先代巫女と六人の仲間達   作:負け狐

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妖怪の山奪還後編

タイトルに偽りあり。


弐拾 戦闘☆鬼さん

 妖怪の山に侵入者が出現、天狗を薙ぎ倒しながら突き進んできている。そんな報告を聞いた大天狗の一人は忌々しいと顔を歪めた。せっかく自分がこの山を牛耳ろうとしている最中にとんだ邪魔が入ってしまった。そんなことを呟きながら奥の座敷牢へと視線を向ける。静かにそこで座ったまま瞑想を続ける元上司に、大天狗は苛立ちの言葉をぶつけた。

 これはお前がしくんだことか、と。

 

「愚問」

 

 短くそう述べると、それ以上何も言わず再び瞑想へと戻る。それが余計に大天狗を苛立たせ、ふざけるなと激高し叫ぶ。が、何ら反応を見せることなく、天魔は静かにそこに居るのみ。

 話にならん、と吐き捨てると、大天狗はその場を後にした。これ以上向こうのいいようにはさせん。そんなことをぶつぶつと言いつつ、共犯者である他の大天狗達のもとへと歩を進める。

 その背中を薄く開いた右目で眺めていた天魔は、その姿が見えなくなったところで息を吐いた。やれやれ、と肩を竦めると瞑想を行っていた姿勢を崩す。

 

「そんなわけないだろう。博麗の巫女が暴走しただけだ」

 

 話を聞く限り、何かとんでもないのが侵入してきているようだが、果たして妖怪の山は無事でいられるのだろうか。そんな心配をしながら、天魔は座敷牢の中で呑気にゴロリと横になった。その手にはいつの間にやら徳利が。

 

「昼間から酒をかっくらえる。ああ、幽閉されるってのはいい身分だ」

 

 欠片も焦った様子のない表情で、天魔は呵々と笑い声を上げた。

 

 

 

 

 

 

「ああもう! 鬱陶しい!」

 

 天狗をまた一体吹き飛ばす。これで山に入ってからぶっ飛ばした天狗は二桁を超えた。以前飲子達がここで暴れ回った時と同じ状況になっているのを思い出し、文は思わず苦笑いを浮かべる。そんな彼女を見て、鬼の二人はどうしたんだと首を傾げた。

 いえいえ何でもないです、と返すと、そんなことよりと彼女は二人に向き直る。

 

「お二人の姿を見てるのに、一向にこいつら怖気づく様子がないですね」

「ああ、そりゃあれだよ。洗脳されてるんだろう」

「洗脳?」

 

 勇儀の言葉に文は首を傾げる。別段何か目が虚ろだとかフラフラと歩いているだとかそういう様子は一切見られず、意志もしっかりしているように見える天狗のどこが洗脳されているのだろうか。そんなことを思ったのだ。

 そんな彼女の思考に気付いたのか、萃香が違う違うと手をひらひらさせる。

 

「一口に洗脳っていっても色々あるのさ。そういうあからさまなやつじゃなくても、洗脳なんてのは簡単に出来る」

 

 例えば、強く思い込ませるとかね。そう言いながら萃香は視線を前に向けた。そこには再びこちらへとやってくる天狗の群れが。

 皆口々に侵入者がどうだの、裏切り者がどうだのと叫んでいる。

 

「ああもう、また」

「覚悟しろ射命丸! 偽物の鬼を連れてきたところで、我らがそんなものに恐れを抱くと思わんことだ!」

「は?」

 

 視線を天狗から鬼に向ける。そういうことだ、と二人は頷いた。

 つまり、相手はこの勇儀と萃香は偽物であると信じ切っているというわけだ。それを理解した文は、げんなりした表情で突っ込んでくる天狗を一体殴り飛ばした。

 馬鹿じゃないですか。そう言いながら盛大に溜息を吐く彼女を見て、二人は全くその通りだと大声で笑う。

 ただ、そんな馬鹿だからこそ恐ろしい。そういうと笑みを潜めて一歩踏み出した。

 

「この調子じゃ、鬼の力を見せたとしても」

「無理だろうねぇ」

 

 ふん、と勇儀が拳を地面に叩き付ける。それだけで地面は一直線に砕け、その射線上にいた天狗共を空に打ち上げた。

 んじゃ私も、と萃香も同じように拳を大地に振り下ろすと、やはり土が天狗と一緒に一直線に吹き飛んだ。

 本気ではないのは一目で分かる。そしてその一端だけで文は敵わないと瞬時に悟る。そういう意味を持った一撃であった。が、吹き飛んで伸びた天狗はともかく、無事であった天狗もそんなことはお構いなしにこちらを始末しようと各々の得物を振り被る。

 

「何で!? 今のでどう考えても本物だって分かるじゃない!」

「だから洗脳なのさ」

「向こうにとっちゃ、私達のこの攻撃はただ単に『強い偽物』の一撃でしかないわけよ」

 

 ほら厄介だ。言いながら勇儀はデコピンで天狗を吹き飛ばし、萃香は軽く相手を押した衝撃で木に激突させた。天狗の攻撃は全て彼女達には効かず、返す一撃で悉く沈んでいく。

 それでも天狗は勢いを止めず、ひたすらに任務を実行しようと行動を続けている。その狂信者めいた姿に、文はあからさまな不快感を示した。一体全体誰がこんな胸糞悪いことをしやがりやがったのか、と。普段の彼女らしからぬ口調と表情で思わず毒づく。

 

「大天狗だけじゃやれないねぇ、こりゃ」

「何らかの後ろ盾がなきゃ、無理だわなぁ」

「……あるいは、何かそういう方法を用意したのか、ですね」

「そうそう」

 

 じゃあどうしようかね、と勇儀は述べたが、その顔は既にやることは決まっていると言わんばかりであった。同様に文も萃香も同じ表情を浮かべている。

 すなわち、とりあえずぶちのめす。

 文のかまいたちが、勇儀の蹴りが、萃香の拳が。まるで大砲のように真っ直ぐ道を切り開いた。無論、そこにいた天狗を巻き添えにして、である。

 

「よし、道は出来たな」

「じゃ、行こうかね」

「ええ、行きますよ」

 

 完全に伸びて動かない天狗共など見向きもせず、三人はのしのしと出来上がった道を歩いていった。

 

 

 

 

 そろそろ目的地、といった辺りで、文達三人は図らずとも別行動を取っていた華扇達三人との合流を果たした。再び鬼と天狗の六人組へと変貌した一行は、さてではしばこうと揃って歩みを進める。

 立ち入ったその庵は不気味なほど静かで、先程までいた天狗はおろか虫の声すら聞こえてこない。何かを警戒するように周囲に視線を巡らせたが、生憎と何も見付けることは出来なかった。

 

「罠、ですかね」

「どうかな」

「あまりにもあからさま過ぎるからねぇ」

 

 鬼組三人がそんなことを呟いているのを聞きながら、文達天狗三人組もまた同じように顔を見合わせた。少なくとも勇儀や萃香よりは自分達の方がこの場所は詳しい。ならば、彼女達で見付けられない何かを発見出来るはず。そんなことを思いつつ、しかしでは何か分かるかというと。

 

「罠、ですかね」

「どうかしらね」

「向こうと同じ会話してんじゃないわよ」

 

 椛と文の阿呆な会話に一言返し、はたてはまったく、と肩を竦めた。こういう時は搦め手よ搦め手。そんなことを言いながら、懐からポラロイドカメラを取り出す。

 何やってるんですか、という椛にまあいいから見てなさいと返し、彼女は適当な場所にカメラを向けてシャッターを切った。ベベベ、とフィルムが出てくるのを眺めていた二人は、これが一体何なのだと首を傾げた。

 

「分かんないの? 念写よ念写。私どっちかっていうと風を使うよりこういうのの方が得意なのよねぇ」

 

 そう言いながら出てきた写真を振って乾かすと、さあどうだとそれを見た。

 そこには、数人の大天狗とその中心で歌う夜雀の姿。場所はここから少し離れた別の庵で、天狗の先入観でここを目指す場合確実に見落としてしまうであろうという位置であった。

 

「ナイスはたて!」

「ふふん、もっと褒めてくれてもいいのよ」

「流石です。文様とは格が違いますね」

「何でそこで私こき下ろすわけ!?」

 

 向かうべき目的地を突き止めた。その喜びで思わず三人ははしゃいでしまう。大声で、である。自分達の位置を知らせてしまう声量で、である。

 かかった、という声が聞こえた。同時にどこからか歌が聞こえ、彼女達の視界が極端に狭くなる。

 何事だ、と視線を彷徨わせる文の耳に、今だかかれ、と言う号令が届いた。そして聞こえる風切り音。猛烈に嫌な予感がしてとっさに屈むと、その頭上を大量の矢が通り過ぎていった。

 

「何ですか! 何なんですかこれは!」

「落ち着きな。これはさっきの夜雀の歌だ」

 

 恐らく鳥目か何かにしたんだろう。そう言いながら勇儀は飛来する矢を当たってから掴んで投げ返すという芸当を行った。隣では萃香が自身の体を揺らめかせ攻撃を素通りさせ、華扇はこの程度の鳥目で見えなくなるわけ無いでしょうと全ての攻撃を受け止めている。

 ここに追い込んだのも、昼夜問わず暗い場所だからだろう。そう勇儀は続けると、さてどうしたものかと頬を掻いた。

 

「私達はまあ問題ないが、そっちはねぇ」

「風を読んで躱してはいますけ、どっ! ちょっときつい、かなっ、て!」

「私は超キツイ! 掠った! 今掠った!」

「超余裕ですが何か?」

 

 千里眼嘗めないで下さいよ。そう言いながら椛は文とはたてのフォローも行う。それを聞いた鬼三人はそりゃ結構と笑うと、だったら丁度いいと椛の背中を叩いた。

 

「ここを突破する為の穴を開けるから、あんたらは親玉を仕留めな」

「天狗の始末は天狗に、ってね」

「まあ、その方が後腐れないでしょうし」

 

 どうだ、という問い掛けに、三人は任せろと頷いた。上等、と勇儀は口角を上げると、勢い良く大地を踏みしめる。それだけで大地が震え、そこに住む生物が震え上がった。

 隣にいる萃香もまた、勢い良くその足を地に付ける。それにより大気が揺れ、山全体の空気が渦巻いた。

 そして華扇も、ゆっくりとその足を前に踏み出す。その気迫は狂信者となった天狗をもってしても思わず飲まれてしまうほどで、煩いほどであった山全体の喧騒がしんと静まり返る。

 

「文」

「はたて」

「椛」

 

 行け、という叫びと共に、三人は真っ直ぐに駈け出した。何か邪魔が入るなどという心配は微塵もしていない。彼女達が行けと言ったのだ、必ず進めるに決まっている。そんな確信を持って、彼女達はひたすらに駆ける。やがて視界が元に戻ったのを確認すると、そのまま方向を変え例の庵へと疾走った。

 そして、残った三人は。

 

「さぁて。ちょいと物足りないが、久々に四天王の共演といこうじゃないか」

「ああ、そりゃいい。ねぇ、華扇」

「……ああ、はいはい。別に言われなくたってやるわよ」

 

 これ以上ないほどに獰猛な笑みを浮かべ、そしてその地上のどんな妖怪も打ち倒さんと握られた拳を突き出し。

 

「星熊勇儀、ここに有り!」

「伊吹萃香、ここに有り!」

「茨木華扇、ここに有り!」

 

 庵も、暗闇も、そして天狗も。その全てを吹き飛ばす。

 

 

 

 

 

 

「あーあー、派手にやってるわね」

 

 妖怪の山の一角が崩れていくのを見ながら、文は呑気にそんなことをのたまった。隣でははたても似たような表情を浮かべ、椛にいたっては満面の笑みである。

 そんな余裕の三人組を見て、大天狗は顔を顰めた。鬼の威を借る貴様等如きで、我らが倒せると思っているのか。そんなことを言いながら一歩踏み出す。

 そんな大天狗を見て、文はやれやれと肩を竦めた。そんなの決まってるじゃないですか。そう続けながら同じように一歩踏み出す。

 

「貴方なんか目じゃないのよこの三下」

 

 言うと同時に回し蹴りを大天狗の側頭部に叩き込んだ。風を纏い速度、威力を共に上昇させたそれは、勢い良く叩き込まれた相手の脳を揺らす。何か返す言葉を言うこともなく、大天狗の一人は大地に沈んだ。

 

「ま、しょせん甘言につられてクーデター起こす奴なんかこの程度よね」

 

 吐き捨てるようにそう言うと、さて次は、と残りの大天狗に視線を向けた。

 どうやら仲間がやられてからの行動は素早かったようで、呆けることもなく刀を抜き放つと文を切り裂かんと振り下ろす。彼女は動かず、その刃の軌跡をただただ見詰めるのみ。

 何故なら、その剣閃に既に割り込んでいる者がいたからだ。相手と比べれば洗練などされていない無骨なそれは、しかし向こうより数段上の気迫を持っており。

 

「我ァァァァ!」

 

 咬み付かんばかりの大口を開けた椛の気合の篭った雄叫びと共に繰り出されたそれは、その一撃だけで相手の刀を上下に寸断していた。そのまま呆気に取られていた大天狗へと返しの一撃を叩き込み、ぐらりと揺れるその体をもう一人の大天狗へと蹴り飛ばした。

 

「い、犬走! 貴様何故我々に歯向かう!」

「裏切り者に払う敬意など、無い!」

 

 言葉も、体も。バッサリと相手を切って捨てた椛は、剣を軽く一振りするとくるりと回転させ地面に突き刺した。クーデターを起こしていた大天狗は五人、だが残りはもう自分が出ることもないだろうと判断しての行動である。

 実際、既に残り二人は文とはたてによりすでに昏倒されていた。動かなくなった五人を一箇所に集めて縛り上げると、ふう、と三人は一息を吐く。

 そして残る、中心の夜雀。

 

「さぁて、後はあんたね」

 

 未だ歌い続ける夜雀を睨み付けながらはたてはそう述べたが、夜雀はブンブンと首を横に振りついでにこっちに来るなと言わんばかりに手を眼前で振りたくる。その行動に何か不審なものを覚えた彼女は、だったらとりあえず歌うのをやめなさいよと夜雀に告げた。

 しかし、夜雀はそれは出来ないと言わんばかりに首を横に振る。

 

「……面倒だし、もう始末しちゃおうか」

「ですね」

 

 焼き鳥にでもしてしまおう。そう言いながら刀を構える椛を見て、夜雀は涙目になってぺたりと尻餅をつく。だが、それでも歌うのは止めない。

 あまりにも必死なそれを見て、ひょっとして何か理由があるのではないかと文は考えた。歌をやめることで彼女に何か弊害が起きる、大体そんなところだろうと結論付ける。

 

「……天狗を洗脳しているのは、貴女ね」

 

 その言葉に少しだけ迷う素振りを見せたが、おずおずと夜雀は首を縦に振った。成程通りで、と何かに納得したように頷くと文は一歩前に踏み出す。

 そしておもむろに夜雀の顔面を鷲掴みにすると、無理矢理彼女の口の動きを止めた。

 

「むが! むがむがむ!」

「知らないわよ貴女の事情なんか。こっちは妖怪の山を元に戻すのが目的なんだから」

 

 ほら、歌も止まったことだし、さっさとどこぞに消えなさい。そう言うと文は踵を返した。既に夜雀に興味など無く、天魔の幽閉場所を探そうと二人に述べている。

 そんな文に、はたてはちょっと可哀相よと告げた。その言葉にそうかしらと返すと、彼女はもう一人の天狗、椛に目を向ける。

 

「天魔様の場所は知っている?」

「て、天魔様? 一番偉い天狗の人? し、知ってる、けど」

「よし、じゃあ案内よろしく」

「え? え!?」

 

 一方的に話を着けると、椛は夜雀の手を掴む。これで探す手間省けますね、そう言いながら二人を置いてどんどんと歩き出した。

 そんな椛の背中を見ながら、文とはたては顔を見合わせる。マイペースだなあの娘、と。

 

「ああもう待ちなさい椛、っていうか案内の後どうするのよそいつ」

「始末しますよ」

「ギニャー!」

 

 涙目で騒ぎ出した夜雀の首根っこを掴むと、冗談ですよと彼女は笑った。ちなみに、目は笑っていなかった。まあ適当なことを言ったら本当にそうなるけれど。そう言い含め、しっかりと案内頼みますよとその手を離した。

 

「こ、怖い! この天狗すっごい怖い!」

「ああもうほら泣かないの。大丈夫だから、あんたが主犯じゃないなら天魔様に言ってちゃんと考慮してもらうから」

「……本当?」

「本当よ。だから泣かないの」

 

 そんなことを言いながら夜雀の頭を撫でるはたてを見て、文と椛は何とも形容しがたい笑みを浮かべるのであった。

 ちなみにその笑みは、はたて本人にとっては非常に腹の立つ笑みであったことを追記しておく。

 




敵が格上っぽい相手なのに大抵さくっとやられるのはお約束。
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