先代巫女と六人の仲間達   作:負け狐

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一話完結って何だったっけ?

まあ話自体は終わってるしこれは一話完結だ、きっと。


拾壱 赤ちゃんと僕(しもべ)

 そう簡単には見付かるものではないか、と妖怪の賢者は溜息を吐く。次の巫女を用意しようとしたものの、その条件を満たす者は滅多にいない。予想出来ていたこととはいえ、ままならないものだ。そんなことを思いながら、彼女は集中を解き肩の力を抜いた。

 お疲れ様です、とその背中に声が掛かる。振り返ると、自身の式が飲み物を持ってそこに立っていた。ありがとう藍、と彼女はそれを受け取り一口飲む。

 

「しかし、紫様」

 

 そんなに急ぐ必要はあるのですか? そう問い掛けてきた藍に向かい、紫は出来れば早い方がいいわね、と返した。これからの幻想郷のことを考えるのならば、新たな博麗の巫女を用意するのは必然なのだから。そう続けて湯のみに口を付けた。

 それが藍にはいまいち理解出来ない、と首を捻る。何故妖怪の腑抜けた現状を変える為の仕組みを構築するのに博麗の巫女を新しくする必要があるのか。奇しくもさとりと同じ疑問を頭に浮かべつつ、しかし主にそれを物申すわけにもいかず彼女は一人頭を悩ませた。

 まあ、確かに飲子では不安になるのは分からないでもないが。そんなことを考え、そして怒り出す飲子を想像して思わず藍は笑みを浮かべた。

 

「どうしたの? いきなり笑い出して」

「あぁ、申し訳ありません。少し余計なことを考えてしまいました」

「いえ、別にそれは構わないのだけれど」

 

 最近貴女はよくそんなふうに笑うわよね。そう言いながら紫は微笑む。対する藍はそれを聞いて少し驚いたような表情を浮かべ、そうでしたかと主に訊ねた。

 ええそうよと頷くと、紫は少し考える素振りを見せる。なんて言ったらいいのかしら、と呟きつつ、しかしすぐ丁度いい言葉が見付かったようで手を叩いた。

 

「お母さんみたいだったわ」

「……は?」

「子供の姿を思い出して笑う母親、言うならばそんな感じね」

「……母親、ですか」

「え? 何でそんな急にテンション下がってるの?」

「というか、前もそんな顔をしていたんですか私は……」

 

 いや違う、きっと橙を自身の式にしたからだ。そう自分に言い聞かせ、何とか藍は自分の中で正気を保った。その葛藤の内容が分からない紫は、一体何事だと訝しげな視線を彼女に向ける。大丈夫です、問題ありません。そう主に告げると、彼女は再び表情を冷静なそれに戻した。

 

「それで紫様。今日はまだ探索を続けるのですか?」

「そうねぇ……今日はここまでかしら」

 

 あまり幻想郷の外を見続けると結界にも負担が掛かるだろうから。そう言うと彼女は立ち上がり固まっていた体をほぐすように伸びをした。気分転換に幽々子のところでも行こうかしら、などと呟きながら飲み干した湯のみを盆の上に置いた。

 

「あーあ、どこかに巫女の素質十分な赤ん坊落ちてないかしら」

「それは流石に無茶過ぎるかと」

 

 

 

 

 

 

「無茶だと言ったんだ私は!」

「な、何の話!?」

 

 博麗神社。そこで半ば博麗の巫女の母親と化してしまった狐の妖怪の絶叫が木霊した。対する巫女はそんな彼女の叫びに至る過程が分からず、オロオロと視線を彷徨わせる。

 そして自分の抱いているものが原因なのだということに気付いた彼女は、やっぱり駄目だったかなと苦い表情を浮かべた。

 

「……あ、いや、違う。別にその事自体を咎める気はない」

 

 そこまで言ったものの、やっぱり事と次第によっては咎めようと意見を翻した。流石に犬や猫を拾ってくるのとはわけが違うのだ。

 博麗飲子が抱いている赤ん坊は、立派な人間なのだから。

 

「それで、どこから拾ってきたんだ?」

「怒らないからお母さんに言ってみなさい」

「付け足すな!」

 

 自身の背後で余計な一言を述べたルーミアに怒号を叩き付け、しかしそのままの表情では確実に碌な結果にならないと判断した藍は出来るだけ落ち着いた表情で飲子へと向き直る。無論そんな百面相を目の前で見て冷静になれるはずもなし。

 あわあわと視線を挙動不審に彷徨わせながら、ごめんなさいごめんなさいと頭を下げた。

 

「いや、だから。……怒らないから、言ってみなさい」

「結局言うんじゃない」

「誰の所為だと……」

 

 心底面白いといわんばかりの笑顔でそう述べる幽香に疲れたようにそう返す。そんな藍を見て少しだけ落ち着いたのか、えっと、と飲子は思い出すように視線を空に向けた。

 とはいってもそんな昔のことではない上に意識して思い出さなくてはいけないほど小さな出来事でもなかったのだが。とりあえず藍が最初に言っていた言葉から判断すると誤解しているようなので彼女はそこを訂正した。

 これは神社へ持ってこられた赤ん坊だ、と。

 

「……忌み子か」

「うん、そうらしい」

 

 何でも、妖怪騒ぎの際この子供は全く泣かず、その周りは壁でも作ったかのように平穏であったのだとか。本来であれば歓迎するところなのかもしれないが、生憎と前回里を襲撃した妖怪の狙いは力ある子供。狙われるのが分かり切っている子供を育てようとするほど殊勝な者はそうそうおらず。

 

「で、博麗神社で育ててくれって」

「巫山戯た話だ」

 

 親は一体何をやっている。怒りを隠そうともしない様子でそう述べる藍に向かい、飲子は少し悲しそうな顔でそこはしょうがないよと返した。この子、孤児なんだってさ。そう続けると、あやすように腕の中の子供を左右に揺らす。

 

「誰が生んだか分からない、いつの間にかそこにいたんだって。里の人に聞いても、こんな赤ん坊がいたことすら知らなかったって」

「全員が口裏を合わせているだけかもしれん」

「先生や妹紅さんも知らないって言ってたし。それに、流石にそこまで疑いたくないよ」

「……すまない、失言だったな」

 

 頭を下げる藍に気にしないでと手振りも交えて返した飲子は、まあとにかくそういうわけでここに住人が増えたんだと微笑んだ。ここならそういう力を持っていても何の問題もないし、何より専門家がいるし。そう言って胸を張る彼女を見て、藍はそうだな、と柔らかく笑う。

 

「どこにいるのかしら?」

「私だよ、わ・た・し!」

「そーなの?」

「そうだよ!」

 

 騒ぐと起きるわよ、という幽香の言葉にそこで飲子は口を噤んだ。そっちが言ってきたのに、と苦い顔を浮かべるが、やがて諦めたように溜息を一つ。

 そこまでを見ていた藍は、神社にいるのがこの三人だけであることにふと疑問を持った。こんな状況であの四人が不在になるとは考えにくいからだ。ならば優先しなければならない何かがあるのか。そう考えた彼女は飲子に問い掛ける。それを聞いた飲子は、ちょっとね、と苦笑を浮かべた。

 

「この子の素性の手掛かりを探しに行ってもらってるんだ。何だかんだで顔広い人多いし」

「成程な」

 

 言いながら幽香とルーミアを見る。こいつらは顔が狭そうだし、と心の中で納得した。

 失礼なこと考えてるな、と頬を膨らませるルーミアに向かい、じゃあ何故ここにいるんだと問うた。勿論インコをからかうためだよという答えが笑顔で返ってきたので、藍は無言で彼女の額にチョップを叩き込んだ。

 

「ま、実際そうなのよね。私とルーミアの情報網はあの四人と殆ど被っているもの」

「ぶっちゃけインコの方が顔広いんだよねー」

 

 最近旧地獄とも仲良くなってるし。そう続けたルーミアの言葉を聞いた藍は少し驚いた表情を見せた。そして、そういえば地霊殿の主が現在の博麗の巫女を評価しているという話を紫から聞いたのを同時に思い出す。

 成程、何だかんだで成長しているのか。そんなことを思いながら、藍は思わず飲子の頭を撫でていた。急なその行動に驚いた飲子であったが、しかし嬉しそうにされるがままになっている。

 

「あー! 飲子ずるい! 藍様、私も撫でてください!」

「ああ橙、おかえり」

 

 言いながら戻ってきた自身の式の頭も撫でる。えへへ、と嬉しそうな顔をしていた橙は、それでどうだった、という言葉に表情を戻した。

 

「霧の湖にあった門ですが、塀らしきものが少し増えていました。でも、前の状態を知ってないと分からないくらいちょっとでしたけど」

「そうか、ご苦労だった」

 

 その言葉に橙は笑顔を浮かべると、飲子の抱いている赤ん坊に目が行った。あれ、子供産んだの? という彼女の問い掛けに、んなわけあるかと飲子は返す。そして先程藍に話したことを再び橙にも語った。

 

「へー。じゃあその子は新しい博麗神社の一員なんだ」

「んー、まあ、そうなるかな」

「……私の方が先に博麗神社の一員になったよね?」

「へ? そりゃそうだよ、当たり前じゃん」

「だったら」

 

 私はその子のお姉ちゃんだ。そう言って胸を張る橙を見て、藍は思わず笑ってしまった。そういうからにはちゃんと面倒を見てやるんだぞ、そう彼女が述べると、橙は勿論ですよとサムズアップをする。

 

「これからよろしくね、えーっと」

「あ、名前はね、霊夢っていうんだ」

「霊夢か。ほら霊夢、橙お姉ちゃんですよー」

 

 飲子から赤ん坊を受け取るとどことなく慣れた手付きであやし始める橙を見て、これなら安心だなと藍は胸を撫で下ろす。そして飲子に視線を向けると、名前はこちらで付けたのかと問う。

 それに彼女は首を横に振ると、何でも赤ん坊の着物にそう書いてあったのだと語った。

 

「ますますもって不思議な話だな」

「何らかの原因で幻想入りしちゃったんじゃないか、って皆は言ってるけど」

 

 とりあえずは報告待ちかな。そう彼女が言った矢先に神社にやってくる人影が見えた。どうやらその報告が聞けるようだと判断した藍は、飲子と共に話を聞く旨を皆に伝えた。別段それに異論はないということで、やってきた四人も気にせず話を開始する。

 

「まずは私です。っていっても基本人里なんであれ以上の情報は無かったですね」

 

 そう言って美鈴は苦笑した。ただ、赤子を放り出す形になってしまったのを皆が悔いてた様子なのは幸いですかね、と頬を掻く。

 とりあえずそんなところなんで、身のある話は他の人から、と彼女はそこで一歩下がった。

 

「とは言っても、僕の方もそう有力な話はなかったよ」

 

 魔法の森と無縁塚。その二箇所で話を聞いたが、大した情報はなかったと霖之助は肩を竦めた。アリスと小町も知らないらしかったよ、と続けると彼は他の二人に視線を向ける。

 こちらも概ね似たようなものだな、と命蓮は同じように肩を竦めた。

 

「むしろこちらの方が酷いか。天界に情報を集めに行ったのが間違いだった」

 

 約一名やたらと話に食い付いている不良天人がいたが、情報自体は持っていないので何の役にも立たなかった、と彼はぼやく。永江ももう少しあいつを押さえつけろと呟いているところを見ると、どうやら知り合いに絡まれたらしい。

 まあいいから次だ、という彼の言葉に分かりましたと頷いた華扇は、少し得意気にこほんと咳払いをした。

 

「妖怪の山の天狗の情報網は恐らく幻想郷でもトップクラスです。だからこういう時には頼もしい」

 

 特に自称清く正しい烏天狗は大分有益な話を持っていた。そう言うと懐から一枚の新聞を取り出した。『文々。新聞』と書かれたそれには、元々その赤ん坊が無名の丘に現れたことが記されていた。

 

「ん? ということは幻想入りしたのではなく、完全な捨て子か?」

 

 その割には名前まで付けるとは、と藍は首を傾げたが、その続きを見てその表情を更に訝しげなものに変えた。その前日に人がそこを立ち寄った形跡などはなく、どうやらそこへ幻想入りしたらしいということ、その理由は恐らく外の世界で間引かれようとした子供であったからだろうということが書かれている。

 そして、妖怪らしき何者かが、その赤子を拾って人里に置き去りにしたという。有益どころかほぼ全てがそこに書かれていた。

 

「ねえ華扇。これは信用出来るの?」

「正直話半分でしょうね」

 

 まあ、ある程度の真実はあるでしょうから、大体こんな感じと思えばいいんじゃないかしら。そう続ける華扇にまあそうでしょうねと同意した幽香は、橙が抱いている霊夢に視線を向けた。

 これは親を見付けることは無理ね。そう言って溜息を吐くと、ねえ飲子と問い掛けた。

 

「どうするの?」

「どうするも何も、ここで育てるって言ってるじゃん」

「そうじゃないわ。ここでそんな力のある子を育てるということは」

 

 新しい博麗の巫女を育てるということよ。いつになく真剣な表情でそう述べた幽香を見て、飲子は思わず息を呑む。そして、暫し何かを逡巡するような素振りを見せた後、ゆっくりと頷いた。

 

「いいよ、それで。どっちみち、この娘は人里で暮らすことは出来そうにないし、だったらここで巫女として、ちゃんと生きられるようになってくれるなら、その方がいい」

「そう。……じゃあ、好きにしなさいな」

 

 それでいいわよねお母さん。と口角を上げながら藍に視線を向けた幽香に向かい、誰がお母さんだと彼女は返す。そして大きな溜息を吐くと、まあしょうがないか、と呟いた。

 ただ、ちゃんとした博麗の巫女になれるかどうかは分かりかねる。そう続けると、紫様に確認を取らなくてはいけないと踵を返した。

 

「まあ、それだけの資質があれば問題はないはずだ」

 

 ついていこうか迷っている橙に霊夢の面倒を見てやれと告げると、そのまま彼女は博麗神社を後にする。自身の主の負担は減ったが、その分厄介事は倍増したような気がする、と心の中で溜息を吐きながら。

 

 

 

 

 報告を聞いた八雲紫は笑みを浮かべる。それは丁度いい、と。だが、少し不安があるのか藍に頼みがあると声を掛けた。

 

「霊夢の面倒を貴女も見て欲しいの」

「はい、それは元々そのつもりでしたので構いません」

 

 こちらとしてもあの子供が子供を育てるような状況は心配であったから。言葉にせずにそう続けると、では神社に向かいますと藍は頭を下げた。

 八雲藍がこの後お母さんからお祖母ちゃんにクラスチェンジするのはそう遠くない話であるが、本人の名誉の為あまり多くは語らない。

 




次の話で一気に時が進んだりするかもしれない。
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