話題にはなってるからちゃんと主人公ですよね!
「まだ生まれてなかった」
「だからそう言ってるじゃないか」
準備をしているだけで赤子も何もいない稗田の屋敷を出た際に述べたルーミアの言葉に、霖之助は溜息を吐きながらそう返す。幽香はそんな二人のやり取りを面白そうに眺めていた。
ふと、そこで何やら慌てたように里の男連中が走り回っているのが見えた。どうしたのだろうか、と霖之助が声を掛けると、里の入り口付近に怪しい連中がいるのだという。妖怪の可能性が高いが、一応念の為確認作業を行っているらしい。
そこまで聞いた三人は、じゃあ自分達も見に行こうと即答した。いいんですか、という青年の言葉に、まあ今やることもないし、と気楽に微笑む。
博麗の巫女の御三方がいれば安心だ。そんな言葉を聞いて、霖之助は思わず苦笑してしまった。博麗が聞いたらまた拗ねるな、そんなことをついでに思った。
「後でインコにちゃんと伝えておきましょうね」
「そうだね」
「やめなさい」
言っても無駄であろうが、一応彼はそう述べる。案の定嫌だという答えが返ってきて、霖之助はやっぱりねと肩を竦めた。
そんなことを言いつつも足は止めず、ほどなく目的の場所に辿り着く。三人の姿を見た自警団の男衆は心強い援軍に沸き立ち、実はあれなんですが、と遠くに見える人影を指差した。あそこから動かないのでこちらも様子見ですが、あれ以上近付くようならば何とかしないといけません。そう続けるのを聞いて、成程と頷く。
じゃあとりあえず行ってみましょうか。そう言うと幽香は無造作に歩き出した。ルーミアもその後ろに続いて駆け出す。びっくりした様子の男衆にまあ彼女達はしょうがないから、と一言述べ、霖之助も後を追いかけた。
人間ではよく確認出来なかったであろうが、幽香達妖怪であればあれが何であったかなど容易に判別出来る。出来るからこそ、自分達だけでそこに向かったのだ。
鎧を着こみ、小隊を組んでいる骨。それが、佇む人影の正体であった。無論ただの死骸ではない。三人を確認すると、目玉のないその頭骨がゆっくりとそちらを向く。西洋の装備を纏ったそれは、腰に差してある武器を抜き放つと緩慢な動きで足を踏み出した。発声器官のないその喉から、地の底から響くような音が発せられる。
「うるさいわね」
一歩踏み出し、問答無用でその頭骨を殴り飛ばした。衝撃で頭は粉々に砕け、頭部を失った骨がその場に崩れ落ちる。何よ、全然脆いじゃない、と文句を言う幽香に続くように、残りの二人も骸骨の群れへと飛び込んだ。
「煮ても焼いても、食えそうにないなぁ」
すれ違いざまに横一文字に切り裂きながら、ルーミアはそんなことをぼやく。綺麗に鎧ごと真っ二つにされた骨は、数歩動いて倒れ伏した。次、と視線を横に向けると、霖之助が自前の銃で鎧ごと胴に風穴を開けているのが見える。体を構成するパーツの無くなった骨はバラバラと地面に落ち、ただの死骸に成り果てる。
結局三人はかすり傷一つ負うことなく全ての骨を駆逐してしまった。特に疲れた様子もなく、動かなくなった骨を手にとって一体何だったのだろうと首を捻る。
「妖怪、という感じではなかったな。何かに使役されているような、かといって式とも少し違う感じが」
「そうね。強いて言うなら操り人形みたいな感じがしたわね」
「あー、確かにそんな感じー」
幽香の言葉に成程、と霖之助も同意を示す。しかしそんなことをやれるような妖怪なり人間なりに彼は心当りがない。否、正確にはないことはないが、彼女にはそうする理由がない。飲子との喧嘩のために用意した、というのならば分からないでもないが。
そんなことを思った矢先、怨嗟の声のようなものが聞こえた。視線をそこに移動させると、先程倒した骨が一つに纏まっていくのが視界に映る。人の形をしていたそれは、まるでパズルを組み合わせるかのように、全く別の形を作り上げた。強靭な翼と鋭い爪に長い尾を持つ、西洋の幻想として話に出される強力な怪異。それを模した骨へと。
「龍? いや、ドラゴンか」
「どっちでもいいわ。壊してしまえばどれも一緒よ」
せーの、と拳をドラゴンの骨に叩き込む。あっさりと骨は弾け飛び、その形を構成していたものは再び人の骨へと化した。
が、怨嗟の声と共に再び元の形へと組み上がる。もう一度、と蹴り飛ばしてみても結果は同じであった。
「弱いのに無駄にタフなのね。どっかの誰かみたい」
「あれは壊れて直ってるわけじゃないから、ちょーっと違うかも」
「言ってる場合か? このままじゃ対処出来ないぞ」
あくまで平静を崩さない幽香に霖之助は溜息を漏らしたが、そういう彼も別段焦っている様子は見られない。結局のところ、この程度は特に問題だと思っていないのであろう。
とにかくあの再生を促す怨嗟を止めないといけない。そう述べる霖之助に、確かにそうね、と幽香は頷く。
じゃあルーミア、と彼女は隣に立つ少女に視線を向けた。
「あれ、『食べられる』?」
「んー、魂喰らいはあんまり美味しくないんだけどなー」
ま、いいか。そんなことを言いながら、体を低く構えた。ドラゴンを真っ直ぐに見ながら、そこか、と呟くと一気に飛び出した。その右手は闇がまとわりついた異形のものと化しており、獲物に食らいつく猛獣のようにも見える。
右手を振るう。同時に何かに齧り付くようになったそれは、目的のものをドラゴンからえぐり取るとそのまま掻き消えた。残ったのはいつもどおりのルーミアの右手と、その手握られている蜜柑ほどの大きさの珠。
「はい、一丁あがりー」
「ご苦労様」
じゃあ後はこれの始末ね、と幽香が軽く手で払うと、それだけでドラゴンは砕け散り二度と元に戻らなかった。やっぱりそれがないと脆いわね、というつまらなさそうな呟きに、霖之助は思わず苦笑する。
それでどうするんだい、それ。そう問い掛けた彼に向かい、ルーミアはどうしようかと微笑んだ。食べる気はないからこうして持ってるんだし、とついでに付け加えるのも忘れない。
「何か犯人の手掛かりでも残ってるんじゃないの?」
「あー、確かにそうかも」
「どちらにせよ、処分するのはもう少し後にした方がいいということか」
とりあえず仕舞っておくか、と彼女から珠を受け取ると、彼はそれを自前の荷物袋へと仕舞いこんだ。
食後の運動にしては激しいな。と美鈴は思った。隣では食べてすぐ動いた所為なのか若干顔色の悪い華扇が見える。命蓮も顔を顰めているが、こちらは食事は関係ないだろうなと彼女は一人納得する。
何せ、目の前にいるのは動く死骸。まともな感性を持っていれば嫌悪感を持って当然なのだ。
「キョンシーとも違いますね、これ」
「恐らく西洋のゾンビでしょう。まあ、結局は外道の法よね」
言いながら華扇がゾンビを一体投げ飛ばす。その後少し口を押さえる仕草を取ったのはその臭いかはたまた。特に死臭はしていないのできっと追加で頼んだ団子五本が消化しきれていないのだろうと美鈴は思った。
そんな彼女とは別の一体を調伏した命蓮は、見覚えのない死骸だな、と一人呟く。それを聞いた二人もそういえば、とゾンビを見渡した。東洋の人間が多い幻想郷とは違い、このゾンビはほぼ全て西洋の人間だったもので構成されている。外から賄ったのか、それともそういう見た目をしているだけで別の何かなのか。
「考えても仕方ありません、ね!」
ゾンビの頭を蹴り飛ばす。首根っこが千切れた頭部は、ポンポンと地面を数度バウンドするとグシャリと潰れた。自分でやったその光景にうげ、と顔を顰めつつ、しかしふと気になることがあり美鈴は二人に向き直った。
ちょっと脆すぎやしませんかこれ。そう告げると、確かにそうですねと華扇は頷く。そして命蓮は、そうなるとこの正体は後者の可能性が高いな、と述べた。
「と、いうと?」
「早い話が、幻術の類だ。動く死骸に見せているが、実際は違う何か」
言いながら錫杖をゾンビの一体に突き刺した。そこに法力を込め数語言葉を紡ぐと、まるで朽ち果てた土壁が剥がれるようにゾンビの姿がサラサラと崩れていく。そしてその中から全く別の何か、木で作られた等身大のマリオネットが姿を現した。
人形? という華扇の言葉にそうみたいだなと返すと、そのままそれを吹き飛ばす。血と肉ではなく木片が飛び散るのを見ながら、どうやら決まりだと彼は続けた。
「正体見たり枯れ尾花、ってやつですか」
「どのみち何で動く人形が、って話になるんですけど」
「あ、確かに」
言いながらも手は止めない。どうやらカモフラージュを見破られたからなのか、人形は三人に襲い掛かるよりもその後ろに向かうことを優先し始めていた。彼らの背後には人里、幽香達とは丁度反対方向に位置するそこは、霧雨屋へと向かう道である。
自分達に目もくれずにそこに向かおうとするということは。そう考えると自ずと答えは出てくる。狙いは恐らく。
「魔理沙、ですか」
「タイミング的にそうでしょうね」
「だが、何故あんな赤子を?」
命蓮の疑問の答えは出ない。出ないが、しかしならば違うなどとは言えない。結局やることは変わらず、この人形共の始末に終始することとなる。
全てが動かない残骸へと変わった頃、自警団がこちらに血相を変えて走ってくるのを見て、三人はようやく気が付いたのかと溜息を吐いた。遅い、と声を掛けると、すいませんと男達は頭を下げる。
そのまま説教を続けようとしていた三人(主に華扇)であったが、まさかこちらでも怪しいものがいるとは思わなくて、と続けた男の言葉を聞き動きを止めた。どういうことだと問い掛けると、向こう側でも動く骨が目撃され幽香達三人が撃退したのだと彼等は語る。
こちらの人形共は向こうを陽動に使い侵入していようとしていたのか。そんなことを考えつつ、向こうの三人は今どうしているのかと三人は再び問うた。
「ここにいるよ」
その言葉に視線を向ける。ひらひらと手を降っている霖之助の姿がそこにあった。幽香とルーミアは向こうでそれぞれ稗田の屋敷と霧雨屋を護衛しているよ。そう続けて彼は苦笑した。
「その口ぶりだと、相手の目的はある程度把握しているようだな」
「本当に少しだけれどね」
ここの、力を持った若い子供が狙いだったらしい。そう述べると肩を竦める。魔理沙は生まれたばかりだし稗田の九代目は生まれてすらいない。なのに行動を起こすというのは相当なせっかちなんだろう。そんな持論を交えつつ、聞きたかった答えはこれでいいかいと三人を見た。
「そうですね。じゃあ私からも一つ質問です」
犯人は誰ですか? 直球でそう問い掛けた美鈴に向かい、霖之助は流石にそれは分からなかったよと後頭部を掻いた。だが、彼女はその答えで充分だと言わんばかりに頷くと、私の疑問はそれだけですねと微笑む。
「華扇は何かあるかい?」
「そうね……疑問というか、気になることになりますけれど」
力を持った若い子供、に該当するのはその二人だけなのか。その言葉に表情を曇らせた霖之助だったが、今のところ確認は出来ていないが確かにそうだと頷くと、男衆に素早く指示を出した。
分かりましたと手分けして里を駆けていく背中を見ながら、とりあえず僕等も移動しようと彼は皆を促す。
これでもう一人いたらまた面倒なことになるな。誰かがそんな呟きをしたのを聞いて、違いないと一行は揃って肩を竦めた。
「失敗したみたいね」
幻想郷とは異なる国、異なる場所。そこの館の一角で、水晶を覗き込んでいたローブを着た少女がそう呟いた。その言葉を聞き、彼女の対面にいたもう一人の少女が驚いたように声を上げる。話によると、今の幻想郷という場所は妖怪が腑抜けていて制圧は容易だって聞いたのに。そんなことを言いつつ、自身の銀の髪を軽く弄んだ。
「きっとあれが例の巫女の集団というやつなのでしょうね」
「ああ、何だか分からない博麗の巫女とかいうのと六人の妖怪変化どもだったかしら」
腑抜けている妖怪どもの中で別格の強さを持っているその連中は、出来ることならば敵に回さない方がいい。そういう話を聞いている。
が、そんなことを馬鹿正直にはいそうですかと頷くようならば、最初から幻想郷を制圧しようなどと考えるはずはない。少女は背中の蝙蝠のような羽をパタパタと揺らしながら、面白くなってきたわねと口角を上げた。
「ねえパチェ、館を直接向こうに送り込むことは可能?」
「出来なくはないわ。でも、そうなると少々不便になるわよ」
何せ向こうは隔離された空間、場合によってはこちらに戻るのにかなりの時間が掛かる可能性だってある。パチェと呼ばれた少女がそう言うと、別に構いはしないと対面の相手は笑った。
「向こうを制圧すれば結局そこが私の居場所になるでしょう? だったらどこでも一緒よ。この、レミリア・スカーレットにとってはね」
そうと決まれば早速準備をするわよ。そうパチェに述べたレミリアは窓の外に視線を移す。大きく、丸く、赤い月が空に浮かんでいた。
待っていなさい幻想郷。あの月のように私好みの真っ赤に染め上げてやるわ。そう呟くと、彼女は高笑いを上げる。その声は部屋の外にまで響くほどの大きさで。
「ふぇっ……」
「あ! ごめんなさい咲夜! 違うのよ、別に怒っていないからね。ほーらママですよー! 咲夜はいい子ねぇ、おーよしよし」
「……まぁあ」
「っ!? 聞いたパチェ!? 今ママって言ったわよ! 私を! ママって!」
「……レミィ、今移動の準備をしているから話し掛けな――」
「何言ってるのよ! 咲夜が私をママって呼んだのよ! 幻想郷の征服なんか後回しに決まってるでしょうが!」
大体急に向こうへ移動して咲夜に悪影響が出ては堪らない。そう言うとレミリアは赤子を抱き上げて部屋の扉へと移動する。ちょっと咲夜にお乳やってくるから。それだけ述べてさっさと彼女は部屋を出た。
そして残されたのは彼女の友人である魔法使い、パチュリー・ノーレッジただ一人。無駄に空回りをさせられた哀れな少女の姿であった。
「ねえパチェ、さっきお姉様が咲夜を抱いて向こう行っちゃったけど」
「……当分ここの生活が続くわ」
「あ、うん、分かった。部屋に戻ってるね……」
様子を見に来たレミリアの妹らしき少女は、疲れたように項垂れるパチュリーを見てそっと扉を閉めた。ついでに、よし、引きこもろう、という無駄に駄目な決意をしていた。
おぜうの優先度
カリスマ<<<(越えられない壁)<<<母性