博麗神社。現在、幻想郷で最も妖怪の戦力が整っている場所である。現在の博麗の巫女である博麗飲子を筆頭に、風見幽香、ルーミア、森近霖之助、紅美鈴、茨木華扇、命蓮の六人が集い、それを見守る形で妖怪の賢者の式である八雲藍とその式であり巫女の友人である橙、巫女のケンカ友達であるアリス・マーガトロイドがおり。
そして巫女と信頼関係を結ぶ旧地獄の覚妖怪古明地さとりと鬼である星熊勇儀に伊吹萃香。ついこの間暫しの居候となった天狗の射命丸文、姫海棠はたて、犬走椛。
「なあ、これから幻想郷滅ぼすんだっけ?」
「逆よ逆。幻想郷を救うの」
「いや、でも」
ずらりと並ぶ面々を見た魔理沙は難しい顔を浮かべる。どう考えても戦力過多だろう、と。それには霊夢も同意見なのか、まあねと返した。多分犯人からすればいじめじゃないかしら、そう続けると近くの縁側に腰を下ろした。
射命丸文が天魔から言付けられた博麗の巫女への依頼、それは実に単純で、妖怪の山を混乱に陥れた輩を退治して欲しいとのことであった。元々その気であった飲子は二つ返事で了承し、気合を入れて準備をしていたらあれよあれよと仲間が集い。
そして気付くとこの状態である。気合を入れていた本人も、これはちょっとやり過ぎじゃないかと若干引き気味になっていた。完全にいじめだこれ、と娘と同じ結論に至っているのはやはり親子といったところだろうか。
「……あのさ」
ん? と一斉に皆が飲子の方へと向く。その多数の視線に一瞬怖気付きかけたが、いかんいかんと気合を入れ直し集まってくれた連中に向かって声を掛けた。
ちょっと集まり過ぎじゃない? と。
「ああ、貴女の出番が無くなるから」
「そこじゃない!」
「こんだけいれば確かに空気かもねー」
「違うっての!」
幽香とルーミアのいつもの煽りにいつものように返した飲子は、縋るようにさとりを見た。はいはい、と肩を竦めると、さとりは一歩彼女の方へと踏み出す。
まあ確かにそうかもしれないわね、と飲子に述べたさとりは、しかし何かを考えるように視線を落とした。そして視線を上げた後にぐるりと皆の顔を見渡す。
ニコリと笑みを浮かべると、愛されているわね飲子、と肩を叩いた。
「ほえ?」
「ここにいる面々のほとんどが貴女の役に立ちたいと思っているのよ。無論、私もね」
「へ? え?」
思わず周りを見渡した。少々バツの悪そうな顔を浮かべている面々もいれば、当たり前だと笑顔を浮かべるものもいる。何であんたなんかの役に立ちたいなんて思わなきゃいけないのよと叫んだ人形遣いもいた。
まあ、そういうわけだから、とさとりは飲子に告げる。この戦力を存分に使いなさい。そう続けると、彼女は旧地獄の面々の場所へと戻っていった。
「いや、使えって言われても……」
それこそ幻想郷を滅ぼすのにしか使えないんだけど。そんなことを呟きつつ、まあでも自分の為に集まってくれたというのは気分がいいものだなと飲子は笑みを浮かべた。
よし、じゃあこのまま一気に犯人を締めあげるか、と皆に叫ぼうと息を吸い込んだその時である。
「た、大変だ! ってここも凄い大変だ!?」
息を切らせて石段を登ってきた里の自警団の青年により彼女は言葉を飲み込んだ。落ち着いて下さい、と美鈴がその青年へと駆け寄ると、彼は安堵したような表情を浮かべる。ああ、何だ、ここは大丈夫だったのか。そんなことを言いながら、しかしそうじゃないと首を横に振った。
「ちょっとちょっと。何があったの?」
そのただならぬ様子にルーミアもいつになく真面目な表情で問い掛ける。はい、実は、と青年が語った話によると、何でも急に妖怪達が暴れ始めたらしい。それも普段のようなものではなく、何者かの部下のごとく統制の取れたものなのだとか。
それを聞いた飲子は何だそれはと顔色を変えた。今までの揉め事とは規模の違うそれは、まるで。
「異変?」
誰かがぽつりと漏らした。その言葉に同意するように皆の雰囲気が変わっていく。
飲子、と藍が彼女に声を掛けた。私は紫様に連絡をしに向かうので、後を頼む。そう述べると、神社から飛び去っていく。その背中に任せて、と返すと、飲子は皆を見渡した。
「目標変更! とりあえずこの事態を鎮めるよ!」
その叫びに、集まった面々は応と拳を突き上げた。
「一体何なんだ!」
人里に侵入しようとする妖怪共を殴り飛ばしながら慧音はそう叫ぶ。反対側では妹紅が同じように頑張ってくれているが、正直多勢に無勢なのが現状であった。木っ端妖怪だけでなく、ある程度の実力を持った妖怪までもが徒党を組んで攻めてくるこの事態は今までにないほどの脅威となっている。自警団も負傷者が多数出ており、治療や避難で大分戦力を無くしていた。
このままではまずい。そう焦りが生まれてきた彼女に、妖怪達が大挙して押し寄せる。しまった、と思った時にはもう遅い。自身より弱いとはいえ消耗している状態とこの数ではいくら慧音といえども一溜まりもない。
「くっ、この……」
ここで自分が倒れたら、間違いなく人里は滅茶苦茶になる。そんなことをさせるわけにはいかない。そう思っても彼女のダメージは大きく、膝を付き力無く睨むことしか出来ない。
すまない皆、すまない妹紅。そんなことを呟きながら、彼女はとどめを刺さんと腕を振り上げる妖怪を眺め。
「魔理沙!」
「まっかせろぉぉぉぉ!」
突如突っ込んできた箒によって目の前の妖怪が吹っ飛んだのを見て目を見開いた。勢い余って二・三体を巻き込んだそれは、彼女のよく知る顔で。何をやっているんだお前は、とその小さな少女を見ながら苦笑した。
そして、その少女と共に現れたもう一人を見て、慧音は心底安心したような表情を浮かべる。
「遅い」
「ああ、それはすまない。お詫びと言っては何だが」
銃を取り出すと目の前の妖怪共へと乱射した。普通のそれとは比べ物にならない威力を秘めた弾丸は容易く連中を吹き飛ばしていく。
小走りで戻ってきた少女、魔理沙の頭を軽く撫でると、霖之助は慧音を連れて下がっていろと指示を出す。不満そうな顔を浮かべた彼女であったが、怪我されるとお嬢にぶん殴られるという言葉に笑いながら仕方ないと納得した。
じゃあ私は先生を救護の人がいるとこまで連れてくぜ、という彼女の言葉に任せたと返し、霖之助は妖怪の群れに視線を向ける。別段表情は変わらない。が、纏う雰囲気は普段とは別物であった。
「さて、じゃあ君達はこれの実験台になってもらおうか」
そう言いながら取り出したのは八卦を模した巨大な筒。そこに集まるエネルギーは凄まじく、目の前の妖怪共が受け止めきれるようなものではない。
ざわめきが起きた。逃げた方がいいのではないか、と妖怪達は狼狽えた。が、そんな連中に迷う暇を与えるほど霖之助は聖人君子ではない。何だかんだで、彼もあの博麗の六人組の中の一人なのだから。
「戦力は数じゃない。戦力は、パワーだ」
普段の彼らしからぬ頭の悪い発言をしながら笑うその姿を見て、幼馴染の女性はドン引き、妹分はかっこいいと目をキラキラさせていた。
盛大にエネルギーの火柱が上がるのを見て、反対側にいた藤原妹紅は何事だと振り向いた。ああ、あれはきっと霖之助さんですね、と隣に立つ美鈴は呑気な声を上げる。
相変わらずぶっ飛んでいるなぁ、と溜息混じりでそう返すと、目の前にいる妖怪を炎で吹き飛ばした。
「しかし、神社からお前達が来た時は何事かと思ったよ」
「あはは、確かにちょっと大所帯だったかもしれないですね」
「あれをちょっとと言ってのけるお前さんは大物だよ……」
まあ実際撃退をしているのは一部なんですから、間違ってはいませんよ。そんなことを言いつつ、美鈴は震脚で複数の妖怪をまとめてなぎ倒した。
それだ、と妹紅は彼女に問う。あれだけいた他の面々は何をやっているんだ、そう訊ねると、美鈴はそうですね、と顎に手を当てる。全員が暴れるとただの弱いものいじめなので、そんな前置きをすると、彼女は笑顔を浮かべた。
「旧地獄の方達と天狗の面々は救護と避難の手伝いをしてもらっています。イメージアップも出来て一石二鳥ですよね」
「……ああ、うん。まあどうでもいいや。それで他は?」
「霖之助さんは魔理沙を連れて向こうで先生を助けに。後の面々は――」
彼女が何かを言うよりも早く、二人の背後から何かが飛び出した。一つは化け猫、その爪を構え、妖怪の群れに疾駆する。一つは巫女服を来た子供、周囲に陰陽玉を構え、一直線に突っ走る。
せーの、という掛け声とともに、二人は各々の武器を振りかぶった。
「行くよ霊夢!」
「任せて橙姉!」
悲鳴と共に吹き飛ぶ妖怪達。どちらかというと守る戦いを行っていた妹紅や美鈴と違い、霊夢と橙は完全に相手を殲滅する戦い方であった。あっという間に隊列が乱れ、妖怪達が逃げ惑っていく。
そんな光景を見ながら、まあこんな感じですと美鈴は妹紅に述べた。
「……帰っていい?」
「あ、はい。大丈夫ですよ。後はこっちでなんとかするんで、先生のところに行ってて下さい」
「了解。……ありがとう、助かった」
「いえいえ、どういたしまして」
踵を返し人里の中へと走っていく妹紅を見ながら、美鈴はさてでは私も気合を入れますかと拳を握った。暴れている霊夢達に翻弄されている妖怪の中に、冷静にこちらへと向かおうとしている者がいるのを見付けたからだ。
何で向こうの手下をやっているのだろうか。そんなことを考えつつ、彼女はその妖怪を真っ直ぐに睨んだ。
「……私は別にあの湖の館の吸血鬼の手下になったわけじゃない」
「吸血鬼?」
美鈴の前に立ったその妖怪は、赤い外套で口元を隠しつつ唐突にそう告げる。その言葉に何か引っかかるものを覚えた彼女は問い返したが、相手はそれに答えることなく姿勢を低く構えた。
一足飛びで美鈴の懐に飛び込んだ相手は、隠し持っていた短刀で彼女の喉元を狙う。が、そんなものは読んでいたとばかりに体を少しずらすだけで躱すと、お返しとばかりに自身の手刀で相手の首を刈り取った。胴と首とが泣き別れし、重力に従って首が地面にポトリと落ちる。
その落ちた首を何事もなかったかのように拾うと、やはり敵わないかと相手は溜息を吐いた。
「所詮私は木っ端妖怪。博麗の大妖怪に敵うはずもないか」
「いや、そこまで言われるとちょっと照れちゃうんですけど」
恥ずかしそうに頭を掻く美鈴を見ながら、妖怪は降参だと踵を返した。そのあまりにもあっさりとした態度に思わず彼女は目を見開いたが、我関せずとそのままパニックになっている妖怪の群れを通り越して帰って行ってしまった。
一体全体何だったんだ。そんなことを思い首を傾げた美鈴は、そういえば、とあることに気付いた。
「あの人、妹紅さんがいる時には隠れてたけど……何でなんだろう」
「知りたい?」
「うぉあ!?」
いつの間にか隣に立っていたルーミアに、美鈴は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。驚かさないで下さいよ、と溜息混じりで告げると、まあまあと彼女は笑った。
やはりこいつに言っても無駄だということを再確認しつつ、とりあえず会話を最初に戻そうと彼女はルーミアに視線を向けて問い掛ける。それで、理由は何なんですか、と。
「私も知りたい」
「ぶん殴りますよ」
「あはははっ、ごめんねー」
言いながら彼女はふわりと浮かび上がる。まあきっと普段ここで買い物とかしてるから気まずかったんだよ。そう述べると、彼女はそんなことより次のお客さんだよと前方を指差した。
先程の妖怪少女と比べるといかにも化物ですといわんばかりの巨大な妖怪。先程までいなかったそれが、のしのしとこちらに歩いてくるところであった。橙と霊夢はその巨体をみておお、と呑気に声を上げ、そして妖怪の群れはそれに道を譲るように左右に別れる。
地響きは目の前だけでなく他の場所からも聞こえており、どうやらこの巨大妖怪共がここに攻め込んだ連中の指揮を取っていたようであった。恐らく助っ人として現れた博麗神社の集団にしびれを切らして姿を現したのだろう。
「と、いうことは」
「アレを倒せば、とりあえず里の騒ぎは終了かな」
それは良かった、と美鈴は再び構えを取る。指揮をしているだけにある程度の実力を持っているようで、眼の前にいる有象無象よりは強いのが肌で感じられた。
しかし解せない、と美鈴は眉を顰める。この騒ぎの原因がこいつらであるのは間違いないとしても、元凶でないのもまた間違いない。ならば、いくら普段腑抜けているとはいえこの連中をあっさりと掌握してみせた何者かがいるということになる。
「吸血鬼、ですか」
あの妖怪少女が述べた言葉を思い出す。ひょっとして彼女はヒントを伝えるためにわざわざやって来たのではないだろうか。そんなことを美鈴は思った。だとしたら、大分ひねくれ者なんだな、と同時に考えて思わず苦笑した。
「ルーミア」
「んー?」
「湖の館ってどこですかね?」
「んー、私じゃ分かんないけど、他の面々なら分かるかも」
「そうですか」
じゃあさっさとこれをぶっ飛ばして聞きに行かないといけませんね。そう呟くと、美鈴は足に力を込めて跳び上がった。拳を握り、それを相手に叩き込まんと一気に突っ込む。
その眼前に、見知った顔二つが飛び込んできた。化け猫と、子供巫女の二つが。
「は!?」
「うぇ!?」
「へ!?」
同時に同じことをやろうとしていた三人は、見事なまでに頭をぶつけてそのまま落下していった。全力で頭突きをしてしまった為に皆が一瞬意識を飛ばしており、そして気付いた時には既に地面が目の前という事態のおまけ付きである。
とりあえず最初に我に返った美鈴は二人を抱きかかえて後ろに飛ぶ。その瞬間踏み潰そうとしていた妖怪の足が通り過ぎた。
「何やってんの?」
「私に言わないで下さい! ったく……橙、霊夢、大丈夫ですか?」
「うう、痛い……」
「ったく、痛いじゃないのよ……」
頭を押さえる二人に自業自得ですと返すと、美鈴は改めて妖怪の前に立った。今度は邪魔しないで下さいよ。そう続けると再び拳を握る。
面倒なんで即決めますからね。そんな呟きと共に美鈴は再び大地を蹴り。
「美鈴ずるい」
「ホントよ。一人だけいいカッコしちゃって」
「やかましい子供共!」
そんなことを叫びつつ、踵落しを妖怪の眉間に叩き込んだ。無論一発で勝負は決まった。
美鈴も敬語を忘れて怒鳴るレベル。