先代巫女と六人の仲間達   作:負け狐

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一気に時が進んでも、やってることは変わらない。

あ、明確に続きます。


拾弐 皿、割れた

「ゆ、紫様?」

「……何?」

「い、いえ。その、なんというか」

 

 とても淑女がするような顔をしていなかったので。そう言いながら若干引き気味で藍は頭を下げた。そんな彼女に紫は気にするなと一言述べると、全て自分の浅薄さが招いた結果なのだからと天を仰ぐ。

 

「そう、そうなのよ……。こうなることは分かり切っていたじゃない」

 

 ちなみに彼女等がいる場所は博麗神社。そして紫が嘆いている理由は二人の視線の先にいる一人の子供であった。

 妖怪達とワイワイ騒いでいる博麗霊夢。その光景が彼女に形容しがたい表情を浮かべさせていた。

 

「こーら霊夢、遊んでないで、今日の修行をやるよ」

「はーい」

 

 そんな彼女に大分母親姿が板についてきた飲子が声を掛ける。じゃあ今日は何をやろうかな、と用意した博麗の書物を捲りながら顎に手を当て思案した。

 そんな母親に、霊夢は少し目を細めると口角を上げる。そういうのってちゃんと決めてから言わないといけないんじゃないの、と。

 

「そんな考えなしじゃいけないと思うの私」

「うぐっ……」

 

 五歳児に説教される博麗の巫女。それを見た藍は思わず苦笑した。何だかんだでやはり変わらないな、そんなことを思いながら紫に私も向こうを見てきますと告げた。そんな彼女に待ちなさいと紫は声を掛ける。私も行くわ、そう言って飲子と霊夢の方へと足を踏み出した。

 

「あ、藍さん、八雲さん」

「あ! こんにちは藍おばあちゃん!」

「……いつも言ってるが、おばあちゃんは、やめてくれないか」

「んー。でもお母さんのお母さん代わりで、橙姉のお母さん代わりだから、やっぱり私はおばあちゃんだと思うの」

「まいったな……」

「……え? 私は?」

「あ、紫」

「呼び捨て!? しかも投げやり!?」

 

 五歳児にボロクソに言われる妖怪の賢者の図。それを見ていた幽香は隠すことなく大声で笑った。その笑い声に反応した紫は視線だけで殺せるほどの怒気を込め睨んだが、生憎と彼女には通用せず笑みを浮かべたまま目を合わされる。ふん、と鼻を鳴らすと再び霊夢に目を向けた。

 今日は私が修行をつけてあげるわ。そう言って扇子で口元を隠しクスクスと笑う。普段の調子を取り戻したかのようなその仕草に、藍もほっと胸を撫で下ろした。飲子もまあ八雲さんなら問題ないか、と頷いている。

 が、問題なのは当の本人である。

 

「えー、紫が修行つけるの?」

「あら、こう見えても今の博麗の巫女には負けないだけの力を持っているつもりよ?」

「お母さん弱いから参考にならないわよ」

「娘に言われた!?」

「確かにそうねぇ」

「そうだよねー」

「何で湧き出て追い打ちかけるの!?」

 

 五年程度は妖怪にとって一瞬、なので何ら変わりなく飲子をからかう幽香とルーミアの追撃を受け彼女は力なく神社の一角に腰を下ろす。もうさ、私の存在意義ってなんなんだろうね。そんなことを呟きながらどこか遠い場所に視線を向けていた。

 そんな飲子に目もくれず、紫は霊夢に向かって言葉を紡ぐ。博麗の巫女を受け継ぐには、もっと力を付けなくてはいけないのよ。そういうと自身の隣にスキマを生み出した。

 

「さ、じゃあ貴女の実力を見せてもらうわ」

「ふふん、吠え面かかせてあげるんだから!」

 

 どこからか取り出した二つの珠、陰陽の太極図に形作られたそれを周囲に展開すると、やっちゃえとそこに力を込めた。とても五歳児とは思えない程の霊力が込められたそれは、紫が思った以上の威力を秘めていて。

 何とかスキマで防いだ紫に向かい、霊夢は得意げな顔を見せる。どうだ、と言わんばかりのその表情は歳相応のものであり、持っている能力の強さとのギャップに思わず彼女は笑ってしまった。

 

「何よ」

「ふふっ。なんでもないわ」

「馬鹿にすんなっ!」

「そういうところは子供ねぇ」

 

 がー、と向かってくる霊夢をいなしつつ、紫はどこか満ち足りたような顔で微笑んだ。

 そして。

 

「……霊夢取られた……」

「子供を育てているんだから、もうそんな子供みたいなこと言うんじゃない」

「うぇーん、お母さんー!」

「誰が母さん……ああもう、ほら、泣くな」

 

 五歳児より子供のような母親がすぐ傍にいたり。

 

 

 

 

 

 

 霊夢を飲子が育てるようになってから五年。幻想郷は相も変わらず、そして博麗神社は少しだけ賑やかさが増していた。とはいえ、飲子一人だけの時とは違い自分達の家を持っている者はその頻度を少しだけ落としていたので、実際はそう変わっていないのかもしれない。

 今日も今日とて神社に入り浸っているのは風見幽香とルーミアの二人である。飲子と違いからかい甲斐がない、ということでそこまで霊夢にちょっかいは出さず、のんべんだらりとお茶を飲みながら空を見ている。

 そんな二人の視界に、一人の男性の姿が写った。その隣には小さな子供がついてきており、見る限りでは親子か兄妹に見える。そんな顔見知りの男性に、幽香は声を掛けた。どうしたのその娘、と。

 

「いや、最近僕の店に来るんだよ」

「魔法の森の入り口に? こんな小さな子が?」

「小さくない!」

 

 幽香のその一言に反応したのか、子供はそう言うと口をとがらせる。はいはいごめんなさい、と返した彼女は、男性――森近霖之助に話の続きを促した。

 とはいえ、続きといっても別に大したことはない。ただ単に同い年の子供と遊ばせようと考えた結果彼はここに連れてきたというだけである。別に人里でいいじゃない、という幽香の言葉に、そうなんだけれどね、と肩を竦めた。

 

「まあちょっと、見ての通りお転婆でね。人里じゃ彼女に付き合える子がいないらしいんだ」

「成程」

 

 そう言うと視線を二人から別の場所に向ける。竹箒を振り回しながらよく分からない歌を歌っている巫女装束の五歳児を視界に収め、それであれなのね、と述べた。

 まあそうと分かれば善は急げ。幽香は霊夢に声を掛けるとちょっとこっちに来いと手招きをする。何よ、とやってきた彼女に向かい、ほら、と霖之助の隣の少女を指差した。

 

「誰?」

「僕の知り合いの子供さ。名前は――」

「霧雨魔理沙! 魔理沙でいい」

「博麗霊夢よ。……霊夢様って呼びなさい」

「は? 馬鹿なのか?」

「誰が馬鹿よ! そっちこそ馬鹿じゃないの!」

「いきなり霊夢様って呼べなんていう奴よりよっぽどマシだぜ」

「言ったわね金髪」

「言ったがどうした紅白」

 

 何故か始まる取っ組み合い。それを見て幽香は面白そうに微笑み、霖之助は何でこうなるのやらと頭を押さえた。

 ねえインコ、面白いことが起きてるよ。そんなルーミアの言葉につられこの場にやってきた飲子は、目の前で盛大に喧嘩をしている霊夢と魔理沙を見て目を見開いた。一体全体これはどういうことだ。そう訊ねたくともまともな返答が来そうな相手は一人しかいない為、女性陣二人を無視して霖之助に食って掛かった。

 そんな霖之助であるが、とりあえず事情を説明しつつまあ確実に霊夢が悪いなと締めた。一体どんな教育をしたらああなるのやら。溜息混じりでそう続けられると、彼女としてもぐうの音も出ない。

 とりあえず止めよう、と飲子は二人に割って入る。霊夢の首根っこを引っ掴むと、いい加減にしなさいと軽く頭を小突いた。

 

「何で私なのよ!」

「いきなり様付強要するような五歳児は怒られて当然。まあ、普段同年代と遊んでなかったからしょうがないのかもしれないんだけど」

 

 肩を竦めると、飲子は魔理沙に向き直った。そして、ごめんね魔理沙ちゃん、と彼女は頭を下げる。下げられた方は大人にそんな対応をされたことに若干戸惑いながら大丈夫だと返し、そしてその原因を作ったものは信じられないといった表情で彼女を見た。

 

「何でお母さんが頭下げるの!?」

「そりゃ、子供の不始末は親の責任だからね。霊夢が悪いことをしたなら、私も一緒に謝るんだよ」

「私謝ってないじゃない」

「そうだね。……どうするの?」

 

 飲子のその言葉に、私悪くないもん、と霊夢はこの場から逃げるように駆け出した。そんな霊夢を追い掛けるように、魔理沙が待てよ霊夢、と走り出す。

 そして出遅れた大人達がポツンと残された。

 

「追いかけないの?」

 

 幽香のその言葉に、あ、そうだと我に返った飲子が駆け出す。その背中を見ながら、彼女はどこか嬉しそうに微笑んだ。

 一端に母親やるじゃない。そう言いながら、隣に立つルーミアに同意を求めるように視線を向けた。その視線を受け、そうだね、と笑いながら返した彼女は、それに比べてと霖之助に視線を移す。

 

「追いかけないの?」

「え?」

「魔理沙」

「……あ! そうだ!」

 

 だめだこりゃ、と慌てて三人の後を追う霖之助の背中を見て二人は呆れたように溜息を吐いた。

 

 

 

 

 先程までのんびりとしていたのが嘘のような緊張感に神社は包まれていた。幽香も、ルーミアも、霖之助も、飲子も。それぞれ真剣な表情で一人の少女を睨んでいる。

 その睨まれた少女、清く正しいをモットーにしている烏天狗は若干青褪めた表情で落ち着いて下さいと後ずさった。

 

「落ち着いてなんかいられるか!」

「いや、そうかもしれないんですけど」

 

 そんな剣幕でこられると説明も出来ない。そう彼女は話すのを聞いて、少しだけ冷静になったのか飲子は軽く息を吐いた。ごめん文さん、と頭を下げると、でも説明はちゃんとしてもらうと続けた。

 

「それは勿論。っていうか、正直こっちも勘弁して欲しいのよね、これ」

 

 何でよりによって博麗の巫女の子を攫うのか。肩を落とし溜息を吐く文を見て、どうやら天狗の総意ではないという結論付けた幽香は少し考える素振りを見せた。最悪妖怪の山と全面戦争だと思っていたが、この様子ではそこまでに至らずに済む。

 それも寂しいわね、と考えながら彼女は文の話の続きを待った。

 

「ただ、気になるのが、鬼に命じられたってのなんですよね」

「鬼に?」

「そう。でも知っての通り、妖怪の山に鬼は――まあ、一応いないことになってます」

 

 そうなると旧地獄の鬼になるわけだけれど、と彼女は飲子を見た。その視線の意味に気付いたのか、彼女は首を横に振る。勇儀さんも萃香さんもそんなことしない。そうはっきり言い切った。

 

「っていうか攫う意味が無いし。私のことも霊夢のことも知ってるんだから何か用事があるなら直接言うって」

「ですよねぇ……」

 

 残るは一応いないことになっているもう一人だが、こちらはもっと可能性が低い。何せ彼女はこの神社に入り浸っているのだから。攫うまでもなくこの場で用事が事足りる。

 となると、鬼を語る何者か、あるいは別のもう少しランクの落ちる鬼か。

 

「どっちにしろ、助けに行けば分かる話だね」

 

 考えるより動いた方が早い、とルーミアは拳を握る。確かにそうだと霖之助も頷き、幽香も持っていた日傘を肩に担いだ。

 それに慌てたのが文である。ちょっと待ってください。そういうと一行の前に立ち塞がった。

 

「いくらこちらの不祥事とはいえ、妖怪の山の中の出来事は基本的にこちらで片付けることになっています。ですから、申し訳ないのですが皆さんはここで待っていて――」

「それを大人しく聞くと思う?」

「……ですよねぇ」

 

 まあそうだと思ったから情報を伝えたんだし。そう呟くと、文は一本の縄を取り出した。私は貴女達に負けて人質になったので妖怪の山に案内することになりました。そう言うと縄を飲子に渡す。

 

「めんどくさいんだね、天狗って。ちょっと文さんには同情しちゃう」

「そう思うんならもう少しネタ提供して下さいよ。今の博麗の巫女は何やらかしてもいつものことで済まされちゃうんで新聞的に非常につまらないんですから」

「うっさいやい」

 

 ぐるぐると文を縛りながら、飲子はそんな風にぶうたれた。

 さて、では行きましょうか。縛られた彼女のそんな言葉を受け、四人はこくりと頷く。目指すは妖怪の山、目標は二人の少女。博麗霊夢と霧雨魔理沙の奪還。

 そして、犯人をぶちのめすこと。

 

「どうしてやろうかしら」

「久々に、食べようか」

「丁度いい、実験台になってもらおう」

「……ちょっと巫女」

「私に言うな!」

 

 色々と物騒なことを呟く妖怪変化共三人を見ながら、文と飲子は不安が大きくなるのを感じた。これが解決した後、妖怪の山は無事だろうか。そんなことまで考えるほどである。

 




さらば妖怪の山。
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