先代巫女と六人の仲間達   作:負け狐

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やっぱり出番がない主人公。


拾漆 『たま』たま『しい』ていうなら誘いに『のる』 『フラン』ドール。略して

 人里。そこで何故か見回り担当にされた天狗組は一人に仕事を押し付けのんびりと過ごしていた。何でこんなことを、とぼやくそのうち一人――姫海棠はたてに向かい、もう一人――射命丸文は自身のメモ帳に何かを書きながらしょうがないわよと返した。

 

「ここの犯人と、妖怪の山の騒ぎの犯人が一緒なんでしょう、きっと」

「……まあ、そうなんだろうけど」

 

 それはかなり大事なんじゃないだろうか。そう思いながらはたては天を仰ぐ。今の幻想郷の中で人の勢力はここ人里、妖怪の勢力は妖怪の山が一番大きい。それを同時に攻めるということは、幻想郷そのものに喧嘩を売っているということにも等しいわけで。

 あーやだやだ、と彼女は首を振る。出来れば無関係な傍観者でいたかったとぼやき、まあしょうがないかと溜息を吐いた。

 

「そういや、鬼のあの人達はここにいて問題ないの?」

「異変の特例って感じで許可されてるっぽいわよ。そうじゃないとしても、博麗の巫女の盟友って位置付けみたいだから、問題ないでしょ」

「盟友、かぁ。あの冴えない巫女がねぇ」

 

 実力はあるんだろうけど、どうもそんなイメージで見れない。視線を見張り台の下へと向けると、雑用であっちへ行ったりこっちへ行ったりと走り回っている姿が見えた。どう見ても下っ端であり、鬼が気に入る要素が見当たらないと首を傾げる彼女を見て、文はまだまだ甘いわね、と笑った。

 

「だったら文は分かるの?」

「全然これっぽっちも。まあ、あの娘は意外と化けそうだけど」

 

 そういう意味では評価してもいいかな。そんなことを言いながら笑みを強くさせていた彼女達二人へと、仕事を押し付けられていた最後の一人から声が掛かった。どうしたの、とそちらに視線を向けると、自身の能力でどこか離れた場所を見ている白狼天狗の少女がなんとも言えない顔をしている。

 

「椛? 顔が変よ」

「文様程ではないので大丈夫です」

「だからもう少し上司敬って!」

「で、どうしたのよ」

 

 はたての言葉でああそうでしたと答えた椛は、しかし視線は全く動かさずに問いかけに答えた。これはヤバイですね、と。

 ふざけている気配は全く無いが簡素なその言葉に、二人は怪訝な顔を浮かべる。

 

「何がヤバイのよ。そんな頭パッパラパーな天狗みたいな物言いしちゃって」

「申し訳ありません。つい文様の真似を」

「だから! ……で、何なの?」

「あ、抑えた」

 

 椛は一瞬だけ視線を二人に向けると、再びそれを戻す。その表情をますます曇らせると、やっぱりここに向かっていますねと呟いた。

 仕方ないな、と大きく溜息を吐いた彼女は、はっきり言いますと文とはたての二人に言葉を紡ぐ。

 

「死にます」

「主語! 足りないから!」

「――木っ端天狗がダース単位で襲い掛かっても瞬時につみれ団子に出来そうな強さを持ったのがこっちに近付いてきています」

「死ぬわね」

「でしょう?」

「いやいやいや! 何でそこで二人して諦めてるの!?」

 

 はたての悲痛な叫びに、文と椛はだって、と視線を彼女に向ける。

 その対応するの私達よ。目から光を失った瞳のまま、それだけをのたまった。

 

 

 

 

 ルーミアはつくねの焼き鳥を頬張りながら自身の周囲を眺める。まだあの襲撃から三日と経っていないが、被害が少なかったおかげで既に人里は元通りになっていた。今自分がいる串焼き屋も通常営業を行っているおかげで、こうして美味しいものが食べられる。

 そんなことを思いつつ、隣で同じように串焼きを食している二人に、正確にはその片方に声を掛けた。

 

「食べ過ぎ」

「なっ! そ、そんなことないです!」

「ひーふーみーよー……」

「数えるな!」

 

 がぁ、と串焼きを片手に華扇は吠える。ちなみにこれで二十五本目である。いつ見ても華扇さんの食べっぷりは素晴らしいね、と串焼き屋の主人に追い打ちをかけられ、彼女は力無く頭を垂れた。食べるのはやめない。

 

「それに比べると、美鈴食べないねぇ」

「比べる対象間違ってますって」

 

 そう言って苦笑した美鈴は食べ終わった串を竹筒に入れるとお茶を啜った。今のところは平和で何よりですね。誰ともなしにそう呟くと、そうですね、と立ち直った華扇が返す。

 まだ犯人の退治は終わっていない。今が異変の真っ最中であるのは変わらないし、急いだ方がいいのはその通り。だが、無理に焦る必要もない。そんなことを考えつつ、三人はのんびりと串焼き屋で食事を続ける。

 

「飲子が動いているのを見ると、ちょっと申し訳ないかなと思うのだけど」

「良くも悪くも博麗の巫女なんでしょうね」

「単に他の人に働いてるとこ見せたいだけなのかも」

 

 そう言って笑うルーミアにつられ、華扇も美鈴も思わず笑みを浮かべてしまう。じゃあそんなインコの為に、こっちも働いて目立たなくさせちゃおうか。そうやって続けるルーミアに、二人は笑いながら同意した。

 ではそろそろ行こうか、と立ち上がった三人へと、串焼き屋に飛び込んできた人影が立ち塞がる。あれ、どうかしましたか、と首を傾げた美鈴の手を掴むと、とりあえずあんたでいいからと引っ張って行ってしまった。

 

「……何なのかしら?」

「さぁ?」

 

 とりあえず美鈴の分は後で本人から貰ってくれ、と自分の分だけの代金を払った二人はそのまま何の気なしに外に出た。

 そして、ただならぬ気配に眉を顰めた。

 見知った感覚とは違う、濃密な妖気が漂っている。敵意を感じるものではないが、しかし一度変われば瞬く間に人里に被害をもたらすであろう、そんなものであった。いくら自分には影響がないとはいえ、こんなものをここで撒き散らされては面白くはないし、迷惑である。そう判断したルーミアはとりあえず近場にいる里の人間に何かあったのかと訊ねた。が、返ってくるのはよく分からないという返事のみ。

 ただ、少し前に見張りをしていた天狗の三人が慌てていたから何かあったのかもしれない。そんな情報を追加で仕入れた。

 

「天狗、ですか」

「さっきその内一人が美鈴連れてったよね」

 

 中々厄介なことになっているのかもしれない。そう判断した二人は、とりあえず見張り台に行ってみようかと足を進めた。途中で飲子にすれ違ったが、どうやらまだ詳しい話は聞いていないようで、少し首を傾げつつも雑用に追われているのが見えた。

 まあ、忙しそうだし言わなくてもいいか。そう判断した二人は博麗の巫女を尻目にさっさと目的地に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 どうしたものか、と日傘をクルクル回しながらフランドールは考える。人里の入り口に立つ二人の天狗。明らかに警戒していますと言わんばかりのその姿に、彼女は思わず苦笑してしまった。別に何もしないのに。そんなことを心中で呟くも、でもまあしょうがないかと同時に思う。

 自覚しているこの溢れる妖気。普段外界と接することが極端に少ない彼女にとって、気配を抑えて生活するというのはとてつもない苦労を要求する事柄であった。引き篭もりの弊害ここにあり。

 

「天狗さん? 私、別に何かしようと思っているわけじゃないの」

「その物騒な妖気を消していただけるのでしたら、すぐにでも信用しましょう」

「……あー、うん。無理、かな」

 

 困ったようにそう続けるフランドールを見て、椛は怪訝な顔を浮かべる。それに対し、文は警戒の色をより強くした。

 それでは申し訳ないのですが、ここから先へと進ませるわけにはいきません。そう言うと彼女は椛の前に足を踏み出した。何を、と目を見開く椛を尻目に、彼女はその右手を相手に向ける。

 

「力尽くでも、ってことかしら?」

「出来れば穏便に済ませたいものですね」

「そうね。私もそう思うわ」

 

 言いながら、フランドールも同様に右手を前に突き出した。その姿はさながら荒野で早撃ちを競うガンマンのようで。その場にいた椛も雰囲気に飲まれ、何も言えず何も出来ず、ただただ突っ立っているのみとなっている。

 風が吹いた。文の姿は掻き消え、そしてフランドールが後ろに吹き飛ぶ。高く宙を舞った彼女は、そのまま二・三度バウンドするとくるりと体制を立て直し二本の足でしっかりと地面に立った。

 文の姿は見えない。我に返った椛が彼女の名を呼ぶが、それに返事がくることはない。

 

「……つくね団子に、なってしまったのか」

「おい待て部下」

「あれ? 文様、生きてたのですか。てっきり日本酒に合うつまみになったものかと」

「私、椛に何かしたかなぁ」

 

 服が所々弾け飛んでいる以外は五体満足の文は、彼女の言葉に天を仰いだ。その姿はとても寂しそうで、思わず攻撃を受けたフランドールが同情をしてしまいそうになったほどだ。

 遠くに落ちた日傘を拾い、再び自分を日陰の中へと隠すと、彼女は困ったなと頬を掻く。これ以上やると相手は死んでしまうかもしれない。もし死んでしまったら確実に敵対される。何より今以上の攻撃を受けるので痛い。痛いのは嫌だ。無駄に痛いのは大嫌いだ。

 そう結論付けたフランドールは仕方がないと踵を返す。観光してみたかったけど、どうやら無理そうだ。溜息を吐きながらがくりと肩を落とし。

 

「文! 椛! 助っ人連れてきたわよ!」

「いやですからまず状況と理由をですね」

 

 新たに現れたらしい乱入者の声を聞き、そちらへと振り向いた。片方は天狗、どうやら先程の二人の同僚らしいのが会話で分かる。そしてもう一人は、天狗とは違う何かの妖怪。大陸の服装をしているその女性は困ったように頬を掻いており。

 自身が振り撒いている妖気を、まったく寄せ付けていなかった。

 

「あは」

「ん?」

 

 美鈴がその声に反応して彼女の方を向いた時には、すでにフランドールは攻撃を放っていた。先程文との攻防で使ったのとは違う、純粋な破壊の塊。それを躊躇なく打ち出した。

 相手を死なせてしまってはいけない、などと考えていたにも拘わらず、である。

 着弾、そして大きく火柱が上がる。天狗はその持ち前の素早さを活かしてその場から離脱したようだが、目標としていた相手には直撃したらしい。それを確認すると、彼女は笑った。口を三日月に歪め、舌をペロリと出した。

 

「いきなりご挨拶ですね。ちょっと私には理解出来ない風習ですよ」

「あは、ごめんなさい。つい張り切っちゃった」

 

 火が収まった中から若干煤が付いただけの美鈴が出てきたのを見て、フランドールは尚も笑みを強くさせる。この調子でもう一回、そんなことを考えながら右手を突き出す。

 その瞬間には、既に美鈴は彼女の後ろに回っていた。首筋に手刀を触れさせながら、困りますよ、と苦笑する。ここは人里、暴れるのならばもっと別の場所でないと。そう続けながら視線を天狗達に向けた。こくりと頷くと、椛を残しその場から掻き消える。

 これでよし、と一息吐いた美鈴は、さてではどうしますと眼前の彼女に問い掛ける。

 

「どうするって?」

「続き、やりますか、ってことです」

「あは、何? いいの?」

「まあ、他に無駄な被害を出さないのならば」

 

 というかそんな相手はきっと問答無用で暴れるんでしょうけど。そう言って笑う彼女を振り向いて見たフランドールは、先程とは違う笑みを浮かべた。純粋な喜び、楽しいことを見付けた。そんな無邪気な笑い顔。

 どこなら大丈夫? とフランドールは問い掛けた。そうですね、と少し迷った美鈴は、向こう側に無駄に広い竹林がありますから、そこでと答える。分かった、と頷くと、フランドールは彼女の横に並んで立った。

 

「では、案内お願いしますわ」

「……かしこまりました、お嬢様」

 

 ペコリと頭を下げると、美鈴は歩みを進める。そんな彼女を楽しそうにフランドールは追い掛ける。

 異変の主犯の妹は、知らず知らずの内に、幻想郷をひっくり返す手助けをする。それは『鬼』の望んだことなのか、はたまた。

 

 

 

 

 

 

「フラン! フラーン! どこ行ったのよ!」

 

 紅魔館で彼女の姉は声を張り上げていたが、生憎既に外出してしまった後である。困ったわね、と考え込むような仕草を取ると、自身の友人であるパチュリーの部屋まで足を運んだ。

 ねえパチェ、フランを見なかったかしら。そう彼女に尋ねると、さあ、と本から視線を合わさずに返された。ああこれはこの間のこと根に持ってるな。そう判断したレミリアはそれならいいわと踵を返す。まあ、いないならいないで別にいいや。そう結論付けて彼女はパチュリーの部屋を後にした。

 

「あの、ママ」

「どうしたの咲夜?」

「フラン叔母様なら、私捜しに行きますよ」

「駄目よ咲夜。それは駄目。貴女みたいな美しく聡明で可憐な子が出歩いたらあっという間に碌でもない輩の毒牙に掛かってしまうわ! フランだってもういい年なんだし、心配要らないわよ」

 

 四百九十年くらい引き篭もってたけど。そう心の中で付け足しつつ、それをおくびにも出さずにレミリアは笑顔で咲夜の頭を撫でた。さあ、それより今日はママと一緒に夕食を作りましょう。そう言って彼女の手を取る。

 

「……若干バトルジャンキーな部分があるのが心配といえば心配だけれど」

「ママ?」

「なんでもないわ咲夜」

 

 まあ、琴線に触れる相手がいるとしても死にはしないだろう。あれのお眼鏡に叶うということは相当の力を持っているということなのだから。

 一人脳天気に、異変の主犯はそんなことを頭に浮かべた。

 




一面ボス・赤蛮奇
二面ボス・小悪魔
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