先代巫女と六人の仲間達   作:負け狐

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主人公って誰だったっけ、となるお話。


弐拾壱 口はカラミティの元

 妖怪の山にて文が助けだした天魔を説教しているその最中、突如幻想郷を揺るがすほどの大爆発が起きたのを見て思わず全員が動きを止めた。何事だ、と視線を向けると、無縁塚辺りからモクモクと爆煙が上がっている。それに続くように、更なる爆発音が彼女達の耳に飛び込んできた。

 いよいよ『鬼』が本格的に幻想郷の支配に乗り出してきたのか、そんなことを思い身構えた天狗三人組は、しかし鬼三人と天魔がどこか呆れたような表情を浮かべているのを見て体勢を戻す。どうやら原因が分かっているようで、あれはどうしようもないな、と肩を竦めているのが見えた。

 

「一体どういうことです?」

 

 そう文が訊ねると、天魔は説明するより見た方が早いと椛の頭をポンと叩いた。了解しましたと千里眼で無縁塚を眺めた彼女は、その表情を瞬時に歪める。見るんじゃなかった、そう言いながら目頭を押さえ肩を落とした。

 

「え? 椛、何が見えたの?」

「……探索組が、閻魔と」

「あ、もういい。言わなくていい」

「ついでに天人の乱入者も交えて」

「言わなくていいって言ってんでしょうが!」

 

 無理矢理に椛の説明を止めた文は、何やってるんだあいつらはと盛大に溜息を吐いた。それを見て、鬼と天魔は呵々と笑う。笑い事じゃないですというはたての言葉は、彼女達には何処吹く風であった。

 それで、どうする? そんな問い掛けに、天狗三人組は迷うこと無く即答する。声すらピッタリと揃え、一言のみを言い放った。

 

「行きません」

「そりゃそうだ」

 

 徳利から酒を注ぎながら、天魔は心底楽しそうに笑った。そして、貴女方はどうするんですと視線を鬼三人へと向ける。

 勇儀と萃香は少し迷う素振りを見せていたが、あそこに行っても碌な事にならないですという華扇の言葉で天狗達と同じように腰を下ろした。まあ他人の喧嘩に乱入するのはちょいと風情が足らないな。そう続けながら、勇儀は天魔の持っていた徳利をひったくり自身の持っていた盃に注ぐ。

 

「相変わらず甘ったるい酒を飲むんだなぁ」

「辛いの嫌いなんですよ。知ってるでしょう?」

「知ってるさ、古い付き合いだしな。よし萃香ぁ」

「あいよ!」

 

 言うが早いか天魔の杯に自身の瓢箪の酒を波々と注いだ。さあ飲め、そう言って二人で詰め寄ると、彼はやれやれと溜息を吐いてそのままそれを一気に煽る。げぷ、と酒臭い息を吐くと、その杯を萃香の前に突き出した。

 

「お、追加行くのかい?」

「言わなくても注ぐ癖に」

「勿論」

 

 そのまま酒盛りを始める天魔と鬼二人を見ながら、華扇はやれやれと肩を竦める。まあこっちはもう大丈夫だろうし、他の場所の手伝いでも行こうか。そんなことを考えながら一歩を踏み出した。

 そんな彼女の背後から手が伸び、その豊満な胸が揉みしだかれる。

 

「何するのよ!」

 

 顔を真っ赤にした彼女は思い切り裏拳を振り回したが、既に犯人はそこにおらず、涼しい顔で再び萃香に酌をしてもらっていた。どうしたんですかと笑う犯人までつかつかと歩くと、無言でその頭を引っ叩く。衝撃で持っていた杯から酒が零れた。

 

「痛いなぁ」

「人に破廉恥な事をしたのだから当然の報いです!」

「いやいや、それは違う。そんな魅力的な胸をしているのが悪い。それこそ揉まねば天魔の名が廃る」

「……この、酔っぱらいが……!」

 

 鬼と自身の組織のトップがとてつもなくしょうもないことで騒ぎ始めたのを見て、文も椛もはたても、こっそりとその場を後にした。

 よし、博麗神社行こう。三人の気持ちは口に出さずとも一つとなった。

 

 

 

 

 

 

 鬼の酒盛りが始まる少し前。大爆発が起こる直前まで時は巻き戻る。

 無縁塚までやってきた探索組、命蓮、幽香、ルーミア、美鈴、フランドールの五人だったが、ここで一体何をするのだと揃って首を傾げた。この場所を提案したのは確か、とその人物へと視線を向けると、日傘をクルクルと弄びながら相変わらず辛気臭い場所ねなどと呟いている。

 その姿を見て顔を顰めつつ、命蓮は幽香、と彼女の名を呼んだ。

 

「あら、どうしたの?」

「ここに来た理由を言ってくれ。犯人の探索の手掛かりでもあるのか?」

「あると思う?」

 

 ここで無い、と答えれば恐らくその通りと返しそこで終了だろう。だが、かといってあると答えたところで何か変わるというと、そうでもないわけで。

 結局どう答えても一緒か、と結論付けた命蓮は、素直に思ったままを答えた。無いだろう、と。

 

「あら心外ね。そんな風に思ってたの」

「……あるのか?」

「あるわよ、ちゃぁんと」

 

 言いながら何かを、否、正確には誰かを捜すように彼女は視線を巡らせた。しばし無縁塚をうろうろとしながらその行動を行っていた幽香は、やがてお目当ての者を見付けたのか笑みを浮かべる。えい、と傘の柄をそこに落とすと、カエルの引き潰れたような叫び声が聞こえた。

 

「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ……」

「目が覚めたからしら、死神さん」

「さ、覚めるなんてもんじゃないよ。危うく同僚のお世話になるところだった……」

「あらそう。で、ちょっと聞きたいことがあるのだけど」

「いや少しは反省なり同情なりをだね」

「最近、怪しい輩を見なかったかしら?」

 

 ダメだ全く人の話を聞く気がない。目の前の相手がそうであるということを理解した死神は、はぁ、と溜息を吐くと彼女の質問に答えることにした。怪しい輩を見なかったか、そう言われても、ここのところ彼岸は平和で何も変わったことはない。

 特に見ていないと首を横に振った彼女を見て、使えないわねと幽香は踵を返す。じゃあ他の場所に行きましょうか。そんなことを残りの面々に伝えると、さっさと死神から離れていってしまった。

 

「ちょ、ちょっと待った! 何? 今何か幻想郷で起きてるの?」

「……ん? 何だ小町、知らないのか」

「あ、命蓮、おひさ。で、知らないのかって言われてもあたいには何のことやらさっぱり」

「無知は罪なりよー」

「……お前さんに言われると無性に腹立つのは何でなんだろうね」

 

 いいから説明しておくれよ。ルーミアを一瞥して命蓮に視線を戻した小町はそう述べる。問われた方はどうしたものかと逡巡したが、まあ別に隠すことでもなしと話すことにした。現在起きている、幻想郷の『異変』についてをである。

 それを聞いた小町の顔色が変わった。何だそれ、全然聞いていない、そんなことを呟きながら、こうしちゃいられないと一行から背を向ける。

 

「何処に行く気です?」

「四季様のとこさ。あの人なら異変のこと知ってそうだから、聞いて……」

「聞いて、どうするのですか、小町」

 

 その背中に掛けられた言葉で、彼女の動きがピタリと止まった。錆び付いた蝶番のような動きで首だけをその声がした方向に向けると、先程までいた面々とは違う女性が一人。左右の長さが少し違う変わった髪型をしたその女性は、ゆっくりと小町へと歩みを進める。

 それで、私に何を聞くんですか。そう言うと、スッと目を細めた。

 

「……い、異変で、あたいの仕事が何か無いかどうか、と」

「成程。仕事をしようというのですね。いい心掛けです。……本音なら」

「ひっ!?」

「まだ素直に言っていれば良かったものの、そんな言い逃れをしようとは。これは少し説教が必要ね」

「え、あ、その……」

 

 正座、と言う言葉で小町はその場に座らされ、そして彼女のありがたい説教をその身に受けることと相成る。どう考えても十分二十分では終わらなさそうなそれを何とはなしに眺めていた探索組であったが、そういえばそんな暇はないんだったと我に返った。

 では行こうか、そう言って無縁塚を去ろうとした命蓮が、何故かその場で立ち止まっている人物に気付く。最初にこの場所を提案した者であり、そして先程さっさと帰ろうとした者でもある。

 その彼女は、あろうことか説教中の閻魔――四季映姫に近付くと、その辺にしておいてあげなさいなと声を掛けたのだ。案の定貴女には関係ないことですと跳ね除けられるが、気にした様子もなく幽香はまあそうだけれどと続ける。

 

「自分が知らないからって、誤魔化すために説教するのは閻魔としてどうなのかしら?」

「……出鱈目を」

「本当に出鱈目? 小町が知らなかったのは、サボっていたからだけ? 妖怪の山や人里も巻き込んだ異変なのに何も知らされていなかったのは、彼女が聞こうとしなかっただけ?」

「何が、言いたいんです?」

 

 いつの間にか説教を止め、映姫は幽香へと振り向いている。その表情は何も映しておらず、ただ真っ直ぐに彼女を見詰めている。

 そんな映姫に向かって、彼女は言わなきゃ分からないのかしら、と笑った。

 

「ねえ閻魔、貴女、この異変に加担しているのではなくて?」

「……面白いことを言いますね。根拠を聞きましょう」

「一つは小町が何も知らなかったこと。二つは、小町が異変について知ろうとした途端にそれを阻止したこと。そして三つ目は――」

 

 こうして、こんな戯言に付き合っていることよ。笑みを浮かべたまま、幽香はそう言い放つ。

 映姫は何も言わない。ただ静かに幽香を見詰めるのみである。視線を逸らすこともせず、表情を変えることもせず、ただただ、真っ直ぐに彼女を見詰める。

 暫くその状況が続いていたが、しかし先に折れたのは幽香の方であった。まあ別に違うならいいのよ。そんなことを言いながら踵を返す。

 

「その場合は本気で知らなかったお馬鹿さんってことになるだけだものね」

「誰が馬鹿ですか!」

 

 その叫びに、足を踏み出そうとしていた幽香の動きが止まった。同様に、その動向を見守っていた四人も凍り付いたように動きを止める。まさか、そんな。そんなことを思いつつ、しかし皆それを口に出さなかった。

 唯一動いたのは、正座のまま目の前で顔を真っ赤にして怒鳴る上司を眺めていた死神であった。あの、四季様。おずおずとそんなことを口にする。

 

「今回の異変、知っていることを教えてくれまぶっ!」

 

 彼女の言葉は途中で途切れる。首が盛大に捻られ、正座の体勢のまま綺麗に右へと吹き飛んだ。顔面から彼岸花に突っ込んだ小町は、そのまま四肢を投げ出したままピクリとも動かなくなった。

 そして回し蹴りを振り切った体勢で息を荒げる閻魔が一人。

 

「……さ、皆、行きましょう。ここの閻魔は何も知らないそうよ」

 

 一連の彼女を見ていた幽香はそう言うと何事もなかったかのように歩き出す。止まっていた四人もああそうだと頷くと同じように動きを再開させた。無論、映姫の顔を見ないように、である。

 そんな一行に、正確には幽香に声が掛かる。待ちなさい、と。

 その声に振り向くと、怒りを通り越したのか能面のような表情になった四季映姫、役職ヤマザナドゥが。思い切り強く握られた悔悟棒がミシリと音を立てた。

 

「あら、口封じ?」

「……貴女は、少し人を馬鹿にし過ぎだ!」

 

 悔悟棒を振り下ろす。どうやらとてつもない力を込めたようで、そこから放たれる一撃は無縁塚を吹き飛ばしてもお釣りが来る程のものであった。当然そのまま食らってしまえばこの場所と共に塵と化すこと請け合いである。

 幽香は少し目を細める。持っていた日傘を素早く順手に持ち変えると、そのまま振り下ろす悔悟棒に合わせるようにそれを振り上げた。無論、その日傘にも充分とてつもない力が込められているのであって。

 二つがぶつかり合ったその時、無縁塚どころか幻想郷を揺るがす程の大爆発が起こった。

 

 

 

 

 無事か、と命蓮は周囲を見渡す。どうやらどちからが範囲を収縮させたのか、爆発そのもので吹き飛んだ無縁塚は一部のようであった。ただ、余波まではどうしようもなかったらしく、当たり一面の草花はまとめて吹き飛び散っていた。

 そんな二人はそのまま戦闘を続行しており、お互いの得物を空中で激しくぶつけ合っている。その度に中規模の爆発が起こり、その余波でどんどんと無縁塚の形が変わっていく。

 

「ど、どうします?」

「どうするって言われてもな」

 

 あれに乱入してどうにかするのは流石に骨が折れるぞ。命蓮がそう言うと、そうですよねと美鈴は肩を落とす。私やりたい、と手を挙げるフランドールはやんわりと彼女が止めていた。

 さて、では残りの一人である。

 

「なーぐりーにー」

「行くんじゃない!」

 

 状況を更に悪化させようとしていたルーミアを全力で羽交い締めにして止めた命蓮は、これ以上は勘弁してくれと溜息を吐いた。このままでは異変の犯人を捜すどころではなく、こちらが幻想郷を滅ぼす実行犯となってしまう。そんな懸念を抱きつつ、しかしどうすることも出来ないこの現状を見て痛む頭を押さえた。

 

「でも、貴方達」

 

 やろうと思えば止められるんでしょう? そう問い掛けたフランドールに対し、三人は一応は、と首を縦に振った。ただ、あくまで一応なだけだとそこを強調する。被害を考慮しないで止めたところで、それは何もならない。つまりはそういうわけである。

 

「面倒なのね」

「面倒ですよ。だからどうしたものかって悩むんです」

 

 あはは、と苦笑した美鈴を見て、それなら私も力尽く以外のアイデアを考えないとねとフランドールは腕組みをして思考を巡らす。隣では命蓮も同じように何か手はないものかと頭を悩ませていた。

 

「やっぱり無理矢理止めるしか無いんじゃないかなー」

「無縁塚どころか再思の道も吹き飛ぶぞ」

「多少の犠牲はやむを得ない!」

「多少どころじゃないだろう」

 

 幻想郷の地図が書き換わるレベルだ。それもあくまで最小限で、である。かといって、このまま放っておいても最終的に結果は同じになりそうな勢いで無縁塚が吹き飛んでいる。

 これはいよいよ覚悟を決めなくてはいけない。そんなことを考えた命蓮の目の前に何かが吹き飛んでくる。どうやら建物の一部のようで、二人の戦闘の余波で壊されたのであろう痕が刻まれていた。

 そして彼の視界の隅に映る人影は、どうやらそこの住人だったのであろう。ヨロヨロとダウジングのロットを杖代わりに立ち上がったその人影は、自分を見ている命蓮に気付き。

 

「……弟君じゃないか」

「……やあナズーリン、災難だな」

「災難どころじゃないさ。何だいこれは」

 

 ナズーリンの言葉に命蓮はあれだ、と映姫と幽香の戦闘を指差す。へ、と間抜けな声を上げてそれを見たナズーリンは、ぽかんと口を開けたまま固まってしまった。どうやら慣れていない妖怪では刺激が強過ぎたらしい。

 やれやれ、と頭を振り彼女を抱えて安全な場所まで移動する。これで更に被害を気にすること無く止めるという選択肢は取れなくなった。そう自覚すると、やはり八方塞がりなこの状況に嫌気が差してくる。本来こういう役目は飲子だろう、そんな理不尽な文句も頭に浮かんだ。

 

「えー、命蓮さん」

「何だ美鈴。もうこれ以上厄介事は――」

「お客さんです」

 

 そう言って彼女が指差した先には、彼の見知った顔が二人。竜宮の使いと、天人の少女。片や涼しい顔で佇み、片や何やら興奮気味でブンブンと手を振り回し。

 帰れ。何の飾り気もなく、命蓮はそう述べていた。

 

「はぁ!? いきなり何よ! こちとら上まで響いてくる音が煩いから文句言いにきただけだってのに、爆発に巻き込まれて散々なのよ」

「そうか、帰れ」

「で、よく見たらあんたが騒ぎの中心にいるじゃない。これは犯人に違いないって」

「分かった分かった、帰れ」

「……ふーん、あくまでそういう態度なんだ。じゃあこっちも相応の態度を取らせてもらうわ」

 

 パチン、と指を鳴らす。それを合図に彼女の周囲に喚び出された要石が、低く静かに唸りを上げた。

 空は爆発、大地は地震。そんな光景が頭に浮かんだ命蓮はやめろと叫ぶが、無論天人の少女がそんな言葉一つで素直に頷くはずなどなく。

 

「では、頑張ってください命蓮さん」

「お前も少しは総領娘を止めるの手伝え永江ぇ!」

 

 連鎖的に増える厄介事を前に、命蓮は普段の彼らしく無く絶叫を上げた。

 




一面ボス・赤蛮奇
二面ボス・小悪魔
三面ボス・フランドール
四面Aルートボス・ミスティア

四面Bルートボス・四季映姫&比那名居天子←今ここ
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