ピーシェが居なくなった。でも元の家族のもとに帰った訳じゃない。知らない間に誘拐されていたんだ。
みんなであちこち探し回ったよ。無論、私も倒れるまで昼夜ぶっ続けで探した。這ってでも探そうとしたから、最後はベッドに縛り付けられた。
それでベッドの中でとんでもない知らせを聞いた。
4つの国があるゲイムギョウ界に5つ目の国を作ろうとしている連中がいた。国の名前はエディン。そしてその国の女神として祭り上げられたのが、ピーシェ。どうやったのかは知らないけど、確かに女神になったんだって。おまけに私達のことを覚えている気配もないらしい。状況は最悪だ。
「記憶云々は、脳をいじられた上での洗脳なら、私が手術することでどうにかなる……。何とか捕まえないと……」
ウィスキーを一杯気つけのために煽り、ギアを装着する。もしかしたらギアを見て、私のことだけでも思い出してくれるかもしれない。それでもいい。
「それにしても……、このピーシェの女神の格好、どこかで見たことがあるような……?」
プラネテューヌの教会で貰ったピーシェの写真を見た。格好は白いボディスーツに両腕の鉤爪。それに黄色い髪。誰かに……、誰かに似ている。でも今はそんな事はどうでもいい。
「急いで迎えに行ってあげなきゃ……。うふふ……」
待っててね、ピーシェ。すぐに元に戻してあげるから!
プラネテューヌ中を探し回っていると、ラステイションとの国境沿いの川でネプギアちゃんがピーシェと戦っているのを見つけた。見たところ、かなり押されているようである。攻撃はそれなりに当たっているけど、全くピーシェは堪えていない。馬鹿みたいに頑丈な体だ。しかもネプギアちゃんは呼吸が荒くなっているのに対して、この子は涼しい顔をしている。まるで不死身だ。あれじゃキリがない。
「ネプギアちゃん! 後は私がやるから!」
ピーシェのパンチをアームドギアで弾き飛ばす。結構重い一撃だ。鉤爪の威力も相まってか、アームドギアにヒビが入っている。腕も痺れた。
「なるほど……、相変わらずの馬鹿力だ……」
「あれれ……、今度は女神じゃなくて、茄子の鬼が相手……?」
茄子の鬼ねぇ……、色合いからすれば確かに茄子に似てるけど。それに鬼って……、ああなるほどね。この角を鬼のツノって考えたのか。
「まぁ、鬼でもいいや。遊ぼ、遊ぼ!」
能天気なところも同じか……。どうやら頭に関しては、記憶を上書きされただけらしい。一体どうしたのかは知らないけど。
「そうだね……、遊ぼうか……。私のことを思い出してくれるまで……」
ピーシェが飛び蹴りを叩き込んできたところにコードを巻きつけて、近くの岩場にぶん投げる。
投げ飛ばされている途中で体勢を立て直そうとしたところにアームドギアを投げつけて、それを阻止する。
背中から地面に叩きつけられたところに、腕を交差させて全速力で突っ込む。でもこのフライングクロスチョップは、仰向けに倒れていたピーシェに両足で腕を蹴り飛ばされて不発に終わった。
「くぅ……痺れる……」
とはいえ腕を垂らしている暇なんかない。恐ろしい速さでピーシェが飛び上がってきたから。顎を打ち抜くつもりらしい。
勿論、当たるつもりはない。
ギリギリのところで腕を掴んで体を捻り、背負い投げをする。そして体勢を立て直される前にコードを胸と腰に巻きつけて、パチンコの要領で頭突きをお腹に叩き込む。
「おうッ!」
苦しそうな悲鳴こそあげたけど、これでやられるほどピーシェも甘くはない。無防備になった私の体を抱え込み、頭を下に向けさせて川に飛び込んだ。
川底に頭をぶち当て、しこたま水を飲む。
水を吐いて立ち上がろうとするとダブルスレッジハンマーを頭に打ち下ろされ、再び川底にダイブ。
ただこっちだって黙ってやられる訳にはいかない。足首を掴んで引き倒し、水の世界に招待した。
流れにピーシェが枕したところで、マウントポジションを取り、連続パンチを叩き込む。
4発叩き込んだところで体を横にされ、今度は私が水の中に沈む。
マウントポジションを取られる前にスラスターで水飛沫を上げて、川から離脱し、空中へと飛び上がる。
「流石、ピーシェ……。よくもまあ短期間でこんな実力つけたものだよ……」
川を見ているとピーシェはこちらに飛び上がってきた。そこそこ痛いのを叩き込んだのに、全く堪えてない。こっちはちょっと口の中が切れたのに。
「ピーシェは強いね……」
「ホント?! ぴぃ、強い?」
「うん、とっても」
「ホント! ありがとう、み……、茄子鬼!」
ん? 今、み……って言いかけたような……。
「ねえ、今ピーシェ、み……って言わなかった?」
「えっ? 言ったかな? それよりももっと遊ぼ!」
気のせいか。
「いいよ、じゃあ強いピーシェにはご褒美をあげよう」
ご褒美といったって大したことをするわけじゃない。背中に背負って遊覧飛行するだけだ。女神となった今のピーシェにとっては何でもないことだけど、たまにはしてあげると約束していたことだから。
背中に大きくなったピーシェを乗せて、少し加速する。
「これからもう少し速く動くから、しっかり掴まっててね」
「うん!」
ピーシェの掴む力が強くなったのを感じて、速度を上げる。この子が好きな大きな宙返りをするには、スピードが乗らないといけないから。
やがてスピードに乗った私は、一気に空の上へと飛び上がる。できる限り高く上がれるようにするために、なるべく大きな弧を描くように飛行する。
真上に達してからはスラスターを微調整しながら地面に向かう。綺麗な円を描けるようにするために。
「あと少し、あと少し……」
地面すれすれのところまでたどり着いたところで、もう一度浮上しつつ減速する。
「どうかな……。今のピーシェには何でもないことかもしれないけど……」
「楽しかった! ありがと、未来!」
「どういたしまし……、ピーシェ、今私のことを未来って言わなかった……?」
「そだよ。やっぱりこれ楽しい! 未来、大好き!」
拍子抜けするほど、私のことをあっさりと思い出してしまった。まさかこのくらいのことで思い出すとは……。それほどきつい処置は加えられてなったのかもしれない。
しかしその期待はすぐに裏切られることになった。ピーシェの口から出てきた黒いゲル状のものによって。
真っ黒なものはピーシェを取り込んで、ピーシェを黒一色に染め上げた。出来上がったのは、真っ黒くて真っ赤な目をしたピーシェ。
興奮した犬のように唸り声をあげて、突進してくるその様は今までずっと思い出せなかった
「まるで響だ……」
そう、親友の立花響にそっくりな姿なんだ。しかも色々とまずい状態の時の。何とも悪趣味な。
あの黒いのを吹き飛ばすのは、神獣鏡の力を使えばきっとどうにかなる。問題は、ピーシェをどうやって止めるかだ。
「どうしよう。動きは響よりもずっと単純だけど、速さは大佐並みだ……」
これじゃ、光線を浴びせるのも大変だ。それに仕掛けてくる体当たりも当たればタダでは済まない威力だ。ぶつかった拍子に崖が崩れたもの。
「何かピーシェを惹きつけるものさえあれば……」
頭をひねって無い知恵を絞ろうとしたとき、空から誰か降りてきた。ラベンダー色で三つ編みの髪をした女の人。女神化したネプテューヌだ。助かったよ。流石に疲れてきたから。
「ネプテューヌ、いいところに来てくれたよ。あれ……その袋に入ってるのはなに?」
「これ? プリンよ。ピー子が居るってネプギアから聞いて、急いで買ってきたの。ところでピー子は?」
「あの墨みたいなのが、ピーシェだよ……」
真っ黒くなったピーシェを見て、ネプテューヌはびっくりしていた。危うくプリンを落としそうになってたもの。
「な、何でああなったの?!」
「詳しくはわからないけど、真っ黒なドロドロしたものがピーシェを包み込んでああなったの」
「は、早く何とかしないと!」
「落ち着いて! 私、前にもこういうこと経験しているから、ピーシェは何とか出来ると思う」
「本当?!」
「うん、でも準備に時間がかかるからネプテューヌには時間稼ぎして欲しいんだ。それと……」
ピーシェを惹きつける一番良いものに目を向けながら、こう言った。
「プリンは絶対に潰さないでね……」
新しいアームドギアを取り出して、森の中に隠れる。暁光が使えたら良いのだけど、エクスドライブモードになれないからそれは無理。
「何もあれだけが、厄介なものを吹き飛ばす特効薬じゃないしね」
ミラーデバイスの数が改造前よりも、ずっと多く出せるからこの技を使うことができる。
「暁光ほどではないけど、これでも十分な威力があるから……」
どれほどのものかは、私と響が身をもって体験しているからよく分かっている。
「ただ使うのに時間がかかるのが問題なんだよね。早くしないとネプテューヌが……」
さっきから避けずに、真正面からあの子を受け止めようとしている。あの雷速のタックルを受け続けたら、女神の体だってただじゃ済まないよ。
微調整も終わり、光も十分な量が集まった。
「ネプテューヌ、準備ができたよー!」
私の声を聞いたネプテューヌは、突進してきたピーシェの下に潜り込み、一気に担ぎ上げた。そのまま飛び上がり、私が用意した混沌に二人とも飛び込んだ。
「上手くいってよ……」
空に目を向けると、光の中で黒っぽい靄が溶けていくのが見えた。おそらくピーシェの体から出たものだ。
奔流が過ぎた後、ネプテューヌはピーシェを抱えて降りてきた。降りてきてからは、疲れたのか直ぐに変身を解いていた。
「お疲れ様、体は何ともない?」
「全然なんともないよ。最初はヤバイかと思ったけど、案外なんともなかったよー。プリンも無事だし、ほらッ」
「本当だ」
「それにピー子も元通り!」
ネプテューヌの腕の中で子供に戻ったピーシェがぐっすり眠っていた。慣れないことしたから疲れが出たんだろう。
「帰ろうか、ピーシェも寝ちゃったし」
「うん。流石の私もちょっと疲れちゃったから、帰ってピー子とぐっすり眠ることにするよ」
「それがいいよ」
私も疲れたから。
この事件の後、記憶が戻った私はイストワールさんに事情を説明。元の世界の場所を突き止めてもらい、そこまで飛ばしてもらえることになった。
5日かけて荷物を一式揃えて、スクラップ工場に放り出されていたサイクロン号のレストアも済ませて、出発の準備を終えた。
「それでは未来さん、必要な物は揃いましたね」
「はい、イストワールさん。次元間通信用の端末も受け取りましたから、もう大丈夫なはずです」
「いざという時は、それでこちらに異変を知らせてください。いつでもここに退避できるようにしておきますから」
「分かりました」
みんなとのお別れを済ませて、イストワールさんからの確認を受けてから、いよいよ出発することになった。
「それではそろそろ……」
「まってー!」
トテトテとピーシェとプルルートが走ってきた。
「危うく渡しそびれるところだったよ〜」
そう言ってプルルートが手渡してくれたのは、私のぬいぐるみだった。それも神獣鏡のバイザーが開いた顔がよく見える形のもの。
「ありがとう。あら、キラキラしたものが目に」
緑のビーズが目の部分に縫い付けられてある。他のプルルートのぬいぐるみには、こういうものは付いていない。
「それ、ぴぃの大事なキラキラ! 未来にあげる!」
ピーシェが持っていたものみたいだ。宝物らしい。
「大事にするね。それじゃあ、これ……」
頭のリボンを解いて、それでピーシェの髪を結ぶ。
「そのリボン、大事にしてね」
「うん!」
「未来さん、そろそろ時間です」
「ああ、ごめんなさい。直ぐ行きます。それじゃあ、またいつか会おうね!」
イストワールさんに促され、サイクロン号に跨り、転送ゲートをくぐり抜ける。
「やっと帰れる……、待っててね、響!」
如何でしたか。
元々、もう1話クッションに挟む予定でしたが、その回の舞台がどうも未来には合わなかったのとお話自体が冒頭であらましを説明すれば良いレベルの内容で大して重要ではないと判断した為です。そのせいか、かなり駆け足でお話が進んでしまいました。読み難かったらごめんなさい。
さて今回で未来の旅は終わりになります。
戻った後の世界で何も起こっていなかった場合、外伝の闇未来さんや拙作のsmileに繋がります。
では何か起きていたらどうなるのでしょうね。