先代巫女と六人の仲間達   作:負け狐

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これから恐らく一話完結はない、んじゃないかなぁ、と。


拾陸 三分間クッキング

 里の人々に治療を施す覚妖怪と鬼二人。どう考えても奇妙な光景なのだが、それについて誰も何も言わない。それは表面上だけなのかというとそんなことはなく、彼等の心の中も別段彼女達に恐怖をしている様子はない。

 それを確認したさとりは、ついおかしくなって笑ってしまう。『博麗の巫女の仲間の妖怪』ならば何の警戒もしない里の連中の脳天気さに、である。そして同時に、自分の友人の信頼に、である。

 やはり巫女を変える必要などない。そう確信を持って言えるとさとりは思ったが、しかしそこでふと気付く。どのみち次の巫女は霊夢だ、多少捻くれたところはあるが、概ね妖怪との接し方は同じ。

 そこまで考えて、彼女は笑みを強くさせた。

 

「何笑ってるんだ?」

「いえ、妖怪の賢者は苦労人ですね、と」

「はははっ、それは間違いない」

 

 勇儀と萃香がさとりのその言葉に揃って笑う。その表情のまま、さてじゃあもうひとふんばりしますかねと負傷者の方へと足を進めた。

 その程度じゃ死にゃしないから大丈夫だ。そんな事を言いながらも作業はテキパキと進んでいく。そんな鬼二人を見ながら、さてでは私も頑張りますかと足を踏み出した。

 それと同時、ズシンと大きな地響きが聞こえた。何事だ、と訝しげな表情を浮かべた彼女が外を見やると、そこには大きな体躯をした妖怪が数体、里を取り囲むように立っている。どうやらあれがこの襲撃の司令塔のようだ、と軽く心を覗いたさとりは頷くと、さてどうしたものかと首を捻った。

 

「……問題ないわね」

 

 このままここで周囲の被害に気を配っていれば問題ない。そう結論付け、彼女は視線を巨大な妖怪から逸らすのであった。

 数分も立たずにそのうち一体が沈んだことを聞き、まあそうだろうなと彼女は頷いた。

 

 

 

 

 

 

「ったく、何で私はあんたとペアなのよ」

「私だって霊夢と組みたかったわい。橙に取られたけど」

 

 ブツクサと言いながら追加で攻めてきた妖怪の群れを吹き飛ばす。飲子は札とお祓い棒で、アリスは人形で、それぞれの得物を使い相手を全く寄せ付けない。挟撃から包囲に陣形を変えたにも拘らず、援軍のあまりの強さで妖怪達の襲撃はどんどんと追い詰められていた。

 地響きが二人の耳に届く。眼の前に現れた巨大な影を見て、思わず口をぽかんと開けた。こんなのまで里の襲撃に参加していたのか。そんなことを思いつつ、表情を真面目なものに切り替える。

 

「よしアリス、援護よろしく」

「はぁ!? 何で私が援護なのよ」

「何でって……私なら多少攻撃食らっても平気だからだけど」

 

 いくら協力しにきてくれたからって、わざわざ怪我するようなことさせるのもちょっとね。そう言いながら笑う飲子を見て、アリスはふんとそっぽを向いた。この程度の妖怪相手に心配されるほど弱くないわよ。そう言いながらも、しかし彼女は飲子の少し後ろに立つ。

 まあ、今回はあんたの顔を立ててあげるから感謝しなさい。飲子に見えないように顔を伏せたままそう述べると、アリスは指をくいと動かし人形を操作する。

 ちなみにその顔は真っ赤であった。

 

「よっし。信頼してるよアリス」

「……バッカじゃないの」

「酷い!?」

 

 言いながらも勢いはそのままに真っ直ぐに相手へと突っ込んでいく。札を投擲し周囲に停滞させると、それを足場にするように彼女は立体的な軌道を描いた。

 上に下に、右に左に。目まぐるしく位置を変える飲子を妖怪は捉え切れない。やがて視界から完全に彼女が消えた辺りで、狙ったかのように人形が突進を開始した。続けざまに叩き込まれるその攻撃に妖怪は思わずたたらを踏み。

 その頭上でお祓い棒を振り被る飲子に対応するのが致命的に遅れた。

 

「ちぇ、すとぉぉぉぉ!」

 

 額にめり込むほどの一撃。それを叩き込まれた妖怪はあっさりと昏倒して地に倒れ伏す。ついでに周囲にいた木っ端妖怪を二・三体巻き込んだ。

 先程の足音とはまた違う地響きを聞きながら、どんなもんだいと彼女は胸を張る。ま、そこそこね、というそっけない言葉を返された。

 

「これで後は……別にこっちで対処する必要はないかしらね」

「あー、うん。かなぁ」

 

 ちらりと見えた先では美鈴が一撃で妖怪を叩き伏せていたのが見えた。恐らく残りの司令塔も同じ末路を辿るだろうということは想像に難くないので、蜘蛛の子を散らすように逃げていく下っ端連中を完全に里から追い出し、二人はここで一息付く。

 残りは三体。おそらく半刻経つ前に決まるだろう。

 

 

 

 

 二人の予想通り、それから程なくして司令塔妖怪は全て退治され、妖怪共は皆這々の体で里から去っていった。里の人々も死者は無く重傷者といえるのは慧音一人くらいで後はそこそこ。大成功と言っても過言ではないほどの防衛であった。

 そんな人里を、命蓮と華扇は念の為と見回る。里の人々は治療やら避難ならで稗田の屋敷や霧雨屋へと集まっている為それ以外の場所は基本的に無人である。だから、ここで何か動くものがいる場合、逃げ遅れた人間か、あるいはまだ逃げていない妖怪かのどちらかとなるわけで。

 

「それで、お前は一体どっちだ?」

「……まあ、少なくとも人間ではないかな」

 

 そう言いながら命蓮の前に立つ少女はポリポリと頬を掻く。明らかに人間ではない鼠の耳がその拍子にゆらゆらと揺れた。

 別に向こうの仲間になったつもりは毛頭ない。そう述べると、ただちょっと探しものがあるだけだと続けた。ほとんど無人になっている今の状況は丁度いいと思っただけ、そんなことを言いつつ持っているダウジングに反応がないか確かめている。

 

「火事場泥棒か」

「人聞きの悪い。別に物盗りをしようというわけじゃないよ」

「でも、その探しものが民家にあった場合は行うのでしょう?」

「……まあ、やぶさかではないね」

 

 ただ、と少女は続ける。その場合は見逃してくれないのだろう? そう問い掛けながら彼女はガクリと肩を落とした。これで貧弱な人間ならば力尽くでもと言えたのだけど、とぼやくと、諦めたようにダウジングを背中に仕舞った。

 

「博麗の巫女に喧嘩を売るほど私は無謀じゃない。今日のところは諦めるよ」

「そうね。それが懸命です」

「やれやれ、せっかくチャンスだと思ったのになぁ」

 

 はぁ、と溜息を吐くと少女は踵を返す。一体後どれだけ探し出せばいいのやら、そんな呟きが二人の耳に届いた。その言葉が少し気になり、命蓮はちょっと待ったとその背中に声を掛ける。

 

「何だい?」

「その探しものというのは、俺達が協力出来るものか?」

「へ? ああ、まあ、このくらいの小さな飛倉の破片なんだが、なにぶん数が多くてね」

「破片、ということは、どうやら物盗りになる必要性はなさそうですね」

「その辺の人間や妖怪には無用の長物だからね。……どうしたんだい?」

 

 少女のその言葉を聞いた命蓮は何かを考えこむような仕草を取ったまま動かない。華扇も一体どうしたんだと彼の肩を叩くと、ああ済まない、と声が返ってきた。

 とりあえず見付けたらこちらで保管しておこう。そう少女に述べた命蓮は踵を返す。先程とは正反対のその態度に、思わず少女も声を掛けてしまう程であった。その声に足を止めた彼は、やれやれと肩を竦めると振り返ること無く彼女にこう告げる。

 

「俺の名は命蓮。察しがいいのならば分かってくれると思うが」

「……成程。それは済まない、余計な面倒を持ってきてしまった」

「気にするな、ええと」

「ナズーリン。長いと思ったのならばナズとでも呼んでくれ」

 

 そこまで言うとナズーリンもまた背を向ける。ではまた縁があったら、そう述べると振り返ること無く彼女は去っていってしまった。

 そして残される察しの悪い自称仙人。

 

「え? 何? 何だったの今の会話?」

「ほら、見回りの続きをするぞ華扇」

「説明を要求します!」

「却下だ」

「どうしてですか!」

「面倒だからな」

 

 納得いきませんよ、と彼女の叫びが人里に木霊した。

 

 

 

 

 騒がしいわねぇ、と遠くから聞こえてくる華扇の叫び声に幽香は眉を顰める。見回りくらい静かにやればいいのに。そう言いながら、目の前の相手に同意を求めるように視線を向けた。

 

「まあ、それはそうですね……」

「でしょう? 静かにしていないと、せっかくの獲物が逃げてしまうもの」

 

 そう言いながらクスクスと笑う幽香を見て、彼女の目の前に立つ少女は頬を引き攣らせた。獲物、というのはどう考えても自分であると確信を持ったからだ。だから敢えてそのことを追求せず、ゆっくりと後ろに下がる。

 どこに行くの、という言葉でその足を止めた。いえ、そろそろおいとましようかと。そう返して更に下がろうとしたその足元に日傘が突き刺さる。ひっ、と思わず悲鳴を上げてしまった彼女は、逃げるという動作を再開するのが一瞬遅れた。

 いつの間にか目の前に立っている自身を獲物と称した相手を見て、彼女の顔は青褪める。抵抗することは出来るだろうが、そこに意味を見出すことは出来ないだろう。そんなことを思いつつも、しかし大きく息を吐き表面上は冷静を取り繕った。

 

「困りましたね。そろそろ主人にお茶をお出ししないといけないのですが」

「あら、誰かに仕えているのね」

 

 刺さった日傘を引き抜き杖のように自分の前に立てると、幽香は少しだけ興味が湧いたような表情を見せる。それを見た少女は少しだけ笑みを浮かべ、はい、これでも契約の小悪魔ですのでと続けた。

 

「小悪魔、ねぇ。雑用でも押し付けられているのかしら?」

「あはは、大体そんな感じです。人使い荒いんですよ、うちの主人」

 

 無茶ばかり言って、こっちは困っているんです。そう言いながらゆっくりと後ろに下がる。幽香は特にそれを咎めない。気付いていないのか、気にしていないのか。それとも別の理由か。

 何にせよ距離を取ることが出来れば、後は全力で逃げるだけだ。そんなことを思いつつ、しかしそれを顔に出さず小悪魔は世間話をするように目の前の相手に微笑みかける。自分の喉笛に食らいつこうとしている猛獣相手に、微笑みかける。

 

「大変そうね、下っ端というのは」

「そうなんですよ。仕事でミスすると容赦なく責め立てられますからねぇ」

「ふぅん。でも、契約を続けているのね」

「……まあ、何だかんで今の職場気に入ってますので」

「そう、それは良かったわね」

 

 そう言って幽香は笑う。その姿は完全に気を許しているように見えて、そして同時に隙だらけでもあった。攻撃をするにしろ、逃げるにしろ。今ならどちらも成功する。そんな確信が持てるほどで。

 小悪魔はもう一歩下がる。幽香は何も言わない。微笑みながら、日傘を杖にして立っている。

 

「……では、私は主人の下へと戻りますね」

「そう。それは残念ね。もう少しお話したかったのに」

 

 肩を竦め、そして視線を小悪魔から逸らす。その隙にもう一歩後ろに下がった。これで相手が自分の懐に飛び込むには三歩必要だ。それだけあれば、この場から離脱することは充分に可能である。

 戦う、ないし攻撃を行う、という選択肢は端からない。結果がどうなるかなど火を見るよりも明らかだからだ。それならばまだ逃げる方が何とかなる確率は高い。

 そこまで考えた小悪魔は、いつの間にか自分の視界が一面の空になっていることに気が付いた。地面に倒れている、ということを理解したのはその後だ。思考が追い付かず、一体何が起こったのか分からないと視線を彷徨わせる。

 そんな彼女の視界に、自分を見下ろす幽香の姿が映った。その顔は相変わらず柔らかい笑みを浮かべており、そして相変わらず隙だらけである。

 だというのに、小悪魔にはそれがどうしようもない程の絶望の権化に見えた。

 

「本当に残念だわ」

「……またお話する機会などいくらでも」

「あら、そう? ここでミンチになっても、次の機会があるの?」

「挽き肉!? 私挽き肉になるんですか!?」

「そこそこ脂肪の詰まった部分もあるし、いいハンバーグになるわよ」

「食卓に並べられるんですか!?」

 

 泣きそうな小悪魔の声を聞きながら、幽香は笑顔で拳を握る。やっぱりじっくりと轢き潰すのがいいわよね。そんなことを呟きながら、その拳を振り上げた。

 

「痛いのは一瞬、じゃ詰まらないでしょう? 下からやってあげるから、もう少しお話しましょう」

「い、いえ、出来ればお話は五体満足の状態でしたいなぁ、なんて」

「だぁめ。だって貴女、この襲撃の先導者でしょう?」

 

 逃さないわ。短くそう言うと、幽香は笑みを一層強くさせる。先程までとは違い、それはとても禍々しく。口は三日月のように歪められ、開かれた目はどうしようもないくらい加虐心に満ちていて。

 嫌だ、死にたくない。ガタガタと震えながら小悪魔はそう必死で口にする。その顔は最早余裕など欠片も見当たらず、ひたすらに怯える哀れな獲物そのもの。ただただ無慈悲に潰される、可哀想な仔山羊。

 

「じゃあね、小悪魔さん。次はもう少し無茶を言われないような主人に仕えられるよう祈っておくわ」

 

 拳を振り下ろす。やめて、いや、助けて。そんな悲痛な叫びが倒れている彼女から発せられ、しかし勢いは微塵も衰えず。

 グシャリ、と何かを叩き潰す音がした。

 

 

 

 

 

 

「で?」

「で、じゃないわよ! こちとら部下がやられたのよ!」

 

 紅魔館。ワインを飲みながら冷静にそう述べるレミリアに、パチュリーは明らかな怒りの表情を浮かべながら食って掛かった。普段の彼女らしからぬその態度に、レミリアも若干驚いたような表情を浮かべる。

 

「意外とあの小悪魔のこと買ってたのね」

「皮肉屋だけど案外仕事するのよ。いえ、した、かしらね」

 

 そう言いながらテーブルの上にあるものを眺める。皿の上には、挽き肉を楕円形に整形したものがこんがりと焼かれて置かれてあった。ちょうどいい焼き加減らしく、フォークでつつくと肉汁が零れた。

 

「美味しそうなハンバーグじゃないの」

「レミィ」

「……はいはい、随分とお怒りね」

 

 そんなに博麗の巫女からの差し入れが気に入らないのだろうか。そんなことを思いながら、レミリアは自身の眼の前にあるハンバーグをナイフで一口大に切り、口に運んだ。見た目通りのジューシーな味わいが広がり、思わず顔を綻ばせる。

 食べないの? そうパチュリーに訊ねると、彼女はあからさまに顔を顰めた。食べれるわけないでしょうこんなもの、そう言いながらハンバーグにフォークを突き刺した。

 

「行儀が悪いわよ。もう少し落ち着きなさいな」

「これが落ち着いていられるか! 小悪魔……何で、何でこんな」

 

 がくりと項垂れたパチュリーを見て、レミリアはやれやれと肩を竦めた。これは大分重症だ、そんなことを思いながら彼女は席を立ち、隣の部屋へと足を進める。あまり聞かせたくない話をするつもりであったので二人で別室へと移動していたのだ。だが、この様子では当分話は出来そうにない。そう判断しての行動である。

 

「あ、ママ。お話は終わったのですか?」

「ええ。今日のところはこれ以上は無理ね」

「そうですか。……えっと、じゃあ」

「勿論よ咲夜。ママと一緒に夕食にしましょう」

「はい!」

 

 今日は咲夜の好きなハンバーグよ。と愛しい我が子の手を引いてレミリアは歩く。そして同時に思う。

 もしも咲夜に何かしてみろ、絶対に、死すら生温い程の苦痛を与えてやる。

 

 

 

 

「……家出、しようかなぁ」

「あ、じゃあその時はお供させて下さい。私もうここで働くの嫌です、死にます、死んじゃいます!」

 

 自身の姉と姪の背中を見ていた少女は、一人そんなことを呟いた。それに同意するように部屋の隅で震えていた小悪魔が彼女の手を取りブンブンと振る。

 貴女のご主人に大切にされてるのだから、そんなこと言ってはダメよ。そうやんわりと断ると、彼女は小悪魔の頭をポンポンと叩いた。

 

「私は放蕩娘だから、気にしなくていいの。っていうかお姉様咲夜以外眼中にない感じだし」

「いやでもフラン様。流石に一人でフラフラするのは……」

 

 小悪魔のその言葉に少し考えこむように視線を彷徨わせると、やっぱりそうかなと視線を戻した。そうです、ですので私をお供に。そう言って彼女は再びフランの手を取る。

 その手を握り返した彼女は、ニコリと笑みを浮かべてこう言い放った。

 

「無理」

「何故に!?」

「あのね、小悪魔」

 

 貴女連れて行ったら確実に博麗の巫女に攻撃されるでしょうが。無慈悲なその一言を言い放つと、がくりと膝から崩れ落ちる彼女を尻目にフランは部屋の扉に手を掛けた。

 じゃあ、行ってきます。誰も聞いていないその空間に一言告げると、彼女はゆっくりと歩を進める。

 




※普通のハンバーグです。
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