先代巫女と六人の仲間達   作:負け狐

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一応終わりは決めているので、そこに向かっているはずなのですけど。


弐拾漆 幻想無法地帯

 愉快愉快、と彼女は笑った。館から離れたこの場所で、館に施した仕掛けから伝わる惨状を眺め、楽しそうに『鬼』は笑う。混乱と混沌を綯い交ぜにし、常識がひっくり返ったあの空間の空気を感じ取って高揚した気分を隠そうともせずに笑う。

 ああ、これからどんな風に変わってくれるのだろう。そんなことを呟き、自身の予想に彼女は酔いしれた。脚本家も、演出家も自分。主演は、引っ掛かってくれた馬鹿な人間。

 

「きっと、ハッピーエンドになるだろうなぁ」

 

 自分だけに都合のいい、他のものなど知ったことではない、そんなハッピーエンドに。

 

「ん?」

 

 そんなことを考えていた折、館に複数の妖怪変化が近付いてきているのを彼女は捉えた。探ってみると、どうやら別行動を取っていた博麗の巫女周りの面々の残りが向かってきているらしい。

 そこまでを確認した『鬼』は、ペロリと舌舐めずりをした。いい感じに勢揃いしてくれているじゃないか、と一層強くなった笑みを隠さずに呟く。

 

「幻想郷の強者共が、ひっくり返った空間でどんな風に慌てふためくのか」

 

 それが楽しみで仕方ない。誰もいないその場所で、誰かに語りかけるわけでもなく。ただただ自分一人に告げるように。『鬼』は、天邪鬼は。

 鬼人正邪は、ほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 

 

「で、だ」

 

 何だここは、と紅魔館の門前を見上げながら命蓮はぼやいた。明らかに異常な雰囲気を漂わせている空間は、とてもじゃないが住むことなど出来そうにない。妖怪人間問わず、である。

 そしてその感想を抱いたのは住人であった者も同じなようで、眉を顰め何かを言うことなく自分の家であったはずのそれを見詰めている。美鈴がおずおずと声を掛けると、少し悲しそうな顔で彼女はゆっくりと首を振った。

 

「違う。こんなの、私が住んでいた紅魔館じゃない」

「ということは、やっぱり」

「何かが起きたのでしょうね」

 

 幽香の呟きに、残りの面々もコクリと頷く。普段とは違うその空気が、この異変が佳境に入っているのを感じさせた。

 さてではどうしようか、そんなことを考えた一行の背後から声が掛かる。振り向くと、妖怪の山の奪還に向かっていたはずの一人、自称仙人の茨木華扇がそこにいた。私も行きます、と有無を言わさぬ口調でそう述べる。

 

「あれ? 酒盛りしてたんじゃないの?」

「私はしてない! 勇儀と萃香と天魔がドンチャン騒いでただけよ! 巻き込まれて大変だったんだから」

 

 ルーミアのその言葉に返すように捲し立てた彼女は、いいからとっとと行きましょうよと足を踏み出す。その肩をちょっと待ったと命蓮が掴むと、お前は何も感じないのかと華扇をたしなめた。

 

「何がよ」

「あー……やっぱり、馬鹿なのかー」

「貴女に言われると無性に腹が立つんだけど」

「言われても仕方ないわよ。流石にこれはね」

 

 いいから館を見ろ、と幽香に言われて、華扇は門の向こう側を見上げる。そして、あからさまに空間が歪んでいるその建物が視界に入ると、何だこれはと声を上げた。

 その反応でやっと気付いたかと肩を竦めた命蓮は、これで分かったかと彼女に続ける。

 

「ああ、通りで天狗三人が博麗神社に残っていたわけですね」

「ナズーリンも流石にここまで巻き込むわけにはいかんからな」

「このことを伝えに来た死神さんも帰っちゃったのよねぇ」

 

 おかげで、今この場にいるのは六人。この館の住人だからとついてきたフランドール以外の五人は、早い話がいつもの博麗神社の半居候共であった。

 ひょっとしたら勇儀と萃香は後から来るかもしれないが、と思いつつ、まあその辺りはどうでもいいかと華扇は視線を皆に戻す。

 

「まあ、現状は分かりました。でも、それがどうしたの?」

「あー、まあ。ぶっちゃけ考えるより力技って感じですしね、私達」

 

 あはは、と美鈴が笑う。それに同意するように、ルーミアも幽香も笑みを浮かべた。そしてそれを見た命蓮も、仕方ないなと肩を竦めながらも苦笑していた。

 フランドールはそんな五人を見て、顰めていた眉を元に戻した。この連中を見ていると、真面目に考えているのが馬鹿らしくなってきてしまう。そんなことを思いながら、それでどうするのと皆に問うた。

 

「突っ切る」

「ぶち破る」

「叩き潰す」

「突き進む」

「押し通す」

「……うん、良く分かったわ」

 

 早い話が中央突破なのね。そう続けたフランドールの言葉に勿論と五人は頷く。それで微笑を盛大な笑みに変えた彼女は、それじゃあ私もそうするわと館を見詰めた。

 一歩を踏み出す。紅魔館の門はすぐそこ、開かれているそこを抜ければ館の入り口は目と鼻の先。あまり手入れされていない中庭を視界に入れつつ、その空間へと足を踏み入れる。

 その直前に、突如降りかかってきた妖気の塊を避けるために後ろへと飛び退った。

 

「あら、これはこれは」

「下っ端が雁首揃えてるねー」

 

 幽香とルーミアがそう言って笑う。襲撃者である多数の妖怪が進行先を遮るように立ち塞がっているのを見ての感想である。その横では命蓮が面倒そうに頭を掻いているのが見えた。

 

「申し訳ないんですけど、時間がないんです。どいてもらえませんか?」

 

 そう言いながら、しかし無駄だろうと美鈴は拳を握る。案の定、彼女の目の前の連中の答えは否。元々お前達を通さないのが仕事なのだと下卑た笑みを浮かべた。

 その表情を見て目付きを鋭くさせたのは華扇だ。巫山戯たことを言っていないでどきなさい、と一歩踏み出し妖怪へと手を伸ばす。その肩を掴むと、少し乱暴に押し退けんと力を込めた。

 

「――え?」

 

 次の瞬間、彼女は宙を舞っていた。揺れる視界の向こうでは先程彼女が肩を掴んだ妖怪が腕を振り切っているのが見える。ああ、つまりあいつに殴り飛ばされたのだ、と華扇が認識したのは地面に体を叩き付けられてからであった。

 

「華扇!?」

「何やってるのよ」

 

 命蓮の驚いたような言葉と、幽香の呆れたような言葉が同時に彼女に掛けられる。いたた、と腰をさすりながら立ち上がった華扇は、門に立ちはだかる妖怪をひと睨みすると自身の体を確かめるように拳を握り、そして開いた。

 

「おかしいわね」

「華扇の頭が?」

「ごめんなさいルーミア、今ちょっと真面目に考えてるから」

「あ、そーなの?」

 

 じゃあ私も、と言うが早いかルーミアが妖怪の群れへと突っ込んでいく。せーの、と腕を振り上げ妖怪へと叩き付けようとした彼女であったが、それを容易く受け止められたことで素っ頓狂な声を上げた。

 そして返す刀で華扇と同じように殴り飛ばされる。

 

「いったーい」

「頭から落ちたわね。大丈夫?」

「私の時と反応違いません?」

 

 華扇の抗議を受け流しながら、幽香はルーミアの手を取り立ち上がらせる。ありがと、と立ち上がったルーミアはスカートに付いた埃をパンパンと払いつつ、少しだけ納得がいったような顔で華扇とそして向こう側の妖怪に視線を移した。

 

「おかしいなぁ」

「貴女がおかしいのは年中でしょ」

「あー、そっか」

「……話進まないからちゃんとやらない?」

 

 時間がないのだろうに。そんなことを続けつつ、いい加減我慢の限界が来たフランドールが盛大な溜息と共にそう述べた。そうですよね、と同じように溜息を吐きながら同意する美鈴と彼女の二人を眺め、ルーミアはあははと小さく笑う。ごめんね、と一言謝ると、じゃあ真面目に話そうかと華扇の背中を叩いた。

 

「何ですか? 私はまだ確信持ってないのだけど」

「別にいいよ、予想で。私も予想だし」

「……じゃあ、言います」

 

 私達、弱くなってませんか? 彼女が述べたのはそんな一言であった。案の定というべきか、一体こいつは何を言っているんだという目で四人は華扇を見詰める。が、だから言いたくなかったんですよぼやきつつ冗談だという素振りは全く見せない彼女の態度を見て、少しずつ表情を真面目なものに変えていった。

 

「つまり、だ。あの木っ端妖怪に押し負けるほど俺達の力が弱っている、とそう言いたいのか?」

「そういうことです。恐らく、あの館の何かが原因だと――」

「それは違うわ」

 

 華扇の言葉を遮り、フランドールが言葉を紡ぐ。そして自身に注目が集まったと同時に、彼女は自身を四人に分身させ、そして同時に門に立つ妖怪の群れに光線状の妖気を放った。光の本流が門を覆うほどの爆発を起こし、そして土煙が巻き上がる。

 その光景を作り出した本人は、ほら、と一人に戻ってそう続けた。

 

「別に力は弱ってなんかいないわ。まあ、日が落ちないからこの程度だけど、でも普通に力は行使出来る」

「なら、私が木っ端妖怪に押し負けたのは」

「向こうが強くなったんじゃないかな、極端に」

「まあ、そんなところでしょうね」

 

 厄介なことをやってくれるわね、と幽香は言いながら肩を竦める。ほら見なさい、と土煙の晴れた先を指差すと、そこには大したダメージを受けた様子のない妖怪の群れが変わらずそこに立っている。向こうから攻めてこずにニヤニヤと笑っているのは、余裕の表れに相違ないだろうと彼女達に感じさせるもので。

 同時に、ルーミアの述べた言葉に信憑性を持たせていた。

 

「……そういえば、小町さんが言ってましたね。『全てがひっくり返る』、でしたっけ」

「成程な。向こうとこちらの強さのバランスが『ひっくり返った』のか」

 

 今この場で、強者は向こうの妖怪の群れ。そして、弱者は自分達六人。

 やっと分かったか、と妖怪の群れの一体が声を上げた。今まで散々虐げてきた怨みつらみを晴らさせてもらおうか。そんなことを言いつつ、妖怪達は彼女達を見下して笑う。自分達が何故そんなことをされていたのかを棚に上げて、下卑た笑い声を上げる。

 

「どうせ、適当に暴れ回って博麗の巫女に退治された連中でしょう、貴方達って」

 

 言いながら幽香は一歩前に踏み出す。自分達は弱者だ、と宣言されたにも拘らず、普段と変わらず余裕を持った笑みを浮かべながら前に出る。

 

「逆恨みもいいとこね。器が知れるわ」

 

 口は閉じず、挑発めいた言葉を紡ぎながら、前に出る。相も変わらず、笑みは浮かべたままで。

 

「それで、いつになったらその怨みつらみを晴らすのかしら?」

 

 目と鼻の先。そこまで近付いて尚、彼女は妖怪達にそう述べた。笑顔で、何一つ変わらず余裕の態度を崩さずに。

 馬鹿にしやがって、と妖怪が幽香へと襲い掛かった。普段であれば全く問題ない妖怪の爪。それが彼女の肩にザクリと食い込む。裂傷が出来、赤い血飛沫が舞った。

 追撃が飛んでくる。妖怪の拳が腹にめり込み、幽香の体がくの字に曲がった。そこに我も我もと妖怪が殺到し、次々と攻撃が加えられていく。

 吹き飛ばされた彼女は、二・三度バウンドし地面を滑った。仰向けに倒れたまま、糸の切れた操り人形のように動かない。

 フランドールはその光景を見て青褪めた。まさか、そんな。思わず呟いていた言葉に自身で気付くことなく、倒れた幽香へと近付く。あんなに攻撃を受けて大丈夫なのか、そんなことを思いながら、彼女の顔を覗きこんだ。

 

「――え?」

「あらフランドール、心配してくれたのね」

 

 笑っていた。ボロ雑巾のように吹き飛ばされる前と同じ、余裕の笑みを浮かべたまま、幽香は駆け寄ったフランドールを見詰めていた。

 数度目を瞬かせると、フランドールは弾かれたように後ろを見る。しょうがないな、といった顔で頭を掻きながら前に出る華扇と、少し呆れ顔で錫杖を肩に担いだ命蓮がいた。何の心配もしていないような不敵な笑みを浮かべながら腕をグルグルと回しているルーミアがいた。困ったような顔で頬を掻いている美鈴がいた。

 

「何よ。心配していたの私だけ?」

「まあ、幽香だし」

「幽香だからな」

「幽香だしねー」

「幽香さんですから」

 

 同時にそんな言葉が口をつき、そして顔を見合わせると盛大に笑った。何だそりゃ、とフランドールもつられるように笑った。

 さてと、と幽香が立ち上がる。その動きはダメージなど微塵も感じさせないもので、皆の言葉が強がりでも何でもないことの証左でもあった。

 それを見た妖怪は顔を顰める。それだけボロボロになったのに何だその態度は。そう言いながら各々の得物を構えた。その姿はとても強者には思えず、むしろこちらの方が強がっているかのようで。

 

「あら、まだ晴らし足りなかったの? でも、ごめんなさいね。これからは、私達が貴方達をいじめる番よ」

 

 五人の前に立つ幽香が、閉じた日傘を弄びながら口角を上げる。笑み、先程とはまた違う、余裕の表れではない笑顔を見せる。純粋に、楽しい、という感情を表情に見せる。

 

「さて、じゃあ行きましょうか」

 

 妖怪の一体が彼女へと間合いを詰め得物を振り上げる。それを持っていた日傘でいなすと、返す刀で土手っ腹に拳を叩き込んだ。が、妖怪は特に効いた様子もなく再び持っていた武器を彼女に振り下ろす。

 

「あらあら。これは思った以上に厄介ね」

 

 それを躱すと妖怪から距離を取り、幽香はやれやれと肩を竦めた。だが、まあ別にどうとでもなると続けると持っていた日傘を杖のように地面に突き刺す。

 

「たまには、インコの立場になってみるのも悪くないわ」

 

 あの娘、絶対に勝てない相手にも突っ込んでいくものね。そんなことを思い出し、幽香はクスクスと笑った。

 




やっぱりクライマックスはレギュラーメンバーだよね。
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