構える。バイザーに反応が出ている方向に照準を合わせる。向こうも何か発射しようとしているらしい。まぁ、何を撃たれようが、当たれば私はおしまい。もし、右の脇腹に当たれば、体が真っ二つに成りかねない。

「早くしてよ……、潮水は沁みるんだから…………」

 この言葉が終わらない内に、触手や銛とは違う黒いものが飛んできた。

 それを見て、こちらもすかさず右腕に追加されていたビーム砲を発射する。

 光線は、黒いものを焼き払い、イカの下半身を吹き飛ばした。でもイカにはまだそこまでのダメージはないようだ。上半身の腕を使って、どこかへ逃げてしまった。

 もう一発、追い討ちに撃とうとしたけど、無理だった。右腕がバラバラに壊れてしまったから。

「早く……、何処かで寝転んでよう……」

 両腕と脇腹が無くなったのは、かなりの深手だ。直ぐに帰れそうにない。

 

 

 

 

 

 

 サイクロンも帰る気力も無く、酔っ払いのように浜辺のベンチで寝ていると、顔の上に何が落ちてきた。目を開けて見てみると手紙みたいだ。

「えーと、何々。これから数日間、流れ星の丘から一歩も動くな。ショッカーの対ユーラシア大陸用ミサイル基地建設が始まろうとしている。流れ星愛好家の名無しの権兵衛より……。ミサイル基地?!」

 とんでもないもの作ろうとしている。いや、あそこをショッカーに踏み荒らされるなんて、耐えられない。

 傷も塞がったことだから、急いで流れ星の丘へ向かうことにした。無論、親父さん達に連絡を入れてから。人出は欲しいからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 流れ星の丘に繋がる道に、土嚢を10個ばかし積み上げる。バリケードを築いて、ショッカーが入ってこれないようにするためだ。

 作業着にヘルメットという工事現場の作業員の格好をして、昨日からせっせとこんな事している。

「よいしょコラショっと……」

 土嚢を置いてから、鉄条網の杭をその背後に打ち込む。暑いけど、流れ星の丘のためだから、弱音は吐けない。

「しかもあの手紙の内容、どうも本当のようだからね。日本の近くで国籍不明の潜水艦や貨物船が捕まって、その中にミサイルの部品があったって、本郷さんから連絡が入ったもの」

 お陰で滝さんが、CIAを通じて在日米軍からバリケード用の資材と武器、それに人員を手配してくれたのだから、本当に助かる。自衛隊も後方支援だけど、応援してくれるらしい。なんだか大事になってしまった。

 それにしても……、名無しの権兵衛って誰だろう。親父さんの友達のことじゃないだろうし……、ショッカーを知っているって事は、その被害者かな。滝さんが前言ってたけど、ショッカーへの対抗組織みたいなものが、地球規模であるらしいから。でも仮面ライダーの情報を掴んでいる人は、そんなに多くないとも言ってた。私に至っては、恐らくゼロじゃないかとのこと。まぁ、そんな事は今はどうでもいい。

 名無しの権兵衛が誰かはわからないけど、このことを教えてくれたことは、いつか会ったらお礼が言いたい。

 

 

 

 

 

 

 流れ星の丘を要塞にして、3日間は何もなかった。兼ねてからの暑さもあり、守っている人達も気が緩んできた。そこをつけ狙われたのだろう。4日目の深夜に夜襲をかけられた。

 どこからともなく飛んできた砲弾が、私達がテントを張っている場所の真横に落っこちたんだ。それでみんな慌てて、飛び出してきた。勿論、私もだ。

 バリケードをぶち破って、芋虫のような形をした大砲を載せた戦車が私達を砲撃してくる。その脇を潜り抜けて、手に銃だの大砲だの、見たことがない杖みたいなものを持った戦闘員がこちら目掛けて突進してきた。

 負けじとこちらも飛び出して、鉄砲玉を戦闘員に浴びせ掛ける。そして大砲を引っ張り出して、ショッカーの戦車に砲撃を加えた。

 お互いの銃弾が飛び交って、流れ星の丘は戦場になった。

 

 

 

 

 

 

 

「戦闘員どもを地雷原に誘い込め!」

「北側を守っている隊はどうした!」

 あちこちで指示や怒号が飛び交う。

 敵味方双方の死体が積み重なり、あたりはもう地獄絵さながらの凄まじい光景だ。

「ああ、キリがない!」

 やっつけてもやっつけても、次から次へと押し寄せてくる戦闘員。強さ自体は、私からすれば大したことないが、こうも多くては疲れてくる。周りで戦っている兵隊さんも疲れてきているみたいだ。

「せいっ!」

 奪い取った大砲を棍棒がわりにして、戦闘員を殴り倒し、膠着状態に陥っていた所へと槍のように投げ込む。

 一部の戦闘員がこちらに向かってきたのを、足元で倒れている奴から奪った機関銃を使って応戦する。

 いつまで続くの、これ。

 

 

 

 

 

「そろそろ怪人が出てきてもいい頃合いだろ……」

 機関銃片手に滝さんも気息奄々としている。戦闘員に何度も4人がかりで襲いかかられたものだから、ヘトヘトになるのも無理はない話だ。この人、4人がかりで攻撃されると危なくなることが多いから。

「北側の方は再生怪人が押し寄せてきたそうですよ……。本郷さんと親父さん達が蹴散らしたみたいだけど……」

 地雷を踏んづけて擱座した戦車を壁にして、分けてもらった軍用チョコレートを口の中に放り込み、戦闘員から奪い取ったライフルにこれまた奪った銃弾を込める。

「ビーム砲を温存させておかないと……。案外使い物にならないから」

「何……、張子の虎だったのか……」

「ええ、一発撃っただけで腕ごと吹き飛びました……」

「欠陥品を使い出したってことは、彼奴らも余裕がないのかもしれないな……」

 じゃあ、そろそろショッカーが潰れる日も早いかもしれない。

「そう簡単には潰させん……」

 

 

 

 

 

 

 

 聞き覚えのある気味の悪い声と共に、車椅子の男が現れた。

 灰色の髪と青い目、黒マントの初老の紳士。寒気のする眼光。間違いない。死神博士だ。

「し、死神博士。今回の黒幕はお前か……?」

「如何にも……」

 滝さんの問いに、死神博士は肯定した。こいつ、いつの間に南米から帰って来たんだ。それよりももっと気になることがある。

「いつの間に足を壊したの? 博士」

 博士に足が無いんだ。ズボンの膝から下の部分が平べったくなっている。足が付いていないとしか言い様がない。

「それは、お前がよく知っている筈だ」

 博士の答えを聞いて、自分のこれまでの行動を思い返す。

 私が倒した怪人はそこそこの数いるが、死神博士は直接攻撃したことはない。ただ大幹部級の怪人なら、この前仕留め損ねたのがいる。あれも足を無くしていた……。

「成る程、あのイカはあんたか……」

「そういうことだ……。イカデビルは、お前の目の前にいる」

 マントを被った死神博士が、それを取り払うと……、この間のイカが少し姿を変えて現れた。何故か足付きで。

 

 

 

 

 

 

 イカデビルに手に持ったライフルで銃弾を浴びせる。しかしイカデビルは滑走して、これを難なく躱す。脚に私の物と同じような仕掛けがしてあるらしい。

 しかし見るからに水中戦用なのに、無理やり陸戦もできるようにするなんて、本当に余裕がないみたいだ。

 武器は……、見たところこの前の触手と左手の4連装の砲門。後はあるとすれば、脚の中に何か仕込んであるくらいか。

 滑走してイカデビルに近付くと、右手の太い触手が唸りを上げて飛んできた。

 咄嗟にライフルを投げ付けてこれを防ぐと、ライフルが焦げて爆発した。電気鞭みたいだ。当たると命は無いものと見たほうが良い。コードで防ぐ方法は、使えないね。

 そして左側から突っ込んでみれば、ロケット弾が連射されてくる。おまけに触手が邪魔をして、砲撃が止んだのを頃合いに、殴り掛かろうとすれば受け止められてしまう。

「鬱陶しいな……」

 手足をもぎ取らないと、倒せそうに無い。腕のビーム砲は、一発しか打てない代物だから。

 しかし中々、近付きにくい。でも離れたら離れたで、鞭が飛んでくる。おまけにイカデビルは、距離を取りながら逃げ回るのだから、始末に負えない。何かの時間稼ぎでもしているみたいだ。

「たしか……、あっちの方に……」

 地雷原のある方向を思い出し、イカデビルをそちら目掛けて移動させることにする。

 別の方向に移動しようとした時には、近づいてコードを投げ付ける。この時、頭に当たろうとしたら、必死で防いでいた。頭に何かあるのだろうか。

 

 

 

 

 

 地雷原に飛び込むと、イカデビルは地雷を爆発させて転倒した。足こそ壊れていないが、転倒と同時に何個か別の地雷に触れたらしく、爆発は少々派手だった。そして必死に頭を抱えている。

 これは絶対に何かあると思い、サイクロン号を呼び寄せて、イカデビルへの囮として突っ込ませる。

 時速500キロの物体を防ぐのは、イカデビルでも難しいようだ。上半身を起こして、触手を巻きつけて押し返そうとしている。

 その隙をついて、死神博士が乗っていた車椅子に右腕のコードを巻き付ける。

 これをハンマー投げの要領で振り回して、イカデビルの後頭部に投げつけた。

「あがッ!」

 15キロの重さの物体が直撃したものだからたまらない。しかもひっくり返ったところをサイクロン号に胴体と両肘を踏まれていた。弱り目に祟り目とは、まさにこのことだ。

「い、いかん。俺の隕石誘導装置が……」

「隕石……? そうか、頭の中に仕掛けがあったのか」

 でも、どこに誘導するつもりだったんだろう。多分、東京か何処かだろうけど……。

「まぁ、良い。()()()()仮面ライダー達を抹殺できる……」

 そう言い残して、イカデビルは爆発した。

 でも安心してはいられなかった。隕石が落ちてくるのだから。

 

 

 

 

 

 

「ビーム砲を使わなかったのが、もっけの幸いだけど……」

 それだけでどうにかなるかはわからない。大きさ次第じゃ手に負えないから。しかも数が多いと万事休すだ。

「見えた!」

 大きさは軽トラックくらいのものが、10個くらい降ってきた。あれくらいならビーム砲は耐えられる。

 腕の向きを変えながら発射する。最大出力で発射したため、隕石の類は簡単に塵になった。私の右腕も吹き飛んでしまったけど……。

「終わったかな……、ん?」

 バイザーに反応が出た。4分後にもう一個、この丘を潰せるくらいの隕石が、降ってくるみたい。しまった……、本命はこっちか……。

 

 

 

 

 

 

「これでお終いか……」

 エネルギーを使い果たしたせいで、へたり込む。腕のビーム砲が壊れた以上、隕石を壊す手段がなくなってしまった。

 周りの人達は、なんとかしようとしている。だから私もなんとかしたい。しかし最早打つ手はない。

 何か何か……、一瞬でいい。この急場を凌げる方法が欲しい。何だっていい。ここが守れるのなら、命だって安いものだ。

 頭をひねって考えていると、何かが浮かんできた。歌詞だ。でも草津の時とは違う。それを迷わず口に出す。それと同時に身体の中身が、飛蝗になる時とは別の感じで変わっていくのが分かった。

 歌い終わると身体の強化服……、いや神獣鏡が白い色に変色していた。手元に転がっていたアームドギアは、少し広がった形の扇。腰から見覚えの無い尻尾が生えているけど、たいした違いじゃ無い。

「これなら何とか……」

 宙に身体を浮かせて、アームドギアを丸い鏡に変形させて、自分の周りに並べる。

 足から今まで使えなかった鏡とレフレクターを取り出して、自身の周りに円形に並べる。そして尻尾の先のビーム砲を右脇から突き出して、いつでも撃てるようにする。

「久しぶりだけど……、大丈夫……。石ころぐらいにするくらいなら……」

 根拠のない自信と共に、照準を近づいてきた隕石に向ける。

「さあ、おいで。これが……私の……」

 久々に口に出す言葉と共に、右腕のビーム砲とは比較にならない大出力のビームを隕石目掛けて発射する。吹き飛んで! 

 

 

 

 

 

 

 

 久々に使った暁光は、前に誰かさんを吹き飛ばした時のように、景気良く隕石も吹き飛ばした。まぁ、これは良かった。

 序でにこの武器の名前と使い方、それにここに来る前の数ヶ月分の記憶も思い出した。これもまた良かった。手掛かりが出来たのだから。

 問題は一つ。隕石のかけらが私に直撃して、打ち所が悪かったのかコントロールが出来なくなって、近くの川に落ちたんだ。

 おまけに運悪く雨が降ってきた。このままだと増水して危ないのに、身体がうまく動かない。だから、どこかの橋のたもとに取り付こうにも、それも出来ずにいる。

「やっぱり、さっきのは……やり過ぎだった……おぷっ」

 不味い、ギアまで解けた。こ、このままだと……、土左衛門に…………なって…………。

「おい、手を出せ……」

 溺れていると急に声がした。でもこの天気で船に乗っている人なんかいないはず。

 兎に角、声のする方に首を向けると白いスーツを着た人が、宙に浮いていた。何処かで聞いたことがある声だけど、思い出せない。

「早くしろ。このままだと助かるものも助からんぞ」

 見るからに胡散臭いが、贅沢言ってられない。だから痺れが残るが辛うじて動く左手を動かして、スーツの人の手に掴まる。

 すぐ近くの岸辺まで引き上げてもらい、そこで水を吐く。

「あ、ありがとうございます……」

「礼には及ばん。お前をこの世界から放逐しろと……、首領から命令を受けたのでな……。死なれては困るのだ」

 一難去ってまた一難。消耗している時に、ショッカー怪人に出くわしてしまった。どうしよう。サイクロン号を呼び出そうにも、通信機が壊れたのか反応がない。こ、この分だと、次の日には何処かの基地で土に還ることになりそう……。今からでも遅くないから、川の水を飲んでおこう。

「おい、俺をあんな潰れかけの連中と一緒にするな。俺はたしかに首領の部下だが、彼奴らは俺の事など知らん」

「ど、どういうこと?」

「知る必要はない。奴らは、間も無く崩壊する。彼奴らはただの使い捨ての道具だ」

「使い捨て……」

 私はそんな連中にこんな身体にされたのか……。

「兎に角だ、お前が居てもいなくても、仮面ライダーがいる限りショッカーが崩壊するのは、時間の問題だ。しかしながら、物事には順序というものがある。お前がこれ以上、戦いに加わるとショッカーの崩壊が早まってしまう。勢いがある頃のショッカーを相手にしている分には問題なかったが、流石に首領としても坐視できなくなってきたのだ。だからお前を適当な世界に放逐することにした」

「そ、そんな滅茶苦茶な……」

「滅茶苦茶かどうかは、お前がどう思おうとこちらの知ったことではない。しかし、異次元の人間であるお前が長々といることで、弊害が出るようなことがあってはならないのも、また事実だ。今はまだそれほどでもない。さあ、来い。今なら居るべき場所に近い所へと流してやる」

 どうもうんと言わないと酷い目に遭いそう。それに元の世界に近いところに行けるのなら。あ、でも……これだけはしておかないと。

「帰ることは分かったよ。でも一つだけ、私のお願い聞いてくれないかな?」

「何だ」

「この手紙、近くのポストに入れさせて。私が帰れそうな時に、これを出す事にしていたから」

「そんなことか。いいだろう。しかしそれだけでは、あの連中は満足すまい。これに今の段階で思い出せていることと迎えが来たこと、急に居なくなったことの詫びでも書いておけ」

 そう言われて、便箋と切手が貼ってある封筒と万年筆を手渡された。えらく準備が良い。

「これ……、書いて届くんでしょうね?」

「お前の書いた手紙など奪ってどうする」

 

 

 

 

 

 

 

 手紙を書き終えて、封筒に封をし、元々持っていた物と一緒に、ポストに投函する。

「これでいいな?」

「うん」

「では、着いて来い」

 素直について行く。下手に逃げようとしても、痛い目を見るだけだろうから。

 着いていった先には、人一人が通れるくらいの穴があった。

「さぁ、この穴に入れ。生憎、お前の世界に直通はしていないが、上手くいけば向こうの世界から帰ることは可能だ」

「ご親切にどうも……。ねぇ、貴方はだあれ? 私に色々してくれるのは、どうして?」

「最初の質問の答えは、俺はお前を良く知っている者とだけ言っておこう。そして次の質問の答えだが、お前にもとの世界に早く帰ってもらいたいからだ。首領の命令というのもあるが、俺自身の本意でもある。いつだったか、鹿児島の病院でそう言った筈だ……」

 その言葉が終わった瞬間に後ろから突き飛ばされ、穴に落ちた。その時、思い出した。

 あの声は、鹿児島で私に細胞活性剤を打ち込んだ奴のものだったと……。




如何でしたか。
最初は、このお話を仮面ライダー編の最終話にするつもりはなかったのですが、書いている内にキリが良くなる事に気がついたので、ここで締めることにしました。粗だらけの締め方になってしまいましたが、この折りを逃すと収拾がつかなくなる気がしたんです。
それにこのまま残ってショッカーを叩いても、秘密主義の権化のような組織ですから、壊滅時に未来のデータを入れたコンピュータを爆破されてしまう可能性が高いですからね。ゲルダム団にその情報が伝わるかもわかりませんし。ここらで手を引かせるのが、丁度良いでしょう。
不完全ではありますが、小日向未来としての自我は戻りつつあります。おそらく、流れ星の丘が潰れかねないということが、強烈なショックになったのでしょう。
最後に親父さんのことですが、いつか連絡が取れるようにするつもりです。心配しているでしょうから。
次回からは、英気を養ってもらうために、コメディーの世界に行ってもらいます。人間相手に血生臭い戦いをすることは、恐らく無い筈です。
乞うご期待!
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