先代巫女と六人の仲間達   作:負け狐

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主人公、かどうかは自分でも疑問ですが、ほぼオリジナルな設定で固めている以上やっぱりいるかなと判断してタグを追加しました。

中身のノリは変わらずです。


参 寺生まれって凄い

「成程。これは、あれね」

 

 布団で横たわっている青年を眺め、博麗の巫女である博麗飲子はそう呟いた。分かっているのかいないのか、その呟きだけではどうにも判断出来ない。

 が、とりあえず隣に立っている風見幽香は、こいつは絶対分かっていないだろうという確信を持っていた。どうせ言ってから考えるに決まっている、とついでに付け足した。あくまで心の中で。

 

「そう、あれよ。あれなのよ」

「ああやっぱり」

 

 予想通りだったので彼女はそれを口に出した。案の定何がやっぱりなんだよと飲子が幽香に食って掛かるが、そんなの決まっているじゃないと涼しい顔で返答をする。

 相変わらず役立たずなのね。笑顔を浮かべそう述べると、飲子はピシリと固まった。錆び付いた蝶番のような動きで幽香から他の面々に視線を移すと、あからさまに視線を逸らす連中がちらほら。

 半べそをかきながら、それでも堪えんと彼女は上を向いた。涙が零れないように、上を向いた。一人ぼっちであることを認めないように、彼女は上を向いた。

 

「まあそんな馬鹿やってないで、早く何とかしてあげなさいよ。役立たずで無能で空気だけど、一応曲りなりにも博麗の巫女なんだから」

「うわぁぁぁぁん! 覚えてろよちくしょー!」

 

 盛大に涙を流しながら、博麗の巫女は家を飛び出した。泣きべそをかいて人里を駆け抜けるその姿はどう見てもただの子供であったが、道行く人は別段気にしない。気付いていないのではなく、一々気にしていてもしょうがないからだ。つまりはいつものことだというわけである。

 そしてこれはどうでもいい話であるが、博麗の巫女が職務放棄して泣きべそをかいていても、何の問題もなく話は進んでいく。依頼者も別に気にしていないからだ。では、結局何なんでしょうかと巫女不在の病床で青年の母親は残りの面々に疑問を投げ掛けた。

 そうだな、とその中の一人、命蓮僧侶が青年の顔に手を当てる。暫しそのまま動きを止めると、視線を青年から窓の外へと向けた。池、湖、川、海、そんなところか。そう呟くと、再び視線を青年に戻す。

 

「少し厄介なことになっているな」

「と、言いますと?」

 

 母親の続きを促すようなその返事に命蓮は短く頷くと、結論から言ってしまえば呪いの類だ、と述べる。別段表情を変えることなくそう言ってのけた彼を見て母親は一瞬反応が遅れたが、しかしすぐに理解をすると何とかならないのですかと詰め寄った。息子を助けて欲しい、それが彼女の依頼である。それが分かっているので、命蓮も心配ないと言葉を返した。

 

「こちらでその呪いの原因を探ります。ご心配なさらず」

「は、はい。ありがとうございます!」

 

 よろしくお願いしますと頭を下げる母親に向かい、彼は人助けは当たり前のことですよと笑顔を見せた。

 

 

 

 

「で、どうするのー?」

 

 博麗神社の賽銭箱前。そこでルーミアは命蓮に尋ねた。先程の依頼について、これからの方針を聞きたかったのだ。

 当たり前なのだが巫女はいない。現在泣き疲れて布団で不貞寝をしている。

 

「おおよその原因であるものの特定は出来ている」

「あら、じゃあもう何も問題ないわね」

 

 横で聞いていた幽香がそんな風に言った。せっかく不貞寝しているあの娘を起こしてもうちょっとからかおうと思ってたのに。そう続けると興味を無くしたのか神社から出て行く方へと足を進めた。何処に行くの、というルーミアの問い掛けに、花を見に行くと短く答えた。

 今日は幽香は参加しないのか。そんなことを思いながら彼女は命蓮に視線を移す。まあ別に問題はないな、と先程幽香が述べたことと同じ結論を出すと、彼に話の続きを促した。

 

「水に関連する呪いだ。恐らくその手の妖怪が関係している」

「水? 水かー……」

 

 そんなのいたっけ? と首を傾げるルーミアに、命蓮はどうだろうなと肩を竦める。木っ端妖怪程度ならともかく、ある程度の力を持ったものとなると限られるだろう。そう続けながら彼は神社の向こうの住処を見やる。

 その言葉にルーミアは益々疑問が深くなる。ある程度の力を持ったもの、何故そんな風に限定するのだろうか。そこまで考えて、そして少しだけ苦い顔をした。つまり、そういうことなのだろう。

 

「めんどくさいなぁ」

「そう思うのなら別に無理に手伝う必要はないぞ」

「んー。ちょっと考える」

 

 そう言うと彼女は賽銭箱の横に腰掛ける。どうしたものかな、と腕組みをして首を左右に振りながら悩む姿は大変微笑ましいものであったが、そのことについて何かを言うような人物は生憎ここにはいない。

 そんな二人に向かって声を掛ける人影が一人。包帯を巻いた右手を振りながらやってくるその人影は、彼等には馴染みの相手である。ここの半居候と言われている一人であり、妖怪の山の連中をいざとなったら顎で使える自称仙人。

 

「華扇か」

「微妙な反応ね。で、どうしたんですか?」

「依頼を受けたんだが、まあ、ちょっとな」

 

 先程までの話を掻い摘んで彼女に話す。成程、と頷いた華扇はそういうことならお手伝いしましょうと胸を叩いた。どうやら断るという選択肢は端から存在していなかった様子。

 その答えを聞いた命蓮は、なら決まりだと足を踏み出す。呪いの殺傷能力は低いが、あまり長く放っておいていいものでもない。そう言うとさっさと歩き出した。

 

「あ、ちょっと待ってください」

「ん?」

「飲子、連れて行きましょう」

「……ああ、まあ、そうだな」

 

 踵を返し、神社の出口から奥の住処の方へと行き先を変える。いつまで寝ている、と布団を引っぺがすと、さっさと用意しろと札を投げ付けた。

 

「扱いが雑だなぁ……いや、まあこうやって言ってくれるだけマシか……」

 

 大分自身の価値を低く見積もっている感のある彼女は、そう言いながらも手早く準備をしてさあ行こうと外に飛び出した。

 

「おみやげよろしくー」

 

 結局留守番することに決めたらしいルーミアのそんな声を聞きながら、三人は水に関係する場所と妖怪を探しに向かう。各々思い付く場所はあるようで、じゃあまずは何処から行こうかと口を揃えて述べるのであった。

 

 

 

 

 

 

 まずは一番遠い場所から、という提案で三途の川へと一行は向かう。手間の割に収穫は特に無く無駄骨折りかと皆ぼやいたが、まあ飲子の意見だしという華扇の言葉に命蓮は納得したように頷いた。

 

「何か言いたいけど実際駄目だった手前何も言えない……」

 

 そんな博麗の巫女は置いておいて、次に向かったのは妖怪の山にある大蝦蟇の池である。こちらを提案したのは華扇だが、しかしどちらかというと神聖な場所である為何もないだろうとも同時に思っていた。

 案の定手掛かりは見付からず、しかし丁度そこに来ていた天狗から情報を得ることは出来たので来たかいはあったとも言えた。少なくとも三途の川よりはマシである、そんな意見が出たが、確かにその通りであったため飲子は凹み気味に頷いた。

 さて、その情報と命蓮の意見を組み合わせてやってきたのが霧の湖である。視界が悪く、本来の大きさを歪めて巨大に見せているその場所は、確かに何かがありそうな雰囲気を醸し出していた。

 

「っても、ここまで何も見えないと探索も出来ないじゃん」

 

 キョロキョロと辺りを見渡しながらそう呟く博麗の巫女を尻目に、命蓮と華扇はある一点を見詰めていた。湖の中心、恐らくそこが目的の場所だ。そんな確信めいたことを感じつつ、二人は湖畔を見て回る。途中木々も無い広々とした空間があったが、文字通り何も無い為に特に気にすることなく通り過ぎた。

 そうして一周をしたあたりで、後ろから走ってきていた飲子が非難の声を上げる。置いてくな、と。

 

「そう言われても、まさかそんなに未熟だとは思わなくて」

「何をダメ出しされてるの私は!?」

「この濃い霧で、何も見えないと言ってのけてしまうお前が悪い」

「あんた等みたいに人間辞めてる奴と一緒にすんな!」

 

 その叫びに、二人はやれやれと肩を竦める。これは人間であるとかないとかではなく、単純に気配を探れるか何かの話だ。怒られるでもからかわれるでもなく、淡々とそう述べられた飲子はぐうの音も出ずに頭を垂れた。どうせ私なんか、という自虐的な呟きが二人の耳に届くが、まあ仕方ないと聞き流した。

 それよりも、と二人は飲子に問い掛ける。これから湖の中心へと向かうが、ついて来る気はあるか、と。

 

「むしろそこで私を置いていくって選択肢出しちゃうのが何だかなぁって思うんだけど」

「未熟ですし」

「半人前だしな」

「……泣くぞ」

 

 これでもその辺の妖怪変化には負けない自信があるのに。そう呟いたが、目の前の二人との実力差は文字通り天と地ほどもあるので、諦めて彼女は大きく溜息を吐くに留めた。そして、役立たずかもしれないけど、そりゃついてくさ、と返答すると、華扇も命蓮もどこか満足そうに頷く。

 

「決まりね」

「ああ。行くぞ」

 

 言葉と同時に二人は空に浮かび上がる。湖の中心というのは当然水の上であり、徒歩では辿り着ける場所ではない。飲子もそれに続くように気合を入れると宙に浮かんだ。

 霧の所為で誤魔化されているだけで、この場所は実際にはそこまで広くない。そう手間も掛からず目的地までやってきた三人は、そこにあるものを見付けて怪訝な表情を浮かべた。本来ならばこんな場所にずっと残り続けているはずのないそれ。

 一隻の小さな小舟が、ゆらりゆらりと浮かんでいた。

 

「これ、降りても大丈夫なのかしら」

「おすすめはしないな」

「まあ、そうよね。……ねえ飲子」

「嫌だよ! 何で好き好んで生贄にならんといかんのじゃ!」

 

 そうは言っても、と華扇は小舟を指差す。明らかにこれが呪いに関係しているだろうと述べ、博麗の巫女ならば解決に全力を注ぐべきではないのかと彼女を諭す。言い分としてはもっともに聞こえるが、結局は飲子で実験してみるというだけであった。

 それは彼女自身分かっている。分かっているが、その挑発をされてしまえば、普段巫女として完全にないがしろにされている飲子としては乗らざるを得ない。やればいいんでしょやれば、と半ば投げやりに叫ぶとその小舟の上に降り立った。

 

「って、別に何もないじゃない。無駄な心配――」

 

 しちゃった、という言葉は途中で遮られた。どこからか現れた無数の柄杓があっという間に彼女の乗っていた小舟に水を注いで沈めてしまったからだ。飛んで逃げる間もなく小舟とともに湖中へと消えていく博麗の巫女を空から見ながら、華扇と命蓮はその目を真剣なものに変えた。

 

「全く気配を悟らせなかった。相当の手合いですね」

「いや、というよりもこれは。気配が元々無い」

 

 湖から伸びる柄杓を持った手。小舟のあった場所を取り囲むように際限なく湧くそれは、一種異様な雰囲気を漂わせている。だが、中心部が泡立ち、先程沈めた小舟が再び浮上してくると、その手は霞のように掻き消えた。

 勿論博麗の巫女は浮かんで来なかった。

 

「あの船に乗ると現れるみたいね」

「そのようだな。そして、乗った者を沈めた後再び船だけ浮かび上がらせる。これは正体を見極めるのに骨が折れそうだ」

 

 このまま空にいるだけでは相手は姿を現さない。だが、船の上に乗れば相手の思う壺。そのことが分かっている二人は、どうしたものかと頭を捻った。

 が、出てくる答えなど一つしか無い。虎穴に入らずんば虎児を得ず、相手の罠に乗らねばこのまま膠着状態が続くだけだ。

 

「華扇」

「はい?」

「援護は頼むぞ」

「了解。まあ、必要ないでしょうけど」

 

 そう言って口角を上げた華扇に軽い笑みを返すと、命蓮は小舟の上に降り立つ。同時に無数の柄杓を持った手が現れ水を注ぎ入れるが、あせることなく冷静にその手をぐるりと眺めた。

 この出てきている手そのものはあくまで体の一部のようなもの、本体はこれとは違う、別の場所にある。そう結論付けた命蓮は、どこからか取り出した錫杖を沈む船に突き刺した。船底に穴が空き、手が注ぐ水とは別に浸水が始まる。

 それと同時、周りを取り囲んでいた手が苦しみだした。水を注ぐのを止め、穴を補修するように手が覆い被さっていく。そのまま吸収されるように船底へ手が消えると同時に、空いていた穴がみるみると小さくなっていった。

 

「決まりだな」

 

 そう言うと命蓮は船から飛び上がる。華扇に視線を向けると、準備は万端とばかりに右手を振りかぶっていた。こくりと彼が頷くのと同時、華扇はその右手を船の中心に叩き込む。衝撃で真っ二つに割れた小舟は、浸水を待たずに沈んでいった。

 怨嗟の声が聞こえた。割れた船のあった場所、そこに浮かび上がるように水兵服姿の少女が二人を見上げていた。虚ろな目をしたその少女は、手に持っていた錨を自身の足元に落とすと、水で出来た巨大な腕を四本生み出し、華扇と命蓮を捻り潰さんと敵意を向ける。

 真正面からそのうち二本を受け止めた華扇は、こういうのは貴方の専門でしょうと命蓮に叫んだ。同じく錫杖で腕を弾きながら、そっちこそ仙人ならこの程度どうにでもなるだろうにと返す。

 

「……まあいい。そこまで言うなら期待に応えてやろう」

 

 錫杖を振る。シャン、と音が鳴り、彼の周囲に結界でも生まれたかのようにぽっかりと空間が出来た。巨大な水の腕はそれに阻まれ彼を害せず、攻めあぐねた水兵服の少女は狙いを命蓮から華扇に移そうとする。

 

「飲子!」

「こういう時だけ都合よく頼んな!」

 

 水兵服の少女の真下、湖の藻屑となったはずの博麗飲子がそこから飛び出し、勢いに任せて蹴り飛ばす。バランスを崩した少女は敵意の視線を飲子に向け、そして腕を華扇から彼女に向けようと手を振り上げる。

 その隙が致命的であり、勝敗を決した。

 

「理由は問わん。そしてこれは俺の愚かで自分勝手な行動だ。だから――」

 

 もし恨むのならば、己一人だけにしておけ。錫杖を少女の胸に突き立てながら、命蓮はそう呟いた。

 

「――南無三」

 

 錫杖が輝きを増し、そしてその光は少女を包み込む。その光と共に少女が消える直前、どこか笑みを浮かべていたように見えたのは、きっと見間違いではないだろう。

 近くにいた為に一緒に吹き飛ばされた博麗飲子は、そんなことをぼんやりと思った。

 

 

 

 

 

 

 へぇ、とその戦闘を影で見ていた一人の少女は感嘆の声を上げた。あれは確かに残留思念であったが、少なくとも最近の腑抜けた妖怪よりは強力な存在だったはずだ。それをああもあっさり調伏してしまうとは、中々どうして。

 

「面白い」

 

 そう呟くと、少女はその場から踵を返す。見付かってしまっては少々厄介なことになるのは間違いないだろうからだ。何せ相手は博麗の巫女、この幻想郷の人の管理者だ。

 どう見ても鬼と天人だが、人の管理者と謳うからにはそうなのだろう。自分にそう言い聞かせながら、少女はその場を後にする。そういえば何かもう一人いたような気がするが、と少しだけ疑問に思ったが、まあいいかとすぐに思考の隅に追いやった。

 

「しかしあの天人」

 

 自身の監視対象でもあり主人でもある彼女が慕っている尼公によく似ている。現在封印されている彼女と何か関係があるのだろうか。そういえば確か彼女が封印される原因となったのは弟の死が関係しているという話を聞いた覚えが。

 そこまで考え、いかんいかんと彼女は首を横に振った。今はそんなことよりも重要なことがある。

 

「……ご主人、どこに行ったのだろうか」

 

 失せ物ならぬ、失せ人探し。それが目下彼女の仕事であった。

 




意味ありげな登場をしておいて投げっぱなし。
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