先代巫女と六人の仲間達   作:負け狐

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三十話までに終わらないかもしれない。


弐拾肆 三流フラグ建築士

「霊夢! 魔理沙ちゃん!」

 

 飲子が叫ぶ。が、その声に答えてくれる者はいない。一体どういうことだ、と辺りを見渡しても、そこには人気のない廊下が広がるばかり。

 確かに小悪魔を始末するのに時間が多少掛かってしまったが、それでもここまで離されているということは考え辛い。彼女達は既に館を走り回っているのだから。

 

「博麗」

「何? 霖くん」

「どうやら、大分厄介なことになっているようだ」

「え? うん、それは何となく分かるけど」

 

 いきなりどうしたの? そう訊ねると、彼はあれを見ろと窓を指差した。吸血鬼の館に窓があるのもおかしな話だな、などと呑気なことを考えながらそこに目を向けると、彼女は思わず目を見開く。慌てて近寄り窓を開いたが、そこに映る景色は変わらない。

 紅魔館の廊下が、そこに広がっていた。

 

「え? 何これ?」

「空間を歪められたか、もしくは幻術か何かか。どっちにしろ、僕等は囚えられてしまったと考えていいだろうね」

 

 言いながら視線を飲子以外に向ける。アリスは何かを考えるように視線を落とし、さとりはどこかから意図を読めないかと視線を巡らせていた。霖之助はそれを見て安堵するように息を吐く。これならば、とりあえずは大丈夫そうだ、と。

 飲子に声を掛けた。そして、自分は霊夢と魔理沙を捜しに向かうと告げる。

 

「だったら私も」

「ダメだ。博麗は当初の目的通り、レミリア・スカーレットの撃退に向かってくれ」

「……でも」

「分かったわ。飲子は私が責任を持って連れて行きます」

「さとり!?」

「済まない」

「あら香霖堂さん、私を忘れてもらっても困るわ」

 

 ずい、とアリスもそこに参加する。そしてさとりと二人で飲子の手を掴むと、行くわよと歩みを進めていってしまった。一人状況についていけてなかった橙も、そんな三人を見て慌てて追い掛けていく。

 これでよし、と四人の背中を眺めていた霖之助は、一行とは逆の方向へと歩き出した。自分達が歩いてきた道、すなわち入り口の方へである。

 

「こういう場合は、一度戻るのが正解だったりするんだが」

 

 さて、どうだろうか。そんなことを呟きながら、彼は一人迷宮となった紅魔館を歩く。

 

 

 

 

 

 

 自分で歩けると二人の手を振りほどいた飲子は、先程までとは一人欠けた面々と共に先の見えない紅魔館の廊下を駆けていた。こうなったら一刻も早く館の主の下へと辿り着かなくては。そう思いはするものの、それとは裏腹に目的地は一向に見えてこない。

 

「これって、まずこの原因を潰さないと無理なんじゃ」

 

 思わずそう呟いた。それは二人も分かっているのか、アリスもさとりも別段表情を変えること無くそうかもしれないと彼女に返す。分かっているなら走ってもしょうがないじゃないかと飲子が続けると、そうでもないと二人は飲子に向き直った。

 

「その原因というのが、生物なのか無機物なのかが分からない以上、その探索は必要だもの」

「でもさ、そ――」

「こういう場合はその原因は囚えた獲物とは別の場所にある可能性が高い、確かにそうね。ただ、そうだとしたら原因の排除はどのみち無理よ。だったら低くてもその可能性に賭けるしかないでしょう?」

「あ、うん、そうだね……」

 

 この二人にこういう会話で勝とうと思ったのが間違いだった。そう結論付けた飲子はじゃあ探索を続けようと足を踏み出す。闇雲に走る状態から、何か手掛かりがないかどうかに思考を切り替え歩き出す。

 そんな彼女に待ったをかけたのは、先程から三人の会話を聞いているだけだった橙であった。

 

「どったの?」

「いや、まあ大したことじゃないんだけどね。例えば、そう例えばだよ」

 

 ここの壁に穴を開けてみたらどうなるのか。そう言いながら窓側の一角を指差した橙を、飲子は不思議そうな顔で眺めた。一体何を言っているのだろう。そんな表情で彼女を見詰める。

 

「だから例えばだって。普通に進んでも駄目なら力技でってのが普段の飲子達じゃない」

「へ? そうだったっけ?」

「え?」

 

 どういうことだ、と橙は残りの二人に視線を向ける。だが、アリスもさとりも飲子と同じように首を傾げて彼女を見るのみであった。それがますます彼女の思考に疑問を浮かばせる。

 おかしい。そう思いながら三人に声を掛けようとするが、しかしどう声を掛ければいいのか分からず橙は開きかけた口を閉じた。お前達はおかしい、そんなことを言ったところでどうなるものでもない。何よりこの状況では、おかしいのは自分の方である可能性も考えられる。

 

「いや、違う」

 

 ぶんぶんと頭を振ってその考えを追い出した。この場で正常なのは自分だ。そう意思を強く持たないと、何かに流されてしまう。化け猫、という種族の持つ野生の勘ともいえる部分で、彼女はそう判断するともう一度三人を見た。

 探索を続けている三人はああでもないこうでもないと意見を交わしながら館を歩いている。廊下を、部屋を、律儀に歩き律儀に扉を開け、まるでそうするのがルールであるように行動している。

 やはりおかしい。普段ならばこんな、ルールに縛られたゲームのような行動をするはずなどないのだ。いくらあの六人がいないからといっても、そんな行動を取るはずが。

 

「……あの六人が、いない?」

 

 そうだ、とそこで橙は気付いた。博麗の巫女と共に大暴れするいつもの六人、それが今この場にいない。それは取りも直さず、今の幻想郷で知られている限り博麗の巫女の戦力がほぼゼロであると判断されても仕方がないわけで。

 

「飲子だけだと録に評価されてないって自分でも言ってたしなぁ」

 

 ならば相手も同様に考えていても不思議ではない。六人のいない博麗の巫女ならばどうにでも出来る。そう判断してのこの状況だったとしたら。

 飲子、と橙は彼女の名前を呼んだ。いきなりどうしたの、と振り向いた彼女に向かい、橙は思い切りその右手を振り上げる。

 

「目を、覚ませぇ!」

「おぶうっ!」

 

 頬を張られた飲子は首がぐるりと捻られ盛大に吹っ飛んだ。壁に激突した音が廊下に響き、今まで静かであったその空間には急に音が生まれたような錯覚すらする。

 張り倒された飲子は頬をさすりながら立ち上がると、いきなり何をするんだと橙に詰め寄った。その彼女の顔を見つめつつ、橙はゆっくりと口を開く。

 

「ねえ飲子。私達の目的は?」

「え? レミリア・スカーレットをぶん殴る」

「どうやって?」

「どうやってって……こう、ズバーっとやってブシャーって感じに」

「うんうん。じゃあ、今謎の空間に囚われてるけど、どうするの?」

「へ? ……適当にその辺ぶっ壊せばいいんじゃない?」

「よし! 飲子だ!」

「何が!?」

 

 

 

 

 橙から先程までの状況を聞いた飲子はそうだったっけかと首を傾げた。相変わらず足は止めていないが、しかしその反応は明らかに違う。それを見て満足そうに橙は微笑んだ。

 

「じゃあ、アリスとさとりもその罠に掛かってるって橙は言いたいの?」

「まあね。だってほら」

「んー」

 

 別段表情が虚ろであったり目が死んでいたりするわけではないが、果たして本当に彼女の言う通りなのだろうか。そんなことを思いつつ、飲子は二人に声を掛けた。二・三言会話を交わすが、特におかしな部分は感じられない。

 

「気の所為じゃない?」

「そんなだから無能巫女ってみんなに言われちゃうのよ飲子」

「酷い!?」

 

 妹分に駄目出しされた飲子が肩を落とすが、そんなこと知らんとばかりに橙は何とかして二人を正気に戻そうと思考を巡らせる。この現状を打破するアイデアは、やはりあの二人に掛かっているのだ。

 

「でもなぁ」

「まだ言うの?」

「いや、うん。やっぱり気の所為だって。私は確かに正気じゃなかったかもしれないけどさ、あの二人が同じ罠に掛かるなんてことは無いって」

「そんなことないでしょ。現にほら」

 

 橙が指差したのと同時、さとりとアリスが二人の方へと振り向いた。何こそこそ話しているの、と少し後ろを歩いていた彼女達へと声を掛け、向かってくる。

 何でもないと橙が述べるのを聞いてそれならいいのだけどと返した二人は、何かを思い出したように飲子へと向き直った。

 

「そういえば飲子、貴女はこの異変を解決したらどうするの?」

「へ? いきなり何で?」

「ここまでの規模の異変だもの。博麗の巫女としての信仰を高めるに違いないわ。そうなったとしたら、貴女はどうするのかと思って」

 

 何故急にそんなことを。そう思わないでもなかったが、飲子はこの二人が急にそんな事を言い出すからには意味があるのだろうと判断して逡巡した。が、特に思い付かず、分からないと苦笑を浮かべて頬を掻く。

 そんな彼女を見て、まあそうでしょうねと二人は笑った。そうして暫く笑みを浮かべていた二人だったが、少しだけ表情を真面目なものに変えると、さとりが一歩飲子へと踏み出した。

 

「ねえ飲子」

「どうしたのさとり、そんな改まって」

「実は私、妹がいるのよ。覚妖怪だけれど、心を読む目を閉ざしてしまった妹が。そのまま心すら閉じてしまった妹が」

「……うん」

「もし、よかったらだけれど。この異変が終わったら、妹に会ってくれないかしら。貴女なら、あの娘とも仲良くなれるような気がしたの」

 

 突然に。本当に唐突に、突然に。さとりはそんなことを言い出した。ふざけている様子も無く、純粋にそんな提案をした彼女を見て、飲子は戸惑いつつも分かったと頷く。この異変が終わったら、この戦いが終わったら。そんな約束を、彼女と結んだ。

 それを聞いていたアリスも、ふと、唐突に何かを思い付いたように口を開いた。それもありね、と呟くと、皆に向かって笑顔を見せる。

 

「異変が終わったら、か。そうね、私も、この異変が終わったら、何か始めてみようかしら」

「アリス? 突然どうしたの?」

「この戦いが終わったら、人里で人形劇でもやろうかな。大人も子供も楽しめるような、そんな人形劇を」

 

 クスクス、と笑うアリスを見て、飲子は戸惑いを強くする。一体どうしたんだろう、そんな言葉が頭を巡った。ただ、別に言っていること自体は何かおかしいことではなく、この先の話をしているだけ。唐突ではあるが、それだけだ。

 それが逆に、猛烈な違和感を醸し出していた。

 

「ね、ねえ飲子。今小町が旗持って笑ってる姿が頭に浮かんだ」

「旗? 鎌じゃなくて?」

 

 橙もそんな二人を見て戸惑いを隠せないのか何か奇妙なことを口走っている。どうやらこの場でまともな思考をしているのは自分一人ではないのか、そんな風に思ってしまうほどであった。

 と、その時。ぐにゃりと周囲の空間が歪んだ。何事だ、と視線を巡らせると、一直線であった廊下が捻じれ、しかし迷宮であった館ははっきりとした空間へと変貌を遂げている。

 そんな奇妙な矛盾した光景を目にした飲子が目を瞬かせていると、さとりとアリスが何かに気付いたように振り向いた。橙と飲子もそこに向き直ると、紫のローブを着た一人の少女がゆっくりとこちらに歩いてくるのが見える。

 どうやら頃合いね。そんなことを呟いているのを耳にし、今までの状況を作り出した原因は彼女で間違いなさそうだと一行は判断した。つまり、これで先に進むことが出来るというわけである。

 

「さあ、飲子」

「え? な、何?」

「貴女はあの捻くれた廊下の先にある部屋を目指しなさい。恐らくそこがレミリア・スカーレットの部屋よ」

「う、うん。……みんなは?」

 

 自分を行けと促すが、そちらはどうなのか。そうさとりに問い掛けた飲子であったが、彼女は笑みを浮かべると、問題無いと返した。それに続くように、アリスもさとりの隣に立ち同じように彼女を先に行けと促す。

 

「さあ、ここは私達に任せて先に行きなさい」

「大丈夫、すぐに追い付くから」

 

 そんなさとりとアリスの言葉を聞き、分かったと飲子は頷いた。信じてるからね、そう言うと、彼女は踵を返し歪な廊下を駆け抜ける。目指すはその先、レミリア・スカーレットの待つその空間。

 そんな彼女を目で追っていたローブの少女は、まああれ一人くらいはどうでもいいかと呟いた。そのまま手に持った魔導書を開き、自分の眼前に立ち塞がる三人を眺める。

 

「嘗めてもらっては困るわね」

 

 言いながらアリスは人形を展開させる。それを見つつ、少し距離を取りさとりも第三の眼を胸元に掲げた。

 それを見たローブの少女は少しだけ表情を引き締める。あの六人程ではないとしても、腑抜けている奴らとは違う、そんな感想を彼女は持った。だが、それでも自分の勝ちは揺るがないだろうと口角を上げる。この空間で大分削り取られている相手に遅れを取ることなど無い。そんな確信を持っていた。

 

「いくわよ、さとり」

「ええ。こいしのことも飲子に託せた。大丈夫、私は、もう何も恐くない」

「だから! 凄い勢いで小町が旗振ってる! 手招きしてる!」

 

 ただ一人状況についていけていない橙がやけくそ気味にそう叫んだが、二人は特に反応を見せず、ローブの少女の放つ魔法弾によってその声も掻き消されていった。

 




とてつもないほど露骨な死亡フラグ。
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