「流星よりも威力のある技を使います。隆二さん、このはちゃん。時間稼ぎをお願いします」
牛鬼と2時間近くやり合った。私の光線や隆二さんやこのはちゃんの斬撃で向こうも角や牙などに傷を負っているが、まだ決定打にはなっていない。こちらも疲れが出てきている。
このままでは埒があかない。そこで私は今まで使わなかった技を使うことにする。少々エネルギーのチャージに時間がかかるため使わなかったが今はそんなこと言ってられない。
「わかった。どれくらい持たせればいい?」
「2分持たせてください。私がいいといったら飛び退いて、近くの木に掴まっていてください。さもないと巻き添えを食います」
「わかったわ」
2人が牛鬼めがけて飛び込んだ。牛鬼の方も突進してきたため、2人は両脇に避ける。
私は空中に浮かんで、ミラーデバイスを地表近くに展開する。ミラーデバイスから光線を撃つ技には混沌もあるが、あの威力だと収束させないと恐らく牛鬼は倒せない。前に使ったときはシャトルマーカーというので収束したけど今回はそれがない。だから使えない。
脚部のアーマーからも鏡を引き出す。バイザーにエネルギー充填までの所要時間が表示された。120秒。長い。
このはちゃんや隆二さんがやられないように空中から援護射撃をする。でもエネルギーを充填している最中だからそこまで威力のあるものは撃てない。
「未来ちゃん、まだ⁈」
このはちゃんが叫ぶ。あちこち傷だらけで痛々しい姿だった。
時間は…あと62秒!まだこんなに残ってる。
「あと1分耐えて!」
「1分だね⁈絶対だよ!」
中々充填が終わらないことに私はいらだった。このままだと2人がもたない。特に隆二さんは太刀のあちこちが刃こぼれしている。
「神獣鏡、急いで!」
私はそう呟いた。
1分経つ頃には状況がさらに悪化していた。2人の武器が壊れてしまったのだ。拳銃も気休めでしかないから回避するだけしか手がない。
バイザーからはやっとエネルギーの充填が完了したという情報が出てきた。急いで牛鬼の頭部に照準を合わせる。
「響、ちょっとだけ私に勇気をちょうだい」
ここにはいない親友に向けて呟き、私は2人に叫んだ。
「2人とも飛んで!」
2人が飛び退いたのを確認して牛鬼を取り囲むように並べたミラーデバイスから光線を発射した。牛鬼は煉獄で焼かれる亡者のように光線で体を焼かれ、消滅した。<煉獄>の威力は絶大だった。
私は疲労困憊で動けなくなっていた2人を抱えて、家に帰った。そして3人ともそのままの格好で泥のように眠った。
それから6日後、私は出発の準備をしていた。すると隆二さんが来て、こんなことを言った。
「未来ちゃん、君は星を友達とよく見に行くんだよね」
「えぇ」
「この辺りにも星がよく見られる場所があるよ」
「本当ですか?!」
「あぁ、ここは農村だから空気もそこまで汚れてないしね」
たしかに田舎だと星はよく見えるということは有名だ。
「今から行こうか、ちょうど流星群もくるし」
「是非とも!」
それから私達はこのはちゃんも加えて3人で、近くの丘まで行った。なるほどよく見える。リディアンの近くの丘なんか比べものにならないほどだ。
「綺麗…」
こんな満開の星空、響にも見せてあげたいなぁ。
そんなことを思いながら、私は星空を見上げていた。
星を見に行った次の日、私は出発した。隆二さんの助言を受けて、私は緑色のジャンパーに黒い長袖のシャツにジーンズと厚着をしていた。全部貰い物だけど。このはちゃんから手袋を貰ってそれまでにはめている。靴もここに来た時履いていたものは山の中を歩き回ったことやカルマ・ノイズの攻撃を避けたときにボロボロになってしまったため、新しいスニーカーを貰ってそれを履いていた。
「いいかい、未来ちゃん」
隆二さんが私に言う。
「家の前の道を右に曲がり、それからはずっと真っ直ぐ歩くんだ。そうすれば、光月山の麓に行き着く。そこからは峠を越えることになる。山の頂上には祠がある。それを越せばもう別の世界だ」
「わかりました」
「あと、これだけは知っておいてほしい」
「何でしょう」
「この先、君の帰り道は恐らく平穏無事なものではないだろう。僕らの世界はまだましだけど、こんな世界はここだけだと思った方がいい。きっと心や体が辛いときや死んだ方がましだと思うときがくるに違いない。でも、これだけは覚えておいておくれ。親友の元に帰るという目的だけは決して見失わないで。目的を見失ったらもうおしまいだ。なんとしてでも帰るんだよ」
続いてこのはちゃんもこう言った。
「どんなに辛くても、どんなに挫けそうになっても、何が何でも生き延びて。生きていれば、"もしかしたら"と希望が生まれるかもしれないから」
「わかった。ありがとう、2人とも。絶対に私は元の世界に帰る。絶対にそのことだけは諦めない」
2人ともうれしそうに頷いた。
「さて未来ちゃん、荷物は全部持ったね?」
「はい、リュックサックに全部詰め込んでます。何から何まですみません。ご迷惑をお掛けして」
「かまわんさ」
そうこうしているうちにもうお別れの時間だ。
「それじゃあ、隆二さん、このはちゃん、お世話になりました。さようなら。もしまた来ることがあればまた会おうね」
「あぁ、元気でね」
「道中気をつけて」
私は2人と別れて、村外れまで歩いていった。30分ほど歩いていくとそこには光月山と書かれた立札と道があった。道自体は舗装されているがかなり長くて険しそうだ。
「大分険しそうだなぁ」
目の前にある険しい峠道を見て、そう呟きつつも私は峠を登っていった。
「私は諦めないよ、響、隆二さん、このはちゃん」
次回からまた別の世界です。