先代巫女と六人の仲間達   作:負け狐

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衣玖さんが割と空気。


弐拾弐 ごめんなさいを言えるかな

「あらあら、もう終わりかしら?」

「戯言を!」

 

 日傘と悔悟棒がぶつかり合う。幾度と無く繰り返されたそれだが、振るう人物の表情は真逆であった。幽香は何かを楽しむように余裕の表情を浮かべているが、映姫は怒りと焦りからその表情を歪めている。とはいえ、お互いに引く気は無いようで、その度に無縁塚と呼ばれている場所は寂寥なる荒野へと変貌していった。唯一無傷で残っている紫の桜も、このままではいつかへし折れてしまうであろうことを予感させた。

 それを止めようと考えていた人物はいたことはいたのだが、生憎と地上でも厄介事が起きてしまった為にそれどころではなくなってしまった。今にも地震で荒野を更なる不毛の地に変貌させようとしている天人を睨みつつ、対峙する命蓮は苦い顔を浮かべる。

 そして残された面々はさてどうするかと少し離れた場所でその二つの戦域を眺めていた。

 

「幽香のとこ行こうかな」

 

 命蓮も忙しそうだし。そんなことを言いながら空を眺めるのはルーミア。元々閻魔を殴ろうって話してたしねと呑気に笑う姿を見て、美鈴はもう好きにしてくれと肩を落とした。大丈夫? と心配そうに肩を叩くフランドールにありがとうございますと彼女は心からのお礼を述べる。

 そんな彼女を眺める更なる傍観者が一人。

 

「忙しそうですね」

「……ああ、そうだね。ところで君は?」

「ああ、申し遅れました。私、竜宮の使いの永江衣玖と申します。あそこの総領娘様である比那名居天子の野次馬、もとい監視として天界からまいりました」

「監視ってさ、見てるだけじゃ駄目だと思うんだ」

「ご冗談を」

 

 涼しい顔でそう言う衣玖を見て、ナズーリンと小町は肩を竦めた。まあ元々野次馬とか言ってたし、しょうがないかもしれない。そんな結論を出すと、彼女と同じように傍観者に回る。

 どのみちあんな戦闘に介入する気はさらさら無い。というか介入したら死ぬ。お互いそう確信を持っていたので、それについては何も言わない。精々頑張ってくれ、と自分の知り合いに心の中でエールを送るくらいだ。

 

「しかし、まさかお前さんが命蓮と知り合いだったとはねぇ」

「ああ、まあ色々とね。私としては君が弟君と知り合いだった方が驚きだが」

「そうかい? あいつはこの辺に霖の字と結構来るからよく顔合わせるんだけど」

 

 言外にここでよくサボっていますと白状しつつ、小町はそう言って笑う。ナズーリンはそんなことなど知らずに成程ねと頷くと、なら聞きたいことがあると彼女に問うた。

 あの連中はどのくらいの強さを持っているのか。その質問に、小町は知らないのかと少し驚いた顔をする。その後、若干困った表情を浮かべながらそうだね、と頬を掻いた。

 

「少なくともああやって四季様とぶつかり合えるだけの強さはあるよ」

「うん、それはよく分かった。……やっぱり博麗の巫女となるとあのくらいの強さは必要なのか」

「へ? 博麗の巫女自体はそこまで強くないよ」

 

 今度はナズーリンが驚きの表情を浮かべる番であった。彼女達がそうではないのかと小町に訊ねると、まあ間違ってないけれど合ってもいないという答えが返ってくる。正確には、あの連中は博麗の巫女の周りに集まっている協力者だと続けた。

 

「まあ、ああやって人妖問わず集まってくるのは一種の強さかもしれないけどねぇ」

「人妖問わず、か」

 

 ふと、ナズーリンは自身の主人が慕っている尼僧を思い出した。確か彼女も同じように人と妖怪を平等に、という理念を持っていたはずだ。そして、その結果悪魔と罵られ封印された。

 一体彼女と博麗の巫女は何が違うのだろうか。そこまで考えたナズーリンであったが、ああそうかとすぐに答えを出した。ここは幻想郷、そういう振る舞いをしても構わない土壌があるのだろう、と。

 

「聖の封印を解くのならば丁度いいのかもしれないな」

「ん? どうしたんだい?」

「いや、こちらの話さ」

 

 言いながら天子と掴み合いをしている命蓮を見る。何より彼が居るのだから、尚更だ。そんなことを思いつつ、ナズーリンは笑みを浮かべた。

 その前に、この状況が終わらない限りどうしようもないだろうけど。同時に、そんなことも思った。

 

 

 

 

 

 

「じゃーじゃじゃーん!」

 

 何とも呑気な言葉を吐きながら、ルーミアはぶつかり合っている幽香と映姫の所に突っ込んでいく。握り込んだ拳を振りかぶり、すれ違い様に思い切り振り抜いた。間一髪のところでそれを躱した映姫であったが、衝撃で被っていた閻魔の帽子が吹き飛び落ちる。

 

「何の真似です?」

「幽香が負けそうだから、加勢」

「ええ、ありがとうルーミア、助かるわ。負けそうだったものね私。嘘だけど」

「うん、負けそうだったもんね。嘘だけど」

「戯言を……」

 

 ギリリ、と噛みしめる音が響くほど強く奥歯を噛むと、映姫は構うものかと悔悟棒に力を込めた。一人だろうと二人だろうと関係ない、まとめて吹き飛ばせばそれでいい。そんなことを思いながらそれを真っ直ぐに突き付けた。

 瞬間、そこに込められていた力が開放され、巨大な霊力の本流が二人へと襲い掛かる。避ける間もなくそれに飲み込まれた二人は、増していく威力と光の中段々と姿が見えなくなっていった。

 光が収まると、映姫はふんと鼻を鳴らして踵を返す。日頃から誠実に生きていないからこういうことになるのだ。そんなことを呟きながら、その場から立ち去ろうと動きかけ。

 

「あら、お早いお帰りね」

「あ、終わった?」

 

 その言葉に目を見開き振り向いた。そこには所々煤けてはいるものの、五体満足で佇む幽香とルーミアの姿が。二人共に笑みを浮かべ、その表情から余裕を持っていることが伺えた。

 幽香はそんな映姫の表情を見て更に笑みを強くさせる。意外だったかしら、と言いながら少しだけ前に出た。

 

「貴女は裁きを下したつもりだったかもしれないけれど、残念ながらまだまだ続くみたいよ」

「風見、幽香っ……」

「どうしたのかしら閻魔様。そんな怖い顔をしていたら、美人が台無しよ」

「ふ、ざっ……!」

 

 悔悟棒を脳天を叩き割らん勢いで振り下ろす。が、それを彼女は容易く掴むと、笑みを浮かべたまま映姫を自身へと引き寄せた。吐息がお互いに掛かるくらいの距離で、幽香はペロリと舌舐めずりをする。本当に、綺麗な顔ね。そう言いながら、ゆっくりと彼女は目を細めた。

 

「そんなに怖い顔がお望みなら、その美貌、台無しにしてあげるわ」

 

 言うと同時に幽香は映姫の顔に自身の頭をぶつける。衝撃に顔を顰めぐらりと体が後ろに流れると同時、彼女は掴んでいた手を離す。バランスの崩れたその体勢を見計らったように、ルーミアがその口端を歪めて右腕を振り上げていた。開かれたその赤い瞳が、獲物を前にして抑えきれないといった様子にギラギラと輝いている。

 先程の幽香の言葉、そしてルーミアの瞳。それらのことが合わさり、映姫は咄嗟に顔を庇った。狙いはそこだ、と判断した。

 そんな彼女の土手っ腹にルーミアの一撃がえぐり込むように叩き込まれる。体が衝撃で跳ね上がり、そして力を失った四肢はだらし無く投げ出されたままゆっくりと落下していく。

 

「あらあら、いけないわねぇ。閻魔ともあろうお方が判断を誤るなんて」

 

 幽香のそんな笑い声が、映姫の耳にはどこか遠くから聞こえるように感じられる。ダメージもさることながら、自分がいいように弄ばれたことが彼女にとって何よりのショックであった。体は上手く動いてくれず、そのまま荒野となっている無縁塚の地面に力無く落ちる。体勢を立て直さなくては、そう思っても、動くのは思考ばかり。

 倒れている彼女の前に降り立った幽香とルーミアは、笑みを浮かべたままそこに佇む。とどめを刺したりとか、追い打ちを掛けたりとか、そういうことは全くしない。する様子がない。

 それを侮辱されていると取ったのか、映姫は射殺さんばかりの表情で二人を睨んだ。

 

「駄目よ、そんな真面目に考えちゃ」

「そうそう。もう少し肩の力、抜いた方がいいんじゃない?」

 

 そんな彼女に二人はそんな言葉を投げ掛ける。無論ふざけるな、と映姫は返したが、幽香もルーミアもふざけてなどいないと即答した。

 少なくとも大真面目にふざけている。そう言って二人でハイタッチを交わしている姿を見て、映姫の怒りは一周を通り越して呆れてしまう。こんな奴らに真面目に対応していた自分が馬鹿らしくなってきてしまったのだ。

 

「……肩の力を抜け、ですか」

 

 成程確かに、そう言われてみればそうかもしれない。まだ閻魔として充分な経験を積んでいるとは言えない自分は必要以上に躍起になっていたようだ。そんなことを思いながら、彼女は怒りの表情を消すと薄く笑った。まさか貴女達に教えられるなんて、そんなことを言いながらゆっくりと体を起こす。

 

「え? 私達の言葉真に受けちゃったの?」

「駄目よ閻魔様、貴女はちゃんと何者にも影響を受けないようにしないと」

「あーはいはい気の所為でしたよぶっ飛ばす!」

 

 立ち上がるやいなや再び飛び掛ってくる映姫を見ながら、幽香もルーミアも楽しそうに笑い声を上げた。

 

 

 

 

「分かったか総領娘。あれが犯人だ」

「あーはいはい。分かった分かった」

 

 閻魔との第二ラウンドを始めた二人を指差しながら、命蓮はそう述べる。対する天子はどうでもよさげにそれに返すと、いいから掛かって来いと手招きをした。さっきから防御しかしていないじゃないか。そう言いながら目の前の彼を睨む。

 

「お前の気が済むまで相手をしてやっているだけだ。俺自身でどうこうということはない」

「……あっそ。じゃあ、私の気が済むことなんか一生ないわね」

 

 指を鳴らす。要石が唸りを上げ、命蓮の周囲の大地が揺れた。立っていられない程のその地震の中で、彼はやれやれと肩を竦めると錫杖を地面に打ち付ける。シャン、という音と共に、大地はその静けさを取り戻した。

 先程から同じように攻撃を悉く躱されている天子は、ますますもって面白く無いと頬を膨らませた。こんなことなら緋想の剣をこっそり持ってくるんだった。思わずそんなことを呟くほどである。

 そろそろ帰ったらどうだ、と命蓮が彼女に述べた。その言葉を鼻で笑うと、彼女は周囲の要石を掴んで投げ飛ばす。真っ直ぐに命蓮へと飛来する要石を錫杖で弾き飛ばすと、彼は前の前にいたはずの天子の姿が見えないことに気付いた。

 

「上か」

「遅い!」

 

 いつの間に喚び出したのか。巨大な要石が彼を押し潰さんと迫っている。その上で天子は仁王立ちし、これでも食らえと獰猛な笑みを浮かべていた。

 ちらりと視線を横に向ける。観客と化している三人は、各々違う表情を浮かべていた。衣玖は特に変わらずやる気のない表情で、小町はどうなるかと楽しそうに、そしてナズーリンは驚愕の表情で彼の心配をしていた。あの反応は新鮮だな、そんなことを思いながら、命蓮は錫杖を両手に構え、真上に掲げた。

 

「そんな棒っ切れで止められるとでも!」

「止められないとでも、思っているのか?」

 

 巨大な要石と錫杖がぶつかり合う。明らかに重量に違いがあるにも拘わらず、その時点で要石の勢いは止まってしまった。力は拮抗しており、命蓮は押し潰されること無く受け止め、しかし押し返すこと無く要石は留まっている。

 それが天子には面白くない。要石に手を添えると、自身の力をそこに流し込んだ。重量が増し、そして押し潰す勢いが再び強くなる。

 

「……ホント、ムカつく奴だわ」

「それは済まないな」

 

 それでも、その拮抗は変わらず保たれていた。天子の威力を増した分だけ、命蓮も受け止める力を強めたのだ。それは取りも直さず、彼が全力でないことを示している。同時に、気が済むまで相手をしているという彼の言葉をそのまま表していた。

 それが彼女にはどうしても気に入らない。せめて全力で自分を倒すならまだしも、軽くあしらって帰ってもらおうというその根性が気に入らない。

 だがら、天子は更に力を込めながら叫んだ。ふざけるな、と。

 

「やるんならしっかりとやりなさいよ! 手抜きで相手されたって嬉しくもなんともないわ!」

「そんなつもりはなかったが……済まないな」

 

 ぐらりと要石が揺れた。慌てて倒れそうになった体のバランスを取ると、やっとやる気になったのかと彼女は笑う。全力で押し潰さんと要石にありったけの力を込めながら笑う。さあ来い、と楽しそうに笑う。

 その声を聞いた命蓮は、まったくと溜息を吐いた。錫杖を握る手に力を込めながら、視線を視界を覆う石の向こうにいる天子に向けた。

 

「随分と捻くれた真っ直ぐだな」

「意味分かんないわよ!」

「そうか、なら、言い直そう」

 

 要石に亀裂が入った。錫杖のぶつかっている所から一直線に走ったそれは天子の足元まで届き、そして段々と広がっていく。

 盛大な音が響き、要石はそのまま砕け散った。どうやら二人の力の拮抗に耐え切れなかったらしく、そしてその拍子にバランスを崩した天子は空中でわたわたと手を振り回した。

 そのまま落下する彼女を命蓮は受け止め、地面に立たせる。軽くその頭を叩くと、しょうがないな、といった表情で彼は笑った。

 

「企んでいるようでも、意図が読みやすい。もう少し考えて行動しろ」

「何よ、結局説教? やだやだ、これだから坊主は」

 

 耳を塞ぎ、知らんとばかりに踵を返す。そんなことを聞きに来たわけではないのだ。口にせずとも、その態度が物語っていた。

 それを見た命蓮は、仕方がないと肩を竦める。錫杖を構えると、その背中に向かって声を掛けた。

 

「天子」

「……何よ」

「ちゃんと受け止めろよ」

 

 その言葉に反応した彼女は、振り返りその場で仁王立ちした。さあ掛かって来い、と先程とは一転した笑顔で命蓮を睨み付ける。

 単純な奴だな。そう思わないでもなかったが、しかしまあそれもしょうがないかと彼は呟いた。天人は基本的に退屈だ。それをよしとしないような自分や目の前の彼女のような者は、どうしても娯楽に飢えてしまう。博麗神社に入り浸っている自分と違い、総領娘という立場で自由の少ない天子は、その鬱憤も一入なのだろう。

 今度博麗神社の面々でも紹介してやってもいいかもしれない。そんなことを思いながら、命蓮はその錫杖を真っ直ぐに掲げた。

 閻魔とも、花の大妖怪とも、宵闇の妖怪とも違う閃光が、無縁塚に奔る。

 

 

 

 

 

 

「では、お騒がせしました」

 

 ぺこりと頭を下げる衣玖を見ながら、命蓮はやれやれと肩を竦めた。彼女の背中ではぶつかり合いで押し負けた天子が目を回している。

 またその内お伺いします、という彼女の言葉にいらん帰れと返した彼は、二人が帰っていくのを見送った後、そんなことよりと視線を空へと向けた。

 

「あれはどうする?」

「そろそろ止めた方がいいですよね」

 

 美鈴はげんなりした顔で映姫と幽香、ルーミアのぶつかり合いを見ている。先程一旦収まったかに見えたそれは何故か再開されており、このままでは当初の目的が何だか忘れてしまいそうになるほどだ。

 

「もう置いてったらどうだい?」

「……そういうわけにもいかんだろう。そもそも片方はお前の上司だろうに」

「まあそうだけど。あたいさっき理不尽に蹴り飛ばされたしなぁ」

「とはいっても、どっちみちあのままでは私達の目的も果たせませんし」

「ま、確かにね」

「目的?」

 

 その呟きに反応したのはナズーリンであった。何かあったのか、という彼女の問い掛けに、命蓮はまあ少しなと述べ、異変の黒幕を捜していることを伝える。人里での一件を知っているので別段驚くこと無く成程と頷いた彼女は、そういうことなら一肌脱ごうと胸を叩いた。

 

「私は探しものが得意でね。……まあ、あまり人捜しは得意ではないが、闇雲に捜すよりはずっと役に立てると思うよ」

 

 その言葉に命蓮も美鈴も本当かと彼女に詰め寄る。その食いつき振りに若干引き気味になったナズーリンであったが、ああ大丈夫だと頷くと笑みを見せた。

 その代わり、と少しバツの悪そうに頬を掻くと、頼み事があると二人に述べる。

 

「……ここを、元に戻せないかな。私の家、吹き飛んでしまったんだ……」

「今すぐあの三人止めます!」

 

 言うが早いか美鈴は上空の戦闘領域へすっ飛んでいく。それを追い掛けるように、フランドールも空へと舞い上がった。驚いたような表情を浮かべる美鈴に、彼女はニコリと笑みを浮かべる。

 

「手伝うわ。美鈴一人じゃ大変でしょう?」

「ありがとうございますフランさん。でも、正直を言うならまだ少し人手が足りないかなぁ、と」

「あら、そう。じゃあ」

 

 これならどう? という言葉と共にフランドールの姿が一瞬霞むと、彼女が四人に増えていた。突然の光景に暫し目を瞬かせていた美鈴を見ながら、四人は揃って笑みを浮かべる。その顔は悪戯が成功した無邪気な少女のようで、思わずつられて美鈴も笑ってしまった。

 

「私と戦った時は使わなかったですよね、それ」

「あまり使っていい技じゃないもの。今回は特別」

 

 いいから早く止めるわよ。そう述べたフランドールの声に分かりましたと答えた美鈴は、その身に妖気を纏うと一気に突進していった。映姫の悔悟棒と幽香の日傘を同時に受け止めると、今ですと叫んだ。

 その瞬間、四人のフランドールが一斉に彼女達に襲い掛かり、三人の動きを拘束する。む、と不満気な表情を浮かべる幽香に向かい、そこまでですと美鈴は睨んだ。

 

「探索の目処が立ちました。そろそろ行きますよ」

「あら、そうなの」

 

 じゃあしょうがないわね。そう言うとあっさり彼女はその武器を収めた。ルーミアは元々二人が乱入した時点で戦う気を無くしていたらしく、じゃあ行こうかと既に踵を返している。

 その光景に呆気に取られていた映姫に向かい、美鈴は深々と頭を下げた。

 

「申し訳ありません閻魔様」

「……いえ、貴女が謝る必要は」

「身内の不始末は自身の不始末でもありますから。悪いことをしたなら謝る、至極当然のことです」

 

 そう言って微笑む彼女を見た映姫は、苦い顔をして視線を逸らした。分かりました、今回は貴女の顔に免じてあげましょう。そう言うと、溜まっていたものを吐き出すように溜息を吐く。

 

「ちょっと、不始末って何よ」

「……無縁塚を見て下さい」

「え? ……成程、これは確かに不始末ね」

 

 花がかわいそうだわ。そう言うと彼女は納得したように頷いた。理由はどうあれ、幽香も同じ結論に至ってくれたのだから問題ない。そう自分に言い聞かせながら美鈴は映姫にもう一度頭を下げる。

 そんな彼女を見て苦笑を浮かべると、映姫はいいから早く行きなさいと一行を急かした。

 

「異変の犯人の目処が付いたのでしょう? 急いだ方がいいのではないですか?」

「あ、そうでした。では私達は行きます」

「それじゃあね、閻魔様」

「お騒がせしました」

 

 美鈴、幽香、フランドール。三者三様の言葉を聞きながら、映姫は去っていく彼女達の姿をそのまま見送った。結局暴れに来ただけなのか、そんなことを思いつつ、さて帰るかと踵を返す。

 その前に、と彼女は一人の女性の名前を呼ぶ。

 

「小町」

「はい?」

「……さっきは申し訳ありませんでした。理不尽な理由で貴女を傷付けた」

「へ? あ、あー、いや、あたいもここでサボってたのが悪いし、四季様が気にすることじゃないですよ」

 

 というかいきなりどうしたんですか。そんなことを言いながら彼女の隣に佇む小町は問い掛ける。吹き飛ばされた帽子を拾って被り直しながら、映姫は決まっているではないですかと答えた。

 

「不始末はきちんと謝る。当たり前のことです」

「……サボって、すいませんでした」

 

 ではこれでお相子ですね。そう言いながら笑う映姫に、小町もつられるように微笑んだ。

 そして誰もいなくなったボロボロの無縁塚。そこで倒れず残っていた紫の桜は、どこか呆れるように風でその枝をゆらゆらと揺らした。

 




別に攻撃食らいたいわけじゃなく、ちゃんとぶつかり合ってくれるようになったから天子は喜んだのです。
ドMじゃないよ!
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