見目麗しい若い女の子に、道端で野宿させるなんて訳にもいきませんからね。
chapter53.はろーにゅーわーるど
穴を潜り抜けた先は、夜の荒野だった。岩だらけの人の住めなさそうな土地。
「本当にここが元の世界に近い場所なのかな?」
まさかいつかのように、甘い話に騙されたんじゃないだろうか。その可能性は捨てきれない。あの白スーツの人は、決して私の味方というわけではないから。
「やられた……」
自分の迂闊さに頭を抱えてしまった。
タチの悪い甘言に乗せられた事は、前にもあったのに。まるで懲りてない。
過ぎた事を考えても仕方がないから、気を取り直して荒野を出発した。こういう時は、人のいる所を探すに限る。不案内な場所に一人でいる事は、あまりいい状況とは言えないから。
とはいえ、怪しげな行動をとる人に近寄らないのも鉄則。妙な連中に巻き込まれて、犯罪の片棒を担がされでもしたら、元も子も無くなってしまうから。
少し歩くと、砂地に出た。潮の香りがするから砂浜みたい。
「灯りが見えるから人は住んでいるみたいだね。問題は……」
それが対岸にぼんやり見えるだけということ。私がいるところと灯りがある所を海が隔てている。しかもどう見ても泳いで行ける距離じゃない。いや、行けなくはないが、荷物があるから船が欲しい。
「神獣鏡を使えば、あそこまで行くのも訳ないことだけど、あれをおいそれと使うと災難を招くから……」
オセアニアで酷い目に遭ったから、無難な方法で向う岸まで行きたい。
「もしかしたら港があるかもしれないから、砂浜をあちこち歩いてみよう。無くても砂浜にボートが転がってるかも……」
砂浜は駄目だった。ゴミは転がっていたけど、ボートはなかった。それなら筏を組もうと考えたけど、碌なガラクタが流れ着いてないからそれも出来ない。すぐに諦めて、散策を再開した。
19分程歩くと、桟橋を見つけた。近くに行くと、その横に少し古いけど二階建ての建物があった。港だ。
「もしかしたら対岸に行く船がまだあるかも……」
灯りが落としてあるから、最終便が出た後なのかもしれない。でも待合室で待たせてもらうことぐらいならできるはず。
幸いなことに、建物の鍵はかかっていなかった。
「誰かいませんかー」
戸を開けて、中に呼びかけても返事がない。無人なのかもしれない。だとすると随分と不用心だけど……。
暗くて中がよく見えず、困っていると偶然何かのスイッチを触った。電灯が点いたから、どうやら照明用だったらしい。
部屋の中には、プラスチックの丸椅子とベンチとテレビと自販機が置いてあった。その右隣りに、券売機が置いてある。壁にフェリー時刻表と書いてあるから、待合室で間違いないみたい。
時刻表と横に掛けてあった時計を見ると、本土行きの最終便は一時間前にもう出てしまったらしい。がっくりと肩を落としてしまった。
「今日の船便はもうないのか……、仕方がない。今晩はここで寝よう。下手に不案内なところに行くよりもいいかもしれない。リーンボックスなんて土地、聞いたことないもの」
電気を消してベンチに寝転がり、ショッカーから返ってきた荷物を枕に眼を閉じた。
遠くから何かが近づいてくる音がして、夜中に目が覚めた。懐中時計を見ると、まだ0時を回った所だ。
後ろに警戒しながら、待合室の海に面した窓から外を見る。音は海の方から聞こえたから。
海を見ると、モーターボートが2隻近づいてくる。乗っているのは、大体私と同い年か、年下くらいの女の子。その子達が、こっちにやってくる。しかもボートの後ろにオートバイを載せていたり、皆武器やそれっぽい物を持っている。どう見ても遊びに来たわけではなさそうだ。
「穏やかじゃないね……。何処かに殴り込みにでも行くのかな……」
あの子達が来る前に、ささっと神獣鏡を装着する。
見つかると不味いので、物陰に身を屈めて隠れていると、船のうちの一隻が港に止まったのが聞こえた。
オートバイの走行音が聞こえたので、急いでその後をつける。ステルス機能があるから、気づかれる心配はない。ついでに集音マイクを出して、情報収集にかかる。
「4人の女神がこの島に捕まっている……、しかも時間はあまり残ってない……。別で動いている子達がモンスターを倒している間に、檻を壊す……、か……」
マイクが拾った情報は、こんな物だった。私は気がつかなかったけど、この近くで誰か捕まっているらしい。ただ、捕まっているのが女神というのが、今一つわからない。しかもモンスターがウヨウヨいるっていうのも。
もしかしたら、今度はファンタジーの世界に来たのかもしれない。
「魔法使いでも探せばいいのかな……」
帰してくれるのか、分からないけど。
「うわぁ…………、何あれ……。ヘドロ?」
ピラミッドらしい物があった。そしてその中に4人ほどコードに絡め取られている人がいるのも見えた。件の檻に間違いない。
問題は、徐々に嵩が増している妙なヘドロみたいな液体。どう考えても有毒物質。時間がないというのは、多分、あれが原因だ。
相手の戦力は、ピラミッドの近くにいるブルーベリーヨーグルトのような肌の魔女一人とネズミ一匹。ネズミは大したことなさそうだけど、魔女の方は相手にすると絶対に梃子摺りそう。ステルスで奇襲をかけるのが良さそう。
私が追いかけているオートバイには、どちらも気づいているみたいだけど、ネズミは兎も角、魔女の方は興味がない様子。察するところ、檻はオートバイの2人の力では、到底壊せないもののようだ。
「こりゃ、ピラミッドの破壊を手伝った方が良さげだ……」
バイクの2人は、ピラミッドの近くに来て、攻撃を始めた。ただ2人の得物は、マチェーテと馬鹿でかい注射器といった、どう見ても穴を開けるのに向いてない代物。あれで壊すのには、相当時間がかかると思う。ファンタジーの世界らしいから、魔法なりなんなり使うのかもしれないけど、あの魔女が大して気にしている様子がないってことは、使ったところで一気に壊す事は出来ないのだろう。それか全く意味がないか、だ。
少し離れたところに陣取り、足から鏡を射出して、円形に組み上げる。ミラーデバイスも射出して、いつかのように一箇所に光を集められるようにしておく。檻の強度がどれ程のものか分からない以上、威力を高めておいた方が良い。効くかどうかもわからないから。
「撃てるのは、精々一発だけ。今は隠せているけど、撃てば彼奴に気取られる……。よく狙わないと…………」
バイザーの照準をピラミッドの下の方に合わせる。女神は勿論、あの2人を巻き込まないように、慎重に調節する。久しぶりに神経を使うことをしているから、手汗で手がびっしょり。手を使わないから手元が狂う事はないはずなのにね。
「エネルギー充填完了。水位からして時間がない。流星と混沌の一斉射でカタをつけないと」
狙いはバッチリ。ピラミッド目掛けて、一気に撃ち込んだ。
二つの光線によって、ピラミッドに大穴が開き、中のヘドロがドロドロと漏れ出した。
ピラミッドの周りは、蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていて、抉じ開けようとしていた2人が慌ててピラミッドから離れている。
魔女の方は魔女の方で、何が起こったのかわからずに呆然としていたところを、別の方向から来たらしい4人の女の子に攻撃されて、ピラミッドをぶち抜き、地面に落っこちていた。
私もそれを見て、展開させていたミラーデバイスを使って、雨あられのように光線を浴びせた。
魔女の方も自分達以外の誰かがいる事に気がついたようだが、私を探す余裕はなかった。4人組がとどめの一撃を打ち込もうとしていたからだ。どういうものかはわからないけど、虹色の光を出している見るからに強力そうな技。余波でピラミッドが吹き飛んでいるから、当たれば骨も残らなさそう。
それが直撃しかけたところで、殆ど無視していたネズミが何処かに魔女を引っ張りこんでいるのが見えた。しまった、彼奴はその為に控えていたのか。
放置しておくんじゃなかった。
ネズミと魔女のことは捨て置いて、ピラミッドの近くの岩陰に近寄り、捕まっていた女神がどうなったかを確かめてみた。
するとみんな影も形もない。おかしいな。巻き添えにはしなかったはずなのに。
「お姉ちゃん……」
空中でさっきの4人のうち、一番年長そうでしっかりしてそうな可愛らしい子が、頼りなさげに呟いている。どう声を掛けたら良いものか、見当がつかない。
「お姉ちゃーぁん!」
「ここよ、ネプギア」
さっきの可愛らしい子の叫びに、誰かが返事した。年の頃が20代半ばくらいの艶っぽい声だ。
声のした方を見ると、これまた4人の女の人がいる。それを見たネプギアという子の表情の変化からして、そのお姉ちゃんみたい。
多分、この人達は、顔貌からしてさっきの女神と同一人物だ。バイザーで顔は見たから間違いない。生命反応も同じだし。
助けに来た子は、みんなあの人達の妹らしい。1人だけ妹がいない人がいるみたいだけど。
まぁ兎に角、良かった良かった。
「ところでさっきのビームは、一体誰がやったんだ? お前らじゃないよな」
真っ白くて小柄な女神が言い出したのをきっかけに、みんな私が撃った流星と混沌のことを思い出したらしい。
「そういえば、誰なんだろうね。ラムちゃん」
「あの人じゃない?」
岩陰から様子を伺っている私を、あの真っ白い人の妹のうちの1人が見つけて、指で差した。それを見て、みんな一斉にこっちを見た。
「貴女があれを撃ったの?」
「はい……、そうです」
黒色の女神の質問に正直に答える。別に悪い事したわけじゃないから。
「そうでしたか……。危うい所を助けていただき、ありがとうございます」
「いえいえ……、そんな……。ただ手伝っただけですから……」
緑色の一番年長に見えるグラマラスな女神が、ぺこりと頭を下げてお礼を言ったのを、慌ててこちらも頭を下げる。
その後は、もうこんな感じでお礼の返答をしていた。
「色んな世界を旅していて、ここに来たの?」
「はい。来たのが昨日の夜だったものだから船も無くて……」
始発便でガラガラの連絡船の中で、助けに行った2人、アイエフさんとコンパさんからこの世界のことを教えてもらい、ついでに私の事情を話した。ネプテューヌさん達、女神や女神候補生達は、急ぎの用事があるからってことで、一足先に帰っていった。
「ここだと、うまくいけば元の世界に帰れるってタレコミがあったから来てみたんです」
「うまくいけばって……、随分とアバウトな情報に手を出したわね……」
「他に帰れそうな手段が無くて……。もう3年くらい帰れずに居るから……」
「そんなにですか?! でもそれなら怪しい情報に手を出したくなるのも無理ないですぅ」
「ただ情報頼りに来たまでは良くても、行く当てもないし、大体どうやって帰るのかもわからないから……」
「八方塞がりじゃない。とにかく事情は分かった。住む所なら私の家で良ければ、其処に住むといいわ。帰る方法もイストワール様と相談して、何かないか探ってみるから」
「ありがとうございます。それとお世話になります」
何とか宿無しになることだけは、避けられそう。
「あの……イストワール様って、誰ですか?」
「プラネテューヌの教祖よ。早い話が、女神のネプ子の補佐役みたいなものね」
ああ、国の重鎮さんなのね。確かにそういう人なら、何かしら情報持ってそう。
「ま、これからの事は、プラネテューヌに入ってから考えましょ。大分、疲れているようだから、暫く寝てなさい。1時間くらいかかるから」
そういえば流れ星の丘で夜襲をかけられてから全く寝てなかった。お言葉に甘えて、目を閉じた。
如何でしたか。
最後の世界は、ゲイムギョウ界です。
ここでなら、そこそこ楽しい生活が送れると思います。大騒ぎはそこそこ起きますが、流血沙汰になることはそうそうないでしょうし。
それに未来の記憶を完全な物にする為のトリガーもありますし。
次回、乞うご期待!